機械生命体が相棒に感情について調査させていた
機械生命体が抱きついて震えているとこから
バランスが俺にこんなに近づいたことはなかった。
バランスはいつも俺の知らないことを教えてくれる。バランスが教えてくれることが俺の知識のすべてに等しかった。
しかしバランスは最近になってごくまれにだが、俺に話しかける時に少し引っかかるような顔をすることがある。
その顔は長年付き添った彼にしか分からない。さらに言うと、顔と言っても機械生命体である相棒は口も目も動かない。それでも分かること、感じ取れることがある。
しかし、自分の数少ない感情ではバランスの気持ちの表し方が全く分からない。それが心をもやもやさせる。このもやもやも自分には分からない。
分からないことだらけでもとにかくバランスに声をかけたかった。
「僕は、ずっと、、、」
「バランス、」
「僕はずっと君のことを想ってきたのに!!なんで!どうして君は、そんな風に、、」
バランスは駄々をこねる子供のように、自分よりはるかに暖かくて柔らかい相棒の胸を叩いた。ぽかぽかと力無く。涙の出ないバランスは必死に、自分も聞いたことのないような涙声でナーガの名前を呼んだ。
なぜこんなに相棒は暖かいのだろうか。当たり前のことであっても、今はそれすらも自分の中でたくさんの感情が渦巻く理由にしかならない。機械ではない生命体に対して何も考えたことはなかったけれど、ナーガとずっと行動を共にしていると自分が機械であることを忘れてしまうようだ。それがどう意味するのかはまだ自分の思考回路では解析できてはいないが、いつかそれが分かるといいな、なんて淡い願いを抱いてることに気がついたのはいつのことだろうか。
しばらくするとその声はゆっくりと小さくなっていった。すると、ナーガがしっかりとした声で言葉を発する。
「落ち着いたか?バランス。ゆっくりでいいから、大丈夫。」
「、、、、うん。」
しばらく二人は部屋のソファに腰を落ち着けた。先に声を発したのはバランスだった。
「僕はナーガのことが好きみたいなんだよね」
バランスの声は普段よりも落ち着いていて、今までため込んできた何かを観念してはき出したような言い方だった。ナーガにはそのくらいぼんやりとした雰囲気でしか感じ取れなかった。この雰囲気がこのあとあんなことになるとはこの時のナーガには、いや、バランスですらも分からなかった。
「そうか」
「そうかってそれだけ?!」
「他に何と言えばいいのかわからないし、バランスの言いたいことを聞きたいと思ってたから俺からは何も言うことはない。」
「そうか~~~~~~」
彼の言う通りだ。感情を勉強している最中の彼に今まで自分が教えたことのない感情について意見を求めても何もわからない。そんな分かり切っていたことですら、自分の思考回路の中から無くなってることに気づかないなんて、我ながらぶっ飛んでいる。どこか回路がショートしていたのかもしれない。ため込んでいた何かはまだはっきりと名前を付けることができないが、相棒の言葉によってその何かはふっと吹き飛んでいったような気がする。
「なんていえば伝わるのか僕にも今はあんまりわからないけど~、ナーガにもわかるように言うとね、君がなんて思ってようと、僕は君と一緒にいたい、離れたくないってこと。自分勝手だね、僕。」
「バランスは俺が死ぬまで一緒にいるのか?」
「いるっていうか、いたいの、傍に。僕がナーガにとっての特別でありたいの。」
「俺にとっての特別…。俺はバランスがいなければもう生きてはいけないと思っているぞ。」
いつもの通りに至極まじめに声にした相棒の言葉に我を忘れそうになった。自分が最初に気持ちを口にしていたはずなのに、なぜか今はナーガがバランスに告白している。こんな状況は機械生命体の思考回路ではたどり着けなかった、いや、たどり着きたくても怖くて遮断していた答えだ。それが現実に起こっている。夢のような出来事にもしかしたら本当に自分の回路はどこかがショートしたんじゃないかと不安になってくる。しかしその不安をかき消すようにナーガがバランスの肩を掴む。
「なんでそんな顔するの、ナーガ」
「今、俺はどんな顔をしている」
「くしゃくしゃな顔だよ、笑っちゃうほど」
「バランスが笑っているならそれでいい」
「そんなかっこいい言葉どこで覚えたのさ、イケメン」
「イケメンとは何だ。」
「”イケ”てる”メン”ズ。簡単に言うとかっこいい男の人のことだよ」
「俺はイケてるのか。」
「うん、ごいすーにイケてる!宇宙一のイケメンだよ!!ナーガ!」
努めて明るく声を発したが、自分の声がまだ少し震えていたことに後から気がついた。
いつものような他愛のない話を繰り返していると二人の間に確かな情が芽生える。バランスはこの感覚に身を任せてしまうと自分が自分じゃなくなる気がしていた。その予感はバランス本人よりもナーガのほうに言えたことだった。
「バランス」
「なぁに?」
「俺はバランスと一緒にいたいが、キュウレンジャーのみんなと一緒にいるときはそういうこと言うとハミィに怒られる気がする。」
「うん、そうだね。でもだからってどうしたらいいのさ」
「俺が考えるには、バランスと二人でいるときは存分にバランスを感じればいいと思う。そうすればみんながいても強くバランスを感じれると思う。」
「感じるってどういうこと?ナー」
バランスがナーガの名前を呼び終える前に、機械であるバランスの重量をものともせずにナーガがバランスを抱きかかえた。宇宙でもこれはお姫様抱っこと呼ばれている。
「えっ?!ナーガ?!ごいすーに力持ちだね?!こんなにナーガ力持ちだっけ?僕知らないよ」
「知らなくてもいい。」
「え!どいひー!!」
あっという間にバランスはソファからベッドに移動させられていた。本当に驚いた。相棒がそつなく何でもこなすことは知っていた。そういえば何か重たいものを持つときは自分が操れるコードで持ち上げていた気がしてきた。そんなに自分は相棒に甘かったか。
そんなことを考えてる場合ではない。それどころではない状況が視界を埋め尽くしていた。
「ナーガ、残念だけど僕は機械だよ?」
「もう俺はバランスと一緒にいるときは少しも離れたくない。」
「聞いてる?」
「…」
「硬くて冷たいよ、僕の身体」
「今は俺が熱いからちょうどいい」
今度はナーガがバランスに抱きついていた。それも全身で好きを表す動物のように。自分よりも10cmほど大きい身長の男が機械の身体がきしむほどに抱きしめていた。
またも抱きしめているところで終わりました。すいません。
次で終わりです。
ちょっと久しぶりにたくさん頭回転させて語彙力の無さを痛感しました。