「加賀美リナです。よろしくお願いします」
担任教師、海馬ナオトが黒板に名前を書き終えるのを待ち、金髪蒼眼の少女は名乗る
「加賀美は昨日、各駅停車しか電車が止まらないような田舎から3時間かけて来たばかりなんだ。皆、できる限り力になってやってくれ」
「はーい!」
「いい返事だ!…じゃ、あの後ろの空いてる席に座ってくれ。羽取――緑の髪の子の隣ね」
「はい」
上履きの音が木霊する。転校生が来たという割には教室は静寂に包まれていた。高校二年生にもなればそんなものなのかと思うが、それにしたってやけに静かだ
まるで胸騒ぎが起こるような静けさだと言える
リナにはこの現象に心当たりがあった
「(みんなどうせあっちと同じ。私のことなんて相手にしないんだ)」
さて、リナが案内されたのは一番窓側、一番後ろの席という所謂『お約束』の席だ。レースのカーテンを締めていても、程よい春の陽気が机の天面を照らし、温もりを与えている
「(そしてきっと羽取さんも…)」
生まれつきの金髪蒼眼を珍しがり、そしていじめに発展するような「弄り方」をしてくるのだろう。
「初めまして、羽取ミリアです。ミリアって呼んでね!」
「よ、よろしく」
そんなふうに考えていたので、着席してすぐに朗らかに歩み寄るように話し掛けられることなど全く想定していなかった
羽取ミリア。緑髪のツインテール、座っていてもそれとわかるモデル体型に、吸い込まれそうなほどに透き通った瞳。それらが互いに邪魔し合うことなく調和された容姿を持つ彼女は、美少女と呼ぶに相応しいだろう
「私ね、生徒会で書記をやってるんだ。何かあったら私に言ってね」
「う、うん」
どういうわけかミリアのペースに呑まれてしまう。様子見してから動きがあったら順応して受け流すつもりだったというのに、このままでは彼女の人形のように――
例えるならば子供が初めて買ってもらったばかりのテディベアのように無茶苦茶にされてしまうだろう。それなのにミリアからはそういう『嫌な感じ』は全くしない
だからこそ余計に疑ってしまう
――彼女は一体何者なのか、と
「ん?どうしたの?」
その疑問が思わず口に出ていたのだろうか
「私は何者でもないよ。スペイン人とのハーフってことを除けば、だけどね」
「え?」
それはどういう事なのかと聞こうとした瞬間、チャイムが鳴った
「さぁお昼の時間だよっ!お弁当?」
「そ、そうだけど」
「じゃあ一緒に食べよ!一人で食べるなんて絶対寂しいし!」
リナは見逃さなかった。太陽のごとく眩しい彼女の笑顔が一瞬曇ったその時を。ただ、問い詰める時は今ではないことを察せない訳ではなかったので黙っておいた
「あ、そうそう、食べ終わったら学校案内するね。今朝海馬先生に頼まれたの」
「わかった」
校内にはVanaN'IceのLOVELESSxxxが流れていた。リナの双子の弟、レオもそこに所属している
「あ、先生のお兄さんのバンドの歌だー」
「え?」
「かっこいいんだよ、ナトさん!」
「私の弟もいるんだけど…」
「えっ、嘘!?もしかして――」
大きくつぶらな瞳で見つめられるとわけもなく恥ずかしくなってくる
「もしかしてレオくん!?」
「うん」
「いいなー!いいなー!」
「クスッ、なにがいいのよ」
子供みたいに手足をばたつかせるミリア。見た目とのギャップも相俟って思わず笑ってしまう
VanaN'Iceの話をしながら校内を見回った。図書室や職員室、生徒会室にもお邪魔して。
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「んー!やっぱり屋上は気持ちいいね!空気が美味しいよ!」
この学校は都会にありながら緑化運動に力を入れている都市に建っていて、屋上からの眺めは壮観で美しい
そしてそれはリナにとって、ある事を思い出させるきっかけになった
「(昔はこんなふうに景色に感動するなんてことは無かったな…)」
かつてのリナはいじめと罵詈雑言でいっぱいいっぱいだった。それがゼロになった感覚が全身を優しく包み込む
「あれ、リナちゃん、泣いてるの?」
「え?」
完全に無意識だった。言われて始めて気付いたのだ。そうなると不思議なもので溢れる想いは言葉ではなく涙になって頬を伝う。そして心のダムは決壊する
「うわぁぁぁああああん!!」
タダを捏ねるように泣きじゃくるリナ。ミリアはそんな彼女を愛おしく、そして懐かしく思った。
なんだ、リナちゃんは昔の私と一緒だ。一切の事情は知らないが、この子はきっといじめられてきたのだろう、と
だから彼女は泣き崩れるリナを優しく抱き寄せた
「(きっと、ずっと一人ぼっちだったんだね…)」
抱き返してくるその手が震えていた。頭を撫でながら、我が子を宥めるように囁く
「もう大丈夫。私は貴女の味方だよ」
……To be continued