博麗になれなかった少女   作:東方茄子

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すみません。
前話に引き続き、今回も文字数がいつもより少なめです。


第二十三話 唸れ博麗ブロー

 

 

 落ちていくレミリアさんを全速力で追い掛ける。

 

 彼女は妖怪だから、このまま地面と衝突したとしても大怪我をするくらいで、命を落とすような事にはならないだろう。

 

 だけど、それじゃあ。

 紅魔館の皆が、きっと。いや、絶対に悲しむ。

 

 

「全員が、笑い合える最後じゃないと、意味が無いのよ……!!」

 

 

 霊夢を助けようとした時と違って、今回はレミリアさんとの距離は短い。

 助けられないどおりは無い。

 徐々に近付くその小さな体を掴もうとして、手が虚空を何度も切る。

 

 焦るな。

 もっと近づくんだ……!!

 

 もう少し、もう少し!!

 

 

「とど、け……ッ!!」

 

 

 がむしゃらに伸ばした手が、柔らかく小さな手を、掴んだ。

 掴んだ!!

 

「よしっ!」

 

 彼女をグイッと引き寄せ、抱き込むようにして体を支える。

 

 まだ地面との距離には余裕がある。

 これならさっきみたいに墜落まがいな事にはならないだろう。

 

 ゆっくりと重力から離れ、完全に滞空する事に成功して、ようやく安堵の息を一つ吐けた。

 

 

「……君は、優しいな」

 

 

 胸の中のレミリアさんが、呟くような声量で言う。

 

 地面へゆっくりと降下しながら、レミリアさんの顔を覗き込むと、彼女は柔らかな、何処か満ち足りた風の笑みを浮かべていた。

 

 もう敵意が見受けられない彼女に、一抹の不安を抱きながら私は尋ねる。

 

「えっと、私達の勝ち、で良いんですよね……?」

「まぁ、そういう事になるな」

 

 レミリアさんがそう言って可笑しそうに笑う。

 

 そして少し間を開けてから、彼女が思い出したように切り出した。

 

「そう言えば、君は今回の異変に関与した件について、博麗の巫女と人間の魔法少女にはどう説明するつもりなんだ?」

「えっ」

 

 不思議そうな顔の彼女に言われてから、思い出す。

 

 そう言えば私、数日里にも神社にも顔を出してなくて、半分行方不明扱いになってたんだ。

 それでいきなり異変の最中に登場して、パチュリーさんとレミリアさんと戦って……。霊夢と魔理沙からしたら訳わかんないわよね。

 

 でも異変が起こる事を事前に知っていたなんて、言えないし……。

 

「ど、どどどうしましょうレミリアさん……っ! な、何か上手い言い訳は! 無いですか……!?」

「考えてなかったの?」

「だ、だっていきなり紫さんに送られたんですよ!? 直ぐに言い訳を考えろって方が無茶じゃないですか!」

 

 ああ、思い出したらまた腹が立ってきた……!

 本当にあの人は、何の説明も無しにいきなり私をスキマの空間に放り込んで!!

 

 霊夢だったら絶対に殴ってる!!

 私は霊夢より一つお姉さんだから我慢できてるけど!!

 

 フツフツと湧き上がる怒りを必死に抑えていると、レミリアさんが少し呆れたような顔をして言った。

 

「まぁ、今回はうちのパチェも一枚噛んでいる様だったし、こちらの非も大いにあると思う。口裏を合わせるのは手伝うよ」

「ほ、ホントですか!!」

「ああ。……そうだなぁ、私たちが出会った訳なんかは取り繕わなくても良いだろう。美鈴がさん異変に関わっていたという事実は秘密にしておいてくれれば、こちらとしては問題無い」

 

 あごを軽く撫でるレミリアさんの言葉に頷きながら、もう一つの不安に関して問いかける。

 

「私がここに居た理由は、どうしましょう……?」

「君も二人と同じで、異変を止めるために来たということにすれば良い。それで取り敢えずは誤魔化せるだろう」

「おお……頭の回転速いですね……! 天才ですか!?」

「ふふふ、もっと褒めたまえ」

 

 そんな感じで話しているうちに、芝生に足が着く。

 抱き込んでいたレミリアさんを降ろしたのと同時に、聴き馴染みのある声が聞こえてきた。

 

 

「水蛭子!!」

「無事か!?」

 

 

 霊夢と魔理沙だ。

 二人は少し離れた地面に降り立つと、魔理沙は小走りで、霊夢は何故か猛ダッシュでこちらに向かってきた。

 良かった、二人とも目立った怪我も無いみたいだし、元気そうだ。

 

 

「ひぃるぅこぉぉーーー!!!!」

 

 

 ……ちょっと、霊夢は元気過ぎるみたい、だけど?

 

 ま、まぁ無事だったのは本当に良かった。

 私は安堵の息を吐きながら、霊夢を抱き締めようと手を広げる。

 

 さぁ霊夢、水蛭子お姉ちゃんの胸に飛び込んでらっしゃーい!!

 

 

「霊夢〜! 無事だったのね……」

「こんのぉぉぉぉッ! 水蛭子から、離れろッ!!」

「ぐっふぉっ!!」

 

「……えぇ」

 

 

 私の横を物凄い速度で通り抜けた霊夢が繰り出した、強烈なボディーブローによってレミリアさんが盛大に吹っ飛んだ。

 ゴロゴロゴロゴロ!!とこれまた物凄い勢いで地面を転がっていくレミリアさんは、赤レンガで作られた花壇に衝突して漸く止まった。

 

 頭が下で脚が上に投げ出されたえらい姿勢で目を回す彼女を見て、こめかみの辺りからぶわりと大粒の冷や汗が溢れた。

 

 

 

 

 水蛭子が吹っ飛んだレミリアに慌てて駆け寄るのを見ながら、魔理沙が霊夢を諭す。

 

「い、いきなり殴るなよ……もう敵意は無さそうだぜ?」

「そう見せかけてるだけかもしれないじゃない」

 

 己の拳を撫でながら歩みを進め、仰向けに倒れているレミリアの足元に霊夢が立つ。

 自身を見下す霊夢に、腹を押さえながら上体を起こしたレミリアが口を開いた。

 

「ふ、ふふ……中々効いたよ……うん……」

「だだだ大丈夫ですか、レミリアさん……! ちょっと霊夢、いきなり殴るなんて酷いじゃない!!」

「いや、ソイツ今回の異変の元凶だから。普通もっとボコボコにして市中引き回しの刑に処すぐらいしないと駄目だから」

「幼なじみが原始人みたいな事言ってる……」

 

 真顔でバイオレンスな事を口走る幼なじみに戦慄している水蛭子の言葉に、魔理沙がちょっと笑う。

 

「まぁとにかく、これで異変は一件落着って事だよな?」

「コイツがもう悪さしないって、あの性の悪いお月様に誓うんならね」

 

 微かに白んできた夜空の赤い月を見ながら、霊夢はレミリアの首元にお祓い棒の先端を突きつける。

 その行為に水蛭子が苦言を呈そうと口を開きかけたが、その前にレミリアが言葉を発する。

 

「分かった、もう悪さはしない。……とは言っても、私だって良かれと思ったやったんだよ? 赤い空と紅い月は、中々乙な物だっただろう?」

「さっきも言ったけど、私はナチュラリストなのよ。妖怪の手が入った月なんて、美しいともなんとも思わないわ」

「ずっとあんな雲があると、洗濯物も渇かないしな。生乾きの服を着続けるのは拷問に近いぜ」

 

 茶化すように言った魔理沙の言葉にレミリアは笑った。

 

「洗濯物! はははっそれは盲点だった! 確かにそれは困る。いつも従者に頼りっぱなしだから、気が付かなったよ」

「その従者に怒られる前に退治されて良かったじゃない」

「……怒られる?」

 

 霊夢の皮肉タップリの言葉に、レミリアがポカンと口を開く。

 彼女は従者……咲夜に怒られる事なんて、露ほども気にしていなかったからだ。

 その様な事態を全く予想していなかったと言っても良い。

 

 だからレミリアは、霊夢の言葉に呆気をとられ、尚且つその後に噴き出した。

 皮肉が効かなかった事に霊夢は口をへの字にした仏頂面になったが、レミリアは構わず続ける。

 

「あはは、ふふ……なるほど、身勝手な事をしたら怒られるか……それも盲点だったよ。長年決まった人物としか交流していないと、そんな事も忘れそうになってしまう」

 

 咲夜に後で謝っておくか、とレミリアが呟いた瞬間。

 

 その背後の空間に、突然裂け目が現れた。

 

 まるで現実でコマ落ちが起こってしまったかのように。ここに居る全員が瞬きをしたその瞬間、そこに『スキマ』は佇んでいた。

 

 振り返ろうとしたレミリアの首を、スキマから伸びた手が鷲掴む。

 

 

「ぐ……っ」

「和やかな雰囲気の中、突然ごめんなさいね」

 

 

 その場に居る霊夢以外の全員が、突然の出来事に戸惑い。

 そして、スキマの向こうから声に、水蛭子は目を軽く見開いた。

 

 スキマから、ゆっくりと、声の主が這い出でるように全身を露わにしていく。

 

 鮮やかな紫のドレス。絹のような金色の髪。それを少しだけ隠している、純白のナイトキャップ。

 えも言えない美しさと、不気味さを感じさせる胡散臭い笑みを浮かべた、幻想郷の王。

 

 

「八雲、紫……ッ!!」

「はぁいレミリア、お久しぶりね」

 

 

 柔らかな声色で、しかしスミレ色の瞳を少しだけくすませて、八雲紫は笑みを深めた。

 

 

 

 

 咲夜はチルノと大ちゃん、二人の妖精を連れ、赤いカーペットが続く廊下を小走りで進んでいた。

 三人でクッキーを仲良く食べて、ちょっぴり心に温かいものを感じていた咲夜だったが、そう言えばまだ異変は終わっていないと思い出し歩みを再開したのだ。

 

 とはいえ。

 

 ほんの少しのタイムロスがあったものの、まぁあの主人の事だからそんなに酷い状況にはなって無いはずだと。

 

 咲夜はほんの少し、事を楽観視していた。

 

 玄関を押し開け、そこに居るであろう主人と、その他諸々へ視線を向けて。

 

 

「え」

 

 

 そして、体を硬直させる事になる。

 

 首を掴まれ、宙に浮くレミリア。

 そしてその愚行を行っている、八雲紫。

 

 逡巡の後、咲夜は時を止めた。

 

 

「……あら?」

 

 

 八雲紫が何かを感じて、振り返った。

 

 そこに居たのは銀のブロードソードを横に振りかぶった、一人のメイド。

 

 紫はその攻撃をレミリアを拘束している方とは別の掌で受け止めようとして、咄嗟に手を上げた。

 

 

「駄目ッ!!」

 

 

 しかし剣は、紫の手を切り裂く前に、巨大なお祓い棒によって遮られる。

 攻撃を防いだ人物を見て、咲夜が目を細めた。

 

「……水蛭子、さん」

「ご、ごめんね咲夜さん。貴方が怒るのは分かるけど、落ち着いて」

「主人をそんな姿にしておいて、落ち着けですって?」

 

 剣に込めた力はそのままに、チラとレミリアの方を見る。

 確かに本気で首を締めているわけでは無さそうだが、それでも自分の主人に、一方的に危害を加えている事は事実。

 沸き上がる感情を抑えようともせず、咲夜はギチリと歯を食いしばった。

 

 そんな彼女の怒りを正面から受け、なんとも言えない気持ちになりながらも、水蛭子は剣を宙へ受け流した。

 

「……紫さん」

「なぁに水蛭子」

 

 未だ戦闘態勢の咲夜から視線を外す事無く、水蛭子は紫に問いかける。

 

「レミリアさんを、離して下さい」

「どうして?」

「っ! 折角一件落着しかけていたのに、紫さんが来たせいでこんな事になってるんですよ!? 人間が妖怪を倒して、それで異変は終わりのはずでしょう!?」

「ええ、そうね。本来なら。……けれど」

 

 笑みを少しだけ薄めて、紫は言う。

 

 

「霊夢を殺しかけた存在を、妖怪の賢者の一人として、私は放っておく事が出来ないの」

「それ、は……」

 

 

 博麗を殺しかけたということは、その者は『幻想郷の均衡』を崩す存在に他ならないということ。

 故に、この地に存在する事を許してはいけない。

 

 水蛭子もそれを理解していた為に、言葉を詰まらせ。

 それでも何か言わなければと口を開こうとした、その時。

 

 フワリとその場に、もう一つの『紫』が降り立った。

 

 

「待ちなさい。八雲紫」

「……あら、誰かと思ったら引きこもりの魔女さんじゃない」

「誰が引きこもりよ」

 

 

 怒りを滲ませた声とは裏腹に、無表情のパチュリーが紫の戯言を流す。

 彼女の近くに浮遊する数冊の魔導書は、主人の心に呼応するように、表紙に描かれた魔法陣を紫色に光らせている。

 

 紫は明らかな戦闘態勢に入っているパチュリーに意識を向けていて、気が付かなかった。

 

 自分の背後に迫っていた、紅髪の妖怪に。

 

 




 皆さん感想、しおり、お気に入り登録ありがとうございます。
 これからも精一杯、少女達の物語を紡いでいきますので、どうぞよろしくお願いします。
 それではまた
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