とある魔術の絶対重力‐ブラックホール-   作:プロジェクトE

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ぶっちゃけ、前回の投稿の際には実はこの話は書きあがってました・・・


第14話 限界突破への練習曲 ~etude~

7月23日 早朝

神無月有真(かんなづきゆうま)は朝から出かけていた。

「ここか・・・」

携帯の地図アプリを見ながら着いたのは築十年と経っていない雰囲気のなかなか新しい建物。

大きな門の向こうには警備室があり、警備員が怪訝(けげん)な目で神無月を見ていた。

一見すると中小企業の事業所といった外観だ。

しかし、企業の事業所になど神無月の用事があるわけがなく、やはりこの建物も事業所などではなかった。

ここは|大規模能力観測調整研究所《だいきぼのうりょくかんそくちょうせいけんきゅうじょ》、広範囲もしくは破壊力の大きい能力者の能力データを測定し、その結果に応じてその能力者にあった力の使い方を考えてくれたり、その力を応用できる分野がないかを模索(もさく)してくれる場所だ。

言うなれば、研究所にカウンセンラーもしくはオペレーターが付いているようなものだ。

この建物は大規模な干渉力のある能力者を対象にしている施設であるため、防音や消音といった技術の浸透している第二学区に建てられている。

第二学区はエンジンや爆発物、兵器やシェルターの開発も行われており、他の学区に騒音の影響が出ないように防音技術が高い学区になっている。

神無月たちの住む第七学区とも隣接しているため、防音は神無月たち学生の生活にとっても非常に助かっているのだった。

また、そのような防音性の高い学区であるため、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の戦闘訓練場もこの学区にある。

そして、そんな第二学区にある大規模能力観測調整研究所から神無月に呼び出しのメールが来ていたのだ。

ただ、呼び出しと言っても強制力のある呼び出しではなかった。

つい先日行われた能力測定(システムスキャン)でレベルアップが確認されてから、ここの所長から遊びに来るような気分でいいから一度来てくれないかとメールが飛んできていたのだ。

どうやらここの研究所では身体検査(システムスキャン)で大規模な能力の発現が確認された学生や、能力の上昇で今までよりも格段に能力が上がった学生にメールを出しているようなのだった。

そのメールを送られる基準はおおまかに強能力者(レベル3)以上の学生に絞られてはいるようだが、神無月はこのたびの身体検査(システムスキャン)超能力者(レベル5)に上がっている。公的な記録だけ見れば低能力者(レベル1)から一気に超能力者(レベル5)に駆け上がっているのだ。

そしてそれに引っ掛かった神無月の所にもメールが来たというわけだった。

興味のなかった神無月は今までそのメールを放置していたのだが、この間の魔術師、ステイル=マグヌスとの戦闘で危機感を覚えた為、このたびここを訪れることにしたのだった。

 

 

「まあ、一応呼ばれたとはいえ警備室は通しとくべきだよな」

誰にともなく一人つぶやき、神無月は警備室で(くだん)のメール画面を開きながら、警備員に話しかける。

「すみません、ここの所長さんからこういうメールをいただいて来た神無月って言う者なんですけど、所長さんに連絡入れてもらうことって出来ますか?」

50代くらいの年齢の警備員は神無月の携帯の画面を見ると、首をうんうんと軽く振り、

「ああ、今回の身体検査(システムスキャン)で新しく所長がメールを送った学生さんですね、分かりました。今電話を掛けるから少し待っていてくださいね」

「わかりました」

すぐに警備員は内線電話に四桁ほどの番号を打つと、受話器を耳にあてた。

「・・・・・・、こちら警備室です。所長、今こちらに神無月君という学生が・・・、ええ、ええ、所長からメールを頂いたと、はい、分かりました。では、正面玄関の方に、はい、お願いいたします」

受話器を置くと警備員は、指をさす。

「あそこに見える正面玄関分かりますよね? そこから入ってください。すぐに所長が来ると思いますので」

「分かりました、ありがとうございました」

「いえいえ、頑張ってください」

「・・・・はい(頑張る・・・?)」

何気なく警備員に言われた一言が気になる神無月だったが、別れ際の挨拶の一環だろうと気にしないで正面玄関に向かった。

 

 

警備員は神無月を見送る。

彼もまた何かの事情があってここに来たのだろう、そう思ったからこその頑張ってという言葉だった。

大抵の学生は、研究所から呼び出しのメールが来ても実際に訪れたりなどなかなかしない。

こんな呼び出しメールに応じる学生は、なかなかに状況が切迫している者か、余程の物好きかだ。

ここの研究所は身体検査(システムスキャン)でレベルが上がった学生や能力が強くなった学生に対してメールを送る。

つまり、力が伸び悩んでいる学生がここを訪れることはない。

そして、警備員は神無月に『余程の物好き』特有の自信や力に対する傲慢さを感じなかった。

つまり、警備員にはこの時点で神無月がこの研究所を訪れてまで成し遂げたい、もしくはさらに高みを目指すべき事情があることを理解したのだった。

警備員は神無月が正面玄関に入って見えなくなると、警備室の中に戻った。

長年警備員をやっていると真剣な思いでここを訪れる学生がたまにいる。

今年で54歳になる警備員にしてみれば、自分の3分の1も生きていない学生がどんな思いをもってここに来るのかは、能力者でもないので分からないが、やはり思うところはある。

(彼はこの研究所で何か得ることができるのだろうか。出来得ることならここが彼の望みに至る道でありますように)

そう思うのだった。

 

 

神無月が正面玄関に入ると待ち構えていたのはいかにも研究者といった感じの細身の老人、ではなく、愛嬌(あいきょう)のよさそうな恰幅(かっぷく)の良いおじさんだった。

「ようこそ、大規模能力観測調整研究所へ。歓迎するよ、神無月君。私がこの研究所の所長、博田研一郎《ひろたけんいちろう》だ」

ほぼ髪の毛が真っ白になっているが、60歳くらいにもなっていないだろうと神無月は見た。

人間は頭を酷使すると白髪が増える傾向になりやすいという。

もちろん、遺伝や食べ物なども関係があるだろうが、この年配の男からは頭を使っているから白髪が多いという感じだった。

「はじめまして、お招きに預かり光栄です。私は神無月有真といいます、以後よろしくお願い致します」

「はっはっは、若者がそんなにかしこまらなくていいよ。肩肘張らずにもっと、フランクにいこうじゃないか」

「わかりました、じゃあ、所長さん。あ、所長さんと呼んでも?」

「ああ構わない、所長さんでも、博田でも、研一郎でもかまわないよ」

「所長さん、今日俺が、おっと、わたしがここにきたのは」

いつもの癖で自分を俺と呼びかける神無月。

「一人称は俺で構わないよ?君は私の客人なのだからもっと普段通りにしてほしい。能力者にとって大きな意味を持つ自分だけの現実(パーソナルリアリティ)は自分という一個人の個性や内面で自らの世界を規定するものだ。一人称も君個人の大事な個性。私に対して不要に委縮(いしゅく)することもない。ここでは君の個性に不要な圧迫を加え、君の力を(さえぎ)る要因を極力減らしたい。だから、もっといつも通りの君でいてくれ」

「な、なるほど、そういうことなら。あー、ごほん、率直に言いますと、俺がここに来たのは自分の力を強くするため、もしくは強くなるきっかけはあればと思いここに来ました」

「君は超能力者(レベル5)だ、君が今以上に強くなりたいと思った理由を教えてもらえるかな?もちろん、嫌だというならいいんだ。君の事情を深く詮索(せんさく)するつもりはない。ただ、君のような高位の能力者の考え方というもの一つのケースとして知っておきたくてね。それはもしかしたら今後ここを訪れてくれる能力者の答えになるかもしれない」

神無月は、少し考え込むと口を開く。

「まあ、隠すようなことではないので言いますが、自分と同じくらいのレベルの相手とぶつかりまして、危機感を覚えたんですよ。勝負に勝ちこそしましたが、自分の知り合いや友人を今後も確実に守れる自信が欲しい、そう思ったんです」

神無月の問いを真剣そうな顔でフムと聞いていた所長は神無月をまっすぐ見た。

「なるほど分かった。君の力を求める理由しかと聞かせてもらった。ただ、高位の能力者にありがちなことだが、例えば君が友人を守れなかったからと言って深く悩みすぎないでほしい。君の友人がどう思っているかは分からないが、君が守れるのは君の目の前で起こっていることだけだ。高位の能力者は多くのことができるが万能ではない。守れることもあるし、守れないことだってある。すべてを自分の所為だと背負い込む必要はない。そうやって、いろいろなものを背負い込みすぎた高位能力者が能力を使えなくなっていく事例を私も何件か見ている」

「・・・・・・」

「まあ、これもわたしの考え方だ。押し付けるつもりはない。一つの考え方と思ってくれればいいさ。もちろん、これは君を追い返すために言っている訳では無いからね」

「了解です」

「じゃあ、さっそく君の相談に乗りたいところではあるんだが、まずは君の能力を知らなきゃならない。立ち話もなんだし、まずはこの研究所の案内でもしながら、君の能力の測定場所に案内するよ」

「分かりました、お願いします」

そして、二人は研究所の中に入っていく。

 

 

来客用スリッパに履き替えた神無月は幅の広い廊下を博田に案内されながら進んでいく。

廊下のところどころに窓があり、その向こうでは能力者の少年少女たちが能力の測定や能力を試行錯誤(しこうさくご)して使おうと頑張っている。

神無月が廊下の窓を覗き込むたび、所長が説明をくれる。

「ここはプールになっていてね、ところどころに浮き島があるんだ。水流操作系の能力者や潜水が必要な能力の使用などに使っているね。または周囲を燃やしてしまう可能性のある発火系の能力者のトレーニングができる。今いる彼はついこの間ここに来てくれた発火能力(パイロキネシス)の持ち主なんだが、大能力者(レベル4)でね。周囲に被害を出さないようにするため、ここにきてトレーニングしているんだ。ここのプールは地下まで使って水深8mまであるから安心して練習できるんだよ」

そして、廊下反対の窓を覗き込むと、

「ここは発電能力者のための部屋だね。内部の壁面全てにアースが取られていて、放電量や放電時間、電圧、電流などを測ったりできる。壁の一部には磁力計もついているため、磁力の測定なども可能になっているんだよ。高位の能力者になれば磁力で壁に張り付いたりできるから、その時間なんかも測定できるんだよ」

窓の向こう側にはいろいろな能力者用の設備があった。

火炎放射器のような設備が火を瞬時に点け、それに向けて能力で操った水をぶつけている少女がいた。ガラスの地面にマス目のように光ファイバが走り座標が描かれていて空間移動(テレポート)で物体を思い通りの所に飛ばせるか練習している少年がいた。周囲の壁に穴が開いていてそこから速度も方向もランダムにボールが飛んできて、それを目を閉じて避ける練習をする予知能力の少女がいた。ここの施設の大勢のスタッフに向けて一度に違う思念を送ろうと悪戦苦闘している念話能力(テレパス)の少年がいた。さまざまの元素結晶や金属を置いた部屋では物体の形を変形させて剣や盾などの武器の形状に変質させている少女がいた。

「本当にいろいろな能力者のための施設があるんですね」

「そうだね、ここでは能力を観測するところからスタートするからね、まず能力を思う存分使える環境を用意しなければ始まらないのさ。さあ、君の練習場はここだよ、入ってごらん」

指示された場所に入ろうとした神無月は立ち止まる。

「ちなみにここ入っても大丈夫ですよね?」

「もちろん、当たり前だろう?」

なぜ神無月が入るのに躊躇(ためら)ったかというと、案内された部屋の地面に問題があった。

氷だ。一面氷だった。

先ほど発火能力(パイロキネシス)持ちの少年が立っていた。浮島付きプールと同等の広さのプールを凍らせてあった。

それだけなら、問題はなかったのだが。

凍っているのは数センチだけのようで下の水が動いているのが、氷を通して見えるのだ。

「あの、ちなみにここってドッキリとか仕掛けられてないですよね?踏んだ瞬間に氷が割れて氷水の中にダイブするとか嫌ですよ俺」

「心配しなくても大丈夫さ、よくテレビとかで見ないかい、凍った湖の上で氷上の穴の中に釣糸を垂らしてワカサギ釣りをしている釣り人の姿」

「まあ、見ますけど。実際にこういう氷に乗るのは初めてなんで」

「最初不安に思うのは分かるけど大丈夫さ。この氷は透明度が高いから薄く見えるけれど、それでも20cmは厚みがあるし、表面の摩擦係数(まさつけいすう)を上げる処理を(ほどこ)してあるから滑って転んだりもしない、ただ逆に滑って遊んだりするには適さない。スケートなんかも難しい。

ただ、割れても瞬時に冷却材が流れてきてすぐに元通りになるから安心して砕いてくれて構わないよ」

「本当にいろいろと凄いですね、流石に北極圏の海に飛び込むに等しいダイブはしたくないんで足元の氷を吹き飛ばしたりはできないですけど」

「まあ、そのあたりは君に任せよう。じゃあ、君の能力を見せてもらえるかい?」

「分かりました。所長さんは俺の能力をどこまで知っているんですか?」

「まあ、大雑把にだね。重力制御の能力で絶対重力(ブラックホール)と呼ばれていることくらいかな。ちなみに確認なんだが、君はブラックホールを作れるということで間違いはないんだね?」

「はい、ちなみにこの氷上に的になりそうなものを作ることは可能ですか?」

「もちろん。少し見ていたまえ」

ちょっと得意げに所長がタブレットPCのような端末を操作すると、今までまっ平のスケートリンクのような氷上に突如、神無月の視線の先、10mくらい離れたところに高さ3mほどの小さな氷山が横一列に4つ下から生えてきた。

「・・・・・・本当になんでもありですね」

「いやいや、これも学園都市の技術力のおかげだよ。我々はこのシステムを買っただけだからね。じゃあ、君の力を見せてもらえるかな?」

「分かりました、行きます」

神無月が手を氷山の一つに向け、下に振った。

ただそれだけの動作でグシャバキバキと大きな音を立てて氷山の一つがぺしゃんこになった。

「今のは何を?」

「今のは指定した座標の重力を大幅に強化することでその場にある物体を押し潰したり、押さえつけたりする基礎的な力の一つです。今回は破壊目的だったため、重力を100倍程度に上げました。あの氷山をざっくり横幅5m、高さ3mの円錐と仮定すると、重さは大体20t、重力を100倍にしたので、あの氷山にかかる負荷は2000tになりました。だいたい軽量の電車一両分くらいの負荷を掛けました。重力10倍でも壊せるかなと思ったんですけど、壊せなかったときに恰好が付かないと思ったんで」

「いきなり一ケタ増やさなくても良かったと思わないでもないが・・・、発動できる範囲は?」

「発動できる範囲は目視できる範囲に限られますね今のところ、重力の感知能力はありますが、能力だけの感知では少し怪しいので目視など五感を含めた範囲でしか使わないようにしています」

「ちなみに複数の的に向けて同時に使うことはできるのかい?」

「可能ですが、固定の的なら10箇所同時がたぶん限界です。動く的になると3・4箇所が限界ですね。演算が追い付かなくなるんで。的が密集しているなら一度の広いエリアを選択して発動させたの方が楽ですね。ただ、的以外のものにも作用させてしまいますが」

「なるほど、そこも今後の課題というわけだね。とりあえず、他の力も見せてもらえるかい?」

博田がそう言うと先ほど壊れた氷山のあった場所にすぐに次の氷山が生えてきた。

「了解です」

 

 

それから神無月はいろいろな能力を見せた。

5mにもなる大きな重力剣。指先から粒子状にしたブラックホールをビーム上に射出する粒子性吸引型重力子砲。重力を肉体に作用させ高速で移動する力。重力制御による飛行。ワームホールによる空間歪曲術。ブラックホールを肉体にまとわせて触れるものを消滅させる力。ブラックホールで壁面を作る盾とする力。球体の重力弾。

神無月の使ったことのある力をほとんど見せたところで博田は休憩にしようといった。

休憩所にやってくると博田は研究所内の自販機から神無月の分もジュースを買ってきて神無月に手渡す。

「とりあえず、お疲れ様。君の力を測定させてもらったが、出力は申し分ないと言える。ただ、やはりネックになってくるのは力の大きさゆえの演算処理負荷が大きいことだろうね。そして、発動させる力の数が増えると演算負荷も指数関数的(しすうかんすうてき)に増えていく。そこで今後の方針は三つある。」

博田は人差し指を立て神無月の目の前に差し出す。

「まず、一つ目は複数の的を想定した力の扱いに慣れること。まあ簡単に言えば、動く的を少しずつ増やして脳内の演算処理を最適化していくというものだ。これには時間がかかると思う。訓練の中で演算を最適化するきっかけをつかめるかどうかは申し訳ないが、君しだいということになる。こちらとしては訓練の場を与えることだけになってしまう」

そこで博田は言葉を区切る。そして一瞬言うべきか言わざるべきか悩むような動作をしたのちにもう一度口を開いた。

「ただ、演算の最適化は昔から考えられえてきたことのため、全く何もないかと言われればそうでもない。学園都市第一位の演算処理を模倣しての演算の最適化に臨んだ暗闇の五月計画の資料をあるルートから入手しているんだ。その演算方法の情報(データ)を君に見せることはやぶさかではないが、あの計画はある程度の効果は出したものの実験全体では失敗だったと聞く。だから、あまりお勧めはできない。自力で演算の最適化のきっかけをつかんでほしいと思う」

そして、博田は中指も立て、2本の指が神無月の前に示される。

「二つ目は、操作能力を上げること。君はブラックホールを球状以外の形にとどめておく力があることを見せてもらった。剣や壁、ビーム状に放射することもできていた。私の提案としては操作しやすい形状を探し、それを操作することだ。今の君のブラックホールの制御法は、ブラックホールを生じさせることと消すこと、それを飛ばすことの3種類しかない。粒子性吸引型重力子砲あれは強力ではあるが、まっすぐしか飛ばないし。剣も同様に掴んで振るっている分にはいいが、投げたら投げたでまっすぐしか飛ばない。一言でいうと君の能力は強力なわりに扱いが雑だ。触れたものを消滅させる絶対重力(ブラックホール)の力、追尾させるだけでもかなりの脅威となるだろう。もちろん、これにもかなりの演算処理が必要になる。まずは君の扱いやすい形を見つけてほしい」

博田は3本目の薬指も立てる。

「最後に三つ目だ。これは今までの複数対象の狙う同時演算や、操作を伴う大規模演算とは毛色をことなる提案だ。まずはこれを見てほしい」

先ほど氷山を操作していたタブレットの画面を博田は神無月に見せる。

 

「えっと、ライスナー・ノルドシュトルム・ブラックホール?」

 

「そう、これが私の三つ目の提案。今までの能力の応用ではなく、全く新しい力の発現だ。君は今までその力でいろいろなものを吸い込んできていると思う。空気はもちろん。車を切ったこともあるんだったね。それらの吸い込まれたものはどうなるのか。それは吸い込む際のブラックホールの性質によるんだ。これは気が付いていたかな?」

「いえ、あまり考えてはいなかったことです」

「ただ、本能的に理解はしているのだと思う。普通ブラックホールの莫大な重力に曝された物体はその力で潰されてしまう。しかし君は先ほどワームホールを作って見せたね?あれは普通のブラックホール、つまりシュヴァルツシルト・ブラックホールとは異なるカー・ブラックホールと呼ばれるものだ。通常ある一点を特異点として球状にその力を広げるのがシュヴァルツシルト・ブラックホールで、その特異点がリング状になっているのが、カー・ブラックホールなんだ。そのリング内を通ることで空間転移と同様の働きをしている。一説にはそのリングを通ることで時間すら超えることができるとされているが、あくまでうわさに過ぎないのかもしれないな。おっと、話がそれたな、それではライスナー・ノルドシュトルム・ブラックホールとは何かだが、ブラックホールに吸い込まれた物体はどうなるのか、通常莫大な重力に曝された物体は原子レベルを超えて崩壊する、通常のシュヴァルツシルト・ブラックホールでは吸い込まれたものは質量だけを残して何も残らない、しかし、ライスナー・ノルドシュトルム・ブラックホールは違う。原子内部の電荷と質量が残るんだ。質量は基本的にエネルギー変換されるわけだが、電荷が残っているということはそれを放出させるとどういうことが起こるかわかるかな」

「俺は、電撃を放つことができる・・・?」

「その通りだ。もちろんこれにはそれなりの物体を吸い込んだ後でという制約は付くものの、君が今まで気にせず吸い込んできた物体分の電荷は放出できる可能性が残っている。もちろん電撃使い(エレクトロマスター)のように自在に電気を操れるわけでは無い。言うまでもないが、君の本質が重力制御だからだ。ただ、ある程度電撃を放つ方向くらいは重力制御で操れるかもしれないが、それでも方向くらいだ。しかし、溜め込んだ電荷の量によっては放射する電気量は電撃使い(エレクトロマスター)すら凌駕(りょうが)する可能性がある」

一気に話した所為か、ふうと大きく息を吐く。

「以上、三つがこれからの君の特訓の方針となる。どれを選ぶかは君次第だが、どうする?」

聞かれた神無月はニヤリと不敵に笑う。

「所長さん、俺は割と欲張りです。食べたいものは食べるし、欲しいものは絶対手に入れたい。」

一度言葉を切り、神無月は宣言する。

 

「そして、強くなるために俺はここに来たんです。強くなるために提示された方針が三つだというなら、それはもちろん三つ全部やるに決まってるじゃないですか」

 

所長の博田は神無月の宣言を聞いて笑いながら問う

「はっはっは、本当にやるんだね?一つの方針だってクリアするのはなかなかハードだって分かっているかい?」

「問題ないです。いえ、問題があってもどうにかします。だって、ここには強くなるために来たんですから」

「いいだろう、君の覚悟確かに見せてもらった。では、休憩後からすぐにビシバシやって行こうじゃないか」

「あ、その前に・・・」

「なんだい?」

「そろそろ、昼飯にしたいんですが」

朝からここにきていたが、時刻はもう12時を回っていた。

 

 

「うし、エネルギー補給も済んだし、さっそく訓練を始めましょうか」

研究所の食堂で意気揚々と席から立ち上がる神無月の前で昼食を食べていた所長の博田は机の上に鎮座する空になった食器の数々を見て唖然としていた。

「ああ、構わないが、本当にこれだけの量を食べて動けるのかい?なんなら、食休めのような休憩時間を取ってもいいんだよ?」

テーブルの上には皿が1枚、2枚、3枚、・・・たくさん!

といったように、ちょっと普通では考えられないような量の皿が並んでいる。

神無月をよく知るものなら慣れてしまっている光景だが、初めて見る者には圧巻の光景だったようだ。

まあ、毎度のことながら、昼食として主食は一皿、今回は大盛りのカツカレーだけだが、ここの食堂ではデザートが頼めたため、この有り様となっていた。

「いえ、時間はいくらあっても足りるとも限らないですし、早めに始めておくに越したことはないです!さっそく始めましょう」

「あ、ああ、分かった。行こうか」

神無月の妙な気迫に押されて博田は頷くしかなかった。

博田が立ち上がろうとしたその時、

「博田所長!」

食堂の出口付近で一人の少年が声を張り上げた。

そして、ズンズンという足音が聞こえるかのように、博田の元にやってきた。

「所長!今日は俺の訓練の様子を見てくれるのではなかったのですか!?午前中は所内を案内されているようでしたので諦めましたが、午後まで来ていただけないのですか!」

赤髪で見た目からして不良のような感じが漂っているが、その眼は芯のありそうな心が見て取れる年の頃は神無月とそう変わらないようだった。

「あ、ああ、火野坂(ひのさか)君、もちろん君の訓練も見るさ。ただ、今日はここに新しく来てくれた彼、神無月君の訓練も見なければならないからして―――」

「では、結局俺の訓練は見ていただけないということですか!」

「いや、そんなことは・・・」

所長、しどろもどろである。

そして、火野坂と呼ばれた少年の視線が神無月に向く。

「それになんですかこいつは。新入りか何か知りませんが、所長がつきっきりになる必要はないでしょう!食べるもんは一丁前に食べてるみたいですが、こんななよっちい奴なんてここにいてもどうせ何の成果もあげられませんよ!」

「こら、火野坂君そんな言い方はやめなさい。君が急く気持ちも分かるが―――」

「分かっているなら、見てください!俺は一刻も早く超能力者(レベル5)にならなきゃならないんです」

超能力者(レベル5)?」

今まで素知らぬ顔で我関せずを突き通していた神無月は超能力者(レベル5)というその言葉に興味を持った。

「所長さん、彼は?」

分かった分かったからと火野坂と呼ばれた少年をなだめる博田に神無月は無遠慮に尋ねる。

「神無月君、すまないね。彼は火野坂雄路君、大能力者(レベル4)発火能力者(パイロキネシスト)で本来なら今日は彼の能力測定に付き合う予定だったんだよ」

「なるほど・・・」

一人神無月は数秒考え込む。

「所長、そんな奴に俺の紹介なんてしている暇があったら俺の測定をしてください」

と、神無月が考え込む後ろで火野坂は博田に詰め寄る。

そして、さらにヒートアップする火野坂。

それをなだめる博田。

だから、彼らは気が付かなかった、後ろで神無月はニヤリと笑ったことに。

 

 

「所長、そんな奴放っておいて来てください。どうせ、大したことない奴なんでしょう?」

「いや、彼は―――」

神無月について話そうとする博田の前に勢いよく手が出た。

その動作で博田の言葉が止まる。

その一瞬で、博田の前、つまり博田と火野坂の間に神無月が体を滑り込ませた。

そして、いままで傍観を決め込んでいた神無月が街中にいるヤンキーのような態度で火野坂にさも喧嘩を売るように言う。

「いきなり出てきて、人のことをなよっちいだの成果があげられないだのと失礼な奴だな。火野坂とか言ったか?お前こそ、きちんと成果とやらが出ているのかよ?」

「あ?出てるに決まってんだろ、だからわざわざ所長にまで訓練を見てもらおうとしてたんだよ!」

いがみ合いに突入する神無月と火野坂。

「だったら、その成果とやら俺にも見せてくれよ!相手になってやるよ」

「はっ!誰がてめえなんかに能力を使うかよ。てめえを殺しちまったら、俺が犯罪者になるだけで俺にメリットがねえだろうがよ」

「なんだよ、逃げるのか?やっぱり口だけのお坊ちゃんか?」

神無月の明らかな挑発に火野坂はこめかみをひくつかせる。

「あ?どうやら本気で死にてえみてえだな、お前」

「無理無理、お前程度じゃかすり傷一つ負わないね」

「ち、言わせておけば、調子に乗りやがって」

「言わせておけばって、はっ、全然言わせておいてねえじゃねえか」

「上等だ、コラ。今すぐ、ちょっと第一測定室に来いよ。俺の実力見せてやるよ」

「いいぜ、先に行って待ってろよ。なんなら、遺書書いて、トイレで大小済ませてきっちり死ぬ準備整えてきたっていいぜ」

「てめえこそ分厚い遺書でもしたためて遺産分配も考えてからゆっくり来いや」

そして、火野坂は肩を怒らせて食堂を出ていった。

博田は呆然と火野坂の出ていった扉を見ていたが、彼が出ていったことではっと我に返る。

「ちょ、ちょっと、神無月君!こ、困るよ、いきなり能力使用の勝負なんて、彼の能力はともかく君の能力をフルバーストされたらうちの研究所が全壊(フルバースト)しちゃうよ。お願いだから熱くならずに冷静になってくれ、たのむこの通りだ」

頭を下げる博田。

それに対して神無月はポンポンと博田の肩をたたく。

「所長?頭を上げてください。俺は怒ったりしてませんよ」

博田が顔を上げると神無月は笑っている。

「え、あ、そうかい?私はてっきり」

「怒ってないですけど、能力を使った勝負はしますよ」

「え゛・・・ちょっと、待ってくれ。君は怒ってないんだよね?」

「はい、というより、熱くなっている彼なら少し煽れば乗ってくるだろうと思ったんで」

「き、君は何をしようとしているんだい?」

神無月は少し真剣な顔をする。

「所長さん、俺がここに来た理由さっき言いましたよね。同じくらいの強さの相手とぶつかって危機感を覚えたって」

「ああ、聞いた。それがどうしたんだい。・・・まさか、彼がその相手なのかい?」

博田の見当違いな質問に神無月は小さく笑う。

「いえいえ、そんなことはありませんよ。ただ、その相手って炎を使う相手だったんですよ。しかも再戦の可能性もまだ結構残ってるもんで、それに近い状態の戦闘の経験は積んでおくに越したことはないんですよ」

「じゃあ、熱くなって殺し合いをしようとはしてないんだね?ブラックホールを考えなしにばらまいたりはしないんだね?」

「大丈夫ですよ、多分」

「多分!?ねえ、今多分って言った?多分って言った?」

神無月の肩を掴んでガクガクゆする博田。

「大丈夫ですって、俺に殺意はありませんから。向こうが殺しに来る可能性はあるかもしれませんがね。まあ、大丈夫ですよ」

「そうか、それなら、いいんだが」

「それより、所長さん?」

「な、なんだい」

「俺たちの戦闘をきっちり、測定お願いしますね」

「俺の方も、もちろん彼の方も」

ビックリした顔をする博田、そして吹き出す。

「ぷっはっはっは、君は大物になりそうだな。いやー、本当に来てくれてうれしいよ。いいつながりができて良かった」

「いえいえ、神無月有真をどうぞご贔屓に」

「こちらこそ、大規模能力観測調整研究所を今後ともご贔屓に」

互いに笑う神無月と博田。

「それでは私も測定用の機材を動かす準備に入るから」

「ええ、お願いします。あ、そうだ」

「ん?まだ、なにかあるのかい?」

「さっきの今後の訓練方針を聞いてちょっとやってみたいことができたので、彼との戦闘で少し試してみることにします。だから、そこも含めて測定お願いしますってことを伝えたかっただけです」

「ほう、もう何かできそうなのかい?」

「いえいえ、ちょっと試したいことがあるだけですよ」

「ほう、興味深いね。お手並み拝見かな」

「それはとても緊張してしまいますね」

「はっはっは、とても緊張しているようには見えないねえ」

「そうですか?まあ、ちょっくら行ってきますよ」

「分かった。だが、すぐには始めないでくれよ。こちらの機材の準備が間に合わない」

「了解です」

そして博田と別れた神無月は、とりあえず休憩所でジュース一本飲んだ後、第一測定室の扉を開くのだった。

 

 




後書きコーナー

作者:はい、毎度おなじみになりつつあるあとがきコーナーです。さあ、本編ですが、オリジナル展開第2話目に突入しました。前話は日常的な風景をピックアップした感じになりましたが。今回は打って変わって修行編です。修行編というほど長くはないですが。力不足を感じた神無月君ですが、とある研究所までやってきました。まあ、書いている途中で思いましたが、まあ、説明くさいセリフの多いこと多いこと。なんといっても、新キャラがまた二人増えてしまいましたからね。特に研究所の所長。説明キャラとしては優秀ですが、彼の説明台詞を入れるといきなり登場人物一人当たりの喋る長さが一気に長くなりますね。それはそれとして―――

神無月:って、いつまで喋ってるんだよ!所長のセリフが長いって話したその舌の根も乾かねえうちからお前のセリフまで普段の倍以上に長くなってるじゃねえか!

作者:別にいいだろ?俺が登場するのなんてここくらいしかないんだから、好きに語らせろよ。

神無月:まあ、たしかにあとがきなんだからお前が語るのが、筋と言えば筋なのか。

作者:というわけで、俺が語るぜ!では、驚きの新発表!今度、いや、今度と言ってもいつになるかわからないわけだが、このとある魔術の絶対重力(ブラックホール)の番外編を書こうかと思っています。ドンドンパフパフ―――♪

神無月:番外編?

作者:主人公はなんと神無月―――ではありません!

神無月:まあ、番外編なんだからそうなんだろうな。そうすると、美琴あたりか?

美琴:出番があると聞いてきたわ!

神無月:美琴、お前すごく出番に執着するようになったな・・・

美琴:本当に出番少ないから執着もするわよ

作者:まあまあ、美琴先生は本作のヒロインですから安心して待ってくださいよ。

美琴:う、分かったわよ。で、番外編の主人公は私ってことでいいのね?

作者:うん、残念ながら、違いまーす。美琴先生ではありません!

美琴:そ、そんな(ガクリと崩れ落ちる美琴)

作者:だって美琴先生、超電磁砲のほうで主役やってるじゃん。

美琴:そ、そうだけど・・・

作者:というわけで、美琴先生が主役ではありません。まあ、ただ出演はするから安心してくれな?

美琴:グス、ほ、ほんとに?

作者:本当本当、出演キャストは今のところ、主人公役のキャストと神無月と超能力者(レベル5)全員はほぼ出演決定、あとは数人のキャストを誰にするかが悩みどころなんで、現在ちょっとずつ詰めていっているところです!

神無月:ちなみに、わざと言っていないんだろうが、なんていうタイトルで始めるつもりなんだ?

美琴:あ、確かにそれは気になる。

作者:気になる?気になっちゃう?

神無月:うわ、うざいな

作者:ちなみに、番外編といっても、世界観は大きく異なるんですよー。登場キャラがとある魔術の絶対重力(ブラックホール)のキャラですが。

神無月:つまりそれは番外編というかスピンオフってことなのか?

作者:そうです。そのとおり、題して、Index/kaleid liner プリズマ☆最愛です!

神無月:うおーい!スピンオフでしかも別原作のスピンオフまで混ぜてきやがった!しかも、今まだ絶対重力(ブラックホール)の本編では登場してないキャラが主人公ってことか?

美琴:え、有真には分かるの?最愛ってなに、え、人名なの?

神無月:あ、知らない人だとそういう反応になるのか。ま、まあ、人名だな、うん。とりあえず、今は気にするな。

美琴:う、うん

神無月:え、というか、ガチ?

作者:ガチです。

神無月:というか、お前クロスオーバーもの嫌いじゃなかったか?世界観が壊れるという理由で。

作者:確かにそれはあるんだが、どちらかというとクロスオーバーした結果、他の原作の最強技を持ち出してきて無双させているのが嫌いなんだよ。だって考えても見ろと、命がけで銃の撃ちあいしている世界の中で主人公がいきなり王〇財宝(ゲートオブ〇ビロン)とかやりだして無双するとか、興ざめもいいとこじゃん?他の奴ら出す意味がないし、それだけで終わっちゃうじゃん。戦国時代もので核ミサイルぶっ放すような行為じゃん。

神無月:まあまあ、お前の考えは分からんでもないが、そう否定ばかりするなよ。

作者:どうせやるなら自分で設定も考え抜けよって言う話。あとはクロスオーバーすると技の強弱とかが分かりにくいからかな。どちらの世界のどの技が強いのか、どちらが優先されるのかとか。だから、あんまりガチの奴ではやりたくなかったんっだけど。けど、大元の路線を今回はプリヤに設定しているわけで、どちらかのいうとギャグ路線でいく感じだから気にしないことにしました!

神無月:あー、なるほどね。

作者:というか、ぶっちゃけ、最愛がプリヤの服着て、それを誰かに見られて顔を真っ赤にしているという構図が見たかっただけです。

神無月:こいつ、本音をぶちまけやがった。

作者:と、いい時間になりましたね。さあ、次回予告へLet’s GO!あ、そろそろ予告にもなれた?カンペは今回無しで行ってみようか!ではどうぞ。え、誰がやるかって?神無月と美琴先生に決まってんじゃん。ほら、どうぞ。

美琴:え、ちょっと、私予告やるの初めて、だって、え、もう、カメラ回ってる?ああ、もう!
(精いっぱい笑顔を作る美琴)
ええと、では、今回楽しんでいただけましたでしょうか?次回も神無月の活躍に目が離せませんね。えっと、次回は私の出番があればいいんですが・・・
と、とにかく、読者のみなさんが楽しんでもらえたら、それで―――えっと、えっと・・・
えっと、では次回は、第15話 誰かの為の即興曲 ~impromptu~
お楽しみにー
って、なんで、有真は何もしゃべってないの!

神無月:初めての予告に緊張で焦ってる美琴先生、萌えー

美琴:何そのヤル気の無い棒読みのいい加減なセリフ!

作者:いいよ、いいよ!俺はありだと思うよ!ちょっと言葉に詰まってる感じとか、ちょっと硬い笑顔とか初々しくていいよー!

美琴:こんなところでそんなふうに褒められても恥ずかしいだけだからやめて!

神無月:作者は感想・評価お待ちしております。彼のモチベアップのためにも書いてくださるとうれしいです。さて、それでは、また次回お会いしましょう、されではまた(・ω・)/

美琴:有真は有真でさらっと閉めようとしてるんじゃなーい!
え、ちょっと、ホントに終わり?カメラさん撤収していくの早くないですか、ちょっとー!
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