初音島物語   作:akasuke

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episode-35「みんな、誰かを想っていて」

 

 

「これで明日の準備は完了で大丈夫よね、雪村さん」

 

「えぇ、問題ないわ。 明日はよろしくね、委員長」

 

「ふふ、任せなさい!」

 

変わったわね、と。

自信満々に答える委員長―沢井 麻耶を見ながら杏は心の中で静かに思った。

 

 

放課後。

明日がクリパということもあり、 どのクラスも最後の一息と頑張る中、

周りと同じように杏達の居るクラス―3年3組も急いで準備を行い、何とか完了までこじつけていた。

 

その中でも麻耶は委員長として全体の取りまとめを実施し、杏は企画のメインを担当するということもあり、

明日の準備が終わって装飾組を帰らせた後、二人で最後の確認を行っていたのだ。

 

ここ2週間は何度も打ち合わせをしていたので、

普段はあまり関わっていなかったが、杏は麻耶と話す機会が増えた。

 

 

 

――ほんと、変わったわね。

 

委員長である沢井 麻耶は真面目であり、融通が利かない。

そして、基本的に誰かを注意したり、怒ったりしている。

 

それが周りの大半が抱くイメージであった。

だが、杏は彼女に対して少し違う印象を抱いていた。

 

基本的な印象は周りと同じだが、杏は麻耶が何かから目を逸らしてるのだと感じたのだ。

だからこそ、周りに対して余裕がない行動をしてしまうのだと。

 

それが何かは分からなかったし、茜や小恋たちほど近い関係でも無い為、わざわざ掘り下げることはなかった。

 

そして、杏が抱く印象は、クリパで話すようになってからも変わらなかった。

 

いや。

最初は、と付け足したほうが良いだろうか。

 

 

――いつから、かしら?

 

確かに初めは普段と感じている印象は変わっていなかった。

 

だが、ある時期を境に麻耶は変わった。

珍しく麻耶が体調不良ということで途中で早退したことがあったのだ。

 

そのときの表情は不安で仕方ないという顔であり、

声を掛けたが大丈夫、と返されるだけで何も出来なかった。

 

そう。

そこから、変わったのだ。

 

 

「ん、顔に何か付いてるかしら?」

 

「……いえ、良い表情をしてると思っただけよ」

 

何よそれ、と笑いながら言葉を返す麻耶。

 

 

――ほんとのこと、言ったのだけど。

 

他愛ないやり取り。

しかし、そんなやり取りでも彼女が変わったと感じさせるものがあった。

 

 

――素敵な笑顔じゃない。

 

麻耶はよく笑顔を見せるようになったのだ。

渉や杉並の言動や、少しからかわれる位でも、割と本気で怒ったりする彼女であった。

しかし、そんな麻耶の表情に笑顔が増えていた。

 

きっと、以前であれば杏の言葉を嫌味か、又はからかわれたと思い、怒った様子を見せていただろう。

 

杏が感じていた余裕の無さや、何かに対して目を逸らしてる様な感覚がなくなったのだ。

麻耶に、何か一つの芯が出来たように思えた。

 

いったい彼女に何があったのだろう。

杏には麻耶に何があったか判断することは出来ない。

 

ただ。

良いことであるのは間違いない。

 

 

――ま、誰が関係しているかは、何となく分かるけどね。

 

何があったかは分からないが、

誰が関係してるのかは推測することは出来た。

 

いや、杏じゃなくても分かるくらいに簡単なのだ。

 

だって。

 

 

「おーい、まやー! 早く帰るぞーっ!」

 

ガラリ、と。

クラスのドアが開けながら大きな声で呼びかける存在がいた。

 

麻耶は杏と向き合って話していた為、入り口側のドアとは反対方面を向いていた。

 

しかし、声で誰だか分かったのだろう。

小さいため息を吐いた後、呆れた表情を浮かべ、入り口に振り向きながら話し掛ける。

 

 

「美夏ったら……昇降口で待っててって言ったでしょ」

 

「だってだな、もう十分以上待ったのだ。 我慢できなかったのだ、許せ相棒」

 

「はいはい、仕方ないんだから……もう終わるから、ちょっと座ってて」

 

麻耶と笑いながら話す存在――後輩の天枷 美夏である。

 

そう。

この子が理由なのだろう。

 

よく笑うようになった彼女が、更に笑みを浮かべるのは、この後輩相手だけなのだから。

杏は確信していた。

 

 

――それに、委員長が誰かを下の名前で呼ぶの、初めて聞いたわ。

 

それだけ親しくなったのだろう。

だが、それは良いことである。

 

時折、麻耶は苦しそうな顔を浮かべていた。

それを覚えている。

 

だが、彼女の中にあった何か悲しい出来事は。

彼女の中で、完結したのだろう。

 

 

――ほんとに、良いことね。

 

少し麻耶と杏はクリパの準備の残りのチェックをした後、麻耶は美夏と並んで入り口のほうへ向かう。

杏は彼女たちを見送る為に言葉を掛ける。

 

 

「それじゃあ、仲良く帰りなさい」

 

「えぇ、そうするわ。 さようなら、雪村さん」

 

「おぉ、雪村先輩、またな!」

 

「えぇ、じゃあね」

 

元気よく手を振りながら歩き出す美夏と、それを見て仕方ないと笑みを浮かべながら着いていく麻耶。

 

 

「――あ、雪村さん、ひとつだけ」

 

「何か、忘れてたかしら?」

 

美夏と帰ろうとした矢先、何か思い出したのか、杏のもとに向かってきた麻耶。

何か明日の準備で確認漏れがあっただろうか。

そう杏が考える中、麻耶が美夏には聞こえない程度の小声で言葉を告げた。

 

 

――今日、花咲さんの様子がおかしかったから、気に掛けてあげてね。

 

改めてさようなら、と。

杏に話し掛けた後に足を止めていた美夏のもとに麻耶は歩いていった。

 

 

「……ほんと、どこまで変わったんだか」

 

目を丸くさせながら、杏は思わず呟いていた。

 

余裕が出来たから視野も広くなったのだろう。

また今度、クリパが終わってからゆっくり話したいと思った杏であった。

 

 

――さてと。

 

二人を見送った杏は、目的地に行く。

 

向かう先は、調理室。

調理班のリーダーが最後の確認を済ましてから帰るはずだ。

 

 

――ようやく、話を聞いてあげられるわね。

 

杏は向かった。

桜色の髪の親友のもとへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

episode-35「みんな、誰かを想っていて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調理室。

そこには、見慣れた桜色のブロンドヘアーの女生徒がいた。

 

扉を開ける音に反応したのか、こちらに振り返る。

そして、杏の姿を認識して笑顔で手を振って近付いてくる。

 

そんな彼女の笑顔や様子を見て、杏は気付く。

 

 

「あら……藍ね」

 

「杏ちゃんは本当すぐ分かるんだから」

 

藍は、杏が茜ではなく自分と言い当てられ、嬉しそうに笑いながら近付いた。

 

 

「もうそっちは終わったのー?」

 

「えぇ、教室の準備は終わったから、もう皆帰らせたわ……そっちは?」

 

「こっちも明日の寿司の準備は終わったから皆に帰ってもらったよー」

 

もう、私も帰るとこ。

そう言いながら笑顔を向けてくる藍の表情をみて、杏は気付いた。

 

いや、もとから気付いていた。

確信した、と言った方が良いのだろう。

 

周りが居なくなるタイミングを見計らっていたのだ。

そのタイミングがようやく来たのだ。

 

だからこそ。

彼女は遠慮無く尋ねる。

 

 

 

「……で、そろそろ結果は聞いて、良いのかしら?」

 

杏の言葉。

藍は彼女の言葉を聞いて目を丸くし、そしてまた笑いながら呟く。

 

杏ちゃんはすぐ、分かっちゃうんだから、と。

 

何の結果であるのか。

それを聞き返さなくても、藍には分かった。

 

だから、藍は素直に親友の質問に答える。

 

 

 

「あはは、残念ながらね、ダメでした!」

 

自分では明るい調子で言えた、と藍は思う。

だけど、そんな自身の言葉に、杏は真剣な表情を浮かべてきた。

 

そんな彼女に対して藍は更に言葉を重ねる。

 

 

「ほんとにね……そこまでショック受けているわけじゃ、ないから」

 

「藍……」

 

「だってね、だって、わかってたもん」

 

藍は、杏と心の中で心配する姉に向かってつぶやく。

 

 

――ほんと……わかってたこと、だしね。

 

学園祭のとき。

講堂で割り込みをした後、演奏する渉、小恋、ななかを他所に、義之たちは彼方の元へ向かった。

 

自分たちの行動で誰かが救われたのか知りたかったのだ。

 

そして。

由夢と彼方が二人でいるのを目撃した。

 

途中からだったし、遠目だった。

でも。

 

 

――あぁ、そっか。

 

二人とも涙を流し、互いに顔を合わせて笑っていた姿をみたとき、思ったのだ。

 

 

 

あぁ、わたしが入り込む余地なんてないんだな、と。

 

 

 

わかっていた。

そう、分かっていたのだ。

 

 

「それでも……それでも、どうしてもしたかった」

 

それでも誘ったのは、きっと、けじめを付けるため。

 

中途半端にしたくなかった。

好きなひとが皆に伝えたかった、後悔をしたくなかったのだ。

 

誘ったとき、少し、悩んでくれた。

彼自身は、ちゃんと自分の想いに気付いてなかったのかもしれない。

 

しかし、彼方は何か気付き、本音を語ってくれたのだ。

 

 

 

 

『藍さん、わたしはクリパで誘いたい方が、いました』

 

 

『そのひとの事が、わたしは――――』

 

 

 

 

知っていたけど。

それでも、彼方に直接聞きたかったのだ。

 

だから、良いのだ。

 

むしろ、自分が彼方に気持ちを、想いを、気付かせてあげられたのなら。

それは何だか、誇らしい。

 

だから、親友に告げる。

自分自身で、終わりを。

 

 

「えへへ、藍さんの初恋はこれで終わり!」

 

「……藍」

 

「杏ちゃん、そんな顔しないで」

 

わたし、これでも嬉しいんだから。

藍は心配そうにこちらを見る杏に声を掛ける。

 

 

 

 

――そう、嘘なんかじゃない…だって。

 

 

 

 

「わたし、初めて恋することが、出来たんだよ」

 

本来であれば、幼い頃に亡くなっていた自分。

それなのに、家族と会えた。 友達ができた。

 

更には、恋もすることが出来たのだ。

 

 

『おねえちゃん、はやくツギのページみせて!』

 

『あ、まってよ、あいちゃん!』

 

昔から。

そう、生きていた昔から。

藍は、少女漫画やドラマで恋愛する模様を見て憧れていた。

私も誰かを好きになってみたいのだ、と。

 

でも死んだあと、姉の身体に移ったあとは、それが無理なことだって気付いた。

そもそも、姉の身体だから自分が恋愛してはいけないと思った。

 

 

「でも、ひとりの男性を本気で好きになれたんだよ?」

 

諦めてたのに。

男の子に、本気で恋をすることが出来たのだ。

 

側にいたいなって。

近くで、ずっと寄り添っていたいなって。

 

そんな、小さくない恋をした。

 

 

――嬉しくないはずなんて、ないじゃん。

 

そう、

そうなのだ。

 

それが嬉しくないはずなんてない。

幸せ者なんだって、言いたい。

 

 

――だから、もう満足なの。

 

自分の想いに区切りを付けた、付けれた。

そう、藍は思った。

 

 

「…………えっ?」

 

そんなとき。

ふわり、と。

 

自身が抱きしめられる感触があり、

見ると、杏が抱きしめていてくれた。

 

 

「杏ちゃん……?」

 

「――バカね、叶わなかったんなら悲しいに決まってるでしょ」

 

「そんなこと――」

 

「悲しいから、涙が出ちゃうんでしょ」

 

杏に言われ、藍は自分の目元を触る。

その手には水滴のようなものを付いていた。

 

 

「あ、あれ……おかしいな」

 

その水滴が何か信じられなかった。

 

だって。

だって、それは涙のはずがないんだから。

 

悲しくないのに、涙なんて、と。

 

そう思うのに。

止めることができず、どんどん溢れてくるのを感じた。

 

 

「だって、だって、私はっ――」

 

「いいのよ」

 

背伸びし、ハンカチで自身の目元を拭ってくれる杏。

どんどん視界がぼやける中、それでも優しくこちらを見つめる杏を認識した。

 

自分よりも背が低い彼女であるが、

その表情や行動は、自身より年上なのだと感じさせられた。

 

 

「まったく……、今日はわたしのとこに泊まりにきなさい」

 

「あんず、ちゃん」

 

「いっぱい、思いを吐くまで寝かさないから」

 

それに、と。

杏は視線を藍から扉の方に向きなおす。

 

 

「もう一人、思いを全部吐かせないといけない子もいるしね」

 

「…………えっ?」

 

その視線を追うように藍が入り口に視線を向けると、

そこには俯いたもう一人の親友の姿がそこにはあった。

 

その姿を見てから、杏は呟いた。

 

 

 

 

 

 

「ほんと、見る目ない男たちなんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

――あいつら、どこに行ったー!

 

――逃さないわよ、杉並っ、板橋っ!

 

 

 

「ふむ、板橋よ」

 

「あん、なんだよ……」

 

追ってくる生徒会が通り過ぎるのを確認しながら、声を掛けてきた杉並を見る渉。

 

ここ数日は、この行動が当たり前になってしまった。

渉は、そんな自分に涙が出そうになる。

 

だからこそ、呼び掛けてきた悪友を睨みつけてしまう。

当の本人は全く気にしない様子であったが。

 

 

「貴様はクリパで誰かを誘わないのか?」

 

「……おい、散々巻き込んで追われる俺にそれを言うのか?」

 

「ふむ? それは好きでやってるのだろう」

 

そんなわけねーだろ。

強く言い返してから、慌てて周りを見て生徒会に見つからないか確認する。

問題なかったことに安心しながら、渉は杉並を睨みつける。

 

だが、そんな渉に対して杉並はいつも通りニヤリと笑うだけだった。

 

 

「板橋よ」

 

「今度は何だよ……」

 

また、何かからかってくるのか。

そう警戒しながらも周りを見渡す渉に、先程と杉並は声のトーンを変えずに話す。

 

 

――月島嬢が桜内を誘って断られたそうだぞ、と。

 

それを聞いて素早く杉並に振り返る。

そこには不適な笑顔の表情を浮かべる杉並がいた。

 

 

「おい、なんでそんなこと知ってんだよ」

 

「ふふ、我が非公式新聞部を舐めるなよ。 どんな情報もわーが組織では手に入るのだっ」

 

「そんなデバガメまでしてどーすんだ」

 

呆れたように言いながらも、渉は少し考える様子を見せる。

それを見ながら、杉並は渉にさらに言葉を告げる。

 

 

「ふむ、この情報は、必要なかったか?」

 

「……うっせー、別にそれを俺が知ってどーすんだ」

 

「――誘うチャンスだと思うが?」

 

そう話す杉並に軽く蹴りを入れようとするが、考えた瞬間には距離を離していた為、諦める。

 

そして渉は、杉並の問いに答えた。

 

 

「そもそも、俺は生徒会に追われてんだから無理だろ」

 

それに、と。

天井を見上げ、頭をかきながら何となしにつぶやく。

 

 

「それは何か、違うだろ」

 

確かに月島 小恋のことが昔から好きだ。

付き合えたら、どんなに嬉しいだろうか。

 

笑ってたら、側で一緒に笑いたい。

悲しかったら、慰めてあげたいと思う。

 

でも、振られた彼女に声を掛けるのは、何か違う気がした。

 

 

「それに、杏や茜たちが慰めるだろ」

 

前以上に絆を深めているのを知っているからこそ、

そこに自分が割り込む意味なんてないと感じた。

 

 

「だから、いーんだよ」

 

今は、いいのだ。

 

でも。

もしまた彼女が新しい恋をしようって思ったのなら。

そのときは少し、頑張ってみよう。

 

渉はそう思った。

 

そんな渉の様子を見ながら、ふむと呟き、何か考え込む杉並。

そして、考えた後に杉並は笑いながら渉に言葉を掛けた。

 

 

「まぁ、我が友は童貞だからな、奥手なのも仕方ないな!」

 

「う、うっせー! それに童貞だって言ったらお前だってそーだろうがよ!」

 

顔を赤くさせ、怒鳴りながら言う渉であった。

しかし、怒鳴られた本人は何故かニヤリと笑みを浮かべてくる。

 

 

「えっ、ちょっ、お前っ! 嘘だろ!」

 

「フハハハハッ……さあ、そろそろ生徒会に嗅ぎつけられるから行くぞ!」

 

声を掛ける渉に対し、杉並は笑いながら無視して走り出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、やったっ! やった!」

 

由夢は部屋のベッドに寝転がりながら喜びを噛みしめていた。

 

 

――嬉しいな。

 

彼方を誘えずにクリパの前日を迎えてしまった由夢。

そんな状況だからこそ焦っていた。

 

誘いたいけど、いざとなると緊張してしまっていた由夢だったが、そんな自身に、彼方が先に声を掛けてくれたのだ。

 

 

 

 

 

『あの……、よかったら、一緒にクリパ回りませんか?』

 

 

 

 

どうやって言おう。

そう考えていた由夢の思考が、一瞬止まった。

 

聞き間違いかとテンパりながら彼方を見ると、

彼は少し照れた様子をしており、それを見た由夢は彼方に誘ってもらえたことを実感したのだった。

 

 

 

 

『ぜっ、是非お供させてくださいっ!』

 

 

 

 

 

「明日、楽しみだな」

 

こんなにも明日が楽しみなのは。

やっぱり好きな人と一緒に回れるからだ。

 

デート、と言っても良いだろう。

 

それに。

 

 

――彼方さんも……その、そういうこと、だよね?

 

クリパを誘ってくれる、ということ。

確かに、あまり恋愛に関心があるような感じには見えない彼方。

 

それでも。

それでも、少しはこちらを想ってくれているのではないか。

 

そういう期待がやはり高まってしまう。

 

 

「あぁ、どうしよう!」

 

嬉しい。

緊張する。

どきどきする。

 

でも、やっぱり嬉しい。

 

 

「ちゃんと、眠れるのかな……」

 

心配になってしまう。

だが、ちゃんと寝て、明日を楽しもう。

 

そして、願わくば。

 

 

 

「彼方さんに、想いを伝えたいな」

 

好きって言いたい。

そう、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢だ。

由夢は、自分の状況をすぐに理解する。

 

何度も体験したからこそ、感覚が分かった。

 

だが、いつもと少し違う感覚がある。

 

 

――はじめての、光景かな。

 

何度も同じ光景を見る場合もあれば、

初めての光景もある。

 

今回は、初めての光景だと理解した。

 

 

 

 

『あ、これは……雪、ですね』

 

ホワイトクリスマスですね、と。

嬉しそうに見上げる彼方がいた。

 

そんな彼を見て、胸に暖かい気持ちと、緊張する気持ちがあった。

これは、実際の夢で対面している私の気持ちなんだろう。

 

緊張。

そして、抑えられない気持ち。

 

どうしても、伝えたい。

我慢できない。

 

そんな想いが溢れてきていた。

 

 

――あぁ、わたし、言うんだ。

 

だから、自分が何を言おうとしてるのか分かった。

 

 

 

 

 

『彼方さんっ……わたし、彼方さんのこと』

 

 

 

 

 

 

『嬉しいです』

 

 

 

 

そんな場面だからこそ。

 

彼方の表情が。

彼方の、声が。

 

目に焼き付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でも、ごめんなさい』

 

 

 

 

 

 

『その気持ち、答えてあげられないです』

 

 

 

 

 

 

『だって――――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――もうすぐね、枯れちゃうんだ、桜』

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

本音を言うと、初めに物語を作る上でヒロインとして考えていたのは由夢と藍でした。

複数のルートを書けないのでお話しますが、藍をヒロインとしたときに最期として思い浮かんだのは、病室で藍と彼方が二人で寄り添うシーンです。
古いので知らない方が多いでしょうが、高校教師というドラマの最期のシーンと曲が割と当てはまってました。


さて、次の話がクリパのラストとなります。

また見ていただけると幸いです。

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