レゾンデートル   作:嶌しま

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Chapter.8 迷宮にて君を待つ
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ポケモンのわざを用いて人が移動している様子――たとえば、『テレポート』や『なみのり』、『ロッククライム』といったわざをポケモンに指示して実際移動しているところは、これまでの生活で私もテレビ越しに幾度となく見てきたものではあった。いつだったか、サイホーンに乗って順位を競い合うサイホーンレースの中継もどこかで見かけた気がする。

そんな風に、ポケモンの力を借りながら一緒に移動していくのも旅の醍醐味なんだろうな、なんて軽く考えていた過去の私に、叶うのならば一つ助言を投げかけてあげたい。せめて実際、自分が体験する前に心の準備だけでも済ませておくべきだったと。

 

 

「……っ、」

「大丈夫。しっかり掴まってさえいれば、少なくとも落ちることはないから」

「お、落ちる、とか。簡単に、言わないでください……!」

 

 

前方からの風を受けながら、思わずゲンさんの手持ちポケモンであるボーマンダの身体にしがみつくと若干速度が緩くなったように感じる。ゲンさんはともかく、明らかに乗り慣れていない私を気遣ったボーマンダがまたスピードを落としてくれたのだろう。ひとまず急ぎの用事は今のところない、とゲンさんは言っていたものの、ヨスガシティまで来た時と比べて倍は時間がかかっていることを申し訳なく思う反面、生憎上空からの景色を楽しむ余裕まで持てそうになかった。だって、思っていたよりずっと地上からの距離が高い。それが当然のことだと頭では理解していたはずなのに、心がまるで追いつけずにいる。

 

 

「もう半分は過ぎているから、あと少しの辛抱だよ」

 

 

後ろに座っているゲンさんからはそう緩く声をかけられるも、あと半分はこうして飛んでいる状態なのか……と思うと正直気が滅入る。今の私の手持ちに『そらをとぶ』を使えるポケモンはいないけれど、いつか加わったとしてもまずはお互い低空飛行から練習を始めた方が良さそうだ。

少なからず、憧れていたはずだった初めての空の旅は、私にとって図らずも「落ちるかもしれない」という恐怖と戦い続ける苦々しいものとなってしまった。

 

 

 

 

ヨスガシティでのコンテストが無事終わった後、ゲンさんの提案に乗ってともにミオシティへ行くことにした私は彼のボーマンダに乗せてもらったわけだが、一時間も経っていないにもかかわらず既に疲弊を覚えていた。別に、前世の頃から高所恐怖症だったわけではない。それこそ飛行機や観覧車などは、よく好んで乗っていたものだったと記憶している。

ただ――今回はなぜか、手を離してしまえばそのまま容易く落ちてしまいそうな怖さがじわじわと、自分の中で湧き上がってきて。乗せてもらって早々、周囲の景色を見渡すこともままならなくなっていた。それなりに精神面は落ち着いていると自分では思っていたのだけれど、この身体の年齢に多少引っ張られている部分もあったのかもしれない。

 

 

「ごめんなさい。乗せてもらったのに、ずっと取り乱してしまって……」

「いや、初めてなら怖いと感じるのは致し方ないことだし、そう気にしなくていいよ。むしろボーマンダこそ、久し振りに女の子を乗せられて楽しそうだったからね」

『おっ、よく分かっているじゃないか相棒!あんたが望むなら、練習としてまた乗ってくれてもいいぞ。相棒は全然怖がらなくて、新鮮さに欠けるからなあ』

 

 

私の反応は特に気にもしていないらしい、大らかなボーマンダの発言を聞いて内心胸を撫で下ろしていると、すかさず足元に縋りついてきた衝撃につられて自然と俯く。勢いよく揺れている青い尻尾に元気だなあ、と一瞬呟きそうになったが、敢えて口を噤んだ。これから実際、どれだけこの町に滞在するかは分からないけれど、同じ時を過ごせばクロガネシティで出会った時から私に縋りついてきたリオルのことを更に知ることができるだろうか。その答を未だ分からずにいる私を置き去りとして、ミオシティの水面は今日もただひたすらに穏やかだった。




Chapter.8は、これまでほぼゲーム通りだったルートからちょっと外れたミオシティ編。
今回は字数的に大分短くなってしまいましたが、この章は全体的にChapter.2~3並の文章量になるかもしれません。

……またしてもお久し振りな更新となりましたが、生きています。
活動報告にて多少近況を載せておりますので、よろしければそちらもご覧いただけると幸いです。
今更ながらタグに「不定期更新」も追加させていただきましたが、最低でも年内にChapter.10到達を目標に引き続き書いていこうと思っています。

遅筆な作者ですが、今年も宜しくお願い致しますm(__)m
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