比企谷君と虜の魔女   作:LY

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第十七話

高2

 

超研部にて

 

 

長い回想を経てやっと思い出した。

 

 

「まさか、あの時の泣き虫がこんな事をしているとはな」

 

「まさか、こんな事をしている時に比企谷先輩と再会するとは思っていませんでした。

正直言って、比企谷先輩には見られたくなかったです」

 

 

荒らされた部室を再度見ると、怒りより悲しさの方が感じられた。

 

 

「……さっき帰ったお前の連れの事は少し知ってる。

体育祭のボイコット、定期テストでのカンニング、他校との乱闘事件。

これらは全て集団でおこなわれたが、さっきの三人はそれぞれの首謀者と言われてる」

 

「クスッ、少しじゃなくて結構知ってるじゃないですか。先輩友達いないって言ってたのに情報通ですね。

 

もしかして、生徒会の差し金ですか?」

 

「よく分かったな」

 

「はい、最近あいつら何かとうざいですから」

 

 

口の悪い後輩だ。

 

 

「権力だけ持ってて何もしない。今先輩が言った三人の事だって何もわかってない。

あの三人が首謀者?

笑わせないでくださいよ、三人とも濡れ衣を着せられただけなのに」

 

 

滝川の口調はだんだん強くなっていく。

 

 

「みんなが敵で教師も生徒会も、誰も頼れない。

だから私は「魔女の力を欲しがった、そうだろ?」……はい」

 

 

滝川ノアの目的は朱雀高校にいる魔女を退学させること。

だが本当の目的は退学させることではなく、退学させることによって能力を誰かに循環させることだ。

 

 

「“朱雀高校の魔女は、退学または卒業などで学校からいなくなると、

その能力は他の生徒に継承される“。これは先輩と初めて会った日に手に入れたノートに書いてありました」

 

「ノートの下巻だろ。持って帰ったんだな」

 

 

これに関して言えばクラブハウスで倉庫のカギを持っていた俺がちゃんと元の場所に戻さなかったのが悪いな。

 

 

「そして重要なことがもう一つ。

“魔女は問題のある生徒から生まれる”。つまりあの三人は十分に魔女になり得るという事です」

 

 

滝川の言う通り、魔女は変わり者や悩みを持った生徒ばかりだ。

だからもし、猿島やほかの魔女が退学してしまえばその能力はあの三人の誰かに宿るかもしれない。

 

 

「確かにお前の言ってることは筋が通っているが、魔女の能力を手に入れたらどうする?」

 

「そんなの決まってますよ。

あいつら全員見返してやります」

 

 

「……そうか」

 

 

今の滝川と話していてよく分かった。

 

俺は結局何も伝えられていなかった。

 

何も変えてやれなかった。

 

 

 

「もちろん先輩には何もしませんよ。

 

……だからもう生徒会には関わらないでください」

 

 

彼女は小さい足で俺との距離を詰め、触れそうなくらい近くまで来た。

 

 

 

「……ノアの仲間になって下さいよ、比企谷先輩」

 

 

元々身長は低く、しかも俺の目の前で少し下を向いているため滝川の表情は見えない。

 

でも滝川が何を思って俺を仲間に誘ったか、それは分かる気がした。

 

他人を知った気がして、理解したつもりでいるのは俺がとても嫌いな事なのに

 

 

 

「…魔女の力は誰かを傷つけるためにあるんじゃない。

これは俺が一番尊敬している先輩が言っていた事だ」

 

 

昔、魔女の力は悪用できるんじゃないか、と冗談交じりで言った時に軽く怒られた。

今は誰よりも魔女に苦しめられているのに、それでもあの人の考えは変わっていないだろう。

 

 

「そんなの…きれいごとですよ」

 

「俺もそう思う。

だが今、一番魔女に苦しめられている人がそう言うから、俺はそうであってほしい」

 

「…いい先輩さんですね」

 

「まぁな」

 

 

俺にはもったいないくらいのいい先輩だ。

 

 

「でも、ノアはそんないい子じゃいられません…」

 

 

気づけば滝川は俺の制服をぎゅっと握りしめている。

 

 

「魔女の力でも使わないと、…あの三人を救えない」

 

 

滝川の声は昔と同じ、涙声だった。

 

 

「いや、お前はいい子だし、能力で誰かを傷つけたりはできない」

 

「…何を根拠に言ってるんですか?」

 

「誰かを傷つけることは、お前を傷つけた奴らと同じ様な事をするってことになる。

それをお前は許すことが出来るのか?」

 

 

滝川は言葉が出てこないのか、俺の体に頭を打ち付ける。

 

 

「そんな言い方……ずるいですよ」

 

 

ずるいか、確かにずるいのかもしれない。

 

こういえば滝川は動けなくなる。

 

 

「年上はずるい奴が多いからな。

まぁ俺がこんな事を言おうが言うまいが結果は変わらねえよ。

 

どうせお前は、…いやお前ら四人とも、こんな事本当はやりたくないって思ってるんだろ」

 

 

そう言うと、何かが切れたかのように滝川は嗚咽を漏らし、泣き出した。

 

 

「泣き虫のくせに我慢するからこういうことになるんだよ」

 

 

俺は泣き続ける滝川にもう一つだけ話をした。

 

 

「ずっと前に言っただろ。

 

うらやましく思われるほど仲のいい友達作って、誰よりも楽しく過ごせたら、

 

俺はそれで、十分だと思う」

 

 

滝川ノアは泣きながら、強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滝川が泣き止み、少し話をしたら彼女は家に帰った。

 

 

もう一度、あの三人と話してみるそうだ。

 

 

一方俺は、生徒会室に向かった。

 

 

今日はカッコつけすぎたから早く帰りたいが、やるからには最後までカッコつけなければならない。

 

 

 

たぶん俺がこんなにもカッコつけたのは、

 

滝川ノアが妹に似ていたことと、

 

俺にカッコいい先輩が二人もいるからなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

 

滝川ノアを含む四人の一年生は超研部のメンバーに謝罪に行ったらしい。

 

超研部のメンバーも許してくれたそうだ。

 

そしてもう一つ。

 

体育祭のボイコット、定期テストでのカンニング、他校との乱闘事件。

これらの行為の主犯は今までそうだと思われていた人物の仕業ではない、と言う噂があらゆるところで流れ、絶対権力を持つ生徒会からも、それに近い報告が掲示板に出されていたという。

 

 

 

 

 

 

最後に一つ。

 

その日、一年生の四人組が誰よりも楽しそうに一日を過ごしたそうだ。

 

 





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