6月初旬のある日の事だった…。友美は学校から呼び出しを受けて、その日仕事を休んで学校へと向かった。
普通日課である為、校内は児童達がはしゃぐ声が響き渡っている。
来客用の入り口から友美は入ると、事務関係の人が応接室へと案内する。
黒いソファーに腰を下ろすとテーブルにお茶を用意されて、友美は少しの間1人静かな時間を過ごした。
しばらくして眼鏡を掛けた50代半ばの細身の男性と、40代後半位の背丈の低い女性が応接室に入って来た。
友美はどちらも見知っている顔だった。特に女性の方は彩未の担任竹内と言う名だった・・・と思い出す。
「こんにちは、教頭の松永です。田中彩未ちゃんのお母さんですね?」
「こんにちは、はい・・・彩未の母です」
松永は眼鏡越しに笑みを浮かべるが・・・少し怖さを秘めているようにも思える。
「あの・・・ウチの娘が学校で何か問題でもお越しましたか?」
その言葉に松永と担任竹内の2人はキョトンとした表情で友美を見た。
「学校内では問題と言う様な事はありませんよ、むしろ大人し過ぎる方ですね。あえて言うならもう少し皆の輪の中に溶け込めると良いですね、せっかく綺麗な顔立ちをしているから・・・もう少し人前に出ればかなりの人気者になるかとおもいますがね」
竹内の言葉に友美も同じ感じだった。彩未は人混みの中に入るのが嫌いな性格だった。大勢の中に居ると普通の会話さえ声が上がってしまう。初対面だと自分に壁を作ってしまい、慣れるまでに日数を要する方であった。
「あの子は、どうも・・・人見知りする性格なのよね」
「人見知りと、言うよりは・・・むしろ周囲から距離を置きたがる性格ね。決して自分から周りの人には声を掛けないし、お昼の休憩時間なんて教室内が騒がしくなると図書室に逃げ込む傾向があるのよね」
「すみません、生まれつき気難しい性格で」
「いえ・・・気難しくは無いわ。むしろ優しい性格だと思います。困っている人がいたら、ほっとけないタイプだと思いますよ」
「そうでしたか・・・」
彩未の意外な一面を聞き知って友美は少し驚いた。
「さて・・・そろそろ本題に移ってもよいですか?」
話が少し横にズレている事に気付いた松永が少し咳払いしながら言う。
「実は・・・今日、お母さんを呼んだのは・・・彩未ちゃんに付いて少し聞きたい事がありまして・・・」
「はあ・・・それは?」
松永は穏やかだった表情から、少し険しい顔に変わって。
「実は・・・先日、学校で身体測定がありました。その時・・・彩未ちゃんだけが周りが身体測定する中、ひどく拒否して・・・女性教員が説得して彼女だけ別室で身体測定をしたのです。後で身体測定を行った医師からの報告だと彼女は体中に無数の切り傷やアザがあった・・・と言うのです。流石の医師も彼女の体を見て絶句したそうですが・・・。お宅では家庭内暴力とかしていませんか?」
「していません。むしろ娘は私を注意して来る程賢いです」
「では・・・なぜ、彩未ちゃんの体に傷があるのです?」
友美は少し沈黙してから、2人を見て話す。
「あまり・・・信じて貰えないかもしれませんが、あの子は霊感があるのです」
その言葉に松永と竹内の先生は顔を見合わせて納得の表情をする。
「やっぱりそうだったのね・・・」
竹内の頷く表情に友美は驚きの眼差しを向ける。
「あの・・・信じて貰えるのですか?」
「まあ・・・多分、その可能性はあるだろうと思っていました」
松永は、学校で起きた噂の数々を友美に話す。
「我が校始まって以来ですね、不思議な出来事が頻繁に起きるのは・・・ただ、それが1人の女の子によって起きるのは少々信じ堅いですが・・・事実、不可解な現象を目撃した教師もいるので、決して生徒だけの噂では無いのも証明されています」
「私も教頭先生の話に同意見ですね、私は彩未ちゃんに助けられた様な物ですから」
竹内はそう言って、腕の袖を捲り上げて、腕の塗った傷跡を見せる。
「少し前に私が教室の机でテストの答案をしようとした時に彩未ちゃんが私に『先生、危ない!』と、言って来るのよ。最初は何の事か分らなかったけど・・・教員用の机の横にある窓ガラスが割れて、ガラスの破片が飛び散って来たのよ。もし・・・彼女が私を呼び止め無かったら腕の傷だけでは済まされ無かったでしょう・・・」
松永は友美を見て話す。
「お母さんは、彩未ちゃんの体の傷は霊の仕業だと・・・言うのですか?」
「いきなりは信じて貰えないですが、実際隣で寝ている娘が苦しそうに呻き声を上げているのを何度も目撃しました」
「そうですか・・・ちなみに、部屋を変えて見ることは?」
「今のアパートが一番格安で、ここを出て安全な場所に移るのが、あの子の為でありますが・・・とても今の資金では足りなくて・・・」
友美の言葉に松永と竹内は難しそうな表情で見ていた。
「まあ・・・彼女の成長の妨げに成らないように、霊から彼女を守ってください」
「はい、分りました」
話が終わると、3人は席を起ち応接室を出る。
「あと・・・お母さん、ちょっと良いですか?」
「何か?」
竹内に呼び止められて友美は振り返る。
「彩未ちゃんは霊感が強い上に敏感です、周囲の反応にも早く感じられますし・・・正直エスパーじゃないかと驚く事も、たまにあります。彼女の前では隠し事はできませんよ・・・」
「は・・・はい・・・」
廊下を歩いて居るとき友美は以前から考えていた事があった。
(私一人では・・・あの子を育てるには少し荷が重いかな・・・再婚した方が、あの子の為にもなるかな?)
そう思っていると
「ママ!」
何故か彩未が走って友美に飛びついて来た。
「こら彩未、授業はどうしたの?」
「今は休憩時間だよ、それにママもどうして学校に?」
ふと・・・視線を横に目を向けると担任と教頭達が笑いながら職員室に入って行くのを見て
「ねえ、何か変な・・・話されたの?」
「大丈夫よ、貴女は良い子だと褒めていたのよ」
友美は娘の頭を撫でる。
「ふ・・・ん」彩未は不思議そうな表情で友美を見て、何かを感じ取ったのか友美に向かって
「ねえママ・・・私はママと二人だけでも平気だよ」
「え!?」
友美はギョッと驚いた。
フフ・・・と笑いながら彩未は小走りしながら教室に向かって走って行く。
走り去って行く彩未を見て、友美は少し我が子が怖いと感じた。