本日は046と046.5の2話載せています。
セツナお姉ちゃんと初めて出会ったのは、あたしが五歳になったばかりの頃だった。
その時のことは、今でもよく覚えている。
『初めまして。私の名前はセツナ、えっと……これから、よろしくね?』
当時から真っ白な髪と赤い目だったお姉ちゃんは、あたしに視線を合わせながら少し緊張した様子でそう話しかけてくれたんだよね。
あたしは最初、そんなお姉ちゃんに見惚れていたの。お人形さんみたいな人だなあ、って。
それで、暫く言葉も出てこなくてじーっと見つめ続けていたら、お姉ちゃん、その内悲しそうな顔になっちゃったから。慌てて、あたしからもよろしくね、って挨拶をしたんだ。
それが、あたしたち姉妹の始まり。
『セツナは……あの子はね、自分の名前と誕生日以外、何も覚えていなかったそうなの』
『だから私も、セツナに本当の家族がいるのかどうかは分からない。だけど、血の繋がりがなくともこの家で五年暮らしてきた私たちは、もう家族同然だって思っているわ』
『ヒカリ。お姉ちゃんのこと、どうかよろしくね。あの子、今まで私にも我儘らしい我儘さえ何一つ言ってこなかったけれど、旅先では何が起きてもおかしくないから。もしもお姉ちゃんが困っていたら、その時は妹のあなたが助けてあげてね?お母さんとの約束よ』
お姉ちゃんが先にフタバタウンを出発した後、あたしも旅に出るべく家で準備を進めていたら、いつになく真剣な表情をしたお母さんから大事な話があると呼び止められた。
……まさかお姉ちゃんが、五年前シンジ湖で記憶喪失の状態で保護されていて、それ以前のことをほとんど覚えていなかったなんて想像もつかなかった。
でも、お母さんの話を聞いて多少納得のいったこともある。
この一年はよく散歩にも行くようになったお姉ちゃんだけど、それ以前、つまりあたしたちと過ごした『四年』に関しては、そもそも自分から外出する機会がかなり少なかったのだ。
その頃のお姉ちゃんは、テレビにポケモンが映っただけで驚いていたような気がする。
今振り返れば、お姉ちゃんの中でポケモンに対する知識も失われていたからこそ、実は内心ポケモンを恐れていたがための反応だったのかもしれない。
この五年の内にお姉ちゃんが旅に出なかったのは、幼いあたしを見守っていたかったから、といつだったか本人に教えられたこともあったけれど。
それだってもしかすると、野生のポケモンに接触すること自体、記憶がないお姉ちゃんにとってはつらかったから、という可能性も考えられる。
最も、そういった恐怖はおそらくこの一年でほぼ払拭されていったのだろう。
「あのポケモン、やっぱりかっこよかったなあ……」
そう呟きながらあたしの脳裏に思い浮かぶのは、あたしがポッチャマを受け取った日、お姉ちゃんの隣に並び立っていたゲッコウガのことだ。
マサゴタウンのポケモン研究所に寄った際、ナナカマド博士からあのポケモンは本来、ここシンオウから遠く離れたカロス地方に生息しているということを教えてもらった。
あたしが選んだポッチャマのように、カロスで旅立つ初心者トレーナー向けに贈られるポケモンの一体、ケロマツが進化を重ねた姿がゲッコウガなんだって。
――実は、あたしもたった一度だけ。
お母さんにも、ジュンにも、そして勿論お姉ちゃんの誰にも言っていないけれど、シンジ湖であのゲッコウガを見かけたことがある。
気付いたきっかけは、些細なものだった。
目敏くも、いつの間にか一人だけで食べきるには多い量のポフィンを持って時折出かけるようになったお姉ちゃんのことが気になって、そっと追いかけてみたんだ。
いや、『気になった』……もとい、興味というよりは嫉妬が大きかったのかも?
断じて、あたしを可愛がってくれたお姉ちゃんの愛情を疑っていたわけではない。
ただ、楽しそうに出かけていくお姉ちゃんの心をいつの間にか掻っ攫うような『誰か』が現れていたことが、妹のあたしとしてはちょっぴり悔しくも、寂しいなと感じてしまって。
せめて相手の顔だけでも拝んでおこう、と幼心に思い立ったのよね。
だから、お姉ちゃんが会っていた相手がポケモンだったと知った時は、本当に驚いた。
しかも今まで全く見たことのないポケモンだったし、最初は相当混乱していたように思う。
襲われたらどうしよう?!なんて焦るあたしを他所に、お姉ちゃんはあたしが近くに潜んでいたことに一切気付かず、ゲッコウガの隣に座るとお手製のポフィンを一緒に食べたり、シンジ湖を眺めながら話しかけたりしていたっけ。
更にゲッコウガはそんなお姉ちゃんを警戒するどころか、むしろ慣れた様子で接していたところも見て……ああ、とっても仲良しなんだな、と気付くのに時間はかからなかった。
この時、ただでさえ好奇心旺盛な幼馴染のジュンを連れていかなかったのは、我ながらかなり英断だったのではないかと密かに信じている。
何せ初めてゲッコウガを見た時、あんなにもはしゃいでいたジュンのことだ。
仮に居合わせていたとすれば、ジュン自身に悪気がなくとも、お姉ちゃんとゲッコウガのあの穏やかな雰囲気は容赦なく破壊されていただろうと思えてならない。
結局のところ、お互いとっても楽しそうに過ごしていたお姉ちゃんたちを引き裂いてしまうような真似はしたくないな、と思ったあたしは気付かれない内にシンジ湖を立ち去った。
そうしてお姉ちゃんが自分から言わない限りは、あたしもあのポケモンを見たことを内緒にしておこう、と堅く誓った末に今へと至る。
「……ポッチャマも、いつかエンペルトになったらあんな風に凛々しくなるのかなあ?」
そうは言っても、あたしの隣で首を傾げていたポッチャマはどうやら甘えん坊のままらしく、あたしの足元に擦り寄ってきたかと思えばなぜか自慢げに胸を張っている。
この様子だと、ポッチャマが進化するまでまだまだ時間がかかりそうだ。
けれど旅が始まったばかりの今は、それでいいのだろうと微笑む。
せっかちなジュンとは違って、あたしもお姉ちゃんのようにまずは自分だけの旅を精一杯楽しんでいきたいと願っている。
ただそれとともに、憧れたチャンピオンの姿にいつか自分も近付けるよう、トレーナーとして確実に強くなっていきたい、という目標も芽生えていた。
全ては、万一あたしの大好きなお姉ちゃんを狙いにくるような不届き者が目の前に現れた時、あたしが盾となれるように。
「あたしだって、お姉ちゃんが大好きな気持ちは『彼』にも負けてないもんね……よーし、頑張ろう!差し当たって、次はフカマルを捕獲しに行こうかな!」
ハクタイジムへ挑む前、連絡をとったお母さんから一緒にポケモンコンテストを観ないかとお誘いを受けていたけれど、そちらは辞退させてもらった。
コンテストについては全く興味がないわけでもなかったけれど、それより今はフカマルに会ってみたい、というわくわくの方が大きく上回っていたから。
ここで無事二つ目のジムバッジを貰い、モンスターボールやキズぐすりなども可能な限り買い揃えられた現在、あとはサイクリングロード下にある噂の洞窟まで向かうだけだ。
お母さんには一週間、と言っておいたものの今後の状況によってはそれ以上の時間がかかるかもしれない。
それでも、フカマルと……ゆくゆくは、あたしのガブリアスと一緒に旅する夢を簡単に諦めるつもりはない。
まずはやれるだけ足掻いてみよう。ポッチャマと出発した時点で、そう決めていたもの。
「……あら、ドラゴンタイプに興味があるのかしら?ふふっ、まるで昔の私を見ているみたいね」
決意新たに、意気揚々とサイクリングロードへ向かったあたしの後ろ姿をちょうど見ていた人とはっきり言葉を交わせたのは、それからまた後日のこと。
よもやその人から、親切にもフカマルの育て方について個人的なレクチャーを受けたり、更にはポケモンのタマゴを受け取ったりするなんて、当然夢にも思っていなかった。
書いている内になぜかシスコンキャラと化したヒカリェ(´・ω・`)
ここのヒカリは幼い頃から最後の彼女に憧れていた影響もあり、ガブリアス大好きっ子です。