とある魔術の絶対重力‐ブラックホール-   作:プロジェクトE

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第02話 そ…そりゃもちろん……私が勝ったらよ

 

「はあ、はあ、はあ、やっと撒いた・・・か?」

「不幸だ・・・なんで特売の今日に限ってビリビリに追いかけられるんだ・・・」

もうすっかり日の暮れた川の土手の上で神無月有真(かんなづきゆうま)上条当麻(かみじょうとうま)は荒くなっていた息を整えていた。昼間の身代金要求事件直後から御坂美琴(みさかみこと)に追いかけ続けられたせいなのだが、美琴に追いかけられたのは神無月と上条が二人して美琴のことをビリビリと呼び続けたせいだった。しかし、二人とも美琴の怒った理由に気が付いていない。二人から言わせれば美琴がなぜ電撃を放ちながら追いかけてきたのかさっぱり分からないということだった。二人とも鈍さにおいては超鈍感者(レベル5)である。

「なあ当麻、なんであの・・・ビリビリだっけ? あの子は俺たちを殺す勢いで電撃をぶっ放しながら追いかけてきたんだ?」

当麻は疲れたように答える。

「俺だって知るわけないだろ。 いつもああやって追いかけてくるんだよ」

「じゃあ、今回も当麻が自分で気が付かないうちに何かしたんじゃないのか? 俺はそれに巻き込まれたとか?」

上条は首を振る。

「いや、今までもこういうことはあったけど、近くにいただけで追いかけまわされた奴はいなかったはずだ」

「じゃあ、俺たちがあの子の気に触るようなことをしたってことか?」

「何をしたかまでは分からないが多分・・・」

どこまでも鈍感な二人だった。

「そういえば、当麻ならあの子の電撃打ち消せるだろ。 逃げる必要なかったんじゃないか?」

そう上条当麻の右手には、幻想殺し(イマジンブレイカー)という『異能の力』ならそれが何であれ問答無用で打ち消せる能力がある。例えそれが2億ボルトの電撃だとしてもはたまた3000度の炎球でも、それが『異能の力』なら例外なく打ち消してしまう。しかし、その力のおかげで上条の能力は万年無能力者(レベル0)だ。測る対象である能力を打ち消す能力のため上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)は測れないのだった。

「おまっ、人ごとだと思って! 一回打ち消すのにどんだけ寿命が縮む思いをしてると思ってるんだよ。 あんなの何度も打ち消してたら寿命が無くなっちまう」

上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)は能力に対して絶対的な力を誇るがその恩恵を受けているのは右手首より先だけ。つまりそれ以外の場所に能力をぶつけられようものなら防ぐことなど出来ない。また、上条の能力は『異能の力』そのものにしか作用しない。例え3000度の炎の球を防げても炎の球に砕かれたコンクリート片は防げない。なので、上条は『異能の力』を一回防ぐたびに神経をすり減らしているのだ。

「それより、神無月こそビリビリの電撃を防ぐくらいできるんじゃないのか?」

神無月有真は絶対重力(ブラックホール)と呼ばれる超能力者(レベル5)の重力制御能力者だ。自分の指定した物体・現象にかかる重力を操ることや、何もない空間に重力を発生させることができる。神無月の重力は時空間を(ゆが)めるほどの大きなものからただの空気が入った風船を浮かせる程度のささやかなものまであり、用途に応じて力の制御を行うことができる。そのうちの大きな力に類するものが黒い剣であり、銃弾の動きすらもほとんど止めてしまうような時間への干渉である。黒い剣は巨大な重力である絶対重力(ブラックホール)を剣の形に生成したもので、剣の表面に触れたものだけに絶対重力(ブラックホール)の影響を与え、触れたものを吸い込む。この剣は触れたものにしか影響を与えないため物体にこの黒い剣が接触した場合、接触した部分の原子を吸い込むことにより物体を切断することになる。また原子単位での吸引のため斬られた物体の切り口はすさまじく鋭くなる。また、重力は強力になると時空間を歪めるため時間すら遅くすることが可能。その結果が銃弾すらほとんど止まった状態にするのである。

「そりゃ、確かに防げるか防げないかで問われれば防げるかもしんないって答えるけど、俺はあの子の能力の全部を知っているわけじゃないからそんな命を賭けた勝負(ロシアンルーレット)なんてできるわけないだろ! その点、当麻はどんな能力でも防げるじゃん。 それにあんな怒りのあふれた形相(ぎょうそう)で追いかけられたら・・・逃げるしかないだろ」

「防げるかもしれないんだったら上条さん一人のせいにしようとするのはおかしくありません? 神無月は超能力者(レベル5)なんだから少しはやる気を見せてくれてもいいじゃん!」

「そもそも当麻は俺を置き去り(スケープゴート)(生贄とも言う)にして逃げたじゃんあれはひどくないか?」

二人はだんだん喧嘩腰になる。

「しょうがないだろ。 ビリビリは―――危険なんだから」

現役女子中学生を危険と言うこともどうなのかと言ったところだが、彼女は元学園都市第三位にして現学園都市第四位、武装した軍隊の一個小隊(いっこしょうたい)(三十人~四十人)どころか一個中隊(いっこちゅうたい)(約二百人)を相手にしても勝ってしまうほどの実力の持ち主だ。テロどころか小規模な戦争が起こせるレベルの戦闘能力をもっているとやはり危険と言われてもしょうがないという気もする。そんな力を持っているあたり流石(さすが)超能力者(レベル5)と言ったところか。

「危険だって分かっているところに友達を置き去りにするなよ」

「しょうがないじだろ! 特売に行きたかったんだから!」

「当麻は俺の命より特売を選んだのか!? ・・・まあ、いいや。 これ以上言い争ってても疲れるだけだ。 せっかくビリビリを撒いたことだしまた見つかる前に帰るか・・・」

「そうだな・・・特売のお肉が買えなかったし、これ以上無駄なエネルギーは使うのは止めよう・・・」

急にばからしくなった二人は寮への道をとぼとぼ歩いて行くのだった。

 

 

「・・・ただいま」

「あら、お姉さま今日の追いかけっこはずいぶんと速く終わりましたのね」

神無月と上条が家路(いえじ)につく頃、美琴は二人を完全に見失ったため常盤台中学女子寮に帰ってきていた。そこにはすでに風紀委員(ジャッジメント)の仕事を終わらせて先に帰ってきていた白井がいた。

「うっさいわね~しょうがないでしょ見失っちゃったんだから・・・あいつら今度会ったら真っ黒焦げにしてやるんだから」

そういって美琴はベッドに倒れこむ。美琴にとって能力を使いながらの追いかけっこは非常に体力の消耗が激しいらしく、疲れていた美琴はベッドに倒れこむなりすぐに深い眠りに落ちていった。疲れて帰ってきた割に美琴の顔は随分と嬉しそうな表情だった。白井は最後の方は独り言となった美琴の言葉を聞いていて思う。

(やっぱり、たのしそうですわね。 ご自身では気付いていらっしゃらないのでしょうけど追いかけっこの後のお姉さまはなんだかいきいきしていますわ)

一方で白井は少し悔しくもある。美琴にこんな顔をさせることのできるのが自分ではないことに。

(今日のお姉さまの追いかけっこ相手は確か、今日で会った神無月有真と言う名前の超能力者(レベル5)と上条当麻という二人、このどちらかがお姉さまにあんな表情をさせられるのでしょう・・・はっ! まさか恋!? お姉さまに限ってそんなこと・・・いえ、敵の過小評価はいけませんわ。 あの二人について行動を調べなければ! お姉さまは絶対に渡しませんわ!!!)

神無月と上条は自分たちの知らないところで一人敵を作ってしまったようだった。

 

 

「OK 寮入口までの進路クリア、ビリビリはいない。 当麻、後方は大丈夫か?」

「こっちもOK、大丈夫みたいだ。 後ろからビリビリがくる様子はない」

神無月と上条はビリビリに姿を見つけられないようにこっそりと第七学区にある自分たちの寮まで来ていた。そう神無月と上条は同じ寮に住んでいる。同じ寮の同じ階だ。同じ学校に通う学生たちは同じ寮に住むことが少なくない。学校からの距離や交通の便を考えても同じもしくは近い寮になることが多いのだ。ちなみに上条と神無月のクラスメイト土御門元春(つちみかどもとはる)(義妹を愛してやまない金髪グラサン男)も同じ階に住んでいる。というより上条の部屋の隣の部屋が土御門の部屋である。

「ふぅ、やっと着いた~」

「ホントにな。 俺はてっきり当麻の事だから不幸の一環とかでビリビリに見つかる、なんてことをやらかすかと思ってたんだがそうならずに済んで助かった」

「人をどんだけ不幸だと思ってんだ」

「ん、食費の入った財布を丸ごと無くすレベル」

「・・・・・・」

この件に関しては何も言い返せない上条だった。上条は不幸体質なのだ。どのくらいの不幸体質かと言えば、目覚まし時計が朝鳴らなくて遅刻しそうになるのは当たり前、道端で何の理由もなくケンカは売られるし、折角2時間も並んで買った特売品の卵を帰宅途中に落として割るし、クラスで大勢が宿題を忘れても怒られるのは上条だけだし、色々な事件に巻き込まれること多々ある。上条の日常には、すでに不幸は組み込まれているといっても過言ではないほどに毎日何らかの不幸が上条を襲う。今日の不幸はビリビリに追いかけまわされて特売品を買えなかったことだった。

「いやホントに上条の不幸っぷりはギネスブックに乗せられるレベルだからな。 登録内容は連続して不幸の起こった日数」

神無月の口調や表情が悪意のあるものだったら上条も怒れるのだが、神無月の表情にはただ事実からの感想を述べただけというものであったため言い返せない上条は うわーーーーと泣きながら7階にある自分の部屋に飛び込んで行った。ときに真実は悪意ある言葉より人を傷つけられることを知った上条だった。

 

 

身代金要求事件(みのしろきんようきゅうじけん)から一夜明けた日の放課後、神無月は近くのコンビニに来ていた。

「今日発売の『はちみつレモンヨーグルトのホイップカスタードシューロール』は売り切れてないだろうな」

神無月はかなりの甘党である。こうしてコンビニで新しいスイーツが発売される情報を聞きつけると即座に買い求めに来る。普段なら朝一で買いに来るのだが今日は寝坊したため、起きて、着替えて、即登校となったためこの時間である。神無月は学校への遅刻はあまり気にしないタイプなのだが今日の1時限目は小萌先生の化学(ばけがく)の授業だったため急いで登校する羽目(はめ)になった。小萌先生とは神無月の通う高校の女化学教師であり、神無月の担任でもある。名字は月詠、名前は小萌で月詠小萌(つくよみこもえ)だ。なぜ神無月がこの先生の授業に遅刻しないようにしているのかというと、それはこの先生は遅刻したらものすごく怒るとか、ものすごい量の課題を出してくるとかそういうことではない。小萌先生は身長135cmでどこからどう見ても小学生にしか見えない、教卓の前に立つと首から上しか見えなくなる、とんでも幼女先生(ようじょせんせい)だ。もちろん小学生ではなく年齢は少なくとも20を超えている。この先生は神無月が授業に遅刻すると涙目で『神無月ちゃんは先生の授業きらいなんですか?』と聞いてくる。するとどうなるだろう。クラスメイト全員から『泣かした』『小萌先生を泣かした』と非難(ひなん)視線(しせん)()(そそ)ぐ。神無月は一度その失敗をしてしまってからは小萌先生の化学の授業だけは遅刻(ちこく)しなようになったのだった。そんなこんなでこの時間だったが、甘味(かんみ)コーナーには、まだ『はちみつレモンヨーグルトのホイップカスタードシューロール』は残っていた。コンビニの商品の入荷を知り()くしている人間は多くはなく、ここまで甘そうな名前の菓子を即座(そくざ)に買おうという者もあまりいなかったためである。

(さて、家に帰ってこいつをおいしくいただ―――)

と考えているとコンビニの入り口から誰かが入ってきた。

「・・・あっ・・・」

「・・・あっ・・・」

コンビニの入り口から入ってきた誰かと目があった。ううん、目が疲れているんだな。じゃなければこんなところで常盤台中学の制服を着た昨日あたりに電気をビリビリ飛ばしてきたお嬢様らしき人物がいるはずが無い。

「ってアンタ、私の存在はそんなに目をゴシゴシ(こす)ったって消えないわよ! 『アレーおかしいなー』って顔をするな、何気(なにげ)に失礼じゃない」

いくら目を擦っても目の前のビリビリは消えなかった。

「これじゃあ、当麻のことを不幸だとは言えないな・・・はぁ」

「人を不幸の権化みたいに言って溜息ついてんじゃないわよ。 それに昨日はよくも人のことビリビリビリビリ言って逃げてくれたわね。 今から真っ黒焦げになるまで電撃(でんげき)()びせさせてあげるから遺産分配(いさんぶんぱい)考えとけやコラァ」

これがお嬢様の実態なのかと思うと物悲しくなる神無月だった。」

「だって・・・実際にビリビリしてんじゃん」

「そう、そんなに黒焦げになりたいのなら今すぐ黒焦げになりなさい!」

その瞬間美琴の髪が電極(でんきょく)のようにバチンと火花を散らし、そこから青白い光が槍のように発射された。美琴と神無月の距離は2mもない。こんな近距離で、いや近距離じゃなくともとんでくる雷を()けるのは人間業じゃない。普通の人間にはそんなことできない、しかし神無月は無傷で立っていた。火傷どころかかすり傷一つない。美琴の『雷撃の槍(らいげきのやり)』は神無月の突き出された右手によって防がれていた。神無月の能力は重力制御だ、ある特定のものだけに重力を作用させられる。今は、電撃のみに作用する重力で絶対重力(ブラックホール)を形成しそれを右手に(まと)うことで美琴の『雷撃の槍』を吸い込んだのだった。絶対重力(ブラックホール)と言っても神無月はその形を自由に変えられるため必ずしも球体とは限らない。今発生させた絶対重力(ブラックホール)にしても手の表面を覆うように形成されており、見た目には黒いペンキに突っ込んでしまった右手という具合だった。少し見ただけの人なら黒い手袋を付けているだけのように見えるかもしれない。その黒い右手の重力に引かれ美琴の雷撃の槍は他に被害を出さずに済んだのだった。

「あ、あぶねえな、コンビニん中で雷なんて発生させんな、他の人達に迷惑だろ。 ほら見ろ、レジの店員さん警備員(アンチスキル)を呼ぼうかどうしようか迷ってんじゃねえか」

「うっさいわね、アンタがムカつくから悪いのよ」

「い、意味の分からないキレ方してんじゃねえよ」

と二人が言い争っているとコンビニに来ていた若い女の客が『あ、アンチスキルですか? コンビニ内で茶髪の女学生とオレンジみがかった茶髪の男子学生が能力を使ってケンカしています。 至急(しきゅう)来てください』と携帯電話に向かって話していた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

コンビニの店員が微妙な、なんというか早く逃げた方がいいんじゃないの?的な視線を向けてくる。少しの間時間が止まったような沈黙(ちんもく)が続いてその後、

「うわー、ビリビリの馬鹿野郎―――!!!」

「アンタが私のことビリビリ言うのが悪いんでしょうが!」

と叫びながら神無月と美琴はコンビニから(もう)ダッシュで逃げだした。

 

 

その頃の上条は、スーパーの特売品をかごに入れてホクホクしていた。

「いやー、今日の上条さんはついてますなー。 今日はまだ一度も不幸なことが起きてない」

7月17日になってから上条には不幸なことが起こっていなかった。朝はしっかり目覚まし時計が鳴ったし、不意にどこからかボールが飛んできたりもしなかったし、ペンキが上から降ってくることもなかったし、特売品が上条のちょうど前の人で無くなることもなかった。不幸が毎日起きていると、不幸の起きていないことが幸運と思えてくる上条だった。普通の人と比較すると確実に幸運の基準が下がっている。不幸が起きていないおかげでハイテンションになっている上条は独り言を連発していて、周りから変な目で見られていたが今の上条はそんなことすら気が付かないようだ。

「さて、この卵で今日の買い物は終わりだ、ヒャッホー」

今にもスキップでもしそうな上条を周りの人は遠巻き《とおまき》にしている。そして、買う物がかごに(そろ)った上条はレジに向かって歩いて行くのだった。

 

 

コンビニから逃げ出した神無月は、昨日美琴に追いかけられてたどり着いた川の土手まで来ていた。

「なんで、俺は昨日から逃げてばかりいるんだろ」

不意に(むな)しくなって神無月は独り言を漏らす。その独り言に神無月と一緒に逃げてきた美琴が応える。

「アンタが悪いんでしょ。 とりあえず、勝負しなさい、勝負」

「・・・はぁ」

「そこっ!!、大きなため息をつかないっ!!」

コンビニから逃げ出さなきゃならないうえに勝負しろときたもんだ、溜息(ためいき)だって出る。

「なんで、俺が勝負とやらをしなきゃならないんだよ」

「アンタが私のことをビリビリ変な風に呼ぶからでしょ!」

そこでようやく昨日追いかけられた理由が分かった神無月だった。

「あーそれか、でもしょうがないだろ。 お前には名前教えてもらってないんだから」

「へ・・・」

美琴は神無月が自分のことを超電磁砲(レールガン)と呼んでいたから名前も知っているものだと思っていたのだった。

「あれ、・・・昨日名前教えなかったっけ?」

「俺が名乗ったら、すぐに『勝負しなさい』だとか言って結局名乗らなかったんじゃねえか」

「・・・・・・」

(あれ、これじゃあ怒ってた私が馬鹿みたいじゃない・・・どうしよう謝るべき? いやいや、あそこまで電撃(でんげき)を飛ばしていて今さら(あやま)れない)

と美琴が考えていると、沈黙(ちんもく)()えかねた神無月が切り出す。

「で、名前は?」

「・・・へ・・・」

考え事に集中してた美琴は何を言われたのか聞いてなかった。

「だから、名前を教えてくれよ。 じゃなきゃビリビリか超電磁砲(レールガン)の二択だぞ」

「あ、うん。 私は御坂美琴(みさかみこと)よ。 ビリビリじゃないんないんだからね、しっかり覚えなさいよ」

「ああ、分かった美琴だな」

「ぶーーーっ!?」

「どうした? あれ、俺名前言い間違えたか?」

(なんで、名前の方で呼ぶのよ。 いきなり名前を呼び捨てって、あーもう)

美琴は俯いて赤くなった顔を冷やそうと頑張っていた。

「ま、間違ってないけど・・・そ、そうよ、勝負しなさい、勝負!」

美琴の口からとっさに出た言葉は勝負だった。

「はっ? なんで? 名前間違ってないんだろ、なんで勝負するんだよ」

「え、・・・そ、そう、そうよ、アンタが学園都市(がくえんとし)第三位に本当に相応しいか私が確かめてあげるのよ」

(そう、そうよ、名前の事が無くてもコイツとは一度は勝負しなきゃならないのよ)

「なんだよ、そのいかにも今思いつきましたみたいな言い訳は・・・」

「い、言い訳じゃないわよ、と、とにかく勝負するの!」

「はぁ、分かったよ。 それで気が済むのなら相手になってやるよ。 で、勝負の終了条件は?」

「そ…そりゃもちろん……私が勝ったらよ」

「はぁ(溜息)・・・そうじゃなくて、勝ち負けの決め方だよ。 どっちかが死ぬまで戦うなんて言わないだろ?」

「あたりまえでしょ、戦えなくなるか、どっちかが『まいりました』っていうまでね」

「なあ、開始直後に『まいりました』っていったら―――」

「全力で攻撃するわよ」

神無月が『どうなる』といい終わる前に美琴が逃げ道をふさいだ。

「ははは、はぁ(溜息)、了解」

そして美琴と神無月の戦いが始まるのだった。

 

 

すっかり日も暮れて暗くなった外を白井黒子は眺めていた。美琴がいつになっても帰ってこないからである。

「もう、門限もとっくに過ぎていますのに・・・お姉さまってば、どこで何をしていらっしゃるのでしょう」

美琴のいない二人部屋に寂しげな白井の声が響く。

(お姉さまに限って誰かに誘拐されると言うこともないでしょうけど・・・はっ、まさか昨日の神無月と上条とかいう高校生と一緒に夜の戯れを!? いけませんわお姉さま、そんなこと黒子は絶対に許しませんわー・・・いえいえ、まさか、まさか、お姉さまに限ってそんなことは、きっといつもの追いかけっこに決まっていますわ・・・ん、追いかけっこ?)

白井の頭の中で美琴と神無月が夕暮れのビーチで『待てよー』『つかまえてみなさいよー』とじゃれ合っている姿が浮かぶ。

「イヤー、お姉さま、それをやるのはそんな野郎とじゃなくてわたくしとですわー」

と白井が美琴の枕に顔を擦りつけながら叫んでいると

「静かにせんか白井!」

と常盤台中学女子寮名物超恐ろしい鬼寮監が扉を開いた。妄想の悲劇に悲しんでいる白井はそんなことには気が付かない。

「そんな男とじゃれ合わないでくださいお姉さまー! 夜のデートは私だけのもので、ズ―――」

『ですの』と言おうとしたところで白井は怒った寮監に首をねじられ気を失った。

 

 

神無月と美琴は川の土手から河原に降りて、6~7mの間隔を開けて立っていた。

「なあ、美琴ホントにやるのか?」

「や、やるにきまってんでしょ」

美琴の声が裏返った。

(どうしてこいつは、私の調子を狂わせるのかな、やりにくいったらないわね)

「分かった。 いつでもいい、かかってこいよ」

「言われなくても、こっちだってこの時を待ってたんだから!」

美琴の声と同時に美琴の手から『雷撃の槍』が打ち出される。『雷撃の槍(らいげきのやり)』は轟音(ごうおん)を周囲に()()らしながら一瞬のうちに6~7mの間合いをを詰め神無月に襲いかかる。しかし、神無月の前に突き出された黒い右手に阻まれ電撃は微塵(みじん)も神無月にダメージを与えない。それを見て美琴は呟く。

「やっぱ、電撃は効かないか」

神無月が強大な重力で覆った黒い右手を使い始めたのは今年、つまり高校に入学してからだ。この黒い右手は、上条の右手の能力である幻想殺し(イマジンブレイカー)を真似して使い始めたのだった。神無月は上条と出会うまで、能力者の攻撃を防御する際に全身を自身の絶対重力(ブラックホール)(おお)う方法を取っていた。しかし、神無月の絶対重力(ブラックホール)は、重力制御能力の中でもかなり消耗の激しい技でもあるため、長時間は使用できないのだった。神無月が絶対重力(ブラックホール)で体を覆い続けることそれは御坂美琴ならば超電磁砲(レールガン)常時(じょうじ)打ち続けているようなものなのだ。そのため、どうすれば如何(いか)消耗(しょうもう)せずに能力を防ぐかを考えていた。そんなとき上条が町の不良(異能力者(レベル2))の能力を右手で防ぐのをみて真似したのである。神無月も上条と同じく右利きだったこともあり、右手のみを絶対重力(ブラックホール)で覆うことで防御するようになったのだった。その結果全身を絶対重力(ブラックホール)で覆っていた時の10分の1以下の力で攻撃を防げるようになった。

(この防御方法は消耗が少ない分、防御面積が狭くて怖いんだよな)

と神無月が考えていると、

「3発同時ならどうよ」

と言う美琴の声と共に今度は3方向から『雷撃の槍(らいげきのやり)』が飛んできた。

「ちょっ、少しは加減をしろーー!」

神無月は直撃の瞬間だけ元の防御方法、つまり全身を絶対重力(ブラックホール)で覆う。

ズドン!という音と共に砂ボコリが舞い上がる。たった一瞬の全身防御でも飛んできた『雷撃の槍』はそのすべてが神無月の絶対重力(ブラックホール)に飲み込まれる。一瞬だけの全身ガードだったことと舞い上がった砂ボコリのために美琴には神無月がどのように『雷撃の槍』を防いだかは確認できなかったがこれで飛ばすタイプの電撃は神無月に防御されることの分かった美琴だった。

「同時に3発でも駄目か、なら」

そう言った美琴の手に今度は砂が集まり始める。いや、あれは砂ではない。ただの砂なら美琴の電気では操れない。

「砂鉄か?」

「よく分かったじゃない、それが分かるって事はこのあとどう使うかも分かるわよね?」

嫌な予感しかしない。とりあえず、殺されはしないだろうから砂鉄を操って口から肺に突っ込まれることはないと思う、いや、そう思いたい神無月だった。砂鉄は美琴の手に集まるとそこから剣の形状に形成される。

「砂鉄が振動してチェーンソーみたいになってるから当たるとちょっと血が出るかもね」

確実に当たったらちょっと血が出るでは済まないことは容易に分かる。あんなのがまともに当たれば腕の一本や二本簡単に切れてしまう。

「そっちがエモノを使うならこっちもいくぜ」

と言って神無月が手から出現させたのはブラックホールから形成された黒い剣だった。

美琴が走ってきて剣をふるう、その剣に合わせて神無月も剣をふるう。互いに持っているエモノが真剣だったならば、ぶつかって火花の一つも出るだろうが二人とも持っている剣は能力で作った剣だ。ぶつかっても火花など散らない。散らないと言うより、美琴の剣は神無月の黒剣と触れた部分が消滅、いや吸い込まれてしまうため剣の形を維持しても砂鉄の密度が薄くなっていく。不意に神無月の剣が美琴の剣の日本刀で言えば鍔のあたりを斬り飛ばした。すると、砂鉄の量が剣を形作るのに最低限必要な量を下回ったため美琴の剣は形を保てなくなり崩れた。

「勝負ありだな、もういいだろ?」

「まだ、負けてないわよ!」

そういうと美琴はゲームセンターでよく見かけるコインをポケットから取りだした。そう、美琴の必殺技超電磁砲(レールガン)に使うためのコインだ。美琴の超電磁砲(レールガン)は、ゲームセンターのコインに電磁加速を加えて音速の3倍程度の速さで飛ばす技だ。普通、人間に向けての発射は向けられた人間の死を意味する。

「ちょっと待て、俺を殺す気か?」

「アンタなら死なないわよ!」

「キレながら訳分かんねえことを叫ぶな! んなもん食らったら俺でも死ぬわ!

「うっさい、私は自分より強い人間がいるのが許せないの!」

そう、叫ぶと美琴は神無月に向かって超電磁砲(レールガン)をぶっ放した。その瞬間、轟音と共に余波の風が(あた)りの草を薙ぎ払い、超電磁砲(レールガン)が通過した下の地面はコインの起こす空気摩擦の熱で焼けていた。そして着弾した瞬間にものすごい砂煙が上がった。砂煙がはれた後の着弾地点の神無月は跡形もなかった。煙がはれた瞬間に美琴は戸惑いは焦りに変わった。なぜなら、いつものように攻撃が防がれた感覚が無かったのだ。そのうえ、神無月が避けたという感覚もなかった。美琴は体から電磁波を出して人や物を察知できる。それなのに美琴の電磁波には神無月が避けて動いた感覚が無かったのだ。

「え、嘘・・・まさか、本当に?」

神無月の立っていた地点には、何も残っていない。超電磁砲(レールガン)の作ったクレーターが残されているだけだった。

「ねぇ、冗談・・・でしょ」

美琴が神無月のいたところに声をかけるが、その場所から反応が返ってくることは二度となかった。美琴の手が震える。あんなにも美琴の攻撃を簡単に消してしまっていたので、超電磁砲(レールガン)もふせげないはずはないと美琴は思っていたのだった。冗談のような現実を前に美琴は思い出す。超電磁砲(レールガン)を放つ前に神無月は確かに『そんなもの防げない』と言っていた。美琴が熱くなっていて、聞く耳を持たなかっただけで確かにそう言っていたのだった。美琴は地面にへたり込んで自分の手を見る。美琴は自分の手が真っ赤に血で染まっているように見えた。人を殺してしまった、その思いが美琴に重くのしかかる。美琴は2度と立ち上がれないような気がした。たしかに、ビリビリ言われて苛立ちもした。でも、本当に死んでほしいなんて、ましてや殺したいなんて思ってもいなかった。それに、神無月は美琴の大事な後輩である白井を助けてくれた。それなのに・・・。美琴の目から涙がポロポロこぼれ落ちる。

そのとき美琴の超電磁砲(レールガン)()()()()()()()()()()()から声が聞こえてきた。

「どうした? 大丈夫か?」

泣いていた美琴の後ろから神無月の声がかかった。美琴が後ろを振り向くと神無月が無傷で立っていた。

「ア・・・は・・・?」

美琴は開いた口がふさがらない。そりゃそうだ。今の今まで、自分が殺してしまったと思っていた人物がいきなり現れたのだ。少し落ち着いてくると美琴は今の自分の状況を思い出し、涙を急いで拭くと神無月を問い詰める。

「あ、アンタ一体どこにいたの!」

泣いていたかと思ったら、いきなり怒り始めた美琴に若干たじろぐ神無月。

「あ、ああ、お前が超電磁砲(レールガン)を放つのと同時に俺の絶対重力(ブラックホール)の応用で空間を捻じ曲げて移動した。 一般的に言われるワープって奴だな。 でも本当は美琴のすぐ後ろに移動する予定だったんだが、今初めて使ったから勝手が良く分からなくて移動する座標を間違えた。 美琴のすぐ後ろの移動するつもりが美琴の後ろ側5kmの位置にワープしちゃって今ようやく走ってここに戻ってきたんだ」

確かにワープなら超電磁砲(レールガン)はそもそも当たっていないのだから防がれた感覚はするはずがないし、空間を捻じ曲げて移動したのであれば美琴の電磁波には超電磁砲(レールガン)の直後に避けて動いた感覚が無いのも当たり前だった。

(そもそもこいつは時間を遅くできる能力があったじゃない、銃弾を余裕で掴んじゃう奴が超電磁砲(レールガン)を撃たれたからって防げないわけないじゃない)

銃弾の標準的な速度はほぼ音速と同じ、ライフルだと秒速950mくらいで音速の3倍にはまだ届かないという速度である。神無月は銃弾が体感時間で1秒に5mmも進まないほど時間を歪められるのだ。たとえ超電磁砲(レールガン)を撃たれたとしても神無月に時間を遅くされたら体感時間1秒に15mmも進めないのだ。しかも神無月はその歪んだ時間の中を平気で行動できる。そんな神無月が消えた理由を説明し終わると美琴が肩をプルプル震わせていた。

「・・・ね・・・」

美琴が何かをつぶやいた。

「へっ?」

「死ねーーーーー!!!」

美琴の体中から『雷撃の槍』が神無月に向かって連射される。

「あぶねえな、殺す気か!」

「アンタなんて死んじゃえ! 私がどれだけ心配したと思っているのよ!」

「は、何のことだよ」

「アンタがいきなり消えるから超電磁砲(レールガン)で殺しちゃったかと思ったかと思ったじゃない」

「あ? ああ、だからさっき泣いてたのか。でも、避けなきゃ本当に死んでたんだから、むしろ避けた俺に感謝してほしいところだぜ。 まあ、でも泣いてた美琴も可愛かったぜ」

特に深い意味はないのだが、基本的に思ったことをそのまま口にしてしまう神無月だった。

「・・・あ・・・あ・・・」

美琴は面と向かって可愛いと言われて再び思考がフリーズする。

(か、か、可愛いって、か、可愛っていわ、いわ、いわれた)

「おい、バチバチいってどうした?」

「し、死ねーーーー!!!」

そう言って美琴は電撃を放つ。照れ隠しに出てきた言葉が『勝負しなさい』か『死ねーーー!!!』の美琴だった。

 

 

そのころ上条は買い物を終えて例の土手のを歩いていた。今日の特売で肉も卵もジャガイモも玉ねぎも安く買うことができた上条はホクホク顔だった。そんな上条の耳に割と近くから『死ねーーー!!!』という女の子の声が聞こえてきた。日本語はどんどんひどくなっていくなとしみじみ上条が考えていると声だけでなく電撃までもが飛んできた。上条を狙ったものではなく、たまたま飛んできたものだったのだが。しかし、そのたまたま飛んできて電撃は上条の左手に下げたスーパーの袋に吸い込まれるようにぶつかり、上条がやっとの思いで手に入れた特売品の全てを一瞬で炭に変えたのだった。ついに、今日一日分の不幸が上条を襲った瞬間だった。『終わりよければすべてよし』というが、これはつまり終わりが良くなければ全て良くないと同義である。そして上条は今日一日をこう締めくくった。

「不幸だーっ!」

 

 

それから約1時間後、神無月は常盤台中学女子寮に向かって歩みを進めていた。なぜ、神無月が常盤台中学女子寮に向けて歩いているのかと言えば、その答えは神無月の背中が物語っていた。いや、正確には神無月の背中に乗っている人物を見れば分かる。つまり御坂美琴を背負っているからだった。神無月に可愛いと言われた美琴は恥ずかしさのあまり絶え間なく『照れ隠し電撃』を放ち続けた。そのせいで、美琴は気が付いた時には電池切れ、動くこともままならなくなっていた。さすがに、神無月も攻撃されなくなったからといってこれ幸いと、動けない女子中学生を夜の河原に放置して帰るほど非情ではない。そこで、神無月は歩けなくなった美琴を背負って常盤台中学の女子寮を目指すことになったというわけである。

「・・・・・・」

「ん、どうしたんだよ美琴。 さっきから借りてきた猫みたいに静かになっちゃって」

神無月の背中にいる美琴の動揺はかなり激しいものだった。

(『どうしただよ』じゃないわよ。 私がどんだけ恥ずかしいと思ってんの)

神無月に背負われた美琴はすぐに色々なことが気になりだし頭がパンクしてしまいそうになっていた。背負われると急に自分の体重が気になり、誰かに見られていないか気になり、背負われている関係で掴まれている足のことが気になり、赤くなっている顔を見られていないか気になってしまうのだった。人間は恥ずかしさで死ねるんじゃないかと美琴は思う。

(うあ――――、恥ずか死ぬ――――)

美琴が心の中でまだ得苦しんでいると、反応の返ってこないことを不審に思った神無月が美琴を振り返ろうとする。

「本当にどうしちゃったんだ? 寝ちゃっダ・・・カ」

振り返ろうとした神無月の首を美琴が無理やり前に向かせる。

「振り返っちゃ駄目だから、絶対に振り向かないでいい?」

美琴の言葉は『いい』と問いかけているのに対しその言葉は念押しをしているかの響きがあった。美琴は自身の顔が真っ赤になっているのを見られたくないので神無月の首を無理前に向かせるようにねじったのだが、神無月は首の骨を変な感じに回されて顔が蒼くなっていた。それから少し歩くと常盤台中学女子寮が見えてきた。そこで、神無月は気になったことを尋ねる。

「美琴、寮って門限とかあるのか?」

「・・・あるわね。 私がいないことは黒子が隠してくれているとは思うけど、玄関から入るのはちょっと・・・」

美琴がそれだけは勘弁してほしいと言う顔をしているので神無月は先を促す。

「ちょっと・・・どうなるんだ」

「・・・死ぬかも」

「死ぬのか!?」

「うちの寮監は規則に厳しくてね、門限とか規則を破るとね・・・」

はははと美琴が遠い目をしている。前に何かやらかしたんだなと察する神無月だった。

「じゃあ、部屋まで送る、どの部屋なのか教えてくれ」

美琴は“えーと”と言って自分の部屋を端から数えていく。いつも自分が暮らしている部屋でも外から探すと意外にも分かりにくかったりするものである。

(あれ? 明かりがまだついてる。 珍しいわね黒子がこんな遅くまで起きているなんて)

「208号室だから、あの明かりのついている部屋、だけどどうやっていくの」

「さっきの空間歪めるやつ」

「アンタそれでさっき失敗して5km先まで移動しちゃったじゃない」

「大丈夫さっきの一回でコツは掴んだから変なとこにワープしたりしないって。 あ、それとアンタじゃない俺の名前は有真だこんどからちゃんと呼べよ俺だってビリビリから直したんだから」

「あ、うん。 ・・・ゅ・・・ぅ・・・ま」

最後の美琴の小さなつぶやきは神無月には聞こえていなかった。移動手段が若干心配な美琴だったが今の不意打ちと背負われている状況の2点から文句は言えなかった。

「さて、行くぞ」

神無月の声と共に二人の前の空間が絶対重力(ブラックホール)により黒く染まる。ワープと言うよりワームホールに近い技だった。黒い空間はすぐに安定し神無月はそこに入るのだった。

 

 

白井黒子は眠れぬ夜を過ごしていた。寮監に首をねじられ気絶されられたことを白井は知らなかった。白井にしてみれば気が付いたら眠っていたという認識なのだ。少し前まで気を失っていたので目覚めたら眠気がすっかりなくなっていた。そのため、眠くなるまで美琴を待っていようといることにした白井だった。白井は()()のベッドでゴロゴロしながら美琴の事を心配していた。

(お姉さま、昨日は速く帰ってきましたのに今日は随分と遅いんですの。 お姉さま速く帰ってきてくださいまし)

と白井が思っていると見透かしたかのようなタイミングいきなり、

「失礼しまーす」

と昨日出会った超能力者(レベル5)神無月有真が現れた。

「な・・・なんなんですの・・・」

白井の能力は空間移動(テレポート)だ。そのため、3次元から11次元までの把握が必要になる。その白井の空間把握で把握できる次元の全てに干渉する力がいきなり部屋の中に出現したと思ったらそこから神無月が出てきたのだ。驚き以外の何物でもない。白井は寝るためにパジャマだったので、とっさに自分の机の上に置いておいた金属矢(ダーツ)を取るために空間移動(テレポート)して机の前に移動してしまったほどの驚きだった。そんな白井の驚きをたいして気にせず神無月は要件を告げる。

「悪いな夜遅くに、はい、オンナノコのお届け物です」

とても女子中学生に向けて発する言葉ではない。白井の驚きは続く。いきなり『オンナノコのお届け物です』と言いだした神無月の背中から美琴がひょこっと顔をだしたのだ。

「・・・ただいま、黒子」

「???・・・お、お姉さま?」

白井は今目の前で起きている自体についていけない。そんな白井の様子に気が付いた神無月は美琴を運んできた理由を告げる。

「ああ、美琴が(バトルで力を使い過ぎて)動けなくなっちゃって一緒に(戦って)いた俺がここまで運んできたんだよ」

しかし、混乱している白井にはこう聞こえた。

『ああ、美琴が(エッチなことをし終わって疲れて)動けなくなっちゃって一緒に(ホテルに)いた俺がここまで運んできたんだよ』

と言う風に。

「こ、殺す、よくもお姉さまの(みさお)を―――!」

と白井は神無月に殺しにかかろうとするが、

「美琴、じゃあ俺かえるわ。 またな」

「うん、また・・・『ゆうま(小声)』」

神無月はすっかりおとなしくなっている美琴をベッドに下ろして別れのあいさつをしていた。その言葉で白井の動きが止まる。

(美琴に有真!? そ、そんな、もう名前で呼び合う仲だなんて)

白井は目の前の出来事に魂を持って行かれたかのように真っ白に燃え尽きていた。そんな白井に神無月はいう。

「ええと、白井黒子だったよな。 夜遅くに悪かったなじゃ、おやすみ黒子」

そんな不意打ちだけ残して神無月は部屋から忽然と消えた。

(・・・殿方(とのがた)から呼び捨てにされた・・・?)

「えっとお姉さま、どういう・・・ことですの?」

「私に聞かれたって分かるわけないでしょ」

この夜、常盤台中学女子寮の208号室の住人二人は悶々とした夜を過ごすことになったのだった。

 

 

神無月は常盤台中学女子寮から道路に移動した。一発で自分の寮まで帰るほどのワームホールを開く自信はなく、またこの能力も消耗が激しいため歩いて帰ることにしたのだった。

すこし歩いて美琴と戦った河原の土手の上を歩いていると神無月は道端にうずくまっている人を見つけた。遠くから見たら誰なのか分からなかったが近づくとそれは美琴の電撃で特売品の全てを失い意気消沈して体育座りしている上条だった。なんとなく話しかけづらい雰囲気に若干押される神無月。

「どうした当麻・・・」

「うぅ不幸だった・・・」

「新しい『不幸だーっ!』のバリエーションだな、どうしたんだよ」

上条は左手にぶら下げている特売品だったものを神無月に見せる。

「あ、ああ」

全て食べ物だったものから作られた炭をみて神無月は上条にいう。

「あー俺の『はちみつレモンヨーグルトのホイップカスタードシューロール』いくつかやろうか」

神無月はコンビニで『はちみつレモンヨーグルトのホイップカスタードシューロール(一個280円)』を30個ほど買っていた。上条は『うん』と頷くが流石にショックが大きすぎたのか落ち込んだままだった。そんな上条を支えながら神無月は寮を目指して帰るのだった。

 

 




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