Fate/Monochrome Irregulars   作:亜美

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序章 『例えば、それは抑圧からの解放』
I 「時計塔への挑戦状」


—これから語られるのは、

"とある事件"を発端とする、英国全土を巻き込んだ"終末戦争"の話である—

 

 

◇◇◇

 

 

「ったく、なんだってこんな時間まで見回りしなきゃならんのだ!」

「イライラしても意味ないですって、マークさん。ほら、さっさと終わらせて帰りましょうよ。」

 

英国(イギリス)倫敦(ロンドン)、かの有名な大英博物館。

その地下には、学術的・文化的に重要な物品が"資料"として保管されている。

例えば、トロイの木馬の破片やバビロニアの粘土板、黒曜石の鏡やルーン文字が刻まれた枝など。

それ故に、厳重な警備をしなければならない。

限られた人物しか解除できない電子ロック、三重にもなる巨大な扉。例えそれらを突破されても、無数の監視カメラと赤外線センサー、さらに()()()()()()()()()によって、この保管庫は、正に"要塞"とも言える堅牢さを誇る。

しかし、カタチあるだけの無機物では信用できないという上からの意向によって、何人かの警備員が配備されている。

先ほどの二人—マークとウィルも、博物館が雇った警備員である。

 

「次は…、中央区画か。ここは確か…。」

「はい。近代において発見された宗教関係の資料が置いてあるはずです。」

 

二人は慎重に奥へと入っていく。

 

「っ!おい、ちょっとこっち来て見てみろ!」

「どうしたんですか…、って、これは…!」

 

二人はある事に気付いてしまった。

三段目に置かれていた"ある資料"が無くなっていたのだ。

 

「ここ、()()が置いてあったよな…。」

「ええ。確か…、()()()日本で見つかった物が。年代は第二次大戦頃だったような…。」

 

聖杯。

神の子の血を受けた黄金の杯。

それと"全く同じ呼称"の資料がここにはあった。

その価値はもはや金額として出せるモノではなく。

つまり、今の状況というのは。

 

「どうすんだよ、コレ!俺ら、クビになるかもしれねぇぞ!」

「クビじゃ済まないですよ!最悪、刑務所行きなんですよ⁉︎」

 

到底解決できない問題を前に、二人はただ立ち尽くすしかなかった。

だが、そこに救世主(いたんしゃ)が現れた。

 

「お主ら、そこで何をしておる?」

 

黒いローブを着た老人。

その瞳には光は無く、存在そのものが空虚であるかのよう。

例えるならば、それは"深淵"。

まるで、闇が形を纏ったかのように佇んでいた。

—そう、()()()()()()()()()()()()()

 

「おい、爺さん!なんでアンタみたいなのが、こんな所にいるんだよ!」

「マークさん!初対面の人にその態度はダメですって!」

 

理不尽な状況にイライラしていたのか、マークが老人に当たる。

 

「…ほう、儂も随分とナメられたものじゃな。まあよい、お主らには、ここで()()()になってもらうぞ?」

 

瞬間、僅かな光すら呑み込んで、辺りは完全なる黒に染まった。

そこに一切の希望はなく。

あるとするなら、

それは、どうしようもない"絶望"。

 

そして微かな光が戻り、"普段"の姿になる。

しんと静まり帰った地下庫。

誰の姿もなく、ただ揺蕩う時を重ねる。

 

—次に訪れるものは見ることになるだろう。

 

『黄金の杯は頂いた。

 

智慧の魔人ミミル』

 

という書き置きを。

 

 

◇◇◇

 

 

「もしもし、私だ。…何?大英博物館の地下庫に保管されていた聖杯が盗まれた⁉︎…分かった、直ぐに弟子を連れて向かう。」

 

時計塔。

魔術協会の一部門にして最大派閥。

権威渦巻く混沌の巨塔。

しかし、その中にあってなお、異質を極める場所がある。

—現代魔術科、エルメロイ教室。

「プロフェッサー・カリスマ」、「女生徒が選ぶ時計塔で一番抱かれたい男」、「絶対領域マジシャン先生」などの異名を持つ長身長髪の男—"エルメロイII世"と呼ばれる人物が君主を務める、魔術の総本山の中で最もイロモノな場所。

彼もまた、ある種の"変わり者"ではあるが、少なくとも、常識は他の魔術師よりはある。その信頼は時計塔内でも一目置かれており、「とりあえずは現代魔術科のエルメロイまで」と依頼される(というよりは押し付けられてる)ような人物だが…、

 

さすがの彼も、頭を抱えていた。

 

「大英博物館の聖杯…。アレは確か、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()モノだ。しかし、それをなぜ、今更持ち去った…?魔力炉心にするならまだしも、倫敦で聖杯戦争をやるわけでもあるまい。ううむ…、分からん…。」

 

聖杯戦争。

七人の魔術師(マスター)七騎の英霊(サーヴァント)が、"万能の願望器(せいはい)"を求めて殺し合うもの。

かつてのII世も参加した、崇高な目的のために行われる、おぞましき殺戮の儀式。

 

もしも、だ。

—もしも、この倫敦でそんなものが起こったとしたら?

遠く離れた異国の地で行われた()()地獄絵図がここを舞台として再演されるとしたら?

 

「マズいな…、万が一の場合は、コレを使う他ない。」

 

そう言った彼は引き出しを開け、中から赤い布切れを取り出した。

かつて一緒に戦った英霊(とも)との縁。

最果ての海(オケアノス)を目指した偉大なる征服王を思い出す。

 

「…なぁ、ライダー。お前なら、この状況、どう打開する…?」

 

虚空に問う。

あの狂乱に満ちた聖杯戦争に思いを馳せながら、彼はしばし考えていた。

が、そんな空気をぶち壊すかのように、部屋のドアが開く。

 

「あの、師匠、話があるのですが…。」

 

フードを被った銀髪の少女。

その顔には、些かの不安が出ていた。

 

「…グレイか。悪いが、今は取り込み中でな。少し時間をくれ。」

 

慌てて布切れをしまい、平静を装う。

これで彼女は一旦部屋を出るだろう。

—とりあえずは、自らの頭を整理してから、話をしよう。

 

そう考えてた矢先、想定もしていなかった事が起きた。

 

「これを、見て欲しいのですが…。」

 

そう言って差し出されたのは右手の甲。

そこには、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…は?」

 

もちろん、今のII世に正常な判断力などなく。

つまりは、

()()()()()()()()()()が起きてしまったのである。

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