初音島物語   作:akasuke

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episode-14「大きな一歩」

 

 

 

 

 

 

 

episode-14「大きな一歩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いたか、同志初音よ」

 

そういえば、と。

杉並が何か思い出したかのように、彼方に話し掛けた。

 

 

とある日の放課後。

非公式新聞部の第二執筆室で魔法の桜について調べる彼方と由夢のもとに、杉並が押し掛けていた。

 

ノックもせずに入ってくる杉並に対して由夢が文句を言うのは既に恒例の出来事になっていたのである。

 

 

「何の話ですか?」

 

「最近の話題と言ったら決まっているだろう」

 

白河嬢のことだ、と杉並は疑問に思う彼方に答えた。

その言葉に彼方は目を丸くする。

 

白河が姓の女性で言えば限られてくる。

彼方としては姓が白河の女性は二人知っているが、杉並から語られるとすれば白河ななかだろうと推測した。

 

 

「それで、白河さんがどうかされたんですか?」

 

「ふむ、相変わらず噂には疎いのだな。 白河嬢がここ最近で変わったとな」

 

「変わったですか。 明るくなった、もしくは元気になったとか、ですか?」

 

どちらかと言えば逆だ、と杉並は否定する。

内気な性格に変わったのだと。

 

今までは誰に対しても明るく元気な姿を見せていたななかであったが、不安な表情や挙動不審な姿が多く見られるようになったのだ。

 

仲が良い小恋や渉に対しては今までと態度は変わらないが、他の人と話すときは弱気な面が見えるとのこと。

 

 

「急に人見知りになるというのは中々に興味深いな」

 

「それは……あの、周りの反応は如何でしょうか?」

 

些か不安そうな表情を浮かべて尋ねる彼方。

ななかの印象が変わることにより、周りから変な目で見られていないか心配になったのだ。

 

そんな彼方の不安を解消させるかのように、杉並は問いかけに答えた。

 

 

「オドオドした様子が逆に可愛いと、男子からは更に人気が高まっているとのことだ」

 

「わたしも白河先輩の噂は聞きましたよ。 男子に触れたりする姿を見なくなって、同性からも好意的な人が増えたみたいですね」

 

杉並と由夢の返答に安堵の様子を見せる彼方。

そして、ななかの最近変わったと言われる様子について考える。

 

おそらく、変わった直接的な理由はことりに会ったからだろうと彼方は思った。

何の話をしたかは分からないが、ななかの中でことりと話したことで変わろうと思えたのだろうと。

 

 

――それに、白河さんは読心の力を……

 

内気な性格。

ななかから人に触れなくなった。

 

杉並と由夢の話に出たキーワードから、彼方はななかについて予想できるものがあった。

きっと、彼女は読心能力を使うことを控えようとしているのだと。

 

内気な性格になったのは、変わったのではなく、本来の面が表に出始めたのであろう。

 

 

――まったく、眩しいな

 

魔法の桜に願ったことにより叶った能力。

ずっと頼っていた能力は、いわば自分の半身とも言えるだろう。

 

自分に宿る能力に頼らない。

言うは易く行うは難し、である。

 

願いが解けて使えないのではなく、使えるけど頼らない。

そのななかの行動が、彼方には眩しく感じられた。

 

 

「さて、そんな白河嬢だが、ここ最近一日だけ午後から無断で授業をサボったらしい。 そして――」

 

そのサボる直前に同志初音と白河嬢が話している場面が目撃されている訳だが、と。

 

彼方に向けて杉並がニヤリと笑みを浮かべながら話す。

今までの話はこの情報を話す為の前振りだったのだろう。

 

杉並が言いたいことを彼方は察した。

ななかが変わった理由は自分にあるのではないか、と言いたいのだろうと。

 

だからこそ、彼方は答える。

 

 

「残念ながら、私ではないですよ」

 

杉並の問いを否定する。

私はあくまできっかけを作っただけである、と。

 

今回、白河ななかに必要であったのは、彼女のことを理解してあげられる人であった。

 

それは、ななかの気持ちや能力を含め、白河ことり以外には考えられなかったのである。

 

 

――今度、ことりさんにお礼を言いに行かないとですね

 

必要であったとはいえ、最終的にことりに丸投げしてしまった彼方。

後悔はなかったが、感謝は直接言いに行く必要があると感じた。

 

そして、ことりと話し、大きな一歩を進んだななかとも話をしたいと思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――はぁ、まったく、彼方先輩は。

 

嬉しそうな表情を浮かべる彼方をみて、いつものことかと溜息を吐く由夢。

 

由夢が彼方の助手として書類の整理や調べ物を手伝うようになってまだ一ヶ月も経っていない。

 

しかし、彼方の側に居る間は、色々と驚きの連続だったと由夢は感じる。

魔法の桜のこと自体が驚きではあるのだが、それだけではなく。

 

 

――彼方先輩や雪村先輩だけじゃなかった。

 

杏からの相談以降、杉並を経由し、付属と本校から数人が彼方のもとへ訪ねてきたのだ。

 

内容は、魔法の桜の記事について。

彼らも彼方たちと同じく魔法の桜に願った人達であったのだ。

 

 

魔法の桜への願い。

叶ってしまったからこそ、不安が沢山あって。

でも、そんな異常な力を打ち明けられる人がいなくて。

 

 

――雪村先輩の言うとおりだったな。

 

 

『こういう機会はきっと増えるわよ』

 

杏が彼方に相談する前に、由夢に話した言葉。

実際に、杏と同じように願いが叶った人たちが彼方のもとへ来たのだ。

 

やって来た人たちの顔は、みんな不安そうな表情で。

 

そんな人たちに対して、彼方は自身のことを話し、出来ることを精一杯やっていたのを由夢は側で見ていた。

 

そして感謝の言葉を述べる人や泣く人たちを見て、由夢は彼方の様な人が必要なのだと感じた。

 

 

今回のななかについても、きっと。

 

 

由夢は、そんな彼方を手伝えることが嬉しかった。

そして、彼女は彼方の助手である為に、とあることを決意する。

 

 

――わたしも、一歩前に進まないと。

 

自分の予知能力について。

その力が、魔法の桜によって与えられた願いかは分からないけれど。

 

この能力のことを打ち明けることを決意するのであった。

 

 

 

 

 




春になりましたね。
ようやく桜の季節を迎え、D.C.シリーズが好きな私には嬉しい季節となりました。

わたしは東京在住なのですが、
どこか長い桜並木がある場所を探して行ってみようと思います。
桜並木を歩きながら、「サクライロノキセツ」を聴く。
懐かしい昔を思い出しながら、休みを満喫したいですね。

みなさんも、桜を観に行っては如何でしょうか。

小説としては、これでななか編は一旦終わりとなります。
そして次は、別の方に焦点を当てた物語を描く予定です。

また見ていただければ幸いです。


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