心理描写は丁寧に書きたいと思っています
あれから数ヶ月、季節は廻って秋になる頃
リナには羽取ミリアという唯一の友達ができた。ミリアは校内随一の人気者ということもあり、周りに人だかりがすぐに出来てしまうため話しかけることはままならない
しかしそれでも昼休みにはリナと二人きりの時間を、2人にとってとても思い出深い屋上で過ごしてくれる。リナはそれがたまらなく嬉しかった
「前にも言ったと思うけれど、私、日本人とスペイン人とのハーフなんだ」
「うん」
「去年……学校に来てすぐはね、それを面白がっていじめられてたんだ。ぶっちゃけ日本語もヘタクソだったし」
知らなかった。出会って数ヶ月、幾度となく言葉を交わし親しい友達となっているにも関わらず、そんな素振りを見せることはなかったのだ。所謂『学園のアイドル』であるミリアが、日本語が下手でいじめられていたなど想像もできない
ミリアもまた、その日々を思い出していたのだろうか。いつにも増して晴れた日にミリアは曇っていた
「でもね、海馬先生が味方してくれたの。で、色々あった内にいじめなんてなくなっちゃった!」
えへへ、と照れたように笑うミリア。
「…すごい」
いつの間にかミリアは太陽に負けないくらい明るい表情をしていた。やはり彼女は心から笑顔であるべきだと思う
だからこそリナは、羽取ミリアと決別すべきだと思った
加賀美リナという存在が皆にとって『羽取ミリアの汚点』扱いになってミリアに迷惑を掛けてしまうのではないか。そんな不安が胸をよぎった。ただそれだけの事なのだ
「私はミリアとは違う…貴女が太陽なら私は影。水と油は混ざらない…貴女がいたら貴女まで――」
いつか来るであろう『いじめ』に巻き込まれてしまうかもしれない
「で、でもリナが変われば…私や海馬先生も力になるし、それに――」
「私は変われないッ!地方でもそうだった!その前だってそう!結局最後はいじめられる!」
「り…リナ……?」
彼女の激昂に思わず後ずさってしまう。リナのあんな表情は見たことがない
そしてリナはリナで後悔していた。後戻り出来ない状況を作ってしまったと客観的に自分を見ていた
でも、だからこそそれで良いと思った。いじめに巻き込まれてミリアが不幸になるよりはずっとマシだ。だからリナはこう言うしかなかった
「今までありがとう。気持ちは嬉しいけど、これ以上私に関わらないで」
エアガンを空撃ちしたような、パンッという音がした
「リナの馬鹿ッ!そんなこと聞きたくなかった!」
平手打ちをされたのだと理解出来たのは、ミリアの怒号が鼓膜を劈いた時だった
「私達、友達だよね!?なんでそんな事言うの!?」
「そ、それは…もうすぐ私はいじめられるだろうから、それにミリアを巻き込みたくなくて…」
本心。今適当な嘘でその場しのぎに逃れようとしたら、それこそ一巻の終わりというやつだろう
「もしそうなら友達でいてよ!また私は一人ぼっちにならなきゃいけないの!?」
リナの肩を掴む手に力が籠るのを感じる。
「でも、ミリアには皆がいる…」
「あんなのただのファン!私の人気に縋りたいだけ!友達はリナ一人なの!」
熱い涙がリナの制服の襟元を濡らす
「リナが初めての友達だったのに……いいよ!そこまで言うなら1人になってあげる!」
「あっ、待っ…」
もう遅かった。ミリアの後を追おうとしたが既に姿は見えなくなっていた。しかしリナはこれでよかったとすら思い始めていた。何せミリアをいじめに巻き込まなくて済むのだから
「これで、よかったのかな」
予鈴のチャイムが鳴り教室に戻るとものすごい人だかりがリナを覆った
それもそのはず、数ヶ月とはいえリナとミリアが仲がいいのは周知の事実。そのため走ってきたミリアを心配し声をかけようとしたが誰も話しかけられなかった。そのしわ寄せがリナに来たのだ
なのでリナに問い合わせても
「大丈夫、何もないから」
の一点張りで他の生徒も頷くしかない状況である
「明日すぐは無理でも、いつか謝らないと…」
窓ガラスに映る自分に独りごちる。しかし縁を切った彼女にそこまでする必要があるのだろうか
「ふぅ…」
なんのことはない。『今まで通り』独りきりになるだけだ。少しばかり後悔が残るが気にならない
酷く落ち込む学園のアイドルと、安堵や後悔に塗れた転校生。両者の間には混沌の世界が広がっていたが、五限担当の「スーパーヒーロー」はそんなこと知る由もなかった
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翌日、学校…特にリナのいる2年7組は騒々しかった。気にするほどのことではないと思いつつ自席へ向かう。そこでリナは奇妙な光景を見た
殆どの生徒……ミリア曰くファンの皆がミリアの席を囲っていたのだ。不思議に思いつつその輪に加わる
「そんな……う……嘘、だよ……」
吐きそうになるのをぐっと堪えて教室を飛び出る
図書室、職員室、生徒会室を隈無く探す
……いない
ならばと屋上へ足が自然に向かっていた
あと一段登れば屋上の扉というところで左の上履きが擦り切れた。気にしている場合ではない
「ミリア!!」
ドアを開き叫ぶ。
二人が出会った日、二人が決別した日、そして今日はよく晴れている
屋上の西端、二人がいつも話をしていた場所。そこにはミリアの上履きと、毎日着けていた髪留めが丁寧に並べられていた
「……………………………………ははっ」
初めて会った日のような失笑。似て非なる性質を持ったものだが
羽取ミリア、享年16歳
彼女の席には一輪の菊の花が添えられている
……To be continued