名もない英霊   作:なし崩し

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終わってしまった。
駆け抜けてしまった。

――1.5章!

うん、本日ギリギリになった言い訳ですね!
取りあえずオルタちゃんたちが可愛かった。



プロローグ


 

 

 

 

 

 

 引っ張られたような感覚がした。

 本来ならば誰もここへは手を伸ばすことなどできないはずなのに。

 となれば抑止力による使役か、もしくは余程の事態が起きているのだろう。かつての災害に準じた何かか、それとも世界悪の出現か。どちらにせよそれに関わるものは碌でもないものばかりである。どこぞの神様がやらかしたのか、それとも人の欲望が限界を超えたのか。

 何にせよ、今、自分が呼ばれているのは確かなのだ。

 

 このままここで微睡に沈むか――否である。

 

 呼ばれたのなら飛び出そう。

 じゃじゃじゃじゃーんとかは無しで。

 それにしても、うん、何だかこのまま呼び出しを受けるとこれまた碌でもない結果が待っていそうな気がする。何というか、不完全というのか、このまま呼び出されても自分を構築する要素の全てを送り出せる気がしない。絶対に中途半端な状態で呼び出される気がする。

 

 だって、目の前に開いてる孔、小さいんだもの。

 無理無理、無理だって、通れないってそのサイズ。

 え、なに、体を削って通れって? 俺を鉛筆にでもするつもりだろうか。

 自分を引っ張る孔は徐々に大きくなって、腕くらいの太さにはなるがそれでも無理です。せめてバランスボールくらいは欲しいです。体を丸めて通れるくらいの大きさがほしいです。

 そんな願いは届かなかったのか、そこから一回り以上大きくなることはなかった。

 ……今回はパスでいいかな。

 そんな思いが頭を占め、もうひと眠りといこうとしたところで、

 

『――――――――――!』

 

 言葉にならない声が聞こえた。何と言っているのか分からないのに、誰かを守ろうとする思いだけは伝わってきた。自分に戦う力はないのに、戦う誰かを救いたいという切実な思い。

 誰かに頼れる強さを持った声だ。

 脳裏に過ったのは摩耗して思い出せない誰かの笑顔。

 そもそも自分の記憶かも怪しいソレは、それでも俺を確かに揺さぶる。

 

 ――行くか。

 

 この先は碌でもない場所なのだろう。

 そこで必死に生きる誰かが、誰かのために救いを求めている。

 誰かのために自分を犠牲にするやつは大嫌いだが、誰かのために誰かを頼れる強さは好きだ。他力本願なだけな奴だっているけれど、自分ではできないから恥を忍んで誰かに助けを求められる奴だっている。

 この声は真っすぐで正直で、きっと後者だろう。

 違えばその時。

 だから取りあえずは、

 

「痛そうだけど、取り合えず必要最低限残して削りますか……」

 

 なんだか生理的に受け付けない音が自分の体から聞こえてくるけど気にしない方向で。めっちゃ痛い、どぱって飛び出てる。あれ、これちょっとマズイかもしれない。削っちゃいけないもの削ってるかもしれない。それ置いてったら俺なにも出来なくなっちゃう。待って待って、手ごたえ得て嬉しいのは分かるけどちょっと待って!

 そして次の瞬間、急に強くなった力に押し切られ、俺の意識は白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私と彼、藤丸立花の前で私たちの後輩がたった一人で戦っている。

 多勢に無勢、それでもスペック差もあり何とか戦い追い払えているのが現状だ。正直に言って何が起こっているのか分からない。

 世界を救うためだと、カルデアという組織に勧誘されて、そこで私たちが為すべきことを聞かされた。人類の未来が失われた原因を突き止め、それを取り除くための戦い。それに備えて魔術の研鑽を積み、戦うための訓練を乗り越えた。そしていざ、という瞬間の出来事である。

 

 目の前で仲間たちが乗り込んだコフィンが光に包まれた。

 

 コフィンとは、人類の未来が失われたことと深い関係があるだろう時代へと赴くための機械である。そして私たちマスターと呼ばれる存在はそれを使用する適性を持ち、加えて英霊と呼ばれる過去に名をはせた英傑を呼び出すことができる適正をもつとされる者たちだ。

 そんな私たちが乗り込み、未来を取り戻すための希望が爆炎に包まれた。

 本来なら私もその中にいたのだが、ちょっと席外して戻ってきたらこの惨劇だ。飛び散った破片が体を傷つけるものの、反射的に手に持っていたタブレットに強化をかけて盾にしたおかげか致命傷には至らなかったが、あちこちから血がにじみだす。

 それから少しして駆けつけてきたドクターロマンに、恐らく最後のマスター候補だった青年、藤丸立花が驚愕に目を見開いた。私を見つけるなり駆けつけてきたドクターは応急処置だけして予備電源への切り替えを手動で行うべく姿を消した。後に残った私と彼は、他に無事な人はいないかと探すがそこにいたのは血まみれのマシュ一人。

 全力で治癒をかけるが、拙い私の技量では到底難しい。

 険しい顔でマシュに声をかける彼と、徐々に目の光を失うマシュ。

 ふざけるなと叫ぶも、治癒に速度に変わりはない。

 

 そんな時、カルデアスが赤く染まる。

 

 それは人類の痕跡を示す英知の結晶。

 それが赤く染まったということは、人類の痕跡が見つけられなくなったということだ。

 意味が分からない、理解が及ばない、あまりに、全てが唐突すぎた。

 混乱する中でも治癒の手を止めなかったあたり、自分で自分を褒めたいくらいだ。実際はそんな暇もなく唐突にレイシフトが始まった。直前まで機械的な音声が流れていたような気もするけど、そんなことにまで気を留めていられなかったのである。

 そして私たちは、燃え盛る冬木へと降り立った。

 何故かサーヴァントとなっているマシュにそのマスターになった立花――ちなみに呼び捨てでいいとのことだった――と、サーヴァントとの契約前の私。現状の頼れる戦力は新人サーヴァント(デミ)のマシュだけだった。

 そして今も、どう見ても異常な冬木と襲い来る怪物と戦っている。

 どこを見ても燃え盛るその光景を見ていると、世界中が同じように燃え盛っているのではないかと思わずにはいられない。そこに奇妙な人を襲う怪物までいるのだからあながち間違いでもないのかも。

 

 その後、流石に連戦もあり疲労が溜まっているだろうマシュを連れて撤退。逃げた先で籠城に都合よさそうな武家屋敷を発見した。なんとそこは侵入者を知らせる魔術が張り巡らされており、かつては魔術師が住んでいた名残が残っていた。この土地ではかつて聖杯戦争が行われていたという前情報から、関係者だと推測できる。

 ならばと探せば、やはりあった。

 

 ――――召喚システムが。

 

 カルデアの使用するソレの原型とされるもの。

 幸いなことに触媒となる聖晶石は手持ちがある。

 侵入者に対する警報が鳴り、マシュと立花が外へ出る。私もと思ったところで二人に止められ召喚を優先するように諭された。全くもって正論だったが、共にいけないことにもどかしさを感じた。ならば急げと自らの頬を叩き、石をばら撒く。

 

 呪文なんて知らない。

 ただ馬鹿正直に自身の持つ魔力を流し込む。

 触媒を使わない召喚では、自分との相性が良い英霊が呼び出されるという。一体どんな英霊がやってくるのか想像もつかないが、一抹の望みに全てをかける。願わくば、マシュとともに並んで戦ってくれる勇敢な英霊を!

 召喚の光が溢れかえり、召喚の陣のある土蔵を埋め尽くす。

 激しい魔力の奔流の中、どこか迷いが見える影を見た。近づいてきたり遠ざかったり、恐らくは実力の伴わない私の召喚に応じるべきか迷っているのだろう。しかし、此方には迷っている暇なんてない。近づいてきた瞬間、魔力を集中させ、ガッ!と腕をとり引き寄せる。

 待って待ってなんて声が聞こえたが知るものか。

 私にも余裕はないのだ、ハリーハリー!

 

 そして光は収束し、人の形を成す。

 薄暗い土蔵を照らすのは燃え盛る炎の灯り。

 その中央に立つ男は黒い髪、黒い瞳、そして黒いボロボロの外套を身にまとっていた。そこからのぞく彼の服もまた黒。所々に装飾が入っているのが見え、印象はどこかの軍服のよう。そして何より特徴的なのは彼が持つ鉄の塊だ。

 バスターソードと呼ばれる、長く、分厚い鉄塊。

 自身の身長や体の幅と同等クラスの、剣というよりは鉄の看板であった。

 

「…………もしかして、君が俺のマスターか?」

 

 その異様な光景に見とれていると、いつの間にか近づいてきていた男が疑問を投げかけてきた。はっと我に返れば、現状の説明を一切していない事実に気が付く。聖杯で呼び出されたわけでもなく唐突に呼び出された彼が事情を知るはずもないのだから、説明は自分の義務なのである。

 

 ――うん、私が貴方のマスターだ。

 

 言って、私は一人緊張に包まれる。

 確かに召喚には成功したものの、問題は彼の人柄なのである。

 波長の合う英霊を召喚できたのだから大丈夫といいたいが、事故はつきものなのだ。汗が滲む手のひらを強く握りしめ、真っすぐに私を見つめる彼を見つめ返す。彼は動揺したように体を揺らすと、どこか申し訳なさそうに頬をかく。さてどうしたものかと呟く彼は、仕方ないと続けて膝をついた。

 まるで騎士に誓いのようなソレ。

 私は彼のその姿勢を見て一つ確信する。

 

 彼は、私たちの味方であると。

 膝をついた彼は静かに告げた。

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。これからよろしく、マスター」

 

 契約の令呪が熱を灯す。

 一世一代の大勝負の成功に喜ぶ暇もなく、セイバーへと協力を要請する。

 

 ――早速でごめん、外の仲間の援護を!

 

「外の仲間? ああ、あの盾?みたいなのを振り回してる少女?」

 

 ――そう、盾みたいなの振り回してる女の子!

 

「……どういう状況だかさっぱり分からないけど、まぁ碌でもないことになってるのは理解した。俺の現状も含めて。ああ、別に召喚が不満だった訳じゃなくて、ええと、まぁ、うん、ちょっと色々足りてないっていうか、中々に致命的っていうか」

 

 なんだかはっきりしない物言いである。

 しかしそんなことを気にしている余裕はない。

 

「分かってる。まぁ記憶がぶっ飛んでるだけだし、この程度の戦闘なら支障はないのか……」

 

 うん、この程度の戦闘なら……うん?

 おっと、私の聞き間違いだろうか、何だか大分深刻な問題が発生しているような?

 

「じゃあちょっと援護に行ってくる。まぁ俺がやられたら新しいサーヴァントを召喚すればいいさ。記憶がないにせよ、幸い武器の使い方は体が知ってるみたいだし」

 

 え、ちょっと待って。ステイ。

 いや確かに私が急かしたのだけれども! 

 取り合えず確認するけど、自分がどこの誰かは?

 

「セイバーの適正を持ったナニカ」

 

 ……出身は?

 

「……黒髪黒目の、どこぞの民族とか?」

 

 ああ――――オワタ。

 あはははははははは。

 

「お、落ち着けマスター。逆に俺が落ち着いてきたぞ! 大丈夫だ、戦闘は可能だから! 武器の使い方は覚えてるしあの程度の雑魚相手に後れは取らないから!」

 

 ……ホントに?

 召喚しといてホント失礼だと思うけど……ホントに?

 

「何だろう、マスターは英霊を相手にし慣れてるような気がする。俺好みのこの絶妙な距離感とか……はっきりと覚えてないけども。まぁあとは信じてくれとしか言えないな。それこそ、結果で証明して見せよう」

 

 その頼もしい背中を見ながらも、やはり一抹の不安がよぎる。

 

 私の不完全な召喚のせいで――

 

「――それこそ、マスターが気にすることじゃない。俺がここにいるってことは、一度でもその召喚に応じようとした結果だ。何がどうなってここに至ったのかは分からないけど、俺は俺の意思で召喚に応じたんだ。そこにマスターの責任は生じない」

 

 不完全な召喚なら無視すれば良かったんだから、そういってセイバーは笑う。その笑顔を見て、気を遣われていることに気づく。私の未熟さが招いたことなのに私が一人ガッカリして、傷ついているのは彼かもしれないのに、一体私は何をしているのか。

 

「なに、そう自分を責める必要はない。こんな状況なんだ、誰にだって失敗はある。ただまぁあれだな、一つ俺自身について分かったことがある」

 

 そういいながらセイバーは剣を強く握りしめる。

 同時に口元に笑みを浮かべながら彼は言う。

 

「――どうやら俺は、負けず嫌いの気があるみたいだ。記憶がないからと侮られたのなら、記憶がなくてもこの通りだと見せつけよう。だからよく見ていろマスター。マスターの呼んだサーヴァントが、記憶がなかろうとどれだけの武力を持っているのかお見せしよう」

 

 瞬間、土蔵の中の空気がシンと静まる。

 パチパチの弾ける炎の音はすでに聞こえず、かび臭い空間が清廉な空気で満たされる。

 

 そして彼は、唐突に侵入してきた黒い影(・・・)を一刀のもとに切り伏せた。

 

「――――馬鹿な、気配遮断を」

 

 唖然とした声。

 そしてその黒い影は何をなすこともなく消滅した。

 明らかに先ほどまでの怪物より格上の存在を、ただの一太刀で。

 そもそもあの鉄塊が動くところを、一切視認することはできなかった。

 

 ――ああ、早くも謝らなくてはいけない。

 

 彼は記憶がなかろうと英霊なのだ。

 体に染みつくまでの武があってこそ、彼は英雄の座へと上り詰めたのだろう。

 そこに至るまでの道を、彼の体と魂は覚えているのだ。

 

「さて、この調子だと今みたいのが後輩とやらのところにも行ってる可能性が高い。さっさと片付けて一段落つけよう、マスター」

 

 剣を片手に笑う彼の姿は、とても頼もしいものに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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