随分と間を空けてしまい、申し訳ありません。
存在を忘れてしまったかもしれませんが、
また見て頂けると幸いです。
それでは、本編をどうぞ。
『彼方さんのことが、好きです』
『――あなたのことが、大好きです』
クリスマスパーティー。
その終わりかけでの、学園の屋上で。
朝倉 由夢と初音 彼方はお互いの気持ちを伝え合った。
単純な恋愛物であれば。
想いを伝え合ったふたりは幸せになりましたとさ、と。
そう、終われたのだろう。
だが、彼方と由夢のふたりにとっては、
ここからがはじまりなのかもしれない。
魔法の桜。
彼方の願い。
桜が枯れてしまう、期限。
色々、不安なことは多い。
しかし、あの場で想いを伝えたことに後悔はなかった。
そう。
あの時から。
ふたりは、恋人という関係になった。
―――
――――――
―――――――――
――――――――――――
「か、彼方さんっ!」
非公式新聞部 第二執筆室。
既に学園としては冬休みに入っている中、彼方と由夢は自分たちの部室にいた。
普段とは違い休み期間中ではあるものの、
第二執筆室に彼方と由夢のふたりきりというのは何も珍しいわけではない。
しかし。
「その……、お、お願いがあるんですけど」
いつもと同じかと言われると、部屋の中では少し異なる様相を呈していた。
どこか緊張した面持ちで、由夢が彼方に詰め寄っていたのである。
「こ、これっ!」
「え、えっと……雑誌、ですか?」
いきなり何かを自身の目の前に差し出されて慌てた彼方であったが、少し落ち着いて見てみると由夢が出してきたのは何かの雑誌であった。
――これは…初音島の、観光名所?
由夢が雑誌を開いて見せているので何の雑誌かはハッキリ分からないが、そのページには初音島の色々なスポットが記載されていた。
彼方が自分の見せている雑誌に視線を向けているのを感じ、開いたページの目的の箇所に指を差した。
「その……ここ、行きませんか?」
由夢の差した箇所に視線を向けると、その部分には赤ペンで描いた花丸が付いており、そこには施設の写真と名前が記載されていた。
「サクラパーク、ですか」
彼方が記載の場所を思わず読みあげると、
由夢は言葉ではなく、小さく頷いて肯定の意を示した。
――これって、もしかして……。
雑誌から彼女の方に顔を向けた彼方は彼女の表情を見て胸の鼓動が早くなるのが分かった。
恥ずかしそうに。
そして、どこか期待した表情でこちらを見つめてくる由夢。
彼方は、顔が熱くなるのを感じた。
そんな彼方を見ながら、
由夢は彼方に自身の気持ちを告げた。
「彼方さん……デート、したいです」
これは、彼方と由夢の恋人のはじまり。
その出来事の一幕である。
episode-37「恋人のはじめかた(前編)」
「はぁ……」
由夢は歩きながら、何となしにタメ息を吐いた。
初音島の商店街。
普段、平日の昼過ぎのこの時間は学校があるため主婦や年輩の方が多いのだが、冬休みに入っていることもあり、色々な人々が街を賑わせていた。
そんな中、同じく休みに入っていた由夢も商店街をぶらついていた。
特に商店街に目的があったわけではない。
ただ、少し気分転換がてらに歩いていただけなのだ。
――いや、気分転換ってほどのことじゃ、ないんだけど。
由夢は内心でつぶやく。
そう、何か気が重くなるようなことがあったわけではない。
少しだけ。
ほんの少しだけ、悩んでることがあったのだ。
「かなた、さん」
義兄と同じ学年の男子生徒。
自身が仮所属する非公式新聞部の方。
以前から夢で逢っていた男性。
――そして、自分の想い人。
『――あなたのことが、大好きです』
数日前のクリパでの出来事。
そのときの彼方の言葉を思い出すと、いまでも胸の鼓動が早まり、頬が熱くなる。
そしてそれ以上に、心が暖かくなるのを由夢は感じた。
あのとき、あの屋上でお互いに気持ちを伝え合った。
自身が彼方を好きで、彼方も自身が好きだと伝え合ったのだ。
つまりは。
――恋人でいいん…だよね?
付き合ってください、と言ったわけではない。
でも、想いを伝え合ったのだから恋人関係になったのは間違いないはずだと、由夢は思う。
彼方もそう思ってくれていると、はっきり信じることもできた。
では、何に悩んでいるのか。
それは――――
「おぉ、由夢ではないか! 偶然だなっ!」
「……あ、天枷さん」
自分の名前を呼ばれ、ふと思考の渦から意識を戻す。
すると、其処にはこちらに笑顔で手を振る水色の髪の女の子―天枷 美夏の姿があった。
「こんにちは、天枷さんはお買い物?」
「うむ、ちょっと果物を補充しにな」
今日は特売で安かったから沢山買ってしまった、と。
こちらに沢山果物が入った袋を見せながら笑う美夏。
そんな元気で明るい表情の美夏に、由夢も思わず笑みが溢れる。
天枷 美夏。
少し前に転校してきた少女であり、由夢のクラスメイトである。
席も近く、義兄の義之とも知り合いであったこともあり、自然とよく話す仲になっていた。
「そういう由夢も買い物にでも来たのか?」
「い、いえ……そういうわけでは、ないんですけど」
少し気分転換したくて、と。
あはは、と苦笑いしながら答える由夢に、美夏は首を傾げながら彼女に告げる。
「む……何か悩みがあるなら、美夏が相談に乗るぞ?」
「ありがとうございます。 でも、そんな大したことじゃ――」
ないですよ。
そう答えようとしていた由夢であったが、途中で言葉を止めた。
――ひとりで考えるよりは、乗ってもらった方が良いかな。
もともと、誰かに相談してみようかと少し考えていた。
最初は姉の音姫を考えていたが、いまは生徒会の合宿に行って居ないのだ。
義之や祖父には相談し辛く、環には何回も色々相談してる為、ちょっと遠慮する気持ちがあった。
その為、渡りに船であると思った。
だからこそ由夢は友人にあらためて気持ちを告げた。
「あ、天枷さん! ちょっと相談に乗って欲しいのっ!」
――――――――――――――――――
――はぁ……。
何でこうなったのかしら、と。
期待した表情を浮かべる由夢と美夏を前に、沢井 麻耶はひそかにタメ息を吐いた。
『麻耶、頼む! いますぐ来て欲しいんだ!』
自分だけでは解決できないことがある。
だから協力して欲しい。
そのように美夏に電話越しで懇願されたのは、麻耶が自宅で弟の宿題を見ていたときであった。
『んー、わたし、このあとに明日の準備しないといけないんだけど……』
少し困ったように、彼女は美夏に告げる。
明日の準備とは、風見学園での補習合宿のことである。
これは麻耶だけでなく、とある催しを行った麻耶のクラスメイト全員が対象であった。
『あぁ、そういえば学園に泊まりでボランティア活動をするんだったか?』
『えぇ……、まぁ、仕方ないんだけどね』
SSP(セクシー寿司パーティ)。
麻耶のクラスにてクリパで実施した催しである。
女生徒たちがパジャマ姿で寿司を握る、という普通の学園祭では認められないだろう内容だ。
というか、生徒会に正式に認められたわけではなく、杉並によってバレないように事を進めたのである。
さらには裏メニューとして水着を着ながら接客とかもしていた為、生徒会にバレたことで勿論問題になったのだ。
学園長の温情により、ボランティア活動の補習合宿で済んで良かったと麻耶は安心したのであった。
『というわけで、準備したいんだけど……今日じゃなきゃ駄目?』
『出来れば、すぐにお願いしたい! 友が悩んでるんだっ』
悩む友を助けてあげたい。
麻耶でなければ駄目なんだ。
真剣に告げる美夏に、麻耶は少し間を空けたあと、了承の意を述べた。
そうして、なるべく急ぎで指定の喫茶店に向かった麻耶。
着いた先には、美夏と由夢の姿があった。
『朝倉さん、よね?』
『は、はいっ、わざわざお呼びしてしまって、すみません』
『気にしないで、大丈夫よ』
申し訳なさそうに話す由夢に、麻耶は安心させるように微笑んだ。
『麻耶がいれば由夢の悩みも解決さっ!』
『まったく美夏は……』
自信満々に告げる美夏に、呆れながらも仕方ないなと麻耶は小さく笑った。
何だかんだで頼られるのは悪い気分はしないのだ。
麻耶は目の前に座る由夢に視線を向け、言葉を告げる。
『これでも先輩だし、色々経験してるから少しは力になれると思うわ』
遠慮なく話して頂戴、と。
真面目な表情でこちらを見る麻耶に、由夢は自身の悩みを話し始めるのであった。
――――――――――――――――――
――これでも、力になってあげる自信はあったのだけど……。
麻耶自身、自慢するわけではないが、多少なりとも後輩の相談に乗ってあげる自信はあった。
今まで委員長として真面目に過ごして来たからこそ、学校や勉強面は力になれると思う。
そして、麻耶は誇れるわけではないが、自分でも中々にハードな人生を過ごして来たという自負がある。
たとえば。
父親のこと然り、姉の美秋のこと然り。
だからこそ、彼女から重い話が来たとしても受け止めてあげる自信はあった。
そう、あったのだ。
そういう思いがあったからこそ、
由夢の相談を聞いた麻耶は少しだけ頭を抱えていた。
――まさか、悩みが恋愛の話なんて……。
『そ、その……わたし、最近…お、お付き合いをはじめまして……』
恥ずかしいのか、若干俯きながら由夢の口から麻耶にそのように語り始めたのだ。
話を聞くと、
美夏のクラスメイトである由夢は、学園の先輩に対して何年も想いを寄せていたとのこと。
そして、ここ最近になって同じ部活動に所属することになり、その先輩の側で放課後や休みの日にも一緒に過ごしていた。
そのあとふたりは徐々に関係を深めていき、クリパにて互いに想いを伝え合ったそうだ。
この時点で麻耶は既に戸惑いが隠せない状態だったのだが、由夢の相談はここからであった。
『こ、恋人って、どういうことをすれば良いんでしょうか……』
既にクリパから数日が経つ。
その間に一度も彼と会っていないか、と言われると毎日部室で会っているとのこと。
やはり想いを伝え合ったことを意識してる所為か、目が合うと互いに照れてしまう。
何となく距離感や雰囲気は変わったのだが、以前と行動自体はふたりとも変えられていないのだ。
だからこそ、恋人らしいことをしたいのだが、そのはじめかたが分からない、とのこと。
「そう……、そうなのね……」
すべてを聞き終えた麻耶は、ゆっくり頷きながら考える仕草を見せる。
ただし、外面は落ち着いた感じを装うが、内心では物凄く戸惑っていた。
――わ、わたしに分かるわけないじゃないっ!
麻耶は、生まれてこの方、付き合ったことは疎か、異性に恋をしたこともないのだ。
そんな身で恋愛の話をされても力になれるわけないと自身でも思う。
だからこそ、正直に分からないと告げたいのであるが。
――い、言い出しづらい。 なんで、そんな期待したような視線を向けるのよっ!
自身の話をしてるからか照れてる様子を見せる由夢であるが、明らかに期待しているのが表情からでも伝わった。
おそらく、美夏が由夢に麻耶なら大丈夫だと自信満々に答えたのだろう、と麻耶は推測した。
思わず元凶である美夏に恨めし気に視線を向ける麻耶であったが。
「…………?」
当の本人は、腕を組みながら脳天気にこちらの視線に対して首を傾げていた。
そんな美夏を見て何度めかのタメ息を吐きながらも、麻耶は思考を巡らせながら口を開く。
「その、そもそもだけど、朝倉さんは恋人になってやりたいことは、ないのかしら?」
「やりたいこと、ですか?」
えぇ、と麻耶は頷く。
「友達の関係では出来なくて、恋人の関係になったからこそ、その先輩としたいことはない?」
義務感などでなく、素直に自身が恋人にしたい、してあげたいことはないのか。
真っ先に思い浮かぶのは何か、と由夢に尋ねた。
異性に恋をしたことはないが、誰かを好きになって恋人になったのであれば、したいことがあるのではないかと思ったからだ。
――手作り弁当とか……デート、とかが定番なのかしら。
今までの知識などをもとに由夢が告げそうなことを想像しながら、その場合の次の言葉を考える。
思考は止めないまま、麻耶は由夢にあらためて視線を向けると、彼女の頬が先ほどよりも赤くなっていることに気付いた。
「ど、どうしたの?」
「あの…その……し、したいことは……」
言い辛いのか、言葉を途切れさせる由夢。
そんな彼女の様子をみて、後押しするためか美夏が口を開いた。
「なんだ由夢、したいこと、さっき美夏に言ってたじゃないか」
「あれ、そうなの?」
「あぁ。 由夢が言いづらいなら美夏から言ってやる」
「あ、天枷さんっ!」
明らかに慌てた様子の由夢を気にせずに、美夏は麻耶に言葉を告げた。
「由夢はな、そいつとチューをしたいみたいだ」
あまりの恥ずかしさに、机に突っ伏する由夢であった。
episode-37「恋人のはじめかた(後編)」に続く。
あらためまして、お久しぶりです。
少し今の仕事も落ち着きはじめたので、投稿を再開していきたいと思います。
前回、次の小話をどれにするかアンケートを出させて頂き、20人以上の方にお答えいただきました。
ありがとうございます。
そして、アンケートの結果、小話は彼方と由夢の「恋人のはじめかた」となりました。
他のも見たいと書いてくださった方も沢山いて嬉しかったです。
ただ、残りは本編終了後に描こうと思います。
後半にて本格的に由夢と彼方の恋人のはじまりを描きますので、また見て頂けると幸いです。
では、失礼します。