勘違いが笑いを呼びしばらく。
俺たちは再び歩き始めていた。
所々で休憩し、敵を蹴散らすのお決まりのパターン。
そしてある時は所長から魔術師としての心得を学ぶ。
流石は当代のロードというべきか、その言葉には重みというものがある。
それはきっと今後のマスターたちの為になるだろう。
そうして時間が過ぎていく中、ふと今までとは比較にならない気配を感じる。
『――――おしゃべりしてるところすまない! 急いでそこから離れるんだ! 今回のは流石にまずい、今までのサーヴァントモドキとは違う、正真正銘のサーヴァントだ』
なに、という暇はなかった。
咄嗟に近くにいたマスターと所長を抱きかかえその場から後退。
するとそこには四方八方から鎖が伸び、俺たちがいた場所に突き刺さっていた。
あれが直撃していたらと思うとゾッとする。見れば藤丸君もマシュと共に回避には成功したらしい。
「おや、一匹くらいは仕留められるかと思いましたが、存外しぶといものですね」
ソレは唐突に現れた。
空間が揺らぎ、そこには黒いフードの女が現れた。
禍々しい魔力をまとう、血濡れの女。
今までの敵とは違う、明確な形、殺意を持った――――サーヴァントだ。
「っ、道が…………」
マスターが驚愕の声を上げる。
見れば周りはあの鎖に封鎖され、逃げ道をふさがれていた。
「あぁ、これですか? これから行われる狩りのために、檻を作っただけですよ。せっかく生きた獲物を見つけたんです、逃すわけがないでしょう?」
そういいながら、艶めかしい舌をのぞかせる。
こっそりとマシュに視線を送り、マスターたちを下がらせる。
この場において最も防御に優れているのはやはりマシュだ。であれば役割はハッキリさせた方がいい。敵の戦闘能力が不明な以上なおさらだ。おまけに奴が持っているのは――鎌か。いや、形状的には槍というべきか。
そして俺の直感は、あの槍を受けてはいけないと言っている。
「――ほう、貴方にはこの槍の恐ろしさが分かるのですね。ふふ、正解ですよ。まぁ、この槍の何が恐ろしいのかは、その身をもって知っていただきますがね!」
そういって、彼女は地を蹴った。
そして気づいたときには――すでに目の前で槍を振りかぶっている。
「モドキとはやっぱり違うかッ!」
剣を盾にしてその一撃を防ぐ。
そして今まで受け止めてきた一撃とは違う重みに腰が沈む。
しかし幸いにして膂力は俺の方が上らしい!
「む!?」
そのまま剣を薙げば、彼女は飛んで距離を取った。
「野蛮な方ですね。その剣、セイバーのようですが、剣士というのは馬鹿力ばかりですね」
「そういうアンタはランサーか」
ええ、と言いながらランサーは槍をふるう。
それを受け止めながら、マスターたちをうかがえば、
「よそ見などしている暇がおありですか?」
回避できたのは偶然だった。
視界をよぎるのは、道を封鎖していたあの鎖。
その出所を探れば、
「ッ、髪が鎖になるとか、サーヴァントってのは化け物か!?」
「貴方もサーヴァントでしょう? それと、その化け物というのはいただけませんね」
「はっ、意図的にロールプレイしてるかと思ったけど違うのか?」
一層激しくなる槍裁き。
加えて鎖も飛んでくる始末。
捌くので精いっぱいなのは、俺に戦闘経験がないからか。
しかし、一つ思うところがあるのだ。
それはこの戦いの中で、確信に変わりつつある。
「なぁ、二つほど聞いてもいいか?」
「ええ、構いませんよ」
「そこら中にある石像は、アンタが?」
「ええ、生きたまま石にしてあげました。まぁ完全に石にした者もいますがね。壊せばすぐに分かりますよ、血の噴水が見えるでしょうからね!」
ギリ、とマスターが手を強く握りしめている。
そうだろう、彼女ならば怒るだろう。そして、藤丸君にマシュだって同様だ。
きっと、直接ぶちのめせないのは歯がゆいに違いない。
ならば、俺が代わりにそれを成さなければならない。
マシュに守りを託している、俺が。
「最後の一つ。アンタは――――神様かなにかか?」
槍がピタリと止まる。
そして――――忌々し気な視線が俺を貫いた。
「ええ、私はかつて女神の一柱でしたが――――それがどうかしましたか? ああ、神様が何故こんなことをとか、くだらないことは聞かないでくださいね。私はどちらかと言えば神というよりは化け物側、そしてなにより、神というのは」
「――――自分勝手な気まぐれや、だろう? 何をしたっておかしくない、ただのサイコパスだ」
そう呟けば、何かの枷が外れた音がする。
力を籠める手に、より一層力がみなぎる。
俺はこの感覚を知っている。正確には、この感覚を体が覚えている。
何より、俺の魂に刻み込まれている。
「――っ! これは、まさか……!」
剣で受け止め、全体重をかけて当身を仕掛ける。
インパクトの瞬間に火力を乗せ、放つそれはランサーの体をくの字に曲げた。
ビルに突っ込むランサーの追い打ちをかけるべく走り出すが、それよりも早くビルから飛び出てくる影がある。
「忌々しいですね、貴方は!」
槍と鎖の同時攻撃。
視認後、剣を地面に突き立て、一気にまくり上げる。
「ち、小賢しいマネを!」
「チマチマ仕掛けてくるアンタに言われたくはない!」
姿は俺の作り上げた土煙で視認できない。
しかし幸い、ランサーは声を上げてくれた。
ならば迷う必要はないし、俺の直感も間違いないと告げている。
何より、俺の体に走る力が証明している。
そこに、神がいると。
「なにッ! ぐぅっ!」
範囲を優先した横なぎの一撃。
それは僅かながらに芯を逃したが、ランサーの体を切り裂いた。
「浅いっ!」
「十分すぎると、満足しておくべきでは?」
トン、と体から魔力を零しながらランサーは後方に降り立った。
その顔からは余裕がなくなり、遊びはなくなったと感じ取る。
ここからが、本気の戦いだろう。
「まさかここまで追いつめられるとは。少々甘く見ていましたが――――お忘れですか、ここは私の狩場であると」
何を、と口を開くその瞬間だ。
巨大な陣が地面に広がっていく。
そしてランサーの背後には、
「……何だよ、そのでかくてグロイ瞳は」
「『
『不味いぞ。あれは周囲から生命力を徴収する結界型の宝具だ! 恐らくはそれを魔力に還元して吸収している! 分かっていると思うけど、対象はサーヴァントだって含まれてる。マスターの負担を考えれば、そう時間はない!』
「おや、そちらには優秀な魔術師がついているようですね。おおむねその通りですよ。あぁ、瑞々しい血をそのまま啜れないのは残念です」
見ればランサーの傷が修復されていく。
生命力を魔力に変換し、直接修復に当てているのか。
おまけに対象はこの領域。つまり、生きたまま石化された人々も対象だ。
「どこまでも下衆だな、お前たちは」
マスターたちが膝をつく。
マシュが支えているが、それでどうにかなる問題ではない。
猶予はない。
ならば、
「――――調節も済んだ。慣らしも終わった。後は、神様とやらを殺すだけだ」
「ふふ、やってみなさい。たっぷりといたぶった後、美味しくいただいてあげましょう」
自身の中で荒ぶる力を順応させる。
これが何か、すでに大まかに把握は済んでいる。
胸の奥から湧き上がるこの感情、魂の叫び、ああ、間違いない。
「俺は――――――神様が大嫌いだ」
上段に剣を構える。
腰を低くし、ただひたすらに力を籠める。
この一撃を以て、消し飛ばす。
「隙だらけですよ? 捨て身もかまいませんが――――届くとお思いですか?」
せせら笑うように、鎖の壁が出来上がる。
たが今の俺にとって障害にはなりえない。
今の俺には間違いなく、スキルの恩恵があるのだから。
「お前のおかげで俺自身について少しわかったよ。感謝を込めて、欠片も残さず消し飛ばしてやる」
神性特攻。
ランクは分からないが、あるだけでいい。
この剣が目の前のランサーを粉砕できるだけの力があればいい。
そして、走り出す。
「無謀な、散りなさい」
鎖の射出。
しかし今の俺なら見てからでも十分によけられる。
数が増えたところで、何の変りもない。
「っ、当たらない? くそ、何が……!」
ランサーは最早、鎖を射出することしかできない。
何せ彼女の前には鎖の壁があるのだから。
5m、4mと近づいていく。
そして――――
「かかりましたね!」
鎖の壁から、棘が生える。
それは鎖を束ね、前面に展開した棘の壁だ。
しかしそれも予想済み。
そもそも、すべて壊して通る予定である。
棘の到達よりも早く剣を振り下ろし、吹き飛ばす。
「――――――――は?」
紙切れのように吹き飛ぶ鎖を見て、ランサーが呆けた声を出す。
しかし相手もサーヴァント、次の瞬間には槍が突き出されているが、遅い。
切り上げの一撃がランサーの腕を吹き飛ばす。
「――――――――!?」
「受け取れ、お前たちには毒な一撃だ」
切り上げの体勢から一歩踏み込む。
驚愕にゆがむランサーの顔が近づく。
だがそこに慈悲など込めはしない。早いとこ終わらせないとマスターに毒だ。
躊躇なく振り下ろしたその一撃は、ランサーを完全に切り裂いた。
「――――――――参り、ましたね」
それを最後に、ランサーは溶けるように消滅した。
同時に、マスターたちを囲っていた結界も解除される。
「無事か、マスター」
「うん、大丈夫。というか私はセイバーが心配なのですが」
そういってマスターはくるくると俺の周りを回ってはじっと見つめてくる。こう、俺としてはちょっと普段と豹変していたから悪い印象でも与えてしまったかなと思っていたわけですが、そんなことはなかったらしい。
「大丈夫そうだね。傷もないし、いつも通りだ」
「……やだこのマスター、男前すぎる」
下手な男よりも男らしい精神の持ち主だ。
恵まれているな、と心の中で呟いていていると、マシュたちがやってくる。
「すみません、俺はなにもできず……」
「いえ、それを言うなら私の方です、マスター。サーヴァントであるのに、私ではランサーには勝てませんでした……」
反省モードの二人。
この仲の良い主従は、互いが互いに自分を責めている。
似た者同士というか、純粋というか。
寧ろデミでもない本物の英霊である俺の方が申し訳なくなってしまう。
「逆に言えば、俺一人じゃマスターたちを守れなかった。俺は戦えるけど守れない。なら、丁度いい組み合わせだ。互いに足りないところを補える。それは何も戦闘能力だけじゃない。それはきっと、近いうちにはっきりとしてくるはずだ。まぁ何が言いたいのかというと」
「これからもよろしく、だって」
「うん、その通りなんだけどさマスター……」
するとマシュも藤丸君もクスリと笑う。
おや、とマスターを見ればそこはかとなくドヤっとしているように見える。
表情変わってないように見えるのに、なんだろう、本当に不思議。
「まったく、戦闘が終わったからって緩みすぎじゃない? もう少し気を張りなさい。敵がランサークラスだった以上、他のクラスのサーヴァントがいてもおかしくはないんだから」
「――――その通りだな。ま、初のサーヴァント戦で勝ち星おさめたってんならしょうがないとは思うがよ」
ゆらり、とランサーが現れたときのように一人の男性が姿を現す。
しかしそこから殺気は感じ取れず、むしろどこか友好的な感じがする。
杖を持っていることから、クラスはおそらくキャスターだろう。
「まぁそう警戒しなさんな。俺はあんた達の敵じゃぁねえ。敵の敵は味方って訳でもないがね。俺はキャスター、この聖杯戦争の生き残りだ」
「っ、貴方がキャスター? 何だか先ほどのランサーと違って幾分か話ができそうだけど……」
言われて気づく。
先ほどのランサーはどこか壊れているように見えた。
根本的に悪ではあったのだろうが、それでも残虐性は後付けのように感じられた。
「ま、俺はまだ泥に汚染されちゃいないからな。そこんとこは一息つける場所に移動してからにしようや。まだここに居たいっていうなら別だけどな」
それに対し、反論するものはいなかった。