「キメラだ!」
カイトは、叫ぶと同時に槍を手に、キメラに斬りかかった。
しかしキメラは、槍先を爪で受けると、そのままカイトの体ごと、闇の森に弾き飛ばした。
カイトの掛け声に反応して、近くにいた三人の自警団がそれぞれ剣を抜き、
オーッという掛け声を上げながら、キメラに追い打ちをかけた。
しかし、キメラのもう片方の手が煌めき、三人は体ごと、まとめて薙ぎ払われた。
そこで、始めてキメラは動きを止め、自分を取り囲む、人間の数を数えるように、
ゆっくりと周りを見渡した。
その時、マキオの目に映ったキメラは、
大きさは、3メートル、全身は黒い毛に覆われており、
狼にも獅子にも見えるような凶暴な頭部で、曲がった角が生えている。
腕が異常に発達しているようで、長く太いその腕の先にある、手の爪は剣のようだった。
以前、マキオが神社で見た、死体のキメラは例えるなら、トロルのような肉付きの良い体格だった。
しかし、今目の前にいるキメラは、逆三角形のような筋肉質な感じだった。
「捕らえろ!」
自警団の一人が叫び声をあげ、三人がキメラの周りを囲み、
彼らが用意していた大きな網を、キメラに投げ、捕らえようとする。
しかし、その網をキメラは軽く飛び跳ねて避ける。
そして、その着地地点にいた二人の自警団が、斬りかかるが、
また簡単に薙ぎ払われ、それぞれが木に体を叩きつけられた。
次の瞬間、キメラは一気に前向きに跳躍し、10メートル以上は離れていたはずのバニラの目の前に来た。
バニラはすぐに持っていた弓を離し、すかさず剣を抜きぎわにキメラに切りつける。
しかし、バニラの剣よりも早くキメラの右爪が、バニラの身体に、閃光を走らせた。
マキオは、その光景を目にすると、考えるより早く体が動いていた。
腰に差していたククリを、抜き取り、一瞬でキメラに近づき、
流れるような動きで、キメラの右わき腹を切り裂いた。
と、思ったが、バニラを切ったキメラの右手が、今度は戻りながら、マキオを後方に大きく弾き飛ばした。
すると、闇の中から誰かが大声で叫んだ。
「お前ら!手を出すな!!
逃げるんだ!」
その声は、カイトだった。
声と同時に、カイトは闇から槍をのぞかせ、キメラ目掛けて、光のように槍を突き立てる。
キメラは、それを当たる寸前で、体を開いてかわした。
カイトは、かわされる間際に槍を回転させ、キメラを振り抜いた。
が、キメラは上体を後ろにべったりと寝かせ、その反動で跳ね上がる足で、カイトを強く蹴り上げた。
カイトは、上空に高く跳ねあげられた。
そして、木の上の方まで上がると、バキバキと枝を折りながら、やがて地面に叩きつけられた。
キメラの蹴りは、まるでバネの塊のようにしなやかで、強靭な蹴りだった。
その後、四人の自警団が掛け声とともに、キメラに槍を一斉に投げたが、
届く前に、キメラは一瞬の跳躍でかわし、
走り抜けるように四人を切りつけながら弾き飛ばした。
そしてキメラは、周りをもう一度なめるように見渡し、
急に足を曲げて前方に強く跳躍すると、そのまま闇の中に消えていった。
その後には、ザーッと風が草木をかき分ける音が響き、すぐに遠ざかっていった。
マキオは、起き上がりバニラの元に駆け寄る。
バニラは、うつぶせに倒れており、動いていない。
「バニラ!」
肩を抱き仰向けに返すと、防具が裂け、右肩から左のふとももまで、斜めに血がしぶいている。
バニラの意識はない。
胸に手を当てると、鼓動は感じる。
が、その手には熱い血がべったりとついてくる。
「マキオ!」
カイトが連れて来た、団員がかけより、マキオの左肩を押さえる。
ハッと気づくと、マキオも左肩から大量に出血をしていた。
マキオは団員に、
「カイトは!?」
と聞くと、二人の団員が気を失った傷だらけのカイトを担いでいる。
マキオは、バニラの防具を外し、体に布を巻きつけ、止血をすると、
バニラを背負う。
周りには、負傷した数人の自警団がまだ倒れていて、数人がその周りを囲んでる。
マキオは、
「すぐに、街に帰ろう!怪我人を急いで運ぶんだ!」
と声をかけ、街に急いだ。
二時間ほどして、街にたどり着き、すぐに医療班のいる建物に向かった。
ドアを開け、
「助けてください!ひどい怪我をしています!」
そう言って、何度も叫んだ。
すぐに、医療班の班長である柊が出て来た。
マキオは近寄り、急いでバニラの怪我の説明をする。
柊は、ある部屋の明かりをつけて、
「マキオ君、こっちのベッドに運んで!
と言い、手術用の道具を用意しだした。
マキオがベッドにバニラを寝かせると、部屋にコノハが入って来て、
「マキオ君、他の怪我人の搬入も手伝って!」
と、頼んできた。
マキオは、バニラが心配だった為、
「柊さん、バニラを助けてください!」
と叫んだ。
柊は強くうなずき、
「大丈夫!絶対助けるから、コノハを手伝ってあげて!」
とマキオの頰を軽くなでた。
その時初めてマキオは、自分が泣いていた事に気づいた。
マキオは、うなずき部屋を出ていった。
十数分後…。
マキオは、全ての怪我人の収容を手伝っていると、片桐がやって来た。
状況を見た片桐は、何も語らなかった。
マキオが謝る。
「すみません…大変な事になってしまいました」
「いや、謝らなくていい。
それより、マキオさんも怪我の治療を」
そう言って、寝かされているカイトのベッドに向かう。
マキオは、片桐の後ろ姿を見ていると、コノハが、
「マキオ君、肩の怪我を見せて」
と言い、マキオを病室に連れていく。
マキオは、そこで自分の傷を見た。
肩は切り裂かれ、骨まで見えている。
コノハは、麻酔を打ち、傷を消毒すると、針で縫い合わせていく。
マキオは、バニラの事を聞く。
「バニラは…どうなの!?」
「……傷は内臓まで達してる。
今、柊さんが手術をしてるわ。
どうなるかは、私にはわからない」
マキオは、頭がボーっとしてきた。
( バニラが……どうして……なぜ……こんな事に…… )
マキオは、そのままゆっくりと意識が遠ざかっていった。