短編集︰されど、この恋は終わらず。   作:いろはにほへと✍︎

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悲観主義者は風に恨みを言う。
楽観主義者は風が変わるのを待つ。
現実主義者は、帆を動かす。

―ウィリアム・アーサー・ウォード―



はるのんは手に入れたい。前編

 「やっはろー」

 

 やけに明るい声が耳に入った。

 

 俺が昼飯を食べようと、ファーストフード店に入ってすぐだ。

 

 普段なら、悪意のような、殺意のようなオーラのこの人に気づかないわけはないのだが今日はどうしてか見抜くことが出来なかった。

 

 「……なんすか。雪ノ下さん」

 

 横目でちらりと覗き見ると、陽乃さんはいつもの笑みを浮かべて立っていた。

 

 「何言ってんの。最近毎日会ってるじゃない」

 

 陽乃さんは少し目を細めて、からかうように言った。

 

 毎日って……。

 

 だがあながち間違っていない。

 

 最近、陽乃さんはよく俺の前に現れて、俺に付きまとってくる。

 

 あれ? ストーカー?

 

 もう一ヶ月以上、ドライブに連れていかれたり、付きまとわれてるし、やっぱり通報した方が……。

 

 「もしかして、比企谷くんってストーカー?」

 

 「いや違うから。俺がストーカーされてるから」

 

 「まあいいや。今日、ここで会ったのも何かの縁だしうちに来ない?」

 

 「……は?」

 

 × × ×

 

 「…………」

 

 思わず息を呑む。

 

 断る俺をよそに連れてこられたのは高級住宅街に煌煌と佇む一軒の大豪邸。

 

 外観は和風。

 

 いや、和風というか超和風。

 

 なんか、もうアレだ。

 

 超凄い。

 

 「どーしたのー? 比企谷くん」

 

 「いや別に。というかどうして俺は連れてこられたんすかね」

 

 「そんなの決まってるじゃなーい。雪乃ちゃんのことだよ?」

 

 「なるほど。だから、私がここで叫んだらどうなるか分かるよね? って脅したんですね」

 

 「まあいいよ、入りましょ」

 

 「いや良くないんですけど……」

 

 陽乃さんは俺の言葉を聞かずに、自宅へ入っていく。

 

 俺はそれを見計らうと、ここまで来れば叫ばれても問題ないと思い、走り出す体勢に移る。

 

 だがそれはかなわなかった。

 

 魔王は視界が三百六十度なのだろうか。

 

 肩を掴まれてしまった。

 

 こうなれば逃げる手段はない。

 

 顔を窺うように見ると嫌な笑みを浮かべていた。

 

 また何かドSなことでも始めるつもりか。

 

 そう思って動向を落ち着いて見守ると、陽乃さんは突然重たい雰囲気を醸し出し始めた。

 

 まさか、本当は何か別の話があって俺を呼んだんじゃ……。

 

 そう考える俺の思考を遮るように、陽乃さんは重々しく口を開く。

 

 「……ねえ比企谷くん」

 

 「……なんすか」

 

 ご機嫌を取り損ねないよう、短く返す。

 

 

 「……いつか私を助けてね……」

 

 

 「………」

 

 いや、それ。俺じゃなくて妹の黒歴史……。

 

 というかなんで知ってるの……。

 

 そう思ったのも束の間。

 

 「私、本物が――」

 

 「ごめんなさい」

 

 「さ、早く入りましょ」

 

 「はい……」

 

 発言権を無くされた俺は、黙ってついていくことしか出来なくなった。

 

 中に入ると、また一段と凄かった。

 

 しゃ、シャンデリア? とか、中央に続く階段とか、レッドカーペットとか……、まさに金持ちを具現化したような家だ。

 

 というか靴はどこで脱げば……。

 

 「比企谷くん。こっちこっち」

 

 見れば、魔王がこちらに手招きしていた。

 

 逆らう手立てもなく、村人Aである俺は仕方なくついていく。

 

 少し進んで、突き当たりを左に曲がったところで部屋に案内される。

 

 誰の部屋か分からなくて、反射的に尋ねた。

 

 「えっと、ここは誰の……」

 

 「ああ、ここ? ここはねぇ、雪乃ちゃんのお部屋」

 

 「帰ります」

 

 「冗談よ。私の部屋よ」

 

 「帰ります」

 

 また、ノータイムで返すと陽乃さんは少し悲しそうな、どこか憂いを帯びた表情になった。

 

 「……きっと話せばもっとわかるんだって思う……」

 

 いきなり言われて、戸惑う。

 

 言外に何かを伝えたいのだろうか。

 

 「でも、多分それでも分かんないんだよね。それで、多分ずっと分かんないままで、だけど、なんかそういうのが分かるっていうか……。やっぱりよく分かんないや……。でも、でもね……、あたしさ……」

 

 ここまで言われて、やっと気づく。

 

 「いや、それ俺の黒歴史じゃないですよね」

 

 「そうだっけ?」

 

 何でもなさそうな顔で陽乃さんが言う。

 

 「いやあたしとか言ってんじゃないすか」

 

 「あはは。まあいいや」

 

 陽乃さんは乾いた笑みで呟くと、俺を部屋に押し込めて離れていく。

 

 「じゃあ、お茶入れてくるから待っててねー。……お姉さんの部屋、荒らしちゃダメだぞ?」

 

 「はいはい」

 

 俺がすかさず面倒そうに返すと陽乃さんはすぐに部屋から出ていった。

 

 ったく。どこに監視カメラ付いてるか分からない魔王の部屋荒らせる訳ないだろ。

 

 天帝の目も持ってるみたいだしな。

 

 まあ今日は傀儡のように弄ばれないよう、静かにしていよう。

 

 × × ×

 

 五分ほど待つと、陽乃さんがコーヒーを二つ持ってきてくれた。

 

 砂糖たっぷり入れたからね、と言いながらコーヒーを渡され、一口飲んでみると、甘さはマックスコーヒー以上だった。

 

 まじで病気になるんですけど……。

 

 恨みがましく、陽乃さんを見るが気づく様子はない。

 

 いや無視してるのか。

 

 まあ出されたものに文句をつけるのも野暮だろうと俺はそのまま飲み続けた。

 

 お互い黙っていて、沈黙が流れる。

 

 陽乃さんは見た感じ機嫌が良さそうだ。

 

 それで、今日はなんで連れてこられたんだと、尋ねる前に陽乃さんの真意を忖度する。

 

 だがこの人はいつも気まぐれで動くし、思い浮かぶことは少ない。

 

 それでもその完璧さ故に、やはり裏を疑ってしまう。

 

 「どうかしたの?」

 

 にこにこと笑みを浮かべて、陽乃さんは俺に問う。

 

 「いや、なんで連れてこられたのかと」

 

 コーヒーをかき回しながら問い返す。

 

 陽乃さんは一口、コーヒーを飲むと、はあ、と一息ついて口を開いた。

 

 「雪乃ちゃんの話だってさっき言ったじゃん」

 

 言いながら、その表情はどこか固い。

 

 「嘘っぽいですけど。それで雪ノ下の何を聞きたいんすか」

 

 「えーっとねー」

 

 陽乃さんは話を引き伸ばすように、間延びした口調で話し続ける。

 

 「なんでそんな変な喋りかた……」

 

 言いかけて、視界がぐわんと揺れる。

 

 なんか、とてつもなく眠たい……。

 

 そう思って間もなく、俺はそのまま床に倒れ込んだ。

 

 そして意識が離れる前に、ぽつりと呟かれた声が耳に入った。

 

 「……おやすみ、比企谷くん」

 

 甘さは隠すためか……。

 

 × × ×

 

 ふふ、と思わず笑みを浮かべる。

 

 緩んだ頬はなかなか戻らない。

 

 まさか、私が年下の子に好意を抱くなんて。

 

 そう思ったのも既に一ヶ月前。

 

 比企谷くんはもう、私にとって魅力そのもの。

 

 今日こそものにして大学の皆に自慢しないと。

 

 私はそう決意すると、眠っている比企谷くんに視線を移した。

 

 この子、最近、雪乃ちゃんやガハマちゃんだけじゃないくて一色ちゃんとかめぐりにも狙われてる節があるからなあ……。

 

 ……まずは縛るか。

 

 

 




最近、語彙力あがった気がする(笑)

雪ノ下陽乃は基本何でもありだから!!
ちなみに、別にメンヘラ設定はないです。

今週は
元中二病同士の青春ラブコメ?
静かに二人の後輩は決意する。
更新しました。

是非目を通してください!
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