東京テディベア   作:凪紗わお

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最終回
短い間でしたがありがとうございました
他のシリーズはまだ続くのでそちらもよろしくお願いします



#4(final) 縫い目は解けて引きちぎれた

 

髪を黒く染めた。別にいじめられてる自分を変えようとか、大層な思いは特に無い

 

レオの紹介で、VanaN'Iceがよく利用するライブハウスのバイトを始め、そしてVanaN'Iceのライブサポーターをすることになったのだが、そこでは如何なる理由があっても金髪が禁止なのだ

 

そんな折、紫がかった長髪をポニーテールで纏めた長身の男性がリナに話しかける。神崎クウ、VanaN'Iceのメンバーの一人だ

 

「やあ、君が今日から入った子だね、よろしく」

 

「はい、加賀美リナです。よろしくお願いします」

 

「ふむ、レオのお姉さんだね。彼から君のことは聞いているよ」

 

何を話すことがあるのだろう。国境のない医師団で年に一度帰ってくるかどうかの親に憎まれ口を叩かれ機嫌を損ねていることだろうか。まぁ限りなくどうでもいいが

 

「きょうの加賀美さんの仕事は俺のギターの受け渡しとアンプの調整だからね」

 

「はい」

 

バイトを始めようと思った理由は二つ。ミリアが音楽関係の仕事に就きたいと言っていたのを思い出したのと、数日前に見かけた巨大なテディベアを買うためだ

 

 

テディベアを買って、ぶち壊したいと思ったからだ

 

 

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オープニングの後、VanaN'Iceの人気曲「Fate:Rebirth」が流れる。想い人がいる世界と自分のいる世界を赤と青の世界で表現した優しく切ないラブソングだ

 

「どうぞ私をそちらへ連れて行ってください♪」

 

 

「(そちらへ、か…)」

 

クウのムスタングを抱えつつ、ミリアのことを思い出していた

 

クラス、ひいては学校中からリナは殺人鬼扱いされているだろう

 

「(ねぇニーナ、私は間違ってたのかな。貴女の友達のままでいられたら何か変われたのかな)」

 

考えても仕方ないことばかりが自責となってリナを襲うがクウの合図を確認して照明に当たらないよう気をつけながらギターの交換に急ぐ。

 

「(今はお仕事に集中しなきゃ)」

 

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よく自分が変われば周りも変わるというが、リナが髪の色を変えた程度では、どうやら大差ないらしい

 

その証拠にリナへのいじめは増加する一方で減少の兆しすらない。所持品の隠蔽や破壊、罵詈雑言はもちろんのこと、性処理や酷い時には本当に、本当に死ぬ間際まで追いやられた。

 

流石にその頃には「スーパーヒーロー」も実態を知っており、ある日応接室に呼び出された

 

 

「話って何ですか、海馬先生」

 

「まず謝らせてくれ、すまなかった。お前へのいじめを見過ごしてしまった」

 

『ヒーロー』曰く、実態を知ったのがつい三日前。しかもまさかリナがいじめられているなど考えもしなかったらしい

 

「なんだ、そんなことですか」

 

「そんなことって、お前なぁ!」

 

「そんなことですよ。私にとっては」

 

瞳から光を消し紅茶を飲む。過去に麻薬漬けにされたことを思えば、寧ろ生ぬるいとすら感じていた

 

「帰っていいですか先生」

 

「待て加賀美。呼び出した理由は他にある」

 

踵を返しかけた少女に声をかける

 

「水仙学級に編入しないか?」

 

水仙学級とは、特別支援学級の亜種で、いじめ等の理由から肉体、精神面で危険だと判断された生徒を保護するための学級である

 

「……あの程度で保護の対象とお思いですか?それに生徒会役員が水仙学級だなんて前代未聞にも程があります」

 

「私にとっていじめは呼吸と同義です。私は自分を『いじめられるべき存在』だと認識しています。なので先生が水仙学級に強制的に編入させるなら私は退学します」

 

無駄な時間を過ごしたと言わんばかりに吐き捨てる

 

「羽取さんのことだね?」

 

応接室の扉から手を離す

 

「…やはり君はそれが故に『いじめは呼吸』と豪語してるんだね」

 

『あの日』ミリアを裏切ったから『今』がある

 

「君はもっと周りを頼るべきだと思うよ。羽取さんが加賀美さんにそうしたようにね」

 

「私は、頼られてなんか…」

 

無いはずがなかった。些細なことから割と重大なことまで、数ヶ月の仲ではあるが、2人で相談し合った

 

「ほらね」

 

「いずれにせよ、水仙の件はなかったことにしてください。失礼します」

 

 

退室すると涙がこぼれた。理由は誰にもわからない

 

「……クソ。水替えんの忘れてた」

 

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教室に戻るとルリが自習をしていた

 

「あら、加賀美さん?帰ったんじゃなかったの?」

 

ルリは中立派だ。いじめに加担することはないが、リナの味方につくこともない。いじめを拡散させるきっかけになった例の件は「リナがミリアに一方的に絶交した」事実を皆に伝えただけだという旨を説明した上で謝罪していた

 

「ミリアの花の水。替えないと枯れちゃうから」

 

この名前を呼ぶのは最後な気がする。何故かはわからない

 

「中立とはいえ私は敵よ?そんなあっさり隙を作ってもいいの?」

 

「慣れてるし大丈夫。敵に心配されるほど弱くないつもり。それに――」

 

自分に言い聞かせるように、言葉を噛み締めるように

 

「今やってる事の全てが贖罪に繋がるって信じてるから」

 

もう迷わない。水を替えて教室に戻ると、ルリは1枚のルーズリーフを手渡した

 

「……クラスの総意よ。貴女が羽取さんに出来ることの、ね」

 

自殺82% いじめに耐える10% 停学・退学8%

 

その文字を見た途端、頭の中で何かが弾けた

 

「貴女が死ねば償いになる――私、何となくこうなるって分かってたわよ?まあ鵜呑みにしなくてもいいと思うけど……って、あれ?」

 

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羽取ミリアが屋上に遺した上履きのところには沢山の献花や写真、清涼飲料水が置いてあった。どれほど彼女が愛されていたかよくわかる

 

「形は変わったけど、これ、返すね」

 

その献花の中にピアスを紛れ込ませ、上履きも脱いでそっと隣に置いた

 

「クラスのみんながね、ミリアのところにいけってうるさいの」

 

心臓発作のように高鳴る胸、そこに緊張感をなくしたかのように涎が垂れる。膝の震えも止まる気配はない

 

リナは自分が思ったより臆病者だった

 

「加賀美さん!何やってるの!?」

 

「ミリアのところへ行くんだよぉ」

 

あのアンケートを見て以降、リナは幼児退行気味になっていた

 

「みんなの意見は、ちゃんと聞かないと!わたし、生徒会役員だもん。ねぇ芽久里さん、ほめてほめて!」

 

「アンタ馬鹿!?危ないからこっち来なさい!」

 

「あはははは!敵に心配されるなんて、わたしは幸せ者だなあ」

 

無理矢理見せる笑顔は、何一つ笑っていなかった

 

「でもだめだよ。さよなら」

 

みんな、バイバイ。海馬先生、お元気で。……水仙学級、素直に行っておけばよかったかな

 

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「死ねなかった」

 

「殺すわけないでしょ。あ、私、佐倉メイコ。看護師よ」

 

「加賀美リナ」

 

「うん、知ってる」

 

幸か不幸か、落下地点には陸上部が使うマットが敷いてあった。また、頭から落ちなかったことが幸いして大事には至らなかったようだ。更に偶然「学園のアイドル殺しの加賀美リナ」を知らない生徒が手際よく救急車を呼んだことで死なずに済んだが、学校には死んだことにしておくよう唯一見舞いに来たルリを通じて頼んでおいた

 

「ねぇリナちゃん。個人的な質問なんだけど、どうして自殺をしようと思ったの?」

 

「……最初はいじめを克服した学園のアイドルと友達になった。けれど唯一の友達だった私は彼女を裏切り、彼女は自殺した」

 

「すると今度は私がいじめられるようになって、あの子のところに行くことが贖罪になるってクラスの皆が言った」

 

沈んだ表情で淡々と語る

 

「それに、私が死んでも代わりになる人はきっといる。誰だっていいけど」

 

何度目かの歪んだ笑顔。メイコは壊れてしまいそうなリナを抱き締めた

 

リナはリナで戸惑った。抱きしめられることなど人生で初めてと言っても過言ではない

 

「辛かったね、怖かったね。でももう大丈夫。私は貴女の味方。どんどん我が儘言ってもいいんだから」

 

「――リナちゃんさえ良かったら、私を頼ってね」

 

「……ん!……うん…………!」

 

困った時に誰かに頼ることの大切さ。たった数ヶ月ですっかり忘れていた。それを思い出して涙が止まらなくなり、リナの手はメイコの背中に回っていた

 

一頻り泣いた後、そういえば、と話を切り出したのはリナの方だ

 

「この病室、二人部屋ですよね。他の人は?」

 

自分のベッドの隣にはもう一つベッドがある。数はそう多くないが見舞いの品があるので利用中であることは伺える

 

「もうすぐ帰ってくると思うよ。簡単な検査をしているだけだから」

 

「……どんな人なんですか?」

 

「リナちゃんと同じくらいの年齢で、リナちゃんに負けないくらい可愛い女の子だよ」

 

「その子もいじめられてた?」

 

「分からないの。自分の名前は辛うじて覚えてるみたいだけど、重度の記憶障害を患ってることは間違いないみたい……あ、でも髪をツインテールにしてたのは覚えてるかも。ヘアゴム二つ貸して欲しいっていつも言ってるし」

 

などと雑談をしていると引き戸が開いた

 

「噂をすればなんとやら。リナちゃん、自己紹介」

 

「うん。加賀美リナです。よろしく」

 

 

緑髪のツインテール、車椅子に座っていてもそれとわかるモデル体型に、吸い込まれそうなほどに透き通った瞳。それらが互いに邪魔し合うことなく調和された容姿を持つ彼女は、美少女と呼ぶに相応しいだろう

 

そんな美少女に名乗る。自分も、この子もゼロからのスタート。この子と一から作り上げていけばいい

 

少し痩せこけた頬に笑窪を作って彼女も名乗る

 

 

 

「初めまして、羽取ミリアっていいます。こちらこそよろしくね!」

 

 

 

 

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代わりになれば何だって良かった

 

「愛されたい」と口を零したこともあった

 

大きなハサミで何度も自傷行為をしても

 

丈夫なミシンで心を貫いても

 

全知全能の言葉を聞かされても

 

脳みそ以外いらないと叫んでも

 

煮え切った日々が、かすかな命火を断たせた

 

リナはそれでも良かった

 

誰だっていいのさ。代わりになれば

 

 

 

 

東京テディベア 了

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