レゾンデートル   作:嶌しま

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仮にアヤコさんと一緒に、彼女が熱を込めて語ってくれたポケモンコンテストのエキシビジョンマッチに出るとしても、そもそも現在申込自体が有効なのかどうかを確かめなければならない。

そう私が提案すれば、アヤコさんは少々残念そうな表情を見せはしたものの、確認ついでに久し振りに会う友人にも挨拶してくると言って颯爽とコンテスト会場に向かっていってしまった。流石に日が暮れるまで、という長時間には至らないだろうが、つい先ほどヨスガシティに到着したばかりということもあり、私はこの場からすぐ近くにあったふれあい広場の方へ一旦足を向けてみる。ここは極端に大きな体格の……例えば、ギャラドスやイワークといった大型のポケモンでもなければ、誰もが自由にポケモンたちと触れ合える、まさに憩いの場として利用出来る施設のようだ。

記憶の片隅では、確かここで連れ歩けるポケモンは一体だけだったはずだが、入場に際して受付のお姉さんにモンスターボールを渡してもゲッコウガを連れていることに若干驚かれたくらいで、特に何の問題もなく全てのボールを返却してもらえた。もしかすると、一体だけというのは単にゲーム上の仕様だったのかもしれないなと思いながら、私はボールの開閉スイッチを押して皆を外に出してみる。207番道路から208番道路までの道すがら、出会ったトレーナーたちと何度かバトルする機会もあったために皆が疲弊していないか実は心配だったのだけれど、相変わらず静かに佇んでいるゲッコウガはさておき、きらきらと目を輝かせて周囲を見渡しているモウカザルやコリンクの様子を見て内心安堵する。

 

 

『わあ……!あの洞窟みたいなの、何だろう……ねえねえ、セツナ。ちょっとだけ、この辺り探検してきてもいーい?』

「うん。私が見えなくなるくらい、遠い距離じゃなければいいよ」

『やった!じゃあさ、コリンクも。良かったら一緒に行かない?』

『うん!探検……楽しみだね!』

 

 

聞いていて何とも微笑ましい会話を交わしながら、モウカザルとコリンクは早速探検を開始するべく、仲良く揃って広場の片隅を駆けていく。対して、ふたりについていかなかったゲッコウガは備え付けのベンチに腰掛けると、無言で私に視線を向ける。直接懇願されたわけでもないが、何となく、シンジ湖で一緒に過ごしていた時のように隣に座らないのかと言われたような気がしたので、私も同じように腰掛ければ漸く彼が口を開いた。

 

 

『やれやれ。あいつらは本当に、元気だな……』

「まあ、初めて来た場所だからね。わくわくしちゃうのも仕方ないことなんじゃない?……ところでゲッコウガは、あの子たちと一緒に行かなくて良かったの?」

『あいつらと違って、俺は余り人目につくのが好きではないし……それに、お前を一人にさせるわけにもいかないだろう。あの男のように、ここでもお前に妙な話を持ち込む輩がいない、とは限らないからな』

 

 

ゲッコウガの語るあの男、とは十中八九、テンガン山で遭遇したアカギのことに違いない。確かに、私たちと同じようにこの広場に訪れている人やポケモンたちの姿は少なからず見えるが、皆それぞれ寛いでいるだけであってそもそも警戒する必要性はないように感じられた。それでも彼だけ気を抜かず、こうして今も私の傍についていてくれるのはやはり私を心配してくれているからなのだろう。そんな彼の態度は、客観的に見れば所謂過保護、というやつなのかもしれない。それでも、私は一緒に居てくれることがとても嬉しかった。そして心配をかけさせてしまう自分自身、更に時間はかかるかもしれないが、もっとしっかりしなければならないとも思った。

 

 

「ありがとう。心配かけさせて、ごめんね?」

『別に謝らなくてもいい。それより、体の調子は……あれから何ともないのか?』

「ああ、うん。今はね、本当に何ともないんだ。私にも理由は、分からないけれど」

『……そうか。もし、何かあれば無理せず休むんだぞ』

 

 

はしゃぎ声を上げて思い思いに楽しむ、人々やポケモンたちの姿をゲッコウガとともに眺めながら、ゆったりと時は流れていく。しかしこの穏やかな場に対して、テンガン山でアカギが私に向けて言い放ったことが思い出された。

 

 

――愛するがゆえに、一度抱いた憎悪はより深まる。

――愛していたがゆえに、人は容易く狂人へと至る。

 

 

(確かに、それもまた真理ではあるのかもしれない。だけど、私は……)

 

 

自分なりの考えを巡らせていた途中、不意に背後で何かが身動ぎしたような物音が聞こえて振り返れば、見えるのは大木だけであったが耳をすますと僅かに呼吸も聞こえてくる。ゲッコウガも気付いたのか、目を細めて大木の向こうにいると思われる誰かを見据えながら、そのまま私に先んじて忍び足で大木に近寄っていった。それから大木の裏側を覗き込むも、その後なぜか立ち止まったまま動く様子のない彼に首を傾げた私も、遅れてそこに何がいたのかを自ら覗くことで確かめる。

 

 

『あーあ、俺もここで運が尽きたかなあ。自分のことながらほんと、情けねぇぜ……』

 

 

果たして、私たちが目撃したものとは何だったのか。

それは、地面に倒れ伏し、愚痴を零しながらも精一杯威嚇し続けている――このふれあい広場では滅多に見かけないと思われる、とあるポケモンの姿だった。

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