レゾンデートル   作:嶌しま

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「アヤコさんから貰ったモンスターボールに傷薬、着替えと非常食、財布、寝袋、は最初に入れておいたし……うん。大体、こんなところかな?」

 

 

天気も考慮し、ゲッコウガと最後に会ってから何だかんだ三日が経った現在。

私はいつもより早めに起きると、いよいよ旅に出る前に荷物の最終チェックをしていた。ゲームをプレイしているだけでは分からなかったけれど、この世界では旅をするポケモントレーナーのことを考えてつくられた専用の旅行鞄やモンスターボールをセットする為腰に身に着けるホルダーなど、そういったトレーナー向けの必需品にも本当に色々な種類があって、それらを選ぶだけでも大分時間がかかってしまった。形から入る、というわけでもないけれど、やっぱりある程度の備えは必要ということでアヤコさんからの意見も取り入れた結果、既にそれなりの重さになった旅行鞄を眺めてふうと息を吐く。窓の外では相変わらずこの辺りに生息している鳥ポケモンの囀りが響いていて、今更ながらここが私のかつていた現代と全く違う世界であることを突きつけられた気分になり、思わず苦笑いが零れた。けれど感傷に浸っている暇なんてない。だって今日は、私にとってとても大切な一日となるのだから。

 

 

「アヤコさん。シンジ湖の方へ散歩に行ってきますね」

「分かったわ。それから戻って、この鞄を取りにきたら……いよいよ、セツナも旅立つのね。はあ、一気にこの家から二人もいなくなるなんて、想像しただけで寂しくなるわ」

 

 

着替えと準備を自室で済ませてから、玄関の隅に大きな旅行鞄を下ろした私を見てアヤコさんが軽い溜め息を吐く。ヒカリはまだ寝ているが、あと少し経てば原作と同じようにジュンがヒカリの元へやって来て、おそらくあの子たちの旅も今日始まるはずだ。正確な日付が分からずとも、家にやって来たジュンと一緒でテレビに齧りつくように画面越しのポケモンをきらきらとした眼差しで見つめていた最近のヒカリを知っていれば、あの子もきっと旅立つのだろうということは私にも予想できた。だからこそ私はヒカリに自分もこれから旅に出ることを教えたのだけれど、それを聞いたヒカリから一緒に旅に出ないかと誘われて驚いたのはつい昨日のことである。

しかもヒカリだけでなく、そのとき一緒だったジュンにまでなぜか同じように誘われ、ジュンとヒカリが喧嘩しはじめてから最終的にアヤコさんが収めたところまで、まるでいつも通りだったことはまだ記憶に新しい。誘われたこと自体は純粋に嬉しいと思いつつも、私には私の旅の目的があったので旅の同行についてはどちらもきっぱりと断らせてもらった。けれどその代わり、どこかの町で出会ったらそのときはゆっくりお茶でもしようと約束すれば、幼い二人は拗ねながらも納得してくれたのだから本当に良い子たちに育ってくれたと思う。その分、これから嫌でも出会うことになるギンガ団と出くわしたときがちょっとだけ不安だけれど、いざとなれば私が二人を助けられるように、私自身も強くなれるように頑張ろう、と改めて決意していた。

 

 

「そう言ってもらえて嬉しいです。とは言っても、新しい町に着いたらまずアヤコさんに電話しようと思っていますし、葉書も送りますから」

「ええ、約束よ?ヒカリは頻繁に連絡してきそうだから、その点で安心しているんだけど、セツナは逆に連絡が少なそうで心配だし。遠慮なんかいらないんだから、いつでもうちに連絡してちょうだい」

「ありがとうございます。それじゃあ、ちょっとだけ出かけてきますね」

「あ、そうそう!いけない、私としたことがまた忘れるところだったわ」

「どうしたんですか?」

「ごめんねセツナ、ちょっとだけここで待っていてくれるかしら?」

 

 

頷けば慌てたように居間へ戻ってしまったアヤコさんに首を傾げつつ、そのまま大人しく待っているとやがてアヤコさんが小脇に何かを抱えて戻ってきた。それは見る限り新品の、真っ白なダッフルコートで、私が驚いているのも構わずアヤコさんは笑ってそれを私に差し出した。

 

 

「この辺りはまだいいけれど、シンオウ地方は寒いところが多いから」

「え、……え?私に、ですか?ヒカリの分は?」

「ヒカリの分は、また別に用意してあるから大丈夫。このくらいしかあなたに餞別として贈ることが出来なかったけれど、言ったでしょう?遠慮はいらないって。だから私としては、このままセツナにこれを受け取ってもらえたら一番嬉しいんだけどなあ」

 

 

それとも白は嫌だったかしら?と困ったように微笑むアヤコさんに慌てた私は、思わずアヤコさんから差し出されたコートを言われるままに受け取ると、おそるおそる上から羽織る。ぶかぶかとまではいかない程度に、けれどもぴっちりとするほどきつくもない、ほどよく余裕のあるサイズのコートを着た私を眺めると、目の前の彼女は満足そうに微笑んだ。

 

 

「うんうん、やっぱりセツナには白がよく似合うわね!とっても素敵よ!」

「あ、……ありがとう、ございます」

「うふふ、セツナったら照れちゃって可愛い~!っと、いけない、今から散歩に行くところだったのに結構引き留めちゃったわね。まだ時間は平気?」

「はい。大丈夫です」

「なら良かった。それじゃあセツナ、また後でね!」

 

 

にっこり、と音がつきそうなくらい満面の笑みで私を送り出してくれたアヤコさんに、私も笑いかえすと一歩を踏み出す。

 

 

(……今の私を見たら、ゲッコウガは何て言ってくれるのだろう。そもそも今も、彼は私を待ってくれているのかな?)

 

 

玄関を出て、最初は少し早足程度のペースだったのに彼のことを思い出すとなぜだか私は止まらなくなって、自然と小走りでこの一年通い続けたシンジ湖に向かって一人で駆けていく。朝早い時間帯だからか、幸いなことにアヤコさんから貰ったばかりのコートを着て走っている私は誰の目にも留まらない。正直、あれから私がどうするべきか、そもそもどうしたいのか、という結論はまだ出ていない。それでも私は、どうしてだろう。今日という旅立ちの日だからこそ、あなたに早く会いたかった。

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