艦隊これくしょん二次創作物語~OverFrontLine~ 作:ぬこだいふく
最前線どころか敵地内の鎮守府に陣取り前線を支えていた冠城達に西方戦線への移転の指示が出る。
とある世界の大戦の最中……。
世界は機械兵器が量産され、基本的な戦闘は機械がメインになっていた。
しかし、サウラム博士という科学者が魔導元素を発見したことにより事態は急変。機械兵器すら軽々と凌駕する魔導兵士が出現する。
そして軍に所属していた冠城翼はその中で魔導元素の干渉に成功。魔法を使えるようになる。国の為にと魔法を使って敵を倒し続けた。
そして、大陸で劣勢だった北方部隊に加わり、前線を押し返している途中だった。
空が黒い煙で覆われ、本来青く見えるはずなのにその気配すらない。周りには両軍の機械兵器が大量に転がっており、非常に激しい戦闘が行われたのが目に見えてわかる。
そんな中、白く小さな煙を上げながら近づいてくるのが一人。
「隊長、殲滅終了しました。これからどうなさるおつもりで?」
葉巻の灰を落としながら隊員は話しかけてくる。
「波賀か。まだいけるか?」
「何を言うんでさぁ。隊長が行くのでしたら儂らが付いて行かんでどうするってんです?儂らは軍隊であり、隊長が率いる隊の隊員です。隊長に従うのが当たり前ですぜ。」
「だが、隊員の君達は僕と違って魔導元素の補助すらないただの人間。機械兵器に搭乗するのだってAIの調整とデータ収集の補助でしかないだろう?それを無理矢理に押し付けられて僕のような人間とくっつけられたんだ、心配するに決まっているだろう?」
「隊長さんよぉ。儂はこれでも隊長と一緒に入られることを誇りに持ってるんでさぁ。他の隊員だってそうです。みんな『隊長といられてよかった。』と言ってるんですぜ?」
「それは嬉しいのだが…。僕は隊員殺しであり、不死身と言われるほど何故か危険な目にも合わなかった。そんなオカルトみたいな人と一緒にいて怖かったり不安になったりしないのか?」
波賀は葉巻をくわえ一気に吸った。
吐き出した煙は先程より大きく広がりながら空へと上っていく。
「それに関しちゃ、儂は全く気にしてないですぜ。」
ちらっと後ろで作業をしている隊員達を見ながら。
「まぁ、あいつはどう思っているかわからんですがね。」
「時田か…。あいつは一生僕を許すことはないだろう…。」
「あいつの姉さんはようやったと思います。最後まで隊長をかばって…。」
「あぁ、あいつは大切な仲間…家族だったよ…。」
「じゃぁ、何故姉上を助けてくださらなかったんですか。」
見ると芳賀の後ろには時田が立っていた。
「姉上が隊長をかばい、結果として死んでいったのはいいんです。姉上のお決めになったことですからね。」
冠城は少し俯く。
「しかし何故!あれだけの力を有し、反論できるだけの証拠を持ち、隊員を自分より大切にしていたと言われた貴方がかばってくれなかったのです!そうすれば姉上も助かったかもしれないのに!」
「時田!あの時のことは何度も説明してあるだろう!隊長はあの時、記憶も精神も不安定だったのだぞ!」
時田の足元を見ていた視線は、既に自分の足元まで下がっている。
「あの時、審問会直前まで確かにはっきりと覚えているんだ。だが、審問会が始まってからの記憶が一切ないんだ。抜け落ちているかのようにな。」
「そのことは何度も聞きましたよ。ですが、理解はしても納得はできないんですよ。そんな理由では。」
時田は冠城に銃を向ける。
「やめろ時田!反逆罪になるぞ!」
「私は、隊長がちゃんとした理由を述べられるまで許す気にはなれません。そして、話す気がないというのなら…。貴方を殺します。」
「やめろと言っているのが分からんのか!隊長も何か言ってくだせぇ!」
「隊長!何故なんです!」
「隊長!いい加減止めてください!」
「「隊長!」」
目の前が暗くなっていく、二人が隊長と呼び続ける度に視界が徐々に外側から黒く塗りつぶされていく。そして、完全に真っ黒になった頃。
二人とは別の声がして目が覚める。
「起きてください!大丈夫ですか?」
目を開けると可愛らしい少女が目の前に立っていた。
「また、辛い夢を見ていたみたいですね。お顔が真っ青ですよ?」
「あぁ、すまないな文月。」
「やはりあの時に力を使いすぎたのが影響しているのでしょうか。ここ数日間は毎日うなされています。」
「早く回復させないとな。」
とりあえず落ち着こうと一回深呼吸をする。
「それで文月。君がその口調だから周りに誰かいる者だと思っていただけど。」
そう思って周りを見渡してみるが他に人がいるわけではなかった。
「周りには誰もいません。」
「ならいつものように甘えてきてもいいんだよ?」
「そ…それは…。」
顔を見ると表情がころころと変わっている。なんとか冷静を保とうとしているのが見受けられた。
「ほら。ふみちゃん?」
甘えやすいように、二人の時だけしか呼ばないあだ名で呼んでみる。
「うぅ…。心配したんですよぉ!」
目から涙を流しながら抱きついてくる。よほど心配してくれていたのだろう。
泣きながら抱きついてくる文月は年相応の反応に見えた。外見はただの少女なのだから。最初にこれがこの世界での平和を守るために作られた兵器だと言われた時はこの世界の連中は頭がおかしいのかと思ったほどだ。
「悪い悪い。なるべく早く回復できるように努力するから。」
「回復したらまた手料理ごちそうしてよ?」
「あぁ、今度はお菓子にしようか。」
「楽しみにしてるね♪それじゃぁ、ご飯持ってくるね。」
小走りで部屋を出て行く文月。
「みんなの為にも早く動けるようにしなければ…。またあの時の様なことが起きないように。」
机にあるみんなの集合写真を見ながら、改めて意識する。
ーーもう誰も、僕のためには死なせない。
本館の扉を開けると、雲一つない綺麗な青空が見えた。雲に一切遮られずに降り注ぐ太陽の強い光が眩しい。これが、平和な場所であったら日向ぼっこしたり昼寝をしたりするにはいい天気だろう。
ここは戦場である。しかも、最前線から更に頭一つ抜け出た<敵地内>である。こんなところにあの状態の司令官をおいておくこと自体がまずありえないことだ。本来なら医療施設で適切な治療を受けなければならないほどの状態だ。
「早く食事を持っていってあげないと。いっぱい食べてもらって元気になってもらわなきゃ!」
食堂へと向かっていると港から人が近づいてくる。
「文月さん、司令官の調子はどうだった?」
「ゆーちゃん。…今日も悪い夢にうなされてたよ。心配すぎて気が滅入っちゃうよ。」
「ダメ。それでは司令官が回復するまで守れない。しっかりしないと…。」
ゆーちゃんの体を見るとびしょびしょであった。今まで夜間を含め周辺海域を潜水して哨戒していたのだろう。今の司令官の事を考えるとただのイ級ですら見過ごせないので、非常に助かっている。
「そうだね。ありがとう。」
「ううん。文月さんも昼間の警戒を担当してくれてダンケ、ね。」
ゆーちゃんが軽く頭を振る。揺れた髪についた水滴が陽の光に反射して輝いているように見える。
「それじゃぁ、私は装備を工廠に戻して入渠してくる。またね。」
「うん。また後でね。」
ゆーちゃんの後ろ姿を見送り食堂へと再び向かい始める。
食堂となっている場所は本館1階東側の大会議室である。本来食堂であった場所は過去の空襲によりぼろぼろになっており、修復する予定もなかった。現在の食堂で間に合っているため資材を使ってまで修復する必要が無いためである。
「あら?文ちゃんいらっしゃい。」
「萩さん、おはようございます。司令官のご飯を取りに来たよ。」
「ご飯は用意してあるわ、今日はおかゆよ。」
「それなら、司令官も食べやすいね。」
「それに、あ~んって食べさせやすいでしょ?」
司令官におかゆを食べさせるところを想像しただけで一気に顔が熱くなった。
「どうしたの?顔が赤いよ?」
ニヤニヤしながらこちらを見つめてくる。
「やめてくださいぃ。」
恥ずかしくなって顔をブンブンと左右に振る。そして両腕を振り回しぽかぽかという音が似合う攻撃が繰り出される。
「わかったわかった。あとイキュウちゃん達のご飯もあげてきてほしいんだけど。」
司令官に聞いたところ、この鎮守府の近くに住み着いた駆逐イ級らしい。見た目は普段戦っているイ級と比べると身体は丸みを帯びており非常に人懐っこい。ご飯をあげるようになってから近海の警戒を引き受けてくれるようになった。司令官を入れてもに10人にも満たないこの鎮守府にとっては貴重な戦力となっている。
「わかりました。イキュウちゃん達に先に上げてきます。」
「その間に司令官の分を準備しておくね。」
「了解です」
イキュウ達の為に萩が特別に作った資材入り魚介フード(通称カリカリ)を持って港に向かう。
港には既に20隻のイキュウ達が集まっていた。
「イキュウのみんな。ご飯持ってきたよ。今日は全部で・・・20隻来たのね。いっぱい食べてってね。」
パラパラとイキュウ達の近くにカリカリを撒いてあげるとイキュウ達は待ちきれなかったのかカリカリに飛びついた。
「そんなにがっつかなくても皆の分あるからね~。」
「「「キュ~♪」」」
嬉しそうな声を上げながらカリカリを頬張るイキュウ達を見ながら昨夜何か起きていないか尋ねる。
「イキュウちゃん。昨日は何もなかった?」
「キュ~。」
一隻のイキュウが小さな金属の破片を持ってきた。
「これが近海に?艦娘の艤装の一部かな?ありがとね。」
カリカリを入れていた袋の口を紐で縛りながらイキュウ達にお礼を伝える。
「それじゃ、今日もお願いね。何かあったらいつも通り教えてね。」
「「「キュー!」」」
イキュウ達は打ち合わせたかのように声を揃えた。見ると、イキュウ達の顔がキリッとしているように思えた。
イキュウ達にご飯をあげて戻ってくると、食堂には望月が来ていた。カウンターで鳳翔さんに注文をしている。
カウンターに向かいながら声をかける。
「もっち~もご飯食べに来たの?」
とても眠そうな顔をしながらこちらに振り返る。
「あぁ、そうそう。姉さんもご飯かい?」
「私と司令官の分だよぉ。」
「そうかい。早く持っていってあげな。」
鳳翔さんに鯖の味噌煮定食の味噌汁を豚汁に変えてもらう様に言いながら続ける。
「早く良くなってくれるといいんだけどねぇ。」
「しょうがないよ。私達の為にずっと力を使い続けてきたんだもん。今は休んでもらわないと。」
「そうだね。今は私達で守らなきゃな。」
持ってきてもらった定食を受け取る。豚汁の湯気でかけていたメガネが曇ったのか慌てて顔を背ける。
「あっち!でもいい匂いだねぇ。」
「今日はいい鯖が釣れたんですよ。自信作なので食べてみてください。」
「あんがとさん。」
テーブルに向かいながら顔だけこちらに向けて
「そんじゃ、また後でな~。」
「うん。またね~。」
「う~い。」
望月と別れると同時くらいに台所の奥から萩風が出て来る。
「文ちゃん。司令官のおかゆと文ちゃんの分の朝ごはんね。今日はサンドイッチだよ。」
「ありがとぉ。早速渡してくるよぉ。」
「うん、気をつけて持っていくんだよ?」
「了解~。」
萩風から朝食を受け取り、鳳翔さんにあいさつを済ませ食堂を後にする。
「文月さん。待ってください。」
後ろから声がかけられる。振り向くと鳳翔さんが小さな袋を持って立っている。
「これ、お薬です。おかゆと一緒に渡してあげてください。あまり効果はないかもしれませんが…。」
見ると、市販されてる薬ではないように見えた。鳳翔さんが配合した薬湯の類だろうと思った。鳳翔さんは、司令官が体調を崩してから薬膳や薬湯等の勉強をしてこうして出来たものを渡してくれるのだ。
「ありがとうございます。」
「それでは。」
一礼して食堂へと戻っていく鳳翔。司令官が心配なのか少し落ち着きが無いように見えた。
司令官の部屋の扉を2回、そして少し間を置いて2回ノックする。このノックの仕方は文月が来たことを示す目印だ。
奥から小さな声で「入っていいよ。」声がする。
「入ります。」
おかゆをこぼさないように気をつけて扉を開ける。
「司令官。今日はおかゆだそうですよ。……!?」
見ると司令官が上体を起こしてこちらを見ていた。
「ダメですよ!安静にしてないと!」
「これくらいは大丈夫さ。それに起きないとご飯も食べられないだろう?」
「それはそうですが…。」
「それに、鳳翔や萩風が作ってくれたんだ。寝たままでは失礼じゃないか。」
「もぅ…しょうがないんですから。」
「ですが、あまり魔力は使わないでくださいね?悪化するかもしれないんですから。」
「あぁ、気をつけるよ。」
執務机におかゆとサンドイッチの乗った食器を置く。スプーンに少しだけおかゆをすくい取り、息で軽く冷ます。最初の一口目が少量なのは、司令官が前に食べたものが体に合わず吐き出してしまったからである。
「あーんしてください。」
「すまないね。」
初めてあーんされた時はなんとか止めさせようとしたのだが、心配だと泣かれてしまっては流石に折れるしかなかった。それ以来体調が回復するまでという条件で許可している。
おかゆを口に含む。ひどい状態からある程度は回復できていたためか今回は卵を使ったり、醤油で味をつけたりしてくれている。そして薬草等の味が口から鼻に抜けていく。鳳翔のことだからこの島にない薬草等も手に入れて入れてくれているのだろう。もしかしたら本土の人に手伝ってもらっているかもしれない。もしそうなら、後でお礼をしなければ。
「司令官、大丈夫?」
文月が心配そうに聞いてくる。また吐いてしまったりしたら大騒ぎになりそうだ。
「あぁ、とても美味しいし吐き気もしない。これならちゃんと食べられそうだ。鳳翔にお礼を言っておいてくれ。」
窓から空を眺めていると、執務机の電話が鳴った。
「文月、出てくれないか。後は自分で食べるから。」
「で、でも…。」
どうやら食べさせてあげたいみたいだ。しかし、電話の相手を待たせるわけにもいかない。
「電話の方が優先ね。厄介なことだったら僕が変わるから。」
「わかった。」
文月は少し不機嫌になりながらも受話器を取った。電話の相手が仁田元帥であればいつも通り体調のことを聞いて終わりだろう。もし、別の人であれば…確実に厄介事だろう。
「こちら、南東最前線島。文月がお受けします。」
相手が誰なのか警戒しつつもじっと待つ。
そして少し間を開けると…知らない男の声がした。
「こちら大本営です。至急、冠城に変わってください。」
「了解しました。」
不安そうな顔をして文月がこちらを見つめてくる。
(……かなり厄介なことになりそうだ。)
体を起こし、立ち上がる。執務机まではたったの数歩なのだが、たどり着くにはかなりの時間を要した。椅子にやっとのことで座り、受話器を受け取る。
「冠城です。遅くなって申し訳ありません。」
「まだ他の箇所への連絡が残っているのです。早く出てください。」
こっちの体調のことなど全く機にする素振りも見せずに続ける。
「大本営本会議にて大規模作戦の案が可決され、人員の移動の連絡が各所に送られています。」
また、大規模作戦か。前回あれだけの損害と前線を大幅に下げるという失態を犯してなお続けるというのか。
「そこで、冠城局地特務中佐には現在の南東最前線から西側の最前線へ移動となりました。そこで、移動を完了するまでどの程度かかるか調べましたところ。おおよそ5日で到着できると出ました。よって、準備を含めて一週間で西方最前線まで向かい、戦闘ができる状態にして待機しておいてください。」
西方最前線となると時田嬢の鎮守府の近くだ。以前その鎮守府からこちらに向かうまで可能な限り補給を省いて向かった結果一週間だったと記憶している。その結果燃料弾薬を半分ほどしか持たないままこの地で戦闘になったのだが…。
「そうですか、補給の場所への連絡はどうなっているのでしょうか。」
「補給は道中で一箇所。南西泊地にて行います。そこで補給を済ませ、西方に向かっていただくことになります。」
どうやら上層部がまた意地悪をしてきたようだ。僕の試算では最低3回は補給を受けなければたどり着けないはず。
「僕が艦娘の航行距離と航行ルート、それから戦闘があることを考慮して試算したら3回は補給が必要だと出ました。どうやって一回で向かうのです?」
「最短距離のルートを通れば問題なくたどり着けるはずですが…。」
「以前に僕は、西方の手を借りた状態ですら3回も補給しないとたどり着けなかったのです。ルートも最短でしたし、戦闘もありませんでした。一回の補給だけでは道中で燃料切れになって終わりでしょう。なんとか3回は補給できるように手配していただきたいのですが。」
僕はともかく文月達は艤装が動かないと移動もできない。何としてでも補給してもらわねば。
「いいえ、大本営の試算では一回の補給で目的地にたどり着き、そして戦闘できる余分もあると出ました。補給は一回のみです。」
どうやら、聞く気すらないようだ。
「わかりました。それで一週間と言いましたが、具体的には何時までに西方に行けばよろしいのでしょうか。」
「本日が3月の15日になりますので、20日には到着してください。」
一週間と言っておきながら5日で向かえと?馬鹿みたいな事を言う。
「それでは5日で向かえと言っているように聞こえますが?」
「準備等の2日を省けば5日でたどり着けると思いますのでそのつもりで言いましたが。」
「そうですか。では5日後の20日に。」
「では。」
了解を取った瞬間に即電話を切るとは…。よほど嫌いらしいな。
「司令官…。また無茶を言われたんじゃ…。」
「大丈夫さ。皆を集めてくれ、どうやら本拠地を移すことになるみたいだ。」
「やっとちゃんとした施設のある場所に行けるの?そしたら司令官の体調も少しは良く…。」
「たどり着ければ…な。」
「もしかして…。」
不安がよぎる。また司令官に無茶させたら…今度は、本当に…。
「なんとかする。そのような思いはさせないさ。」
「わかった…。わかったから…撫でないでぇ。」
「ハハハ。文ちゃんは可愛いねぇ。」
照れつつも納得してくれたようだ。みんなを呼ぶために執務室から出ていく。
(まずは、明石と話をしないとなぁ。とりあえずは移動手段だ。艦娘の艤装では航行距離が圧倒的に足りない。それに戦闘のこともある。最低でも全員が乗れる大きさの船が必要だな。)
「司令官…。」
後ろを見るとゆーちゃんがいた。
「ゆーちゃん!?さっきまで誰もいなかったのにどうやって…。」
そう思って入口のドアを見ると、開けっ放しになっていた。
(文ちゃん…。ドアはちゃんと閉めようね…。)
「司令官…心配だから、様子見に来た。」
「ありがとね。今日は割りと体調はいい方だと思うよ。」
「そう?でもなんか難しい顔してる。」
顔には出ないようにしているつもりだったが、ゆーちゃんにはお見通しなようだ。ゆーちゃん自身があまり感情を顔に出さないからか、こちらの表情の変化を敏感に感じ取っているようだ。
「あぁ…これはね。大本営から任務の都合で移動の指示が来たからそのことを考えていたんだ。」
「どこに移るの?」
「西方だよ。時田元帥のところさ。あそこならここなんかよりはずっとマシだろう。」
「確かに安全。でもここからだと、どこも遠いから…。」
「でも、大本営からの指示だ。流石に動かないといけないだろ?」
「わかってる…けど…。」
やはりゆーちゃんも心配なのだろう。これまで数回大本営から直接任務の支持を受けてきたが、どれも無理難題ばかりであった。今回も厳しい内容だとわかっているのだろう。
「明石と話をして新たな移動手段を用意する。そうすれば目的地まで戦闘以外では艤装を使うことはないはずだ。」
「それなら!」
ぱぁっと顔が笑顔になる。安全に目的地まで移動できるとわかって安心したのだろう。
まぁ、実際には違うのだが。
(これで司令官とゆっくりのんびり一緒にいられる時間ができる♪)
航海中どんなことを話そうかと考えただけで思わず顔がニヤけてしまう。晴れたら日向ぼっこしたり、雨だったら船内で司令官の知ってるお菓子の話を聞いてもいい。とても楽しみだ。
といった具合である。
そして、こんな会話をしている間に膝の上に乗っかって来ているのである。普段は滅多に見せない可愛らしい笑顔を見せているので思わず和んでしまう。
ゆーちゃんの笑顔を眺めていると、ドアがノックされた。
「「「「「「「失礼致します。」」」」」」」
代表して鳳翔が一歩前に出る。
「司令官、全員揃いました。どのような用件でしょうか。」
全員が執務机の前に綺麗に整列して指示を待っている。ゆーちゃんもきちんと列に加わっている。
「大本営から移動の命令がでました。西方最前線に移動となります。この拠点は放棄し西方の増援として尽力せよとのことです。そして、移動は5日で済ませ、いつでも戦闘が行えるようにしておくようにとのことです。」
内容を聞くと、数人が指示をしていないのに部屋から出ていく。この様な場合にどうするべきか事前にある程度打ち合わせていた為だ。
一緒に出ていこうとする明石を呼び止める。
「明石は少し話がある。それ以外の者は必要な物を準備して置いてください。」
了解ですと残っていた者も明石を除いて部屋を出て行く。明石は少し眉をひそめながら戻ってくる。
「司令官。話というのは、移動にかけられる日数が5日ということから察するに…。」
「そうだ、現状の艦娘達の艤装ではどうやっても間に合わない。だから明石の持っている輸送用の船を貸してくれ。出来れば移動速度を上げといて欲しい。」
「わかりました。可能な限りの調整を行います。出発は何時になさいますか?」
冠城は少し考え。
「今夜だ。」と告げた。