比企谷君と虜の魔女   作:LY

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第三十二話

高2

 

 

 

 

またあの夢を見ている。

 

 

 

 

顔が塗りつぶされて、声にノイズがかかっている男の子。

 

 

今回は二人で夏祭りに来ている。

 

 

 

屋台の列を眺めながら二人で歩いて行き、すれ違うカップルを見てドキドキする。

 

 

 

隣を歩いているのは私の好きな人。

 

 

勇気を出して彼の手を握ろうとしたけど、やっぱりそれはできなかった。

 

 

 

 

そうして祭りは終わり、私は彼と約束をした。

 

 

 

 

「来年も、一緒に行きましょうね」

 

 

 

 

そこで私の視界は暗くなり、夢が終わったと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

“いつまで夢を見るの?”

 

 

 

いつの間にか閉じていた瞼を開くと、目の前には[私]がいた。

 

 

 

 

“いつまで[彼]から目をそらすの?”

 

 

戸惑いながらも、なぜか質問してくる[私]に返事をする。

 

 

「目をそらしてなんかいないわ。……あの子の顔は見えないのよ」

 

 

 

 

“何で生徒会長を目指したの?”

 

 

「最高権力が欲しかったから」

 

 

 

 

“誰を虜にしたかったの?”

 

 

「…私が能力を手に入れたのは、生徒会長になるために仲間が欲しかったからよ」

 

 

 

 

“じゃあ私は誰が好きなの?”

 

 

 

「……山田よ」

 

 

 

 

 

 

“…そう、[私]は[彼]が好きよ”

 

 

「そんなわけないわ!あなたは私でしょ!」

 

 

私と違うことを言う彼女に、思わず口調が強くなってしまった。

 

 

 

 

“[彼]のそばにいるのが好き。だから[私]はずっと一緒にいたい。私は山田にそう思えるの?”

 

 

「っ!それは……」

 

 

 

 

 

“……それじゃあ最後の質問。私が一番そばにいたい人はだれなの?”

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

“もう顔も見えるし声も聞こえるわよ。……後は向き合うだけ”

 

 

 

 

 

そう言うと[私]は役目を終えたかのように、ゆっくりと消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……それくらい、分かっているわよ」

 

 

 

 

そして今度こそ、私は目が覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

残りの期限はあと二日

 

 

玉木から聞いた情報が間違っていなければ、残りはたったの二日しかない。

 

そんな中、俺は家で停学中の課題をやっていた。

 

 

「何をやってるんだか…」

 

 

文句を言いながらもペンを握り、課題を解いていく。

今はこれ以外にすることがないのだ。

 

もちろん今日を課題だけで終わらせるつもりはない。

 

 

 

放課後は、学校に行こうと思っている。

 

 

 

 

今日中に玉木たちは西園寺リカを仲間に入れないと時間的に間に合わない。

 

もちろん俺が行ったところで何が変わるとも思えないが、さすがに家にこもっているわけにはいかない。

 

 

それにあの人も俺と同じ様な事を想って、学校に行くだろう。

 

 

だからなおさら行かなくてはならない。

 

 

 

もし儀式が成功しなかったら、あの人と俺はお別れになるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

朱雀高校 放課後

理科準備室にて

 

 

「だってあんたは気づいているんだろ?

自分が山崎に利用されているだけだって」

 

 

私達は予定通り、西園寺リカを説得している。

 

 

「…山田君は分かってくれると思ったのに、

リカが今までどんな気持ちで学校に来ていたか…」

 

 

しかし私は彼女の話を聞いて、敵であるはずなのに同情してしまった。

 

 

 

自分の能力を使うと周りの人達から忘れられる。

学校に来ても話をできる人がいないまま、ずっと七人目の魔女としてやってきた。

 

 

でも唯一、彼女を忘れずにいる人がいる。

 

 

それが生徒会長、山崎春馬だ。

 

 

 

「だからリカには、春ちゃんを裏切れないよ!!」

 

 

 

彼女の悲しい叫びが、理科室を駆け巡った。

 

 

私には誰からも忘れられるという気持ちが分からない。

 

でもここにいる山田や玉木なら、彼女の気持ちが理解できるのだろうか?

 

 

 

 

……それにあいつなら。

 

 

 

「…そっか、でも今は違うだろ?少なくとも俺達三人は、あんたの事を知っているぜ」

 

 

彼女は黙り込む。

 

 

「このまま山崎の味方をしていたら、またあいつと二人きりになるんだぞ。俺に協力すればもうそんな思いをしなくて済むんだ!!」

 

 

そして答えた。

 

 

「…分かった。リカ、…山田君に協力する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

それから30分後

 

山田と玉木は宮村先輩の家に行き、私は学校に残っている。

 

 

何故そんな事をしているかと言うと、七人目の魔女は協力するのに条件を付けてきた。

 

 

「協力する代わりにレオナちゃんをここに連れてきてくれるかな?

聞いてると思うけど、リカはあの子に名前を知られているのに記憶を消せてないでいるんだよね。

そういうの、七人目の魔女としてのプライドが許さないっていうか」

 

 

 

つまり協力する代わりに宮村先輩の記憶を消させてほしいという事だ。

 

山田はそれを断り、宮村先輩をこの件に関わらせてはいけないと言ったが、

なぜか運の悪い事に宮村先輩が今から学校に行くとメールで送って来た。

 

 

それで山田と玉木は彼女を止めるために急いで彼女の家に向かった。

 

私は待機して、山田達と彼女が入れ違いになった場合に止める役目と言うわけだ。

 

 

「小田切」

 

 

言われた通り正門で待機していた私は、誰かに後ろから声をかけられた。

 

 

「何をやっているんだ?会長戦はどうしたんだ?」

 

「潮君」

 

 

ここ三日間、山田の事を忘れている潮君には会長戦の事をまだ伝えていなかった。

 

 

 

「ごめんなさい。私は辞退することにしたの」

 

「は?何を言っている」

 

「…いえ、辞退ではないわね。本当のことを言うとね、勝ったのは宮村だわ。私たちは敗北したのよ」

 

 

「そんな、急に言われても納得が…」

 

「あなたにも、親衛隊の子たちにも悪い事をしてしまったわね。…もう自由にしていいのよ」

 

「ま、待ってくれ。今まであれだけ頑張って来たのになぜそんなに簡単に切り捨てられるんだ!?お前は会長になりたいのだろう?」

 

 

潮君は必死に説得しようとしてくれる。

 

 

 

「…えぇ、もちろんなりたいわ。

でもそれ以上に、私はやらないといけないことがあるから…」

 

 

そこまで言うと、正門の前の大通りを宮村先輩が歩いて来るのが見えた。

 

 

「やらないといけないこと?」

 

 

「そう、私はあいつと、……あいつと向き合わないと」

 

 

私に気づいた宮村先輩はこちらに手を振っている。

 

そしてその隣には、相変わらずけだるそうに歩く比企谷がいた。

 

 

 

 

「だから、とても勝手だけど、…今までありがとう」

 

 

 

 

「…そうか」

 

 

 

 

 

それから潮君は、笑顔を作ってこの場を去って行った。

 

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