いつからだろう。
「らっしゃーせー」
バイトの方に専念しだしたのは。
「ローストマトンのカレー和え、お待ちどう」
《夢》を、狩れなくなったのは。
「ふぅ」
バイトの時間が終わり、一息つく。
夢を狩れなくなったのにも関わらず店長は黄昏の前の時間にバイトを切り上げさしてくれる。いつでもメアレスに戻れるように、との配慮だそうだ。
しかし私は夢を抱いてしまった、らしい。
らしいと言うのは私自身、夢を抱いている感覚がないから。けれど急に夢を潰すのに心が耐えられなくなってしまった。
今まで出来ていたことが急に出来なくなってしまった、このことに私は脱力し、何をしたらいいかわからなくなってしまった。
この黄昏時の休憩の時間、私はいつも人気の無い路地裏に向かっていく。最初は無意識だった。けれど、今は意識して向かって行ってる。
「繋げ、
メアレスの時、何度もこの言葉を使った。けれどメアレスで無くなった今は、あまり意味の無い言葉。
「馳せ来れ、咆哮遥けき地雷!」
周りに被害が及ばぬよう、最小限の力で魔法を使う。メアレスで無くなった以上、ロストメアからの魔力回収は出来ない。それがわかっていたとしても何故か、私は使ってしまう。
「・・・」
軽く幾つか他の魔法を使った後、私はバイトに戻る。夜にも入れてあるからだ。
私が店に戻ると、既に何人かの知り合いが店に来ていた。
「リフィルさん!こっちです」
何本のも剣を担いだ少女、コピシュが私を呼ぶ。
「何?私、この後バイトなんだけど」
「その件については心配しなくていいわよ。店長さんに頼んでちょっとだけリフィルの貸してもらえるようにしてもらったから」
そう言う彼女はルリアゲハ。メアレス時代、コンビを組んでいた。
「ちょ、人を道具みたいにに・・・」
「それについては申し訳なく思っているが相談、と言うよりも聞きたいことがあってだな」
彼はラギト。最強のメアレスと呼ばれている男だ。
「何?」
私は手取り早く終わらせることにした。
「自分が抱いてる夢に心当たりが本当にないのか、と言うことだ」
「・・・どう言うことかしら」
「リフィルが戦えなくなったのって急じゃない?だから、前回のセラードの時のように」
「・・・夢を見たんじゃなくて、見せられたんじゃないか。ってこと?」
前に戦ったロストメア、ミスティックメアは他人に夢を見させる魔法を使って来た。今回私が戦えなくなったのもそのせいかもしれない、という心配だろう。
「そういうこと。で、心当たりは?」
「断定はしきれないけど、多分違うと思うわ。魔法だったら気付くだろうしね」
「そうかですか・・・となるとやはりリフィルさんは何か夢を抱いてしまった、ということでしょうか?」
「それしかないでしょうね」
「本当に心当たりがないの?」
「無いって言ってるでしょ」
本当に心当たりが無い。わかっているのなら捨てることも出来るのに・・・
「こう、魔法とかで調べられないんですか?」
「そんな便利な魔法はないわよ」
魔法・・・そう言えばなんで私は魔力の補充が出来ないのに魔法を使っているのだろうか。
「あーもう。わからないわね」
「そういうことじゃあ私は仕事に戻るわ」
「ああ、わかった。呼び止めてすまないな」
話は終わったため、私は仕事に戻ろうとする。
「リフィルさんが戦えなくなったってことを魔法使いさんが聞いたら驚くでしょうね」
魔法使い。その言葉を聞いて私は胸の中の何かがモヤモヤしだしたのを感じる。
「どうしたのよ、リフィル。急に立ち止まったりなんかしちゃって」
「今、魔法使いって言葉が聞こえた瞬間、こう、胸の中がモヤモヤして来たっていうか、なんて言うか・・・」
「何?と言うことはもしや魔法使いが魔法をかけて行ったのか?」
「なわけないでしょ」
「冗談だ、冗談」
「でも、じゃあなんで魔法使いさんの名前に反応したんでしょうか?」
コピシュの疑問はもっともだ。
「あ、わかった。きっとリフィル、魔法使いさんに会いたいんじゃない?」
私が、魔法使いに会いたい?そんな馬鹿な、って言いたいけれど否定の言葉が口から出ない。
「え、もしかして正解?」
「みたいですね」
「仮に、100歩譲って私が魔法使いに会いたいとしましょう。で、あって何がしたいのよ」
そう。魔法使いにあったとして何をするのか、何をしたいのか、それすらわからない。
「そりゃもちろん、女の子が男の人に会いたい理由なんて一つしかないでしょ?」
「何よ」
「恋よ、恋。きっと魔法使いさんに恋しちゃってるんだわ」
こ、い?恋って、あれよね。人を好きになるって言う・・・
「リフィルさんの顔が真っ赤だ・・・」
「!?」
コピシュの言葉を聞いて私は隠すように手を顔にかざす。
「まさかの無自覚に恋してたなんてね。こりゃ私も予想外だわ」
「う、うるさいわね!」
本当は気づいていたのかもしれない。魔力の補充が出来ないのに魔法を使っていたのは、魔法使いのことを忘れたくなかったから。ちょっと無理矢理かもしれないけど一応辻褄は合う。
「これ以上俺たちが口を挟むのは無粋だな」
そう言ってラギトが席を立つ。
「そうね。これはリフィルの問題だし」
「その、頑張ってくださいね?」
ルリアゲハとコピシュも席を立つ。
私はそれを、見つめてることしか出来なかった。
その後、仕事をしたけどあまり身に入っていなかった。ずっと、魔法使いのことを考えていた。
そして私は、遂に認めた。私は魔法使いに恋してるのだと・・・。
「一度自覚しちゃうと簡単なものね。ずっと貴方に会いたい、って望んでる」
私は一人呟く。
「また会えるって信じてるから、その時はこの気持ち、伝えられるかしら」
黄昏が沈み、月が夜空に浮かんで行った・・・。