ミリアの急逝から四十九日が終わった頃。クラスも漸く元に戻りつつあった
正確には皆がそうしたがっていると言うべきだろう。変わったことの方が多かったのだ
ミリアの髪留めは形を変えリナのピアスに。当然校則では禁止になっているので「不良少女」のレッテルをリナが背負うことになり、更にミリアが在籍していた生徒会書記の席も唯一の友人であったリナが受け継ぐことになった
不良少女、生徒会役員の二足のわらじに加え、ミリアの机の菊の水換えも毎日欠かさず行っている。これだけはどうしても譲れなかった
――それが裏切り者の自分に出来る、最大限の贖罪になると信じていたかったのだ
『不良系生徒会役員』の肩書きをリナが持つことを学校側が容認できた理由は、ひとえに羽取ミリアという少女の存在であった
反対意見がなかった訳では無い。ただ、賛成意見が圧倒的だったのとリナの不良特有の「睨み」に萎縮してしまったのだ
――そんな状況だったから、加賀美リナへのいじめなど、起こるはずもない。誰もがそう錯覚していた
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「……は?」
ある朝、リナの机が恐ろしいほど荒らされていた
天板はほぼ二つに割られ、教科書は八つ裂きに、椅子の座面には画鋲が所狭しと敷き詰められていた
古典的で、最も残酷ないじめ。ただ、それだけならまだ耐えられた
もっと言えば今までの私とは違う。こんな程度で動揺するはずがないんだ。なのにどうしてこんなにも動悸が激しいのだろう
どうして私の脳裏には変わることの出来なかった私がずっと居座っているのだろう
――どうして私はミリアの笑顔を思い出したのだろう
理由はただ一つ。数学と物理のノートの表紙に乱雑に書かれた落書きの数々だ
ヒトゴロシ
ミリアを返せ
死ね
死ね死ね
死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね
お前なんか死んでしまえ
殺人鬼、自首しろよ
「こ、これは……!?」
「いい気味ね、加賀美さん?」
声の主は赤みがかった長髪とグラマラスな体型というミリアとは別のタイプの美人だ
学級委員長の芽久里ルリ。ミリアの死後のことで最も快く思ってない人物がいるとしたら彼女だろう
「何となく分かってると思うけど、これを指示したのは私で間違いないわ」
不敵な笑みを浮かべるルミ。本心を隠しているのはそれとなく感じることは出来る
「なぜ……こんなことを……!?」
自分でわかるほど血の気が引いていく。これほどまでに動揺したことがあっただろうか
「本当に心当たりはない?」
無いはずがない。なぜなら私は
「私は、あの時――」
リナが言い淀んでいると、ルリは一息ついてスマートフォンをいじり出した。
「……羽取さんの最後の言葉よ。ちゃんと見なさい」
通話アプリのミリアとの個人チャットの画面を見せつける。そこにはミリアの言葉が沢山詰まっていた
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「リナと喧嘩しちゃった」
「仲直りしたい!絶対!」
「嫌われちゃったかなぁ」
「ううん、私が悪いの。リナのこと何もわかってなかった」
「ごめんね、芽久里さん。愚痴っちゃって」
「あはは、やっぱ私日本語と友達作るの下手くそだ(笑)」
「そりゃ寂しいよ。初めての友達だったもん」
「でも以外だなー リナってあんなおっきい声出せたんだ」
「うん、だから余計にショックだったよー><」
「そうだね、明日謝ってみる」
「うーん、わかんない。リナって結構頑固さんだから」
「ちょ、そんな事言ったらダメかもじゃん!」
「でも頑張ってみる。芽久里さんありがとう!」
ハートマークのスタンプの数時間後
「ごめんなさい、さようなら」
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ルリはその後何度も通話を試みたようだが、履歴の時間を見る限りそれは叶わなかったのだろう
「…羽取さんは最後まで貴女を想っていたわ」
気付けばリナは床に座り込んでいた。まさかミリアがここまで自分のことを想ってくれていたなんて、考えもしなかったのだ
頬が熱い。あの人に平手打ちをされた時とは違う熱さだ
落涙。なんだ、私は泣いていたのか
「どう…して…?」
「さぁ?それを知るのが今後の貴女なんじゃないの?」
正直なところ、ルリの話は全然頭に入らない。今はミリアのことでいっぱいいっぱいなのだ
特に激昂したミリアが頭から離れず、個チャの内容と合致する節があるので余計に胸が苦しくなる
私はなんという事をしたのだろう
羽取ミリアという正直者が見たのは、加賀美リナという馬鹿だったのかもしれない
……To be continued