初音島物語   作:akasuke

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D.C.のゲームをプレイすると、どのルートも素晴らしいですが、どのキャラクターが好きかは人それぞれだと思います。

私はD.C.では眞子、IIではエリカとアイシア、IIIではサラが好きでした。
ストーリーで言えばまた別だったりします。

好きなキャラのアフターストーリーも見れるのも魅力です。

それでは、本編をどうぞ。



episode-11「小さな一歩」

――あわわわわ

 

き、気付いてと。

小恋は、自分の前に座っている人物の行動に対して慌てていた。

 

 

とある日の授業中。

 

昼食を食べ終わった後の授業ということもあり、小恋は小テスト中であったが、軽い眠気に襲われていた。

 

 

――んー、ねむい

 

食欲が満たされ、窓からの日差しを浴びている小恋は、頑張って起きないとと思いながらも、眠気に勝てずにそのまま寝そうになっていた。

 

 

途中までは。

 

 

ヒラリ。

小恋の机近くの床に、前に座る茜のテスト用紙が落ちるのを目にした。

ごめんねー、と茜は小さい声で謝りながら用紙を拾い上げる。

 

その際、何となしに、視界に入った茜のテスト用紙に記載された名前を、心の中で読み上げる。

 

 

――はなさき、あい……ん?

 

読み上げた内容に何故か違和感を覚える小恋。

眠気で半分意識が朦朧している頭で、違和感の原因を考える。

 

 

――花咲あい……えっ、藍!

 

小恋は、眠気が一瞬で覚めてしまい、思わず立ち上がってしまう。

月島、どうかしたかー、という教師の声に、謝りながら椅子に座り直す。

恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じたが、小恋からすればそれどころではなかった。

 

 

――いま、藍がテスト受けてるんだ

 

前に座る茜の左手首に付くアクセサリーを見ながら、小恋は目の前の人物がいまどちらであるか悟る。

 

 

杏の家に泊まった際に、小恋は杏と茜が魔法の桜に願いを叶えてもらったことを知った。

小恋は二人の話を信じたが、ひとつ問題があったのは、茜と藍の見分け方だ。

 

藍はずっと茜の振りをバレない様にしていたので、見分けはつき辛い。

杏は願いにより全てを記憶しているから微かな違いで判別できるらしいが、小恋は出来なかった。

 

二人を判別したいという小恋に希望もあり、手首に付けるアクセサリーで茜と藍を分けることにしたのだ。

茜が表に出る場合は右手首に、藍が出る場合は左手首にアクセサリーを付けることを決めて行動する様にしたのであった。

 

そのような経緯があり、手首のアクセサリーの位置で藍と判断したのだ。

 

 

「ふんふんふふーん」

 

もう、鼻歌を歌っている場合じゃないよ、と。

テストを解きながら鼻歌を歌う藍を恨めしげに睨む小恋。

 

テスト用紙の名前が藍になっていることを伝えたいが、声を出すと注意されるので何か方法がないかを考える。

 

 

――そうだ、いいこと思い付いたっ!

 

机の中にあるノートの端を破り、その切れ端に小さく文字で『名前まちがえてる』と書いた。

 

気付いて、と。

小恋はノートの切れ端を丸め、藍に読んでもらおうと前に投げる。

 

しかし、運動音痴の小恋が投げた切れ端は、藍ではなく、となりの渉の席に飛んでしまったのだった。

 

 

――あぁ、渉くんじゃないよー…

 

違う場所にいってしまったことに落ち込むが、その間に切れ端に気付いた渉が紙を広げ、内容を読んでからハッとした表情を浮かべた。

 

そして、斜め後ろの小恋に口パクで言葉を告げてから、テスト用紙を書き直し始めた。

 

 

――あ、り、が、とって、渉くん名前間違えてたの! というか、そっちじゃない!

 

渉の反応に驚きつつも、なんとか藍に気付いて貰おうと他の方法を必死に考える小恋であった。

 

 

 

 

 

 

そんな慌てる小恋を後ろから笑いながら見つめる杏。

実を言うと、昼飯後に既に寝そうであった小恋をみて、悪戯を思い付いたのは杏である。

 

わざと名前を間違えた用紙を小恋に気付かせて慌てさせよう、と。

 

面白がった茜と藍は了承し、今の状況に至る。

 

藍の存在を認識し、四人となった雪月花であったが、小恋がからかわれるのは変わらないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-11「小さな一歩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね……あれ、ななか? 聞いてる?」

 

「う、うん」

 

よかった、と笑いながら再び話す小恋を見て、白河 ななかは内心で思う。

最近、小恋は綺麗になったな、と。

 

普段から明るくて元気な小恋だが、最近になって更に明るさと元気があがっていると感じたのだ。

 

 

「小恋、最近なにか良いことあった?」

 

「んー…色々とあり過ぎたかも」

 

詳しくは話せないけど、と小恋は言いながら、嬉しそうに笑う。

 

 

――何があったんだろう?

 

その理由が気になったななかは、何気なく小恋の手を握って彼女の心を確かめた。

 

ななかは彼方や杏、茜と同様に、魔法の桜に願いを叶えてもらった内のひとりである。

彼女は願いを叶えてもらった結果、相手に触れることで

心の中を知ることが出来るようになったのだ。

 

それにより、使い慣れているななかは、気になると相手の手を握るようになっていた。

 

 

そして、ななかは最近の小恋が変わった理由を知る。

 

 

――え、花咲さんと雪村さんが……わたしと同じ?

 

普段は、漠然とした気持ちしか読めないが、相手が強く印象に残っているものは鮮明に読めることもある。

 

小恋にとっては大切な想いであるからこそ、鮮明に読むことができた。

 

小恋から伝わってきたのは、茜と杏のふたりの秘密。

 

ななかは小恋を通してでしか関わりがないこともあり、心を読んだことがなかった。

 

だからこそ、自分以外にも桜に願った人が居たことに少なからず衝撃を覚えたが、最も驚いたのはそこではない。

 

 

――あの二人は話したんだ、小恋に、願いのことを

 

ななかは、願った能力も、理由も人に打ち明けることは一切考えてなかった。

たとえ一番仲の良い、小恋だとしても。

 

そう思っていたのに。

あのふたりは伝えたのだ。

杏と茜は親友の小恋に願った能力も、理由も、すべてを。

 

その結果、小恋と杏と茜の三人は、いや四人は、更に絆が深まったのだ。

今その場にはいないのに、心の中で意識しているくらいに。

 

 

――ずるい

 

嫉妬。

小恋と杏、茜の絆を知ったことによる感情。

 

同じように、魔法の桜に願ったのに。

何故あの二人と自分とでは違う場所にいるのだろうと。

 

 

――花咲さんと雪村さんは沢山友達がいるのに

 

男女問わず相手の手を握って心の中を読み、嫌われないように行動してきた。

 

ななかは男子からは絶大な人気を誇る。

しかし、ななかの容姿と男子の手を握ったりするスキンシップをみて、女子の大半からは嫌われていた。

 

そんな自分とは異なり、茜と杏は男女問わず人気を誇っている。

更に言えば、小恋だけでなく、義之や渉、杉並とも強い絆で結ばれている。

 

 

――わたしには、小恋しかいないのに……

 

ななかにとって、小恋は数少ない同性の友達である。

大切な友達だからこそ、杏や茜と同じように絆をもっと深めたい。

 

しかし、能力を打ち明ける勇気がななかには持てなかった。

 

 

小恋なら心を読んでたことを許してくれるかもしれない。

でも。

もし、嫌われたら。

 

 

――わたし、ひとりぼっちになっちゃう

 

内気で、弱くて、怖くて。

嫌われたくないから、願った。

 

それなのに、また一人になる可能性が少しでもあるのなら、打ち明けるのは、怖い。

 

でも、もっと仲良くなりたい。

 

でも―――

 

 

思考が同じところでぐるぐると回ってしまう、ななか。

 

 

そういえば、と。

ひとり思考の渦に沈んでいたななかに、小恋が何か思い出したかように話し掛けた。

 

 

「ななか、魔法の桜の記事を真剣に見てたよね?」

 

「えっ……あ、うん」

 

小恋のいきなりの問いに、思わず素直に頷くななか。

それを見て、小恋はななかに伝えた。

 

 

「わたしね、その記事を書いた人に会ったよ」

 

そして、さらに言葉を付け足す。

わたしから紹介しようか、と。

 

 

――そうだ、そっちもあった……

 

杏と茜の秘密の方に思考が行ってしまったが、

小恋の心を読んだ中で、もうひとつ気になっていたことを思い出した。

 

いや、こちらもななかには重要であった。

 

魔法の桜のことが書かれた記事。

その記事には、魔法の桜が枯れたら願いも解けると書いてあった。

ななかは、その記事を読んで驚き、この記事を書いた人物に会わなければと思った。

 

しかし、非公式新聞部というのは本当に謎の部活であり、所属している人物はほとんど知られていない。

 

唯一知っている人物は杉並であった。

だが、以前小恋を通して会話した際のこと。

 

初対面の人物の場合、ななかはどんな人かを知るために手を握ろうとしてしまう。

杉並にも手を握ろうとしたとき、避けられ、ひとつ質問を問い掛けてきた。

 

 

『白河嬢よ、何故手を握ろうとするのだ?』

 

手を握ることで何かあるのか、と。

ニヤリと笑いながらこちらを見る杉並に、ななかは秘密が知られるような気がした。

 

その場は何とか誤魔化したが、それ以降、杉並に少し苦手意識を持ってしまう、ななかであった。

 

そんな経緯もあり、杉並には魔法の記事を聞くことができず、手詰まりとなっていたのだ。

 

 

――小恋はその人とあったんだよね

 

杏や茜の秘密程ではなかったが、小恋の心から読み取ることができた。

 

読み取れたのは、小恋たちに自分の秘密を明かし、後悔しないようにと伝える姿。

 

そして、小恋たちを見送る際の言葉。

 

 

 

『いつでもお待ちしてます』

 

 

 

 

――わたしも、会えば変わるのかな

 

こんな弱いじぶんでも。

花咲さんや雪村さんのように。

 

 

「小恋、わたし、その人と会ってみたい」

 

ななかは、小恋に思いを伝えた。

 

こうして、一歩踏み出すのであった。




読心能力とかは欲しいと思う人は多いかなって思います。
ただ、手を握らないと読めないとなると、男が手に入れても使いどころが難しい気がしますね。

常時読めたら読めたで苦労はあるかもしれませんが。

また見ていただければ幸いです。

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