ヴェストリの広場では普段退屈な日々を過ごしていた貴族たちに決闘という刺激は劇薬に近かった。
相手は今話題の奇妙な使い魔、登場した時はモフモフと膨らんだ奇妙な赤い服を来た平民で貴族を相手に決闘を望んだ愚か者だ。
「ちょっと何勝手に決闘なんて行っているのよ!今からでも良いからギーシュに謝りなさい!そうすれば死にはしないわ!」
涙が流れるのを阻止して(というより決闘と聞いて血の気ごと涙がひいた)やっと顔合わせができるようになったルイズはマーティに詰め寄って決闘の停止を求めた。
「大丈夫絶対に負けやしない、何度も喧嘩したことはあるし殴られることには慣れているよ。」
事実彼には決闘の経験がある、加えてテロリストに追い掛け回されたりビフに銃を向けられたり、教頭先生にショットガンを向けられたりする等数々のヘビーな修羅場を通り抜けていた。
「これは決闘よ!ただの喧嘩とは違うわ!」
「大げさなんだよ、大丈夫。」
マーティは襟を正してギーシュという自分と同い年の青年に一発かましてやろうと考えていた、契約の時も含めて色々お返しをするチャンスだと考えていたのだ。
「ところでルイズ、相手は魔法を使うのかい?」
するとそんなことも考えてなかったのと言わんとばかりの言い方で彼を叱ったがマーティは少し考え事をして厨房へ走った。
「諸君決闘だ!」
「ギーシュが決闘をするぞ!相手はルイズの平民だ!」
ギャラリーがそろったところ広場に1885年の決闘を行った時のように立ちお互いをにらみ合った。
マーティは背広のような服ではなくタイムスリップ時に着てきたダウンジャケットとジーンズの動きやすい服装で決闘に挑んだ。
「男なら拳で殴りあおう。」
そういってマーティはボクシングの構えをしてギーシュに誘いをだすがギーシュはフッと笑いバラを振ると花弁が舞い散る。
何の魔法かと思ってそれを見ていると瞬時に女剣士のゴーレムが出来上がりマーティの前に立ちふさがった。
「お、おい!卑怯だぞ!」
「僕はメイジだ、だから魔法を使わせてもらう。文句はないはずだ。まったく君は召喚された時から世話をかけるね。」
彼がバラを一振りすると女剣士のゴーレムが突進し、マーティの腹に思いっきりなぐりつけた、するとマーティは縮こまり倒れてしまった。
「こ、この卑怯者。」
「卑怯者じゃないよ僕は青銅のギーシュ・グラモン。君と違い貴族だよ。」
「いい加減にして!決闘は禁止じゃない!!」
ルイズがマーティが苦しむ姿を見ていても立ってもおれなかったのか、決闘をやめさせるように催促をするだがギーシュはそれを平民だからと言って拒否する。
貴族同士の決闘は禁止だが平民相手には問題ないと。
その時だった。
ルイズとの会話に気を取られていた彼の頬に拳が飛び、ビフのように一回転して地面に倒れこんだ。
「ハハ、ざまぁないや。」
さっきまで身動きさえ出来なかったマーティがいきなり立ち上がり殴るとは誰も予想していなかった。
「き、貴様。」
ギーシュは腫れた頬を抑えながら立ち上がりゴーレムに攻撃を仕掛けようと思ったときマーティはギーシュの顔を見ずむしろ後ろの方に怪訝な顔をして目に入ってなかった。
「なぁ、ギーシュあれなんだ?」
「え?」
決闘の真っ最中に言われたものだからつい後ろを向くギーシュ、だがそこにはギャラリーと青空しかなかった。
「おい、何もなっグハッ!?」
ギーシュが問いただそうとマーティの方に視線を戻そうとした瞬間また頬に衝撃が走りそのまま倒れこんでしまう。
「いてて。」
「平民が・・・平民がギーシュに勝った!?」
マーティの手持ちの技は全て使い切った、厨房に入り金属製のトレイを勝手に借りてそれを防弾チョッキのように腹に備え付けていたのだ。何が起きるか分らないと思って念のために備えたが、それが功をなした。
「ふむ、彼は中々やるの。」
遠見の魔法でオスマンとコルベールが決闘の様子を見守っていた。コルベールとしてはあの車が気になり怪我をされては困るためすぐにでも止めたかったがオスマンがガンダーヴルを確かめたいがゆえにその決闘を敢えて傍観者として見守っていた。
「しかし肝心の武器を使わなかったら意味がないの。」
そう、肝心の武器を使用しなければ何のために決闘を黙認した。むろんわざわざ子供の喧嘩ごときで眠りの鐘を使用したくないこともあったが。
「これで一旦お開きじゃの。」
そう言ってオスマンは外を眺めた。
「もう!何でこんなことしたの!?」
ルイズはへこんだトレイに指を指しながら彼に叱りつける、金属製のトレイがへこむほどの威力がもし喰らっていればどうなっていたのか。そのトレイが語っていた。
「でも、それ脆いやつかもしれないし。」
「何が脆いよ!脆かったらなお悪いわよ!!」
「でも、ダウンジャケットも少し傷ついたなぁ。」
トレイを入れていることを誤魔化すために着たのだが案外ばれなかったのかもしれないし、傷がつくだけついたことを考えると残念で仕方なかった。
「全く、まぁ良いわ貴方には特別に・・」
「マーティさん!」
ルイズがマーティの行為を許そうと開口した矢先に全ての元凶であるメイドがそれを遮ぎる。
「すみません!!私のせいなのにマーティさんを巻き込んで!!」
「ああ、そのこと?大丈夫だよ。どっちにしろあのギーシュってやつにケリをつけないといけなかったし。」
マーティは手を軽く広げ何ともないとジェスチャーをするとシエスタはクスクスと笑った。だがそこで桃色ブランドの少女は不機嫌な様子でマーティを睨み付ける。
「こ、この~折角褒めようとしたのにぃ・・・今日は晩御飯抜き!」
ルイズは大声をはりそのままプイとそっぽを向いて帰って行ってしまった、そして残された二人は顔を見合わせることしかできなかった。
「というわけで晩御飯頼むよ。」
「トレイの騎士様のお通りだ!」
コック長のマルトーさん及びマーティと同じく魔法の使えない“平民”が彼を快く迎え入れてくれた。ここにいる者全員よほどストレスを抱えていたのだろうか彼を英雄のように称える。
「魔法が使えるっていうだけで威張り散らしているが俺らは魔法が使えなくとも料理を作れる。貴族には俺の味はまねできないさ!」
「確かに料理に魔法は関係ないもんね。これだけは本当に経験が物を言うよ。特にこのスープ。今までの中で一番おいしい。」
1931年に到着して初めてついたとき飲んだスープは最悪だった、それ以降まともな料理は食べた記憶があまりない、またスープだけではなくドクが政治家になった1985年の時間軸では野菜ばかり使った肉もどきに至ってはよくもこんなものを思いついたなと思った。
またこの世界に来てもまともな食べ物も食べることは叶わなかった。
「ここ数日まともな物を食べれなかったし、本当に助かるよ。」
「何か知らないが苦労しているんだな。シエスタ!我らのトレイの騎士にアルビオンの古い奴持ってきてくれ!」
「あ、悪いけど実はお酒は飲めないんだ。」
「そ、そうか?」
「でもマルトーさん代わりと言ったらなんだけど、冷やして欲しい物があるんだ。」
マーティはコンビニのビニールに入ったペットボトルを取り出すそこには青と赤に巴のようなマークがプリントされており、それを知らないこの世界の人はは不思議な顔で見た。
「これはコーラって言ってパチパチ弾けるような触感と甘さがあるんだ、冷やすとおいしい。」
「シャンパンみたいなものか。」
「多分そんな感じ。」
氷で冷やしたコーラを飲んだマルトー含み厨房のみんなは外見の色にこそ抵抗はあったものの中々の味だったと評した。
その夜。
「ロングビル先生ここで何を?」
「コルベール先生宝物庫の目録を作ろうと思いまして、しかしオスマンは就寝なさっていたので・・・」
「あの人は一度眠ると起きませんからね。」
「ところでコルベール先生宝物庫には入ったことが?」
「ええ、ガラクタも含め大量にあるので目録を作るのに一日はかかるかと。」
「その中に破壊の杖というものがあると聞きましたが見たことはおありで?」
するとコルベールは説明をしようとするがどう説明すればいいのか分らなかった。なんせあれ程奇妙な形のしたものは見たことがない。
「あれは・・・塔みたいな形をしていますね。」
「塔の形?」
「ええ、それしか他に例えようがありません。」
「でも、宝物には変わりはありません。最近名前が広がっている土くれフーケが来たとき大丈夫でしょうか?」
するとコルベールは共通の話題に取り残されないように頑張ってネビル先生を引き寄せようとして宝物庫の話へ移した。
「大丈夫ですこの宝物庫は固定化の魔法をかけています、いかにフーケとはいえ不可能でしょう。仮に破るとしても方法は一つしかありません。」
「で、その方法とは?」
「物理的な攻撃です。」
「物理的な攻撃ですか・・・・」
その時コルベールにはロングビルの目に怪しい光に鈍く輝いたように見えた。
次回は30日ぐらいに投稿(予定)です。