インフィニット・ストラトス 『罪の王冠』(リメイク版) 作:超占時略決
Side 桜華
眠気に耐えながら授業を消化し尽くして、今は放課後。ティータイムに洒落込もうにも先約があるために出来ないんだ。そして今はその先約、更識さんとの特訓に勤しんでいる。
因みにだけど、更識さんがハニー・トラップの可能性はないみたい。この話を千冬さんにしたら、珍しく吹き出したからね。
正直、こんなどうでもいいこと、今は考える余裕がこれっぽっちもないんだけどね…
「ほらほら、避けないと当たっちゃうわよ!」
僕に向けられるのは一本の槍。だけど、その槍は普通の槍とは一線を画している。槍の先端部に幾つもの穴が空いていて、その穴から弾丸が吐き出されるんだ。
弾丸を一個一個避けるのは愚策中の愚策。僕は槍の先端部、つまり射線だけを見て回避行動を起こす。槍は突きや薙ぎ払いなどの動きは予測できないけど、弾丸はその動きと連動してるから避けるのは容易い…はずなんだけど。
「ああああッ!?」
突然、背中に弾丸が当たったのを示す衝撃が襲う。これだよ、この
「目だけじゃなくて、ハイパーセンサーも使いなさい!」
そんな事言われたって!!ハイパーセンサーなんて、普通じゃ味わえない特殊な機能をいきなり使いこなせる訳ないじゃないか!?それに、さっきからアラートは弾丸に反応して鳴りっぱなしだから、どのアラートがどの弾丸に反応してるか分からないよ!
それに、こんながっつりISを動かすことなんて初めてなんだよ?初めてにしては良くやってる方じゃない?多少思うように身体が動かないけど、それでも何とか動かして弾丸を避けてるし。空だって何の苦もなく飛べてるんだよ。
「ほらっ、後ろ!」
更識さんの言葉に反応して後ろを向くも、そこには弾丸が一つも存在していなかった。まさか、今のはブラーー
「ああッ!?」
「ハイパーセンサーを使えば、今のが嘘だってことは分かるわよ?」
「くぅ…!」
更識さんの言う通りだ。言う通りなんだけど、すっごく癪に触る。だってズルくない!?そんな手口ズブの素人にしますか?あんた、人の皮を被ったただの鬼だねっ!
更識さんに良いようにやられてる僕だけど、僕には抗うことはできるけど牙を剥く事は出来ない。何でかって?それはね…僕のISにね、使える武器が一切ないんだよ。そう、一切全く一欠片も。
「武器がなくてどう戦えばいいのさ!?」
使える武器って意味はこのIS自体には武器は幾つもあるんだ。だけど、そのどれもがロック中みたいで…はい。
ほんと謎ばっかりだよ、僕のISは。僕が触っただけで待機状態になるだけじゃなくて、
しかも、一次移行した後の姿はどのISのデータにも一致しない、よく分からないものになったしね。
「そろそろ、アリーナを使える時間が終わるわ」
「や、やっと終われrーー」
「フィナーレといきましょうか」
更識さんの台詞と共にハイパーセンサーが警笛をこれでもかと鳴らす。ちょっとは使い方は分かったハイパーセンサーで何を感知してるのかを見ると…
「えっ?僕の周囲全部…?」
そう、ハイパーセンサーでは僕の周囲が赤く染まっていた。いや、更識さんが居る所以外の空間全てが赤く染まっていると言ったほうが正しい。こ、これってどういう…
「何だか暑くない?」
暑いも何も、さっきから苦戦を強いられてるから汗が止めどなく流れてるんですが…
「不快指数って言うのかな?それが今、異様に高くないかしら?」
「言われてみれば、雨が降ってないのにじめっとしてるような…それに、これは霧?」
気がつくと、霧がアリーナに蔓延していた。僕の頭の中で疑問符がどんどん生まれてくるも、何一つ解決に導かれるものはない。
「私のIS、『ミステリアス・レイディ』はナノマシンで水を操ることが出来るのよ」
「は、はぁ…」
うん?水を操れるって事はこの霧は更識さんが生み出したものってことなのかな?けど、何で霧なんか…
「そしてね、ナノマシンには自爆機能があるの。ここまで言ったら、聡明な君なら分かるわよね♪」
自爆機能、爆発。霧にはナノマシンが数多く含まれている。そして、そのナノマシンが一斉に自爆機能を発動したら…まさか!?
「これでおしまいよ!」
更識さんが指をパチンと鳴らすと、周囲が瞬く間に爆発に包まれ、シールドエネルギーがあっさりと〇になる。
ナノマシンが爆発した事で起こる水蒸気爆発。それが更識さんがやってのけた事だ。こんなの、抗いようがないよ。更識さんの鬼畜…
僕の意識はそこで途絶えた。
『〜♪〜〜』
鼓膜を刺激する透き通るような声。思わず「き、綺麗な歌声だ…」なんて呟くほどだ。そんな声が僕の意識を浮上させる。
そして、今はとても気持ちがいい。綺麗な歌声に耳を傾けながら微睡んでいられるなんて最高だよ。うん?僕、さっきまで何をやってたっけ?
まぁ、今はそんなことよりもすべすべする枕の感触を楽しみつつもう一眠りでもーーあれ?枕ってすべすべって擬音が正しかったっけ?いや、でもこの枕は人肌のようにすべすべしててほんのり暖かい。
「くすぐったい」
「うん?くすぐったいって何がですか?」
「毛先が揺れるとくすぐったい」
今の問答が分かった事がある。それを確かめるためにゆっくりと瞼を開ける。視界に大きく映る桜色の髪。そして、紅の瞳に反射する真っ赤な僕。これはつまり、僕はこの子に膝枕をしてもらっているーー
「う、うわぁ!」
幾ら分かっていた事でもびっくりするのは許してほしいよ…ふぅ、こういうのは心臓に悪い。ほんとに勘弁してほしいよね。
「どうしたの?」
「いや、えーっと、ちょっと驚いたというか何と言いますか…」
本気で僕が何を言ってるか分からないみたいな表情されても困るよ。小首を傾げたって絶対説明しないよ!今の僕の気持ちを一から説明は鬼がやる所業だよ…
そういえば、この子ってほんとに何者なんだろう?僕のことは知ってるみたいだけど、僕はこの子のことを何も知らない。それに、ここがどこなのかも分かってないし…分からないことだらけだよ。
分かることは一つ。僕に似た桜色の髪の女の子が居ることだ。という事はつまり、この子の事から知っていくのが一番手っ取り早いよね?
「あの…き、君の名前は?」
先ずは、彼女に名前を尋ねてみた。彼女が答えてくれるかは分からないけど、聞かないと答えてくれなさそうだし…
「……り」
「えっ?」
「いのり。私の名前…」
どうやら、女の子は名前を言ってくれたみたい。いのり、この子の雰囲気にぴったりで何処か
何で懐かしさを覚えるのかは片腹疑問だけど、今考えた所で答えが出る気がしない。
「桜華、お願い…私を使って?」
うん?私を使って?何かを比喩して言ってるにしても皆目見当がつかないんだけど…えー、ほんとに全く以って訳が分からないよ!
何も分かっていない僕のことなんて構う様子もなく、いのりはピアニストのような細くて長い手を自らの胸に持っていき、何かをこじ開けるように大きく広げた。
すると、どうだろうか?いのりの華奢な身体を貫く幻想的な穴が露わになった。そして、その穴から白い光が溢れ出し、白銀に輝く無数のピアノ線が縦横無尽に解き放たれていく。僕はその様子に対して、口をあんぐりと開ける事しか出来ない。
だけど、僕が起こすべき行動が一つ、頭に浮かんできた。
あの穴に手を入れる。普通なら絶対にやってはいけないように感じる選択が、僕の本能はやれと言っている。
そして、その選択が正しいと言わんばかりに、現実には有るはずがない、ピアノ線で縛られた生身の右腕が熱を持つ。
「いや、だけど…」
僕がうだうだと悩み続ける間にも、いのりの身体からはピアノ線が止めどなく流れて来て、白い光が僕の視界をどんどん埋め尽くす。
「やっぱり、できない…」
視界が真っ白になった時に出した答えは腕を入れない、だった。
「…意気地なし」
「ああああああああッ!?」
鼓膜にいのりの声が響くと同時に、身体から無数の痛みを感じた。その痛みに思わず叫び声をあげた僕は、そのまま意識を手放した。
「うわぁっ!!」
反射的に身体ががばっと起き上がる。はぁ、はぁ…今のは何なの?…そうだ、身体は!?
身体をぺたぺたと触るも、どこも痛む箇所はなかった。やっぱり、いのりが居る所は夢…?でも、夢にしてはどこか可笑しい気がするし…
それよりも、ここはどこなんだろう?寝かされていたプラスチック製の椅子から立つと、辺りをぐるりと見渡す。大量に並べられたロッカーに天井に取り付けられた暖色系の光を放つ電球。そして、シャワールームと書かれた看板が付けられた道がある。
そうか、ここはアリーナの更衣室だね!ほら、左端から三つ目のロッカーには僕の制服が入っているし、更衣室で正解みたいだね。
けど、制服の上には見覚えのない一枚の手紙が置いてある。念のために手紙を振ると、中からカラカラと音がする。
うーん、何かが入ってるのかな?手紙の上から何かを触ってみると、いまいち分からないけど何かが入っている。
開けないといけないんだろうね。何か嫌だなぁ。こんなあからさまに置かれた手紙なんて嫌な予感しかしないよ…はぁ、開けるか。いや、でもなぁー!
うだうだ嫌がりながらも手紙を開けると、中に入っていたのは『一〇二二』と書かれたタグが付いている鍵だった。この展開は予測できなかったよ…てっきり、開けた途端ボンッだと思ってたからね。
タグの付いた鍵を横に置いて、手紙に目を通す。
『〜桜華くんへ〜
さっきは爆破しちゃってごめんね!急に仕事が入ったんで先に失礼するわね。
それから、この手紙の中に鍵が入ってあると思うわ。それは君がこれから生活する部屋の鍵だから無くさないようにね。
〜君が愛して止まないお姉さんより〜』
これは更識さんからの手紙だよね?僕の周りで身内でも何でもないのに、お姉さんって言うのはあの人位しかいないし。違ってたらちょっと恥ずかしいけど、きっと合ってるよ。だって、僕を爆破したのは更識さんだし。
それに愛して止まないって…自分で書いてて恥ずかしくないのかな?いや、あの人なら恥ずかしさより揶揄う方に重点を置きそうだ。
それにしても。
「寮暮らし、ね…」
僕と一夏以外男子が居ないんだよね?絶対、色んな問題が起きるんだろうね…一夏のせいで。そして、僕はその問題に否応なく巻き込まれることになるんだろうね。
こう先行きが不安だらけだと、寮に行くのが億劫になるよぉ。そんなことを思いつつも、結局は行くんだけどさ。せめてもの抵抗ってことでゆっくり着替えよう…
ゆっくりと言ってもそこまで時間がかかる訳もなく、僕は直ぐに寮の中に着く。時刻が十九時を少し過ぎてるからなのか、寮の中には人っ子一人居やしない。今頃、皆は食堂で晩御飯でも食べてるんだろうね。
えーっと、僕の部屋番号は一〇二二号室かぁ。ぼーっとしながら歩いていると、一〇二二号室のドアが見えてきた。
やっと一日が終わったよ…疲れたぁー。取り敢えず、今日はぐっすりと寝よ。色んな事があり過ぎて心身ともにくったくた。
「ごはんにします?お風呂にします?それともわ・た・し?」
「う、うわぁあ!!ご、ごめんなさい!!」
バタンッ!
勢いよくドアを閉める音が響く。寝ぼけてたのかな?部屋の中に裸エプロン姿の更識さんが居たような気がするんだけど…
ていうかここ、僕の部屋だよね?部屋の番号を確認すると一〇二二号室。鍵に付いたタグを見ると一〇二二の文字が…
うん、さっきのは夢に決まってるよ!うん、最近、僕は疲れてるからそれで現実と夢がごっちゃごちゃになったんだよ!きっと!
そうと決まればもう一回開けよう!よし!僕は覚悟を決めてもう一度部屋のドアを開けた。
「わたしにします?わたしにします?それともわ・た・し ?」
夢でも何でも無く、部屋には更識さんが居た。僕はその光景に思わずその場に跪いてしまう。
チェシャ猫のような笑顔の少女に僕は、これからの学園生活振り回され続けるんだろうね…そう思うと、はぁ…憂鬱だなぁ。
僕の頬に一筋の涙が流れた。