あなたは今自分が見ている世界がすべてだと思っていますか?
いや、正しくはあなたの五感から入る情報がすべてだと思っていませんか?
では、どれかひとつを取り除いてみましょう。五体満足のかたや、そうでなくとも残った感覚が満足である方は、非常に不便に感じると思います。
それは当たり前です。本来持っていたものを急に失うことは、いままでの【当たり前】が【苦労】にかわるのです。
ま、そんなことは実際どうでもいいでしょう。
この世の中は歴史という巨大な一枚の布を織り上げる時間という名の糸を紡ぐ過程に過ぎない。
そんなことも、だから何と足蹴にされるでしょう。それが当たり前。
さて、この話になんら関係ないことはここまでにしましょう。
これから始まる物語はタイトルどおりというべきか。
目の見えない少年と、聖女と呼ばれる精霊と心を通わす人々との物語。
ここに一人、盲目の少年がいる。名を人形(ひとかた)綾人(あやと)という。
彼は生まれつき視力を持たず、音、空気、におい、味。これらを頼りに生きてきた。
彼は色、景色、表情、などを知らない。自らがそういう顔をしているというのはわかるが、相手がどういう表情をしているのかわからないのは、彼の悩みの種でもある。
さぁ、私の説明口調な話はここまでにしよう。
「・・・・・・はぁ。」
「どうしたよ、綾人?ため息なんかついてさ。」
「なんさ、目が見えないことに不便はないが、いかんせん音がなくなればわしにとっては見えようが見えまいが関係ないというのが身にしみてわかってな。」
「はぁ?なに考えてるのかと思ったら。」
時は昼時、天気は雨。常に聞こえる雨音に知らない間に交通事故なんてことも少なくない。
「そういやお前さ?」
「なん?」
「もし目が見えるようになったら何したい?」
「そうじゃな・・・・・・わしは観覧車に乗りたい。」
「なんで?」
「見えなかったものを高いところから見わたしてみたい。そして、この世界の美しさを知りたい。」
「常套句といえば常套句だな。まぁ、おれからしてみれば空気は汚れてるは星はみえねえわで、お前が思っているようなのとは程遠いと思うぜ?」
「常に見えてるやつからすりゃそうだろうな。でもお前も見たことないものを見ると胸が躍るだろう?それと同じでわしも目で見たもので胸を躍らせたい。音がないゆえの美しさを見たい。」
「ふーん。ま、いいんじゃねえの?」
「その言葉もまた常套句だな。」
「ちげえねぇ。」
まるで当たり前のような会話が回り続ける。
「ところでさ、ところでさ。」
「なん?」
「お前女の子とか興味ない?」
「ない!」
「断言するかお前。ま、いいや。お前以外に頼むやつないから言うけどさ。
今度都立御苑女学園(とりつみそのじょがくえん)の文化祭あるらしいんだ。」
「ほう?あの小中高と一貫している女子高か。」
「で、さすがに一人で行くのも気が引けるからさ。こないか? つーかこい!」
「はいよ、文化祭か。目の見えないわしでも楽しめるかのう?」
「もち! うめえもんもあるし、音楽もある、しかも女子生徒の黄色い声が常に聞こえるんだぜ?」
「お前とわしの感性が違うからなんとも言えんが、どうせお前も一緒に行く相手がいないんじゃろうな。というか、そう言うたしのう。わしもいくとしよう。」
「ヨシキタ!そんじゃ、今度の日曜、赤羽に集合な。」
「了解。」
理由も意味もなく聞かれるその一言。
その一言から彼の人生は狂い、そして進んでゆく。
日曜日
「お、おま。その格好で行くのか?」
「何か問題でもあるかえ?」
「問題しかねえよ! 何でそんな格好なんだよ! 私服がティーシャツにはかまってどういう組み合わせだよ! しかもその上にビジネスコートとかどう見ても変質者だよ!」
「そこまでいうなら何とかするかのう。」
急にはかまとコートを脱いだかと思えば、その下はふつうのジーンズというありきたりな服装。
「コレでええかえ?」
「んー、捕まえるんなら前のほうがいいかな。」
「あそう。」
結局はかまもコートも着ることに。
「お前のセンスのなさには絶望するわ。色もばらばらだしよ。」
「盲目に視覚的センスを問うお前の頭がどうかしてると思う。」
「それもそうだったな。そうするとその服装を選んだやつを疑うのが妥当か。」
「だな。ほんじゃ入るか。」
「おう!いざ花園へ!」
「御苑だけにか?」
「ちがうわ!」
杖を払いながら周囲のものを確認しつつ校内に入ると、彼にある違和感が走った。
(ん? 今「見えた」ような? そんなはずないか。)
「どうした?」
「いや、なんでもない。」
この違和感こそ、彼を狂わせ、そして進ませる。
やっべ、アルカナキャラまだ出てない・・・・・・