この恋する女神様に祝福を!   作:山童

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ちょい悪魔法使いウィズ

「カズマー。もう準備できたー?」

 

 アクアの声が部屋の外から聞こえてくる。俺は普段着を身にまとい、愛刀を腰に佩くと、鏡で軽く身だしなみを確認してから部屋のドアを開けた。

 思えば魔王を討伐してからまともに遠出するのは初めてだ。ここのところの外出と言えば、アクセルでいつも通りふらふらしたり、例の店に寄ったり、酒場で宴会を開いたりと言った程度のものである。

 行き先が“あの”アルカンレティアとは言っても、やはり久々の遠出ということで、多少は楽しみに思う気持ちが胸の内にあった。

 

「おうー。待たせて悪いなー」

 

 アクアに返事を返しながら、居間へと足を運ぶと、そこには普段と違う服を身に纏ったアクアが居た。

 普段は上で結んでいる髪は、自宅にいる時のように腰まで流している。

 服もいつものものでなく、白を基調として、アクアの髪と同じ青が所々に散りばめられたワンピースを着ており、さらにつば広の白い帽子を頭に被っていた。

 その姿はまるでどこかのいいところのお嬢さんのようだ。いや一応女神なんだけどね。

 普段のアクアとは雰囲気の違う服装に、俺はまたしどろもどろになってしまう。

 

「カズマさんカズマさん。この服どうかしら?」

「お、おう、かわ……、まあ、馬子にも衣装って感じか?」

「どういう意味よー! ……かわ、なんて? 今かわ、何とかって言いそうになったでしょ!」

「はー? 何のことだよ。ほらとっとと出発するぞ。ウィズんとこにお礼言ってから王都に行きたいしな」

「女神イヤーは誤魔化せないんだからね! さっきかわ、何って言おうとしたのかちゃんと言ってよ! カズマさーん!」

 

 俺は、ニヤニヤしながら周りをうろちょろしてくる駄女神にデコピンを食らわして涙目にしてから、屋敷の入口のドアを開け放った。

 ちょうど昼前くらいのアクセルの空からは、鬱陶しいくらい清々しい陽光が降り注いでくる。俺は大きく一つ伸びをすると、ウィズ魔道具店へと歩き始めた。

 

 

 

「カズマカズマ、私たちって結構注目されてない?」

「ん、まあそうだな。一応魔王を倒したパーティーになるわけだし、注目を受けるのもまあ当たり前と言えば当たり前じゃないか?」

 

 その道中。俺たちは好奇や尊敬の入り混じった視線を受けていた。早朝に屋敷に帰ってきたときには人の気配があまりなかったこの通りにも、昼前にもなると人々が入り混じり、賑やかになってきている。

 そんな彼らは、俺たちを遠巻きに見守りながら、ひそひそと内輪話を続けている。俺は承認欲求に突き動かされるままに、スキル『読唇術』で彼らの会話を盗み聞きすることにした。

 

『おお、あそこにいるのはアクアのねーちゃんじゃねえか』

『あの宴会芸の達人が今では魔王を倒した英雄の一人なんだもんなあ。いや、人間どうなるかわからないもんだ』

『魔王を倒した英雄がこの街にいらっしゃるなんて、彼女はこの街の誇りね』

『わ、私、アクア様にサイン貰ってこようかなぁ』

 

「おおアクア、お前のこと噂してる人が結構いるぞ。良かったじゃないか」

「ふふん。まあ私たちの残した実績を考えれば当然の事ね!」

 

 ドヤ顔で胸を張るアクアは置いておいて、他の会話にも目を向ける。

 しかしどこの会話を覗いても、出てくる名前はアクア、アクア、アクア。ちらほらとめぐみんやダクネスの事も話の中に出てきているが、俺についてはカズマのカの字も出てこない。

 少ししびれを切らしながら辺りを見回していると、俺について話しているところが見えたので、そこにスキルを集中した。

 

『ん、カズマか』

『そういやあいつが魔王を倒した本人だって話だっけ』

『まあ、またセコい手を使ったんだろうなあ』

『カズマだしね』

『うん、カズマだし』

 

 …………。

 あいつらは俺をなんだと思ってるんだ。

 暫くの間アクセルのやつらに酒を奢るのはやめよう、と心の中で決意したところで、アクアの方に一人の町娘が駆け寄ってきた。

 

「あ、あの、アクア様。どうかサインを頂けませんか?」

「しょうがないわねー。貴方には私のサイン第一号として、特別気合入れたのをあげるわ!」

 

 アクアは心底嬉しそうな表情を浮かべると、手渡された羊皮紙に手持ちのペンを使ってすさまじい勢いで何かを書き始めた。

 数十秒後、そこにはアクアの緻密な自画像と、それはそれは流暢な筆記体で書かれたサインが記されていた。

 ……いや、数十秒でどうやってそんなもん描いたんだ。

 

「ほら、これを上げるわ。大事にして頂戴ね」

「あ、ありがとうございます!」

 

 サインを受け取った町娘は、とても嬉しそうに去っていった。

 アクアはこちらに振り返ると、ニコニコと機嫌のよさそうな笑顔を浮かべた。

 

「カズマ、どうしましょう!? これからファンが増えてきたらその場で描く量じゃ間に合わないかもしれないわ! 普段からたくさんサインを作っておいて、持ち歩かないと……んふふ! んもう人気者も困るわねえへへ!」

 

 困った風を装いながらも、だらしない笑みが零れているのを隠しきれてない駄女神。

 チクショウ、なんでこいつにはサインねだってくるファンがいるのに、俺の扱いはこんなんなんだ。

 そんなことを考えているとどうにもむかむかしてきたので、目の前のアホのよく伸びそうな頬をぐにぐにと引っ張ることにした。

 

「ちょっ、カズマ? なによいきなり……ふあっ!? いふぁいいいふぁい、やめへ、ほおをひっふぁらないれ~!」

 

 俺はウィズ魔法店に着くまで、べそをかきながら抵抗してくるアクアの無駄に柔らかいほっぺを存分に堪能するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようウィズ、久しぶりだな」

「カズマさん! ついに魔王さんを倒されたらしいですね。おめでとうございます!」

 

 ウィズ魔道具店に入ると、ウィズがいつも通り優しい笑顔で出迎えてくれた。

 ずっと俺が引っ張っていたせいで赤くなっている頬をむにむにと撫でながら、アクアが俺の背後から出てくる。

 

「ウィズ、お茶ちょうだいな。そういえばあの雑魚悪魔はいないのかしら?」

「はい、ただいま。バニルさんなら、商談があるとかで王都に出向いていますよ」

 

 手際よく二人分の紅茶を淹れながら、ウィズは俺たち二人を見てニコニコと微笑んでいる。何かうれしいことでもあったのだろうか。

 俺は淹れてもらった紅茶を一口飲んでから、感謝の気持ちを伝えた。

 

「魔王城に攻め入る時、お前のところのマナタイトがすごく役に立った。今日はそのお礼を言いに来たんだ。本当にありがとうな」

「いえいえ、これもカズマさんたちの実力があっての事です。魔王さんもきっと本望だったことでしょう」

 

 そうかなぁ。不意打ちの上にメガ○テのような自爆技を使って倒してしまったから、魔王も未練とか残りまくりじゃないだろうか。

 魔王の最期を思い返しながら微妙な気分で紅茶を啜っていると、アクアが不思議そうに首を傾げながらウィズに問いかけた。

 

「そういえばウィズはさっきから何をニコニコしているの? 店の売り上げが黒字にでもなったのかしら?」

「いえ、そういう訳では……。アクア様、今日は普段と違う格好をなされていますね。どうしてでしょうか?」

 

 ウィズは言葉を濁しながら、アクアに質問を返す。しかし、その表情を見る限り、ウィズはその質問の答えを分かっていそうだが。

 アクアはいいことを聞いてくれたとばかりに胸を張り、返事を返した。

 

「ふふん、今日はカズマと一緒にアルカンレティアに行くのよ!」

「そうですか! カズマさん、アクア様とのデートは初めてですよね? しっかりとエスコートしてあげてくださいね」

「でっ……!」

 

 ウィズの言葉を受けて固まったアクアを横目に見ながら、俺は軽く思考した。

 二人で出歩くということなら何度かあったが、正しい意味でアクアとデートするのはそういえば初めてかもしれない。

 俺たち四人は一緒にいる時間が長く、誰かと二人になる時間と言うのはそれほど多くないのだ。

 故に、一日一爆裂をデートに数えるのならば、めぐみんとのデートが一番多いのだろうか。

 と、そこで、先ほどから固まっていたアクアがあたふたしながら言い訳を始めた。

 

「いや別に、私とカズマはデートに行くわけじゃないんですけど! アルカンレティアに連れて行って、あわよくばアクシズ教に勧誘してやろうと思ってただけなんですけど!!」

 

 そんな苦しい言い訳を始めるアクアに、俺は横から突っ込みを入れる。

 

「つってもお前、俺を誘う時には『私とデートしてください』つってたじゃん」

「だ、だからあれは言葉の綾で!」

「でもアクア様、今日の服にはとても気合を入れてらっしゃいますよね? 今日のデートが楽しみだったのですよね?」

「う、うう~! べ、別にそんなんじゃ!」

「ふっ、バニル風に言うなら、『おおっとこれは大変な羞恥の悪感情! 大変美味である!』ってところかな?」

「~~~~~ッ!!」

 

 声にならない叫びをあげたアクアは、涙目で顔を真っ赤にしながら俺たち二人に殴りかかってきた。

 俺は特に苦も無くその拳を受け止める。こいつにもかわいいところがあるじゃないか、と思いながら紅茶を啜っていると、隣からウィズの泣きそうな声が聞こえてきた。

 

「あの、アクア様? 以前よりも神聖な力が増していらっしゃるので、こちらへのダメージが以前の比じゃなくなっているというか……、アクア様!? 私消えちゃう! 消えちゃいます!」

 

 以前とは比べ物にならないスピードで薄まっているウィズを見た俺は、慌ててアクアの両手を掴んで攻撃を止めた。

 ウィズはホッとしながら紅茶のおかわりを淹れに言った。俺はまだ真っ赤な顔を俯かせているアクアに、呆れながら声を掛けた。

 

「お前、前より力増してるんだから気を付けろよな。というか、なんでそんなに慌ててるんだよ? 屋敷で話してるときは、そんなに取り乱してなかっただろ」

「だってだって、自分でデートに誘うのはいいけど、他人に言われるのは恥ずかしいんだもの」

 

 そのアクアの言葉を聞いて、俺はまた不覚にもドキッとしてしまった。

 ひょっとして今日だけで、昨日以前にこいつに対してドキドキした回数を超えてしまったのではないだろうか。そんなことをおぼろげに考えていると、苦笑を浮かべたウィズがこちらに戻ってきた。

 

「お二人とも、紅茶のおかわりが入ったのでいかがでしょう?」

「ありがとな。そういえば、ウィズが悪乗りするって珍しいな」

「アクア様がいつも以上にかわいらしかったので、つい。……あの、アクア様? 神聖な力を発しながらこちらに向かってこないで欲しいのですが……、アクア様ーっ!?」

 

 それから、不機嫌になったアクアを宥めすかしてウィズ魔道具店を出発するのに、俺はまた多くの時間を割くことになってしまったのだった。




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