「ミツイ君…大事な話があるの」
アヤネは、ミツイにしか聞こえないほどの、小声でささやいた。
ミツイは、アヤネのその姿に、ただの話ではない事を悟った。
「アヤネさん……ちょっと出ようか」
「出るって?」
「屋上が庭園になってるんだけど、僕もまだ行った事がなくて」
「そう…ミツイ君は出ても大丈夫なの?」
「ああ…ただまだ歩くのは禁止されてて。
傷が開くからって。
だから、それをお願いしてもいいかな?」
ミツイは病室の角に置いてある車椅子を指差した。
アヤネは、車椅子を持ってきて、ミツイが座るのを手伝う。
「ありがとう」
アヤネは、車椅子を押し、二人はエレベーターで屋上に登った。
庭園は、キレイに整備されている。
イングリッシュガーデンのようになっていた。
アヤネが感嘆の声を上げる。
「わぁ、すごぉい!こんな風になってるなんて思わなかった」
「そうだね、あっちの方だと、海まで見えるよ。
あそこに座ろうよ」
ミツイは、端の方に置いてあるベンチを指差した。
アヤネは車椅子をそこまで押していく。
「私ね、4年間イギリスにいたから、こういう庭園、懐かしいんだ」
「そうなんだ、じゃあ英語もしゃべれるんだね」
「イエース!レッツゴー!」
アヤネは、車椅子を押しながら、走り出す。
「え〜ホント?なんか発音が喋れない人っぽいけど…」
「アハハハッ」
二人は、ベンチの所まで行き、アヤネは腰掛けた。
「フゥ〜、なんか車椅子に乗ってるの、楽しそうだね」
「うん、僕も初めて乗ったけど、楽しいよ」
「じゃあ帰りは交代してね」
「ああ、よろこんで」
二人は顔を見合わせて笑った。
アヤネが、海の方を見ながら話す。
「ミツイ君、どうして外に出ようって言ったの?」
「なんか、アヤネさんの感じが、誰にも聞かれたくない話っぽかったから」
「鋭い。
ミツイ君って、ただのお坊ちゃんのように、見せかけて、
結構、人の事を観察してるんだね」
「別に見せかけてないんだけどね…」
「でも、ホント。
ミツイ君の言う通りでさ、誰にも聞かれたくなかったんだ」
「そう…どんな話?」
「あのね、私には兄がいたの」
「…」
「傭兵だったんだ」
「へぇ…どこの?」
「シノノメ傭兵団」
「え?うち?」
アヤネはうなずく。
「僕も知ってるとか?」
「どうだろ?
もしかしたら知ってるかも…」
「なんて名前?」
「スルガ」
「!?」
ミツイは驚いた。
スルガとは、シノノメ傭兵団の隊長だった男だ。
ミツイより10年ほど年上で、会った事はないが有名な傭兵だった。
他の団でも、シノノメの傭兵の代表格となっていた。
優秀な上に容姿端麗で、その強さは、シノノメの歴史上の中でも、五本の指に入ると言われている。
その為、かなり年下のミツイでも知っている位の傭兵だった。
「知ってた?」
「もちろん、今でも知らない人はいないよ」
「そう」
「じゃあ、どうしてシノノメに入らずに、ツクヨミに入団したの?」
「試験に落ちたから」
「落ちた?アヤネさんが?」
「うん……たぶん落とされたんだと思う」
「え?」
「兄さんが、どうなったかも知ってるでしょ?」
「あっ!」
ミツイは、気がついた。
アヤネの話の意図が、少し見えたのだった。
スルガは、戦闘中に亡くなった。
非常な強さだったスルガが、戦闘で負けて死んだので、
当時は、大きな話題となっていた。
しかも、その戦闘の相手が……ノクターンだった。
「それで話をしたかったのか…」
「ううん…違うの」
「え?だってノクターンが…」
「そうなんだけど、違うの」
「…」
「実は私ね…兄さんを殺したのは、ノクターンじゃないと思うの」