「……どうなってんだこれ」
目が覚めると其処は三途の河が果てしなく流れる地獄の入り口ーーーではなく、何処とも知らない不思議空間だった。
更に体が幽体ではなく、実体の状態だった。千切れた筈の右腕も元通りになっている。
本当に、一体どうなっているのだろうか。何故か置いてあった椅子に腰掛け、思案していると、
「それについては、私がご説明します。霧雨魔理沙さん」
声が聞こえた瞬間、俺は反射的にその場から飛び離れ、臨戦態勢をとる。
そこに居たのは羽の生えた女性で、先程の態度に驚いているのか、呆けた表情をしていたが、すぐにむっとした表情に変わる。
「……初対面の女性に対して、その態度はどうかと思いますが」
「悪いな、こちとら初対面の女に殺されかけた事も有るんでな。これ位は許してくれや」
嘘は言っていない。実際、出会って数秒で戦闘になった事もあった。
「……まあいいでしょう。さて、お気付きかと思いますが、貴方は死んでしまいました」
分かっていた事なので素直に頷く。寧ろ、あれで死んでいなかったら首を傾げていた所だ。
いや、今も充分首を傾げる状況なのだが。
「……あまり驚かれ無いんですね」
「そりゃあ、分かりきった事に驚く意味もないだろ。それよりも、早く進めてくれ」
「あ、はい。という訳で貴方には選択肢が有ります」
「選択肢?地獄か、天国かを選べってか?」
「いえ、天国か、それとも転生するかです」
「……?」
「えっとですね、実を言うと天国は貴方たちが思っているような場所ではなくて、お爺さんなどが日向ぼっこしているだけの、何もない場所なんです」
「……ん?」
天国とは天界の別称だと思っていたが、どうやら違うらしい。どちらかというと冥界に近いモノの様だ。
「……なら、転生ってのは?」
「転生は主に二つの選択肢が与えられます。ゼロから現代に転生するか、記憶を保持したまま異世界に転生するかの二つです。異世界への転生は諸事情により特典を与える事は出来ませんが、その代わりある程度の支援をさせていただきます」
よく分からないが、つまりはこのまま何もない所でひたすらぼーっとしているか、赤ん坊から人生をやり直すか、このまま異世界で一生を過ごすかを選べって事か。
「ひとつ質問」
「はい、何ですか?」
「異世界に転生した場合、このままの状態で送られるのか?」
何でもないような質問に見えるが、実はそうではない。このままの状態で送られるならばいい。しかし、違うのならば問題だ。成長しきるまで自由に動けないというのも有るが、自分の両親はあの二人だ。違う両親に育てられるというのは、余り喜べない。
「ああ、その事ですか。それなら心配いりません。そういった願い出がなければ、貴方はそのままの状態で送られます。なんなら、そのボロボロの衣服も修復しましょうか?」
「ありがたい。ぜひ頼む。......となると、もう特に要求というか質問は無いな」
言いたい事は言い尽くしたし、これなら異世界でも何とかやっていけるだろう。懸念があるとすれば、面白い奴が居るかどうかだが、異世界なんだし、問題ないだろう。
「それじゃあ、異世界行きで頼む」
「分かりました。では......コホン。霧雨魔理沙さん、貴方の毎日が充実したものに為るよう、陰ながら祈っています」
彼女が指を鳴らすと、足元に魔方陣の様なものが出現する。恐らく、異世界への転移装置なのだろう。天使と思しき彼女は微笑んで、
「それではーーーいってらっしゃい!」
陣が光ると同時に、俺の意識はかき消えた。
ーーーーー
彼の姿が見えなくなったのを見て、私はふぅと息を吐いた。
「不思議な方でしたね……」
アクア様の仕事を受け継いで初めての人とはいえ、自身も天使の端くれ。数々の人間を見てきたと自負しているが、それでも彼の様なタイプは初めてだった。
そして、会話の中で少し違和感を感じていた。会話は問題無く出来ていたのだが、なんとなく噛み合わない感じがしたのだ。まるで、
「さてと、次の仕事は……あれ?」
自室に戻ってきた私を待っていたのは、一枚の手紙だった。宛名を見ると上司からのようだ。封を切って取り出し、手紙を開いて読んでみる。
「……『緊急につき簡潔に伝える。先程、別次元から混入した魂がそちらに向かった模様。そのまま私が向かうまで監視しておくように。くれぐれも異世界に転生させぬよう注意せよ。 ps.対象の生前の名前は霧雨魔理沙』………」
いつも通りの機械的な文面だったが、その内容に私は思わず頰が引きつってしまった。
どうやら、私はとんでもないことをしでかした様だ。これでは陰ながら祈る処か、逆に祈られてしまうかもしれない。
「謹慎程度で済めばいいなぁ......」
これからの事に体を震わせながら、私は大きな溜め息をついた。
時系列的にはカズマが転生して直ぐの所となっています。