「自分は…自分は…誰なんでしょうか?」
俺はそう呟いた。
「おいおい兄ちゃん。自分が誰なのかわからないのか?」
町人の心配する言葉を聞き、男は「えぇ」と呟く。
今、自分のいる場所は横須賀の港町である。そして今は目の前に座っている町人に保護されている形である。
俺は自分の過去を思い出そうと考えを巡らせるが、思い出そうとすると頭の奥がズキッと傷んだ。
「その調子じゃ、当分無理は出来ねぇな。ま、丁度いい。暫く泊まっていくといい。」
どこまでこの町人はお人好しなのか。こんな見ず知らずの他人にここまで肩入れする理由が見当たらない。しかし現状、今の自分は何をすればいいのか、そもそも名前すら思い出せない状況なのだから、ここは好意に甘えるのが得策か。俺はそう判断した。
「何から何まですいません…」
「いいってことよ。ところであんた、この街のことを知らないのなら、明日にでもちょっと散歩でもしてきたらどうだい?」
「そうですね…。」
散歩と言っても、何も知らない土地を1人で出歩くのは少し戸惑いを覚える。どこに行ってみようか、と考えを巡らせていると、町人が思い出したかの様に呟いた。
「あ、そうそう。忘れてた。くれぐれも夜に海岸に行くのだけは辞めときな。最近は落ち着いてきたとはいえ、一般人が出歩くのはあまりにも危ねぇんだ。」
夜に海岸?一般人?男は町人の言い方に疑問を持つと、まるでそれを読んでいたかの様にこう言われた。
「あ、悪いね。いきなりの事で。この街には鎮守府っていうデカい建物と艦娘っていうスゲェ姉ちゃん達がいるんだよ。ま、姉ちゃんっても幼い見た目の子もいるんだけどね」
鎮守府?艦娘?男はますます混乱した。
「もしかして兄ちゃん、艦娘を見たことないのかい?スゲェべっぴんでよ、あんなか弱い女の子達が海からくるバケモンと戦ってんだよ。いやースゲェよな。」
「え、えぇ…」
「もし良かったら、まずは鎮守府ってのに行ってみるといい。流石に中には入れないけど、ある程度近くまで行くことは出来る。運が良ければ見れるかもな。艦娘達を。」
町人が楽しそうに勧めて来たので俺は興味を持った。なるほどこの街にはそんな人達がいるのか。
「…ちょっと待ってください。この街には、って言うことはほかの街にもいるんですか?艦娘っていうのが」
「なんだ兄ちゃん。ホントに何も知らねぇのか。仕方ない。俺が知ってる限りの事を教えてやるよ。」
そうして町人は男の知りたがっている事を教えてくれた。
ある時期を境に海から正体不明の生物が船を襲うようになり、挙句の果てには人にも被害が及ぶ様になってきた。初めこそは軍隊が反撃をしていたが、何故なのか武器が通用しなかった。途方に暮れていると、各地で武装した女性が正体不明の生物を撃退した、という情報が回った。しかもその女性達は武器を体に纏って海の上に浮かび、まるで船の様に戦っていたという。こうして各地に現れた女性達と海軍は手を結び、共に正体不明の生物と戦うことになっていった。
その女性達や化け物の見た目から女性達の事を艦娘、化け物を深海棲艦と呼ぶ様になったという。
「…って訳なんだ。どう思う?」
1通り説明され、俺は理解できないといった感じでこう返した。
「つまり、その艦娘達が鎮守府ってのにいてるんですね?」
「そういう事だ。ま、あんまり無理するんじゃねぇぞ。そろそろ寝るか。兄ちゃん、くれぐれも海岸には行くんじゃねぇぞ」
「はい、分かりました。おやすみなさい。」
こうして1日が過ぎていった。