高2
場所はどこかの空き教室、もしかしたら自分の教室かもしれない。
かすかに運動部の声が聞こえ、オレンジ色の光が教室の窓から差し込んでくる。
放課後だろうか?
私は一人の男の子と会話をしている。
彼の顔はクレヨンでぐちゃぐちゃにされたように塗りつぶされていて、声はラジオのノイズみたいで聞き取れない。
聞き取れないはずなのに私と彼の会話は続いていく。
ああ、これは夢だ。
私は眠っているのだ。
そう気づいてしまったらいつもの様に視界が暗くなっていく。
まだ起きたくない、もう少しここにいさせてほしい。
……。
それがダメなら教えて。
「あなたは誰なの?」
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朝、私の寝起きの調子は最悪だった。
「また泣いてる」
私は起床してからすぐ、目に溜まっていた涙をふき取った。
寝ている間に涙を流すなんて中学生までは全くなかったのだが、最近ではそんなに珍しい事ではない。
寝ている間に限らず、一人でいるときにポロッと泣いてしまう時もある。
何だかウサギみたい、私って寂しすぎたら死んでしまうのかもしれない。
「…我ながらバカバカしいわね。
学校に行く準備しないと」
そう言って、いつも私は私をだましている。
*
朱雀高校には“魔女”と呼ばれる生徒が存在している。
“魔女”は各々が特殊な能力を持っており、キスをするとその能力を発動できる。
“魔女”になるのは決まって問題のある生徒であり、“魔女”が学校からいなくなると、その能力は他の生徒に受け継がれる。
能力の種類は六つ。
入れ替わり、虜、思念、予知、過去視、透明。
「…まとめるとこんなもんか。
ありがとな、滝川」
「いえいえ!先輩のお役に立てたのなら全然問題ないです!」
文化祭が終わって数日後、俺はノートの下巻を見るために滝川を中庭に呼び出した。
以前俺が何枚か写真に撮って見てみたのだが欲しい情報がなかったので、今日はノートの隅々まで探すことにした。
「やっぱりノートには七人目の事は全く書かれていないか…」
「それは困りましたねぇ、…どうします?とりあえずデートでも行きます?」
「とりあえず帰るしかねえな」
「あぁ!ちょっと無視しないでくださいよ!」
そう言って俺に向かって抱き着こうとしてくる滝川
それを俺はひらりとかわす。
「…比企谷先輩のケチ、ちょっとくらいくっついてもいいじゃないですか」
「ダメです。お兄さんそういうハレンチな事は許しません」
ええーっと文句を言うがそんなのはすべて無視する。
どうやら前の一件で必要以上になつかれたらしい。
「…まぁいいです。それよりさっきの七人目って何のことですか?」
「…それはあれだ。
六花の勇者なのに七人集まるのはおかしいだろ?つまり六花の勇者じゃない偽物の事を七人目って呼んでるんだ」
「何言ってるんですか?七人目の魔女のことでしょ」
「…知ってるなら聞くなよ」
てきとうな言い訳をしたのが恥ずかしくなる。と言うか何で滝川が七人目の魔女の事を知っているのか謎だ。
ちなみに六花の勇者の七人目はちょいちょいあやしいところがあって疑っていた。
見終わってから、あ~あいつね、俺疑ってたんだよ、と小町に言ったらガン無視されたのをよく覚えている。
「ついさっき超研部の山田先輩にもノート見せてくれって言われて断ったんですけど…」
「断ったのかよ」
「その時七人目の魔女を探してるとか言ってたんですよ。それで、ノートに七人目のことなんて書いてないから帰れって言って、追い返したんですよ」
「扱いひどいな」
山田かわいそう。
「それが聞いてくださいよ、ノアがノート持ってるからって文化祭の時も色々質問してきたんですよ。前の一件が終わってから無駄になつかれて困ってるんですよ」
「最後の言葉はそっくりそのままお前に返してやるよ」
「まぁ部室荒らしたこともあるので親切に教えてあげましたけど…」
普通に無視された。朱雀高校の生徒は俺が言う事を無視する奴が多くないか?
「それで結局比企谷先輩や山田先輩は何で七人目の魔女を探しているんですか?」
「さぁな、必要な事なんじゃないのか?」
「う~ん、なんだか隠し事されてるみたいです…」
こちらとしては幸運なことに滝川はそれ以上聞いてこなかった。
山田が七人目を探している理由、
俺がそれを知ったのは先日の事だ。
*
生徒会室
コンコン
「失礼します」
「やぁー比企谷君、待っていたよ」
今日もいつもと同じように呼び出されて、律儀に生徒会に足を運んだ。
たまには待ってないでそっちから来てもらいたいもんだ。
「それで、今日のお話は生徒会長戦についてだ。
先日その内容が決まってね、比企谷君にも話しておこうと思って」
なぜ俺がそんな事を聞かされなければならないのかと思ったが、それを口に出すと話が長引きそうだったので言わなかった。
「次期会長は七人目の魔女を見つけた人になってもらう事にしたよ」
「…そうですか」
「あれ?反応が薄いね?」
「いつもこんな感じですよ」
「そうかな?
まぁそれはいいとして、君に聞いておきたいことがある。
…実際君はどこまで知っているんだい?」
「俺が聞きたいくらいですよ」
どこまで知っているかなど分からない。
俺も宮村先輩も中途半端に知っていて、中途半端に知らないからずっとこんな事になっているのだろう。
「相変わらず食えない子だね。
僕も君の事は調べたけど結局よく分からなかった。
前会長から君について少し説明されたこと以外は何一つね」
「さらっと調べたとか言わないでくださいよ。
いつの間にかストーカー行為をされていたなんて聞きたくない」
「こっちだって大変なんだよ。飛鳥君にどれほど負担をかけたことか…。
それこそストーカーレベルで調べてくれたんだから」
「え!?」
何それ怖い、家にカメラとか付けられてないだろうな。
「フフフ、冗談だよ。
安心してくれ、あくまで学園生活の中でどんな感じか少し見ていてもらっただけだよ。
…まぁ、もしかしたらそれ以上の事を調べているかもしれないけど、それは僕と関係ないから。彼女は比企谷君の事をかなり気になっていそうだし」
全然安心できねえ。
「それで話は戻すけど、やっぱり君が何を知っているかは聞かないことにするよ。
ただし約束してほしい。
今回の件には口を出さないでくれ」
「それは時と場合によりますけど…」
「くれぐれも頼むよ。
数少ない話し相手に恨まれるようなことはしたくないからね」
「話し相手になったつもりはないですけどね」
「僕にとって君との会話はとても有意義な時間だったよ。
…何故だかね、とても落ち着くんだ」
山崎先輩は部屋の窓から外を眺め、俺に語る。
「君と話していると、なぜ僕が生徒会長になったのか思い出せそうなんだ。
……もしかしたら比企谷君は、そのことも知っているんじゃないかな?」
「さぁ、どうなんですかね?
答えは自分で見つけてください」
約一年ほど生徒会長になったこの人を見てきたが、やはり山崎先輩は山崎先輩のままで、他の誰でもなかった。
今も昔も知的で面白く、よく頬が緩んで笑っていた。
「フフフ、やっぱり君は食えないやつだ」
*
俺はこのようにして生徒会長戦の事を知り、口出しするなと言われた。
もちろん口を出すつもりはないし、邪魔するつもりもない。
だが俺にだってやらねばならないことがある
記憶を戻す手段は何一つ見つからなかった。
もう俺が頼れるのは二つだけ。
記憶を消した本人、もしくは魔女七人による儀式。
「…今回は残念ながら敵になりそうですね、山崎先輩」
俺は誰にも聞こえないように、ボソッとそれを口にした。
最近誤字が多くてすみません。
もし見つけた方は教えてください。