初音島物語   作:akasuke

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D.C.IIでは、D.C.のキャラクターがあまり出てきません。
純一、さくら、アイシアくらいでしょうか。

好きなキャラクターの歳を取った姿を見せない方が良いという配慮があったのかもしれません。
ただ、個人的には、キャラクター全員好きなので、出てほしいという気持ちは強かったです。



episode-2「ゆめ」

『もともと、分かっていたことですから』

 

こちらに向けて微笑みながら話す青年の姿をみて、

朝倉 由夢は、自分が夢を見ていることを認識した。

 

とある病室の風景。

由夢が見慣れてしまうほどに、何回も見た場面である。

 

 

『不安がないわけじゃないですけど、後悔しないように精一杯やりました』

 

だから仕方ないですと、病室のベッドに横になる青年は由夢の頭を優しく撫でる。

青年との顔の距離がすごく近く感じられる。

おそらく、自分は青年に抱き着いているのだろう。

青年の吐息を感じる近さに、胸の鼓動が高鳴るのを感じる。

それ以外に感じられるこの複雑な気持ちは何だろうか。

安心感と空虚感、好きという想い、混ざり過ぎて何がなんだか分からなくなる。

 

これは夢だ。夢なのだ。

分かっている筈なのに、何でこんなにも感情が高ぶるのだろうか。

何で、あった事もない筈なのに、こんなにも気持ちが。

 

混乱する自分とは別に、夢の自分は、手を伸ばし、青年の頬に添える。

 

 

――好きです、好きなんです。

 

言葉で伝えようとしても、想いが伝え切れていないと感じてしまう。

だから、少しでも伝わりますようにと。

 

自分から彼の唇に近付けていき、そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-2「ゆめ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーら、由夢ちゃん! そろそろ準備しないと遅刻しちゃうよ?」

 

「ぅー、ぅー」

 

あぁ、今日はネコ由夢ちゃんなんだ。

朝倉 音姫は、こたつで唸る由夢を見て、定期的にやって来る日をあらためて感じた。

 

ネコ由夢の日(音姫が勝手に付けた名称)。

月に1度か2度であろうか。

定期的に、朝の由夢に見られる光景である。

 

普段は低血圧なのか、朝はテンションが低い由夢なのだが、たまに全く逆のテンションの時があるのだ。

義之とさくらの家に行き、こたつで丸くなるのは、いつものこと。

同じ姿勢なのだが、違うのは、行動。

たれパンダの様にぐでーっとするのがいつもだが、珍しいときは常に唸るのだ。顔を真っ赤にし、恥ずかしそうな表情で。

 

よくよく観察すると、たまにぼーっとしたかと思えば、頭をぶんぶんと横に振り、唇を触る、そして唸るの繰り返しである。

 

 

音姫的には可愛いので、見てる分には飽きないのだが、ギリギリまで出てこないので遅刻しないかヒヤヒヤするのである。

妹を遅刻させる訳にはいかない、と張り切るものの、本人が落ち着くのを待つしかないのが現状だ。

 

 

――なんで、こんなに恥ずかしがるのかな。 ……もしかして、おねしょとか?

 

本人が聞いたら激怒しかねないことを考える音姫だが、流石にそれはないだろうと、否定する。

だとしたら、他に何があるだろうかと。

音姫の思考にひとつの推測が思い浮かんだが、突然、顔を真っ赤に染める。

 

 

――も、もしかして、ええええっ、エッチな夢を見たのかな

 

自身で考えたことに対して異様に恥ずかしくなってしまう音姫。

いや、由夢ちゃんはマジメさんだから弟くんとは違って見ないよね、と思い直す。

 

理由はともかく、学校に行く準備を急がせようと頑張る音姫であった。

 

 

実を言うと、最後の推測は惜しいとこまでいってるのだが、本人に確認しなかったことは正解であろう。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「おはよー、朝倉さん」

 

「おはようございます、由夢さん」

 

「はい、おはようございます」

 

心を落ち着かせないと。

周りのクラスメイトへ挨拶をしながら、由夢は頬が熱くなりそうな自分に対して喝を入れた。

 

頬が熱くなってしまう理由。

それは、自分がみた夢が原因である。

 

そう、自分が青年にキ――

 

 

「……あぁ、もう、思い出しちゃだめだって!」

 

「あ、朝倉さん…? どうかしたの?」

 

「え、あ、何でもないですよ、あはは」

 

驚いた表情で心配の声をなげてくれるクラスメイトに取り繕いつつ、意識は別のことに向いてしまう。

 

 

 

――なんで、あの夢は何回も見ちゃうのかな

 

眠る際に見る夢。

普通のひとなら特に思うことはないかもしれないが、由夢にとってみれば、特別な意味を持つ。

 

自分には、不思議な力がある。

予知夢と言うのが正しいのだろうか、

自分が見た夢が実際に起こってしまうのだ。

そして、それは覆すことができない。

 

誰かが危険な目に遭う。

基本的には、誰かの危機的な、そして不幸な場面の出来事が、夢で見る内容なのである。

 

回避させたい、と。

そう思い、夢見た内容をメモするのだが、ひとつも回避出来たことはない。

夢の出来事は覆らないのだ。

そう、半ば、諦めてしまったときからだろうか。

 

今までとは少し違う夢を見るようになったのだ。

あったこともない、見たこともない、青年と由夢のやり取りを。

今朝見た夢のことである。

1度見た夢は基本的にはまた見ることはなかった。

しかし、青年との夢は何回も同じ場面を見る機会があった。夢だと認識できてしまう程に。

 

それだけでなく、もう一点、他と違う点がある。

それは、人の不幸な場面であるか否かである。

 

 

『不安がないわけじゃないですけど、後悔しないように精一杯やりました』

 

『好きです、好きなんです』

 

病室の風景。青年とのやり取り。

なるほど、確かに死を連想させる場面なのかもしれない。

でも、青年の幸せだという顔、自分の感情、そのどちらも不幸と呼ぶには、なんだか違う感じがしたのだ。

 

見た夢はそれだけでない。

 

それ以外にも、最期から遡る様に、彼とのやり取りを夢で見たのだ。

どれもが不幸は場面には思えず、むしろ、逆の様に思えた。

 

 

「かなた、さん」

 

夢で、青年を呼ぶ自分がいて、思わず、その名前を口に出してしまう。

名前も、学年も、既に分かってしまっている。

でも、何故か、会おうとは思わなかったのだ。

 

会いたくないとかではなく、まだその場面ではないと。

夢で見た初対面の場面まで待たなければならないと。

 

 

そう思ったなか、自分の思考で、ふと、重大な事実に気付く。

他の夢と違い、自分が行動すれば回避できてしまうことに。

いつ起きる出来事なのか分からない。

だからこそ、夢で出てくる場所の光景や天気、人などをメモに残し、その状況に備えるのだ。

 

しかし、夢の青年との初めての出会いなどに関しては、自分が会いに行けば、夢と違うことになるだろう。

夢の出来事を、回避できたと、言えないこともない。

 

そのことに、本当に気付かなかったのだろうか。 

 

 

――わたし、回避しないように、してた?

 

夢は覆らない。

回避できることを望んでた筈なのに、覆らないことを無意識に望んでた自身に、愕然とした。

 

でも。

だって。

 

仕方ないのだ。どうしても思ってしまう。

夢で感じた、あの嬉しさ、切なさ、悲しさ、それ以上の幸せな気持ちを抱きたい、と。

 

夢じゃなくて、現実でも、ああいう風にキスした――

 

 

「だからなんで、またそこに行っちゃうの!!」

 

同じ思考に戻ってしまい、思わず叫んでしまう。

何をやっているのだろうか、わたしは。

もうすぐ授業がはじまるのに、と。

そして、由夢は今の状況に違和感を覚える。

 

 

――あれ、授業前なのに、静かすぎるような……

 

思考の波から戻ると、異様に静かな教室で、クラスメイト全員と教師の視線を感じたのであった。

 

あれ、いつの間に先生が、あれ、いま授業中なのだろうか。

混乱する由夢に、教師は気まずげに、尋ねる。

 

 

「……あー、朝倉、なんというか、大丈夫か?」

 

頬が熱くなるのを抑えることが出来なかった。

 


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