名もない英霊   作:なし崩し

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大人になってからのインフルは辛い。



三話

 

 

 

 

 

 

 突然だが私、岸波白野には少々複雑な事情というものがある。

 それは私の生まれというか、今の私に至るまでの過程というか。

 これでも私は一流には届かないものの魔術師である。それもそこそこ古い流派の最後の生き残り――みたいなものらしい。らしいというのも、そもそも私には魔術を継承した記憶など欠片もないのである。

 では何故、私が古い流派の生き残りだとわかったのか。

 これもまた直接的に私が関わっているわけではない。

 実を言えば、私は妙な機械の中でコールドスリープ状態だったらしい。

 アムネジア・シンドロームとかいう難病にかかっていたらしい私は、それを治療できるようになるまで眠らされていたのだという。そんな私はどういう経緯かは分からないが、時計塔の魔術師に発見され、保護されたのである。幸いなことにその魔術師は魔術師たちの中でも大門であり、何より人道的であった。そのお陰か、大分こき使われたが無事に今もこうして生きているわけである。

 同時に、その魔術師は時計塔に彼女が滞在する間、私の師となってくれた。とはいえ彼女にはすでに従者がいたため、私もという訳にもいかず偶々遭遇した彼女のライバルの元でお世話になっていた。

 すると彼女たちは妙な化学反応を起こした。

 

 ――私こそが一番うまく教えられる。

 

 いいのか名門。名門としての取り繕いどこいった。

 結局、彼女たちの張り合いに巻き込まれる形で、二人から教授いただく毎日である。

 彼氏さんには本当にご迷惑をおかけしたものだ。 

 まぁ、そのお陰で私は魔術回路の本数が微妙ながらも魔術師を名乗れるようになったのだ。

 彼女曰く魔術使いの方が近いとのことだったが。

 

 さて、ここでその難病とやらが関わってくる。

 

 その難病、どうやら記憶に関連するものらしいのだ。

 そう、そうなのだ。

 何を隠そうこの私――――記憶喪失なのである。

 どうやら手遅れだったらしい、畜生め。

 まぁそこまで困っているわけではないからいいのだけども、ここに至りちょっと弊害が出てきたというか……私以外に。正直、この現状にようやく余裕が出てきたから思い至ったというか、なぁんか私とセイバーは似たとこあるなぁと思っていたら気づいてしまった。

 

 セイバーの記憶喪失、霊基の問題だけじゃないんじゃね

 

 と。

 私が彼を召喚するために行った儀式は間違いなく不完全なものだった。

 それに加えて触媒なしの縁召喚である。

 つまるところ、相性がいい英霊を呼び出すもの。

 そう、もうお気づきだろう。

 

 記憶喪失のマスター。

 記憶喪失のサーヴァント。

 

 ――完璧である。

 

ドクター曰く、セイバー自身が召喚に応じるために霊基を削った可能性もあるらしいが、結局のところ私のせいである。いやもうホント、余裕が出てきた今となっては申し訳なさで土下座をかましたい気分である。

 

 そのセイバーは私たちの前を、先ほど合流した野良サーヴァントであるキャスターと所長とで何か話をしているようだった。

 そしてこのキャスターだが、どうやらこの地で行われていた聖杯戦争の生き残りであるらしい。詳しいことは分からないが、一夜にして人間は消え、彼らの聖杯戦争は全くの別物へと変わり果てたとのことだった。

 一夜で炎に包まれ人は消え、真っ先に黒いセイバーが動き出した。

 その結果、キャスター以外が倒されてしまったらしい。

 挙句の果てに、倒されたサーヴァントは汚染され、黒いセイバーの手ごまとなったとか。

 アサシンは何気に召喚したてのころセイバーが切ったサーヴァントらしい。ランサーは先ほどこれまたセイバーが切った敵であり、ライダーはすでにキャスターが討ち果たしたとの事である。残るは敵はセイバー、アーチャー、バーサーカーである。

 

「で、敵の本拠地は分かっているんでしょうね?」

 

「おう、それに関しては任せな。すでに場所はつかんでるからな。まぁ、面倒くさい門番がいるが、そっちは今度こそ俺がどうにかしてやるよ」

 

「それはいいんだけどさ、ほら、なに、俺の直感モドキが叫んでるんだけど。バーサーカーについて追及しろって叫んでるんだけど」

 

 会話を続ける三人だが、どこかセイバーは不安そうな表情である。

 それに対し、キャスターがいい勘してるじゃねぇかと笑う。

 

「バーサーカーに関しちゃあ、遭遇したら逃げ一択だ。それでも誰かひとりくらいは犠牲になる必要があるがな。奴の真名はヘラクレス。12の試練、その生きざまを宝具にしやがった化け物だ」

 

「ヘラクレス、ですって!? ギリシャの大英雄じゃないの! それに宝具って、まさか……!」

 

「おう、奴は十二の命のストックを持ってやがる。おまけに、同じ攻撃が通じにくい厄介モンだ。ま、黒いセイバーでも御しきれなかった相手だ。汚染された今も、とある場所から一歩も動こうとしねぇ。ちなみにどうやったのかは知らねぇが、アーチャーが五回、セイバーが一回、俺が一回殺してるから残るは五回だが……あれ、回復するらしいんだよなァ」

 

「……じゃあバーサーカーきたらキャスターに任せる」

 

「おうテメェセイバー、いい度胸してやがんなオイ」

 

 キャスターが杖を振りかぶりセイバーがヒョイとかわす。

 俺がランサーだったら、と呟くキャスターはどこか残念そうだった。

 そして、私と一緒に歩く藤丸くんとマシュだが、

 

「ど、どうしたのマシュ。何かセイバーに気になるところでも?」

 

「はい。実をいうと、少々投げかけたい言葉があるのですが、その言葉が思いつかないというか……もどかしさでいっぱいです、先輩」

 

 と、どこかはっきりとしない会話。

 マシュは何やらセイバーに対して気になる部分があるらしく、先ほどから訝しげな視線でセイバーをみていた。

 そうして我らカルデア一行が歩いていれば、時には敵性生物に襲われる。まぁマシュが殴り、セイバーが切り、キャスターが燃やすのだが。その光景を見て、私たちマスターと所長は英雄ってやっぱりどこかおかしいな、なんて思うのである。

 こうして改めて見ると、セイバーはどこかちぐはぐだ。

 よく見れば姿恰好は割と近代に近い気がするが、纏うソレは神秘の塊だ。

 彼が持つ宝具と思わしき鉄の看板――鉄の剣も凄まじい。

 しかし、近代にそんな剣を使う英雄は存在しない。

 

「ん、どうかしたのかマスター。相変わらず表情は変わらないが、そう視線を向けられると嫌でも気づくぞ」

 

 休憩中、セイバーはそういいながら座り込む。

 私も倣うように地べたに座り込めば、セイバーは笑う。

 

「ああ、いや、わざわざここに座らなくてもと思って。ほら、そこに丁度いいガレキがあるのにさ」

 

 そういいながら彼はガレキを指さす。

 確かにそうかもしれないが、割と突っ込んで話したいのでこの方が都合がいい。

 

「突っ込んだ話ね。それで何が聞きたいのさ。いや、まだ記憶なんて欠片も取り戻してないからな? ああ、いや、どうやら俺は神様が嫌いってのまでは分かったのか。こう、神性をまとう奴みるとぶった切りたくなるというか……」

 

 サーチ&デストロイ?

 

「まさにその通り」

 

 分からぬ、てんで分からぬ。

 まぁ、今日という日は始まったばかりなのだから仕方がないか。

 これから私も、責任をもってセイバーの記憶を取り戻すために努力する。

 何せ、こんな身でも私はセイバーのマスターなのだから。

 

「――うん、これはあれだ。記憶が無くても分かる。これは人たらしの気配だ。藤丸君もたぶんそうだけど。となるとあれかなぁ、これだけじゃ終わらないってフラグかなぁ。というかフラグと言えばなんだけどさ」

 

 うん?

 フラグと言えば?

 

「――俺さっきバーサーカー出現のフラグ立てちゃわなかった?」

 

 ……ちょっと数分前まで戻ってへし折ってきてください。

 

「無理だなぁ。ま、最悪の場合はちゃんと俺が責任を取るってことで」

 

 じゃあその時はマスターとして責任を取るということで。

 

「……正直、男前すぎない、ウチのマスター」

 

「やめときなさい。カルデアで訓練してた時からこんな感じだったから。これでもこの子、ファンが多数存在してたくらいよ……主に女性職員の」

 

 所長のそれは大げさすぎである。

 私はただ、ちょっと困っていたところに手を貸していたにすぎない。

 

「自覚がないのは本人のみってね。おまけに保護者はうるさいしで大変だったんだから……」

 

 それに関してはご迷惑をおかけしました。

 私を送り出したの本人たちのくせに、本人より心配して日夜確認の連絡が飛んでくるのだ。

 あそこ一応、トップシークレット扱いで秘匿されているはずなのに。

 

「あぁ、ちょっと納得した。苦労してるのな、所長さん。その、なんだ、とりあえずこれ終わったら手伝えることは手伝うぞ?」

 

「……じゃあ、ちょっと口うるさい老害どもをバッサリしてきてくれる?」

 

「……それはちょっと俺の管轄外かな!」

 

 やべぇよ、カルデアやべぇよとセイバーが戦慄する。

 所長も冗談よと笑うものの目が笑っていなかった。

 もちろん、私も戦慄した。

 これからはもうちょっと所長に優しくしよう。

 

「おーい、お喋り中悪いがそろそろ先へ進むぞ。時間をかければかけるだけ、向こうに迎え撃つ準備に備える時間をくれてやることになるからな」

 

 そういいながらキャスターが霊体化を解き現れる。

 いつの間にか彼は霊体化し、周囲の見張りをしていてくれたらしい。

 キャスターに従い歩き始めれば、彼は一つの場所を指さした。

 

「見えるか、あそこが奴らの根城だ。正確にはその下なんだがな。そこで黒いセイバーが待ち構えてるだろうよ。そんでその手前には門番がいる。で、ここからが相談なんだがよ――門番の相手を俺にやらせちゃくれねぇか」

 

 門番の相手をキャスターが?

 別に問題はないと思うのだが、なにかこだわりがあるのだろうか。

 

「こだわりがあんのかって目だな、そりゃあ。まぁちょいとした因縁があってな。今回はクラスが違うが、決着をつけるいい機会だ。アイツ、アーチャーはビックリ箱みたいなもんでな。手の内を知ってる俺の方がやりやすかろ」

 

 そういう事なら問題はないと思うのだが、どうなのだろう。

 あまり言いたくはないが、黒いセイバーとやらは残ったメンツで倒せる相手なのだろうか。

 

「黒いセイバーはまぁ、一人でキャスター以外を倒してるからその不安もしょうがない。実際のところ、俺自身もちょっと不安だからな。最悪、アーチャーをみんなでタコ殴りにしてから黒いセイバーを倒すって手もあるんだろうけど……」

 

「いや、最悪そこに黒いセイバーが乱入してきやがる。そうなりゃ手詰まりだ。一人がひきつけ、残りが倒す。こればベストだと思うがね。アーチャーの奴は狡猾だ。引き離そうとしてもある程度の距離まで行けばどれだけ向こうが優位でも引いていきやがる」

 

 セイバーも思案しているが、やはり同じ結論に至ったのだろう。

 それしかないかとキャスターの賛同を示し、コチラに視線を送ってくる。

 それを見て何を求められているのかを理解。

 黙って頷くことで肯定の意を示す。

 

「そっちの坊主、嬢ちゃんたちは?」

 

「俺も異論はないよ」

 

「はい、私もです」

 

「よしなら決まりだな。そうと決まればあとは突っ走るだけだ。で、もう一つばかし提案があるんだが……」

 

 そういいながらキャスターが見たのは所長であった。

 所長はきょとんとした表情でキャスターを見つめ返す。

 キャスターはそんな所長を見ながら、唐突に言い出した。

 

「――――アンタ、俺に指示を出してみる気はねぇか? 確かにアンタにゃぁマスター適性がないから契約はできない。だが生憎俺は野良サーヴァント、魔力は聖杯で補ってるようなもんだ。契約も何もありゃしない。が、仮契約って形ならとれるだろ?」

 

「ちょ、ちょっと待って!? それに一体、なんのメリットがあるの!? 念話も使えない仮契約で得られるものなんてほとんどないようなものよ! それもただのお荷物を抱えるようなものでしょう!?」

 

「いや、それがそうでもない。言ったろ、相手の手の内は知ってると。だが逆にいい変えれば、向こうも知ってるってこった。ならここに一石投じてみようってな。魔術師としちゃあこの中で一番腕が立って自衛もできる。キャスターである俺との相性もそう悪かねぇはずだ」

 

 瞬時に考える。

 言ってることは間違いじゃない。

 それに、未熟な私たちと一緒にラスボスに挑むのとどっちが危険性が高いのか。

 キャスター側の戦力が上がり、素早く敵を倒してくれれば黒いセイバーに挑むための戦力は増大する。セイバーを見れば、彼もどこか納得したように頷いていた。藤丸君、マシュもどこか不安そうではあるが所長にゆだねるらしい。

 所長には迷いが見える。

 それもそうだ、彼女はマスターになりたくてなれなかった人。

 そのせいで肩身狭い思いをしてきた人。

 それでも――――

 

「――――わかりました、やりましょう。でも勘違いはしないで。私は確かにマスターになりたくてもなれなかった。だからこのチャンスを逃したくないなんて、浅はかな思い違いはしてない。これが最善、私たちの目的を果たすにあたり近道であるからそうするだけ。いい、マスターでもない私が命を危険にさらすのだから、貴方たちも全力で臨みなさい!」

 

 挫けなかった人。

 歩みを止めることはしなかった人。

 所長は本当に、強い人なのである。

 

「……成程。カルデアはいい人材に恵まれている。そしてマスター。マスターもまた、いい上司に恵まれたな」

 

 そうなのである。

 確かに私は記憶もない、傍から見れば不幸な少女なのかもしれない。

 それでも起きてからの私には、幸運な出来事しかなかった。

 信頼できる師たち、出会ってきた友人、同じ職場の職員。

 そしてこの上司に、

 

「さ、張り切っていこう。できる限りを以て全力で」

 

 何よりも、頼りになる相棒に出会った。

 まだまだ未熟、記憶もない半人前以下の二人。

 それでもちっとも、

 

 ――――負ける気がしない。

 

 恐怖なんて感情は欠片もなかった。

 

 

 

 

 

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