「はぁ…はぁ…」
俺は夜の森の中をひた走ってはしきりに後ろを気にした。
「早く…早くここから離れないと」
そう呟いては走る速度を早めた。
しかし、いったいどうしたらいいのか。ただ逃げることを考えていたので、これからの事を考える余裕はなかった。
どれくら時間が経っただろうか。ある程度落ち着き、一休みを兼ねて水辺の大木の側に腰を下ろした。
「…」
俺は今の状況を整理するために考えを巡らせる。
自分は囚われていて、たまたま出来た隙を突いて逃亡。運良く追手を撒き、ここに至る。しかし現在地もわからず、そもそもこれからどうすればいいのかも分からない。
「…とにかくここから離れよう。」
そう呟いて俺は立ち上がった。
空を仰ぐ様に見上げると、満天の星空が天に広がっていた。その中で特に目立つ星が一つ。
「北極星があそこにある。ならば…」
そういって歩み始めた。
そうして俺は何度か夜を越しながらも運良く街に辿り着いた。
街に辿り着いたはいいものの、着の身着のままなので服は汚れ、髪はボサボサ。しかも靴は履いてないので見るからに不審者としか言いようがなかった。
「あの、すみません。この街はなんて言うのですか?」
俺はたまたま見かけた町人に話しかけた。
「ここは横須賀の港町だ。ところであんた、随分ボロボロじゃないか。どうしたんだい?」
町人は質問に答えながらも自分の服装に疑問を持った。
「ありがとうございます。自分は…ちょっと色々ありまして。」
「そうなのかい。もし良かったら泊まっていくかい?うちはボロいが飯は美味いよ」
町人はとても気さくで好感を持てた。しかし…。
いや、どのみちこのままでは本気で倒れてしまう。ここは好意に甘えるとしよう。
「では、すいませんが…」
俺はそう答えた。
その日の夜は久しぶりにまともな食事を取ることが出来た。今までは野草であったり野生の生き物を食べたりしていた。言うまでもなく風呂にも入ってなかったので風呂に入り、町人の服を借りていた。
「ありがとうございます。こんな見ず知らずの人間にここまでして頂いて…」
俺はそう話すと、町人はこう答えた。
「いいよいいよ。初めはちょっと怪しかったけど、あまりに見てられなくってねぇ〜」
初めて会った町人が、ここまで自分に優しく接している事に少し驚きながらも、どこか懐かしい感覚を覚えた。
「ところで兄ちゃんよ」
「はい?」
暫くの静寂を破り、町人はこう切り出した。
「随分疲れてる様だけど、どこから来たんだい?」
いつか聞かれる事だと思っていた俺は、少し戸惑いながらもこう答えた。
「自分は…自分は…誰なんでしょうか?」