初音島物語   作:akasuke

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本日、二話目を投稿します。
なんとか書き上げられて少しほっとしてます。
別の作品も描かなければ。

というわけで、本編をどうぞ。


episode-25「偶然か、必然か」

 

おや、珍しい、と。

朝倉 純一が、家に来た人物を見たあとに抱いた感想である。

 

 

「こんにちは、純一さん」

 

純一に挨拶した青年―義之については、小さい頃から知っている。

そもそも、以前までは朝倉家に住んでいたのだ。

長い付き合いであり、音姫や由夢と同様、家族のような存在である。

 

 

「久しぶりだね、義之」

 

「いや、たまに会うじゃないですか」

 

純一の言葉に苦笑しながら応える義之。

 

義之が芳乃家に引っ越して以降、彼が朝倉家に訪れることは滅多にない。

基本的に、由夢と音姫が芳乃家に行くからである。

純一としては、自分のことは気にせず、さくらと音姫、由夢と仲良く過ごして欲しいと思い、必要以上に向かわなかった。

 

それでも、先週に一度会ったばかりなので、久しぶりは適切じゃなかったかもしれない。

もう歳かな、と自分の年齢を改めて実感し、内心で苦笑する。

 

 

「残念ながら、由夢も音姫もまだ帰って来てないよ」

 

まだ学校だろうね、と。

純一は二人の最近の帰宅時間を思い浮かべながら告げた。

 

音姫は生徒会長ということもあり、普段から遅くまで学校にいる。

クリパが近付いているのも、理由の一つであろう。

 

由夢は昔は早く帰ってきていたが、最近は遅い。

理由はここ数日前まで知らなかったが、音姫から非公式新聞部の仮部員として作業していることをこっそり教えてもらった。

高らかに笑う悪友が所属していた部活ということもあり、少し由夢が心配になったのは秘密である。

 

どちらかに会うのが目的だと思い話したが、義之は首を横に振った。

 

 

「いえ、純一さんにお聞きしたいことがあって」

 

「俺に?」

 

何だろうか。

由夢か音姫、もしくはさくらについてだろうか。

そう予想していたからこそ、義之の口から話される人物を聞き、驚きを隠せなかった。

 

 

 

美春というロボットを知っていますか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-25「偶然か、必然か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはまた、懐かしい名前が出てきたな」

 

朝倉家。

中に入って話そうと言われ、義之はリビングに居た。

 

義之の対面に座る純一は、珈琲を飲みながら本当に懐かしそうといった表情を浮かべる。

実際に、それほど懐かしい話なのだろう。

彼が舞佳から聞いた話では、純一が美春というロボットの世話役をしていたのは、既に五十年以上前のことである。

 

そんな昔の話など覚えているのであろうか。

質問する前はそんな心配が脳裏を過ぎったが、純一はしっかり覚えていたようだ。

 

 

「結構昔の話なのに、よく覚えていましたね」

 

「あんな出来事、何年経っても忘れることはないさ」

 

純一の言葉になるほどと納得の様子を見せる義之。

義之自身も純一同様、人間と変わりないロボットを見たのである。

気持ちが、分からないでもなかった。

 

 

「まさか義之も、俺と同じようなことをする事になるとはな」

 

「水越先生もビックリしていました」

 

義之が純一と家族同然の付き合いしていることを告げた時、舞佳が凄く驚いた表情をしていたのを覚えている。

何か運命的なものでもあるのかもね、と思わず話していた程に。

それくらい確率としては低い話なのである。

 

身内に前例があるのなら義之は話を聞きたかった。

その為に、授業終わり次第すぐに朝倉家に来たのである。

 

 

「さてと、何から話せばいいかな」

 

純一には、自分は純一が過去に世話役を任された程度しか聞いていないと伝えていた。

つまり、ほぼ何も知らない状態ということである。

だからこそ話す内容について悩んでいたのであろう。

 

だか考えがまとまったのか、純一が話し始める。

まず、ひとつ初めに伝えることがある、と前置きを述べて。

 

 

「天枷 美春という人物は今でも生きている」

 

「へぇ、長く活動しているんですね」

 

純一の言葉に、義之は然程驚きもせずに頷く。

見た目や感情など人間と変わりない存在だが、人間と違う部分がある。

それはおそらく寿命であろう、と思った。

 

舞佳の話を聞くと、美夏は長い眠りについていたとのこと。

しかし、美夏とは違い、ずっと活動していたロボットもいるのであろう。

 

自分の中で納得出来たので頷いていた義之であったが、純一は否定した。

義之と自身の認識が異なっていることに気付いたからだ。

 

 

「美春というロボットは既に活動を停止している」

 

「え……さっきは、生きてるって」

 

「言い方を、変えるべきかな」

 

天枷美春という人間は生きているが、彼女を模したロボットは死んでいる、と。

純一は義之が理解できるように話す内容を言い換えた。

 

彼の口から語られた内容は驚くものであった。

 

天枷博士は自分の娘をベースにしてロボットを製作した。

それが『HM-A05型 miharu』。

純一が少しの間だけ学園生活を過ごす上でサポートしたロボットである。

 

人間の天枷 美春は一時期、不慮の事故により意識不明の状態となっていた。

その時、本物の美春の代わりに学園生活を送っていたのがロボットの美春だと言う。

 

 

「誰も、気付かなかったんですか?」

 

「そうだな、俺も先生から直接頼まれるまでは全く分からなかった」

 

美春と同じ容姿、声、性格。

どれを取っても人間の美春と変わりがない為、見分けなど付かなかった。

純一自身、彼女の背中にある、ゼンマイを巻く穴を見るまでは信じられなかったのだから。

 

 

「確かに見た目や性格じゃ分からなかったけど、行動は危なっかしかった」

 

純一はその頃を思い出し、懐かしそうに笑う。

 

性格や容姿では判別が付かないからバレにくい。

しかし、彼女の行動には困らせられたことが多かった。

 

だが仕方ないことなのだろう。

彼女は生まれたばかりであった。

知識としてはデータとしてある程度持っていたが、経験はないに等しかったのだ。

 

だからこそ、美春は色々なものを見て、はしゃいでばかりいた。

見るもの全てが彼女にとっては新鮮だったのだ。

 

 

『うわぁ、大きいですねえ! あれに乗るんですよねー』

 

彼女はバスに乗るだけで嬉しそうに笑っていた。

自動ドアに感動し、降りる時に押すボタンを今か今かとワクワクして待っていた。

 

 

『あはは、いい子、いい子』

 

公園で犬を見掛けたときは毎回走り出し、犬と戯れていた。

人間の美春がワンコと呼ばれていたからこそ、その光景が何だか面白かったのを覚えている。

 

 

『すっごい美味しそうですねぇ!』

 

バナナパフェを見たときは目を輝かせていた。

4、5人分はあるだろう量でも大丈夫だと一人でも食べようとし、気持ち悪くなっていたのには苦笑した。

 

彼女が学園生活を過ごしている間、色々振り回されっぱなしであった。

純一はかったるかったと笑いながら義之に話していた。

 

 

「でも、何だか純一さんは楽しそうに話してましたね?」

 

「美春のサポートは疲れたよ、だけど――」

 

それ以上に楽しかった、と。

純一は嬉しそうな表情で義之に告げた。

 

美春はどんなことでも何もかも楽しそうにしていて、

そんな彼女を見ていて飽きなかったのだ。

たった二ヶ月弱の間だけであったが、純一にとっては良き想い出であった。

 

 

「だからこそ、急に居なくなった時はショックだったけどな」

 

突然の出会いであり、そして突然の別れであった。

彼女のサポートに慣れた頃、普段と同じように別れた休み明けの日。

その頃の教師兼、研究員であった白河 暦から美春は役目を終えたと告げられたのだ。

 

ちゃんとお別れも言えずに終わってしまった時、寂しく感じたのを覚えている。

しかし、純一が最期に見た光景は、美春が笑顔でこちらに手を振る姿。

 

 

『朝倉せんぱーい、さよならです!』

 

きっと、活動が停止するまで笑顔で居たのだろうと思えることが出来た。

 

 

「多分、俺の時より大変だと思う」

 

美夏が人間嫌いという話を義之から聞いた純一。

それを聞き、仕方ないという思いがあった。

 

ロボットが人間社会に普及するに従って起こった様々な事件があった。

そのほとんどが、人間のエゴ丸出しの事件ばかり。

ロボットにとってみれば至極迷惑で理不尽なものばかりなのだ。

 

嫌いになっても可笑しくはない。

そして、人間である義之を煙たがるかもしれない。

 

それでも。

 

 

「どうか、その美夏という子を困っていたら助けてあげて欲しい」

 

彼女が楽しく学園生活を送れるように、支えてあげて欲しいと純一は思った。

人間が嫌いなのだろう。だけど、嫌いな人間ばかりではないと知ってほしいのだ。

 

そして、純一は確信していた。

 

 

「きっと、その子は良い子であるはずだよ」

 

例えその子が人間が嫌いだとしても。

それでも、悪さをするような子ではないと。

 

だって、美夏という少女は、美春の妹のようなものなのだから。

 

 

『ちょっと色々あってね、今は人間嫌いになっちゃってるけど』

 

純一の言葉を聞き、先ほど保健室で舞佳が話した内容が脳裏を過ぎる。

 

 

『あの娘、ほんとは素直ないい子だから』

 

純一と舞佳。

二人の言葉を聞いたからこそ、義之は決心する。

 

 

「わかりましたよ」

 

彼女が楽しく学園生活を送れるように支援します、と。

まっすぐな瞳で告げる義之に、純一は安心したように笑って頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

この出会いは偶然だったのだろうか。

それとも、必然だったのだろうか。

 

このとき、彼女には分からなかった。

 

 

 

「はぁ、ようやく終わった」

 

放課後。

麻耶は生徒会室から自身の教室へ戻る最中であった。

 

クラスの委員長という立場であることから、クリパに向けた申請等が彼女が行う必要があったのである。

もともと催し物を決めたのが遅かったこともあり、早く片付けなければいけない仕事が多いのだ。

 

一応、本日中までの作業は終えた麻耶は、帰宅時に寄るスーパーで購入する食材を考えながら、廊下を歩いていた。

そんな中、目の前の異常な光景に麻耶は目を丸くする。

 

 

――あれ、どうやって積んでるのよ……。

 

それは、持っている相手の顔が見えない程に何十冊もの本を積んで歩いている少女の姿。

顔が見えないが、スカートを履いていることから女性であることは確認できた。

 

振動で落ちそうな程に高く積んでいるのにギリギリ落ちていない。

そんな状況を見て、流石に手伝わないわけにはいかないと思った麻耶。

 

手伝うわよ、と一言告げてから上部の本を何とか崩れないようにして持つ。

ただ、本を持った瞬間重くて倒れそうになった時は肝を冷やしたのであった。

 

 

「ぬ、別にこれぐらい美夏ひとりで持てる!」

 

「あのね、こんなに高く積んでたら前が見えないでしょうが」

 

本を積んで歩く少女が抗議するも、麻耶がその抗議を一刀両断する。

事実、麻耶が半分持ってもまだ少女の顔が見えない状態なのだ。

危ない以外の何物でもなかった。

 

 

「ほら、これはどこに持って行けばいいの?」

 

「…………図書室だ」

 

 

図書室ね、と。

少女が本を持って行く場所を確認し、一緒に向かう麻耶。

明らかに不満という様子を見せていた少女であったが、それでも大人しく麻耶に従っていた。

 

そして、腕を若干振るわせながらも麻耶は図書室まで本を持って行き、近くの机に下ろした。

自分が持った本の二倍も抱えて歩いていたという事実に、純粋に驚く彼女であった。

 

 

「本当は一人でも出来たが、感謝する」

 

「はいはい、今度からはあまり持たないよ……うに…ね…」

 

素直でない感謝に苦笑しながらも、その少女へと振り返りながら注意しようとした麻耶。

しかし、少女の顔を見た途端、息が止まるかと思った。

 

 

「む、美夏の顔に何かついているか?」

 

「……い、いえ。 何でもないの」

 

青い髪の少女が自分の顔を触るのを見て、漸く言葉を返す麻耶。

だが、その言葉もどこか生返事であった。

 

しかし、そんな麻耶の様子に気付かないのか、続けて喋り出す。

 

 

「そうか……そういえば、自己紹介してなかったな」

 

――なんで。

 

何故だろうか。

髪の色や体付き、話し方など全然違う。

違う、はずだったのだ。

 

しかし。

 

 

 

 

「美夏は、天枷 美夏だ。 よろしくな」

 

 

 

 

『よろしくね、麻耶ちゃん』

 

 

 

 

自分が知る忘れたい人物と、どこか重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




D.C.シリーズはゲーム自体は大量にありますが、シナリオとしては大きく三部で分かれます。

D.C.とD.C.II、D.C.IIIです。

普通のゲームであれば基本的に最初からやるのが良いのかもしれません。
しかし、D.C.シリーズに関して言えば、どこから始めても良いかなと思ってます。

私自身は無印から始めました。
ですが、1から2、3と進んでも良いですし、逆に3、2、1と遡っても良いと思います。
勿論、2から1に、3に行くのも。

それぞれがどこか繋がりがある為、他のシリーズを思い出し、嬉しくなったり泣いたりする場合もあるかと。

「D.C.」を知っているからこそ、「D.C.II」「D.C.III」をやると嬉しくなる。
「D.C.II」を知っているからこそ、「D.C.」「D.C.III」をやると幸せになって欲しいと思う。
「D.C.III」を知っているからこそ、「D.C.」「D.C.II」をやると切なくなる。

そういう部分こそが、ダカーポの魅力なのだと私は思います。

それでは、また次回も見ていただけたら幸いです。

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