ザラミの謀反から、三日後…
ロデオソウルズ陣営、司令室。
片桐が足を組み、本を読んでいる。
「コンコン」
「どうぞ」
ドアを開け、ニーナが入ってくる。
「片桐副団長、お客様だ」
ニーナに連れられてきたのは、アスタリスクのマコト参謀だ。
片桐は、人好きする目を少し薄め、マコトを見つめる。
「おや、どうなされました?てっきり、私は戦いの最中だと思っていたのですが?」
マコトは、額にジワリと汗がにじんだ。
「……確かにその通りだ、申し訳ない」
「ははは、そんな、いきなり謝らないでくださいよ、喧嘩両成敗と言いますから。
それに…
まだ決着はついてませんよ?」
片桐は、軽く笑みを浮かべたが、マコトには、その目が全く笑っていない事は、すぐにわかった。
マコトは、この名だたる団の幹部を務めていたという片桐と初めて対峙し、
自分達が、とんでもない男を相手にしてしまっていた事を、改めて後悔をした。
この男はロデオソウルズでは、副団長兼参謀を務めているが、
おそらく全ての実権を握っているのだろうと推測できた。
知性的な容姿と、均整のとれた身体、
穏やかな笑顔の下には、微かに覗く狂気も垣間見える。
そこには、初見の自分にさえ感じる、常人では持てないカリスマ性が溢れていた。
マコトは、これほどの人間を見た事がなかった。
おそらく、この男には嘘やハッタリは通用しないと悟る事ができた。
「片桐さん、実はお願いがあって参った。
誠に身勝手で申し訳ないのだが、一時休戦にしてもらえないだろうか?」
「・・ほう、それはなかなか興味深い話ですね?どうされました?」
「理由は……勝手なのだが、できれば聞かないで頂きたい。
もちろん、タダで休戦しろとは言わない。
休戦を受けて頂ければ、二千人分の食料と医療品の物資を、共に3ヶ月分お渡しする」
「ほう……マコト参謀長殿、一つ言わせて頂いても?」
「…どうぞ」
「では、まずこの「シュラ」には、ルールは存在しないという事を、ご存知でしょうか?」
「…ああ、承知している…」
「よろしい。
では、その中で休戦というものを守る理由も存在しない…という事にもならないだろうか……双方に…ね」
「……」
「それに、我々ロデオソウルズは、今が攻め時だと知っている。
戦いに勝てば物資など、貰わなくとも全て手に入るのだから」
「……」
「そういったことを全て分かった上で、あなた方は休戦を望むのですか?」
マコトの背中は、水でも浴びたかのように、グッショリと濡れている。
「…はい…全て理解した上で、お願いに上がりました」
「よろしい、お受けしましょう」
「!」
「しかし、二つ条件があります。よろしいですか?」
「……何なりと」
「物資は5ヶ月分とすること、
そして、休戦の理由を、隠さずに全てお聞かせ願いたい」
「……わかりました。お話しいたします。
実は……」
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片桐とマコトの会談から、五日後……
クルスムスの援軍要請を受けたオルトロスのソドム総統は、
真柴隊長に命じ、千名を率いさせ出兵。
アスタリスクの本拠地より、30キロ離れた街に逗留。
クルスムス本人からの、伝令を待つ。
真柴隊長は、愛剣のバスタードソードを研ぎながら、司令室で副長のドルアーゴに話しかける。
「ドルアーゴ、クルスムスのやつ、何かあったんじゃないか?」
「連絡が取れないからか?」
「ああ」
「連絡が取れないのは、前線に出ているからだ、
とアスタリスクの団員が言ってたじゃないか」
ドルアーゴは、巨大な僧兵のような出で立ちをし、写経をしながら聞いている。
「確かに、そう聞いたが、よく考えてみれば、
いくら、小団との戦いだからって、あの口だけ番長が、
わざわざ、自分から前線で指揮するなんて、ありえるか?」
「そう言わてみると、確かにおかしいかもしれんなぁ。
だが、何かあったとしたら、何がある?」
「分からんが、もしそうだとしたら、アスタリスクの奴らは、
わざわざ嘘の情報を伝えてきた事になる。
用心しておいた方が良いかもな」
「まぁ、真柴がそういうんなら、一応警戒はしとくが…
しかしちっぽけな団が、巨団オルトロスに楯つくなんて、そんな無謀なことをするとは思えんがなぁ…」
「クルスムスが、オルトロスを立つ時に、ザラミの要請を受けたソドム総統は、アスタリスクを乗っ取る算段を立てていた。
もしかしたら、団長のザラミが納得せずに、逆らった可能性はあるぜ?
自分が築き上げた城を横取りされるんじゃ、キュウソネコカミでもおかしくないさ」
「それでも、俺ならそんな自殺はゴメンだ。
まぁ話はわかった、下の奴らにも伝えて警戒させておく」
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真柴隊の千名が逗留して、三日後……
アスタリスク本拠地の司令室。
参謀のマコトが、ザラミ団長に報告する。
「団長、援軍の真柴隊の動きが完全に止まりました。
もう3日も動いていません」
「何?気づかれたってのか?」
「わかりません、しかし、クルスムス本人からの伝令を待っている様子ですから、
もしかしたら、異変に気づいてるのかもしれません」
「ちっ!どうしたら良い?」
「もし真柴隊が異変に気付き、団に帰還してしまったら、今度は、オルトロスが大軍で押し寄せて来るかもしれません。
そう考えると、ここはまだ千名の真柴隊を叩き、オルトロスに警戒をさせておき、せめて対策を考える時間を作るべきかと」
「真柴隊への勝算は?」
「人数的には五分五分、ただ真柴隊は、巨団オルトロスの実戦部隊です。
クルスムスとは違い、指揮の経験も豊富であり、戦士としても優秀。
それに、巨体の武僧ドルアーゴが副将についています。
船戸隊長なき今、どちらも普通に相手をして、勝てる敵ではないでしょう。
こちらが奇襲をかけてたとしても、優位に立てる保証はありません」
「賭けるしかないか…これも全て俺が弱気になったばかりに起こった事だ
…よし、ここは俺が先陣を切る」
「何を馬鹿な!団長は後ろで指揮をしないで、どうするんですか!
焦って先陣を切り、万が一にも討たれてしまっては、元も子もないんですよ」
「マコト…強敵に向かうのに、当たり前にやっていては、勝てやしない。
大将自ら先陣を切って、団員に男を見せるってのも団長の役目なんだよ!
そうすれば少しでも団員どもの士気もウナギ登りよ!
…お前も、覚えておけ」
「団長……確かに、団長らしい考え方ですね…わかりました、
ただし…俺はおっさんの骨など拾いませんからね」
「へっ…心配すんな…小僧のてめぇより、長生きするつもりだよ。
真柴の墓石を用意して待ってろ!
よっしゃ!お前ら出発だ!俺の後についてこい!」