とある魔術の絶対重力‐ブラックホール-   作:プロジェクトE

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第03話 (何か視線を感じる気がする・・・)

 

普段となにも変わらない午後の昼下がり、学園都市のとあるコンビニでは平穏な日常から突然外れた。

風紀委員(ジャッジメント)です。 この場から早急に避難してください!!」

GREEN MARTという名の緑と白をイメージカラーにしたコンビニに突然大声が響きわたった。大声の持ち主は航空素材(ポリカーボネイド)の盾を持った女の風紀委員(ジャッジメント)で急いだようにコンビニの中に入ってきてそう叫んだ。彼女の後ろには、男の風紀委員(ジャッジメント)が続いてコンビニに入ってきた。二人とも右腕に腕章をしている。それが風紀委員(ジャッジメント)を表す記号にもなっていた。風紀委員(ジャッジメント)といえば、何らかの事件や事故などに駆けつけることが仕事の学生だ。そんな彼らがとても焦ったように店内に飛びこんできて避難命令を出したのだ、店内の客も職員も驚く。突然の避難命令に店内にいた客たち驚いたのちに戸惑う。そんな中コンビニの店員が風紀委員(ジャッジメント)に駆け寄った。

「あ・・・あのウチの店で何か・・・?」

「この付近で重力子(グラビトン)の爆発的な加速が観測されました」

店員の質問に応対したのは、女の風紀委員(ジャッジメント)だった。一方の男の風紀委員(ジャッジメント)は店員の対応を彼女に任せて店の中で何かを探し始めた。

「グラ・・・なんですか?」

店員は風紀委員(ジャッジメント)の言っていることが分からずに聞き返す。

「簡単に言うと爆弾が爆発する前兆があったという事です。 この店に爆弾が仕掛けられたと思われます」

そう言われるとようやく分かったのか店内の客たちも避難を開始する。店長と女の風紀委員(ジャッジメント)が話している間も男の風紀委員(ジャッジメント)は、店内のどこに爆弾が仕掛けられたのかを探し続ける。

「クソ 一体どこに・・・」

探しても、探してもそれらしいものが見つからないで焦りだけが募った男の風紀委員(ジャッジメント)の口から苛立ちが零れる。

「きゃっ」

そんなとき男の風紀委員(ジャッジメント)の後ろから女の声が聞こえた。振り返ると女学生が床に座り込んでいた。男の風紀委員(ジャッジメント)はすぐに女学生に駆け寄る。

「どうした?」

「すみません足を・・・」

どうやらその女学生は避難の際に滑ったようで足を捻ってしまっていたのだった。

「肩を貸すから早く非難を・・・」

そういって男の風紀委員(ジャッジメント)が足を捻った女生徒に肩を貸した時だった。

ブンという古い機械の電源を入れたような鈍い音、自然に発生するとは思えない音が足元から男の風紀委員(ジャッジメント)の耳に響いた。その瞬間、彼は嫌な悪寒を感じすぐに音源の方を向く。男の風紀委員(ジャッジメント)の足元、正確には彼のすぐ近くにある商品の陳列棚の下、そこに置かれたデフォルメされたファンシーなウサギの人形、そこが音源だった。ウサギの人形は音を放った数秒後にメキメキと音がするのではないかというほどに歪み、人形の胴体の中央部分に発生した誰が見ても明らかに何かの能力だと思う球状のエネルギーに吸い込まれるように縮んでいく。男の風紀委員(ジャッジメント)の顔が焦りに歪む。

「何!?これが爆弾!!」

次の瞬間、人形を歪め縮ませたエネルギーが、今度は内側に向かうのではなく外側に向かうかのように放たれた。それは無理やり縮めていたバネを抑えていた手が無くなったような放出だった。抑えるものの無くなったバネは元に戻ろうとする力ではねる。今回はそれが爆発という形で表れるかのようだった。ドッゴォオンという音と共に爆風と熱風がコンビニの窓ガラスを叩きガラスが砕け散る。爆弾の置いてあった場所は床の塗装が吹き飛び、コンクリートがむき出しになり、砕けている。爆発は一瞬で起こり、一瞬のうちに収まる。ただ、ゴオオオォォォォという空気の動く音が店内に響く。風の流れが店内の爆風による煙を少しずつ店の外に追いやり中の様子が徐々に見えるようになってくる。コンビニの店員は、床にうずくまって身を縮めていた。それは、女の風紀委員(ジャッジメント)が彼を守り易いようにとっさに(かが)ませたからでもあった。そして、彼と話していた女性の風紀委員(ジャッジメント)は彼の前に片膝立ちのような体勢で航空素材(ポリカーボネイド)の盾を爆発源の方へ向け、自分の体と店員の体を守っていた。そのため、二人には怪我はなかった。そして、爆発による飛来物が収まると女の風紀委員(ジャッジメント)は逃げ遅れた女生徒と男の風紀委員(ジャッジメント)の方へ駆け寄った。

「大丈夫!? 怪我は?」

「わ・・・私はこの人が庇ってくれたから・・・で、でも・・・」

女生徒はほとんど怪我もしていなかった。しかし、彼女をかばったことで男の風紀委員(ジャッジメント)は、かなりのひどい怪我を負って地面に倒れていた。女生徒を抱きかかえるようにかばったのだろう。彼のワイシャツは背中部分が吹き飛び、背中に大きく火傷を負っていた。背中の皮膚や腕の皮膚は爆発で焼かれ黒く炭化しているところもある。火傷は危険だ。皮膚の20%が火傷になれば死ぬとまで言われているほど命にかかわる。なにより、皮膚を失った部分からの感染症が最も危険だ。皮膚のない部分は恐ろしく菌類に対する抵抗力を失ってしまう。彼はそんな危険な状態になっていた。

「ぐ・・・ッ・・・」

男の風紀委員(ジャッジメント)は唸るだけで精一杯なほどの怪我だった。

 

 

「―――とまあ以上が昨日の夕方に起こった事件ですの」

児童公園の一角にあるジュースの自動販売機の前で、白井黒子(しらいくろこ)は尊敬すべき先輩であり、よく行動を共にしていて、全幅の信頼を寄せている、お姉さま、御坂美琴(みさかみこと)に昨日起こった事件のあらましを説明していた。対して、美琴は自販機に蹴りを入れてジュースを叩き(蹴り)出すという蛮行の真っ最中だった。そして、ガシャンという音と共に自販機からジュースが落ちてくる。ここの自販機は、ジュースを止める器具が緩くなっているため衝撃を加えるとジュースが落ちてくるのだ。ジュースは選べないが金を入れることなくジュースが出てくる。明らかに窃盗のような現場だが一概にそうとも言えない。なぜなら、この自販機は金を飲み込むのだ。お金を入れてもおつりは出ない。返却ボタンを押しても金は返ってこないと言うそれはもう鬼のような自販機だった。もちろんそのことを知らない人達は知らずにお金を入れて泣きを見る羽目になる。そして、この御坂美琴もそんな人間の一人だった。一年ほど前、入学して間もなかった美琴はこの自販機の事を知らずお金を入れてしまったのだ。―――万札を。もちろんその万札が帰ってきたかと言えば、答えるまでもない結果だった。それ以来美琴はこの自販機からジュースを蹴り出すようになったのだった。最初に蹴ってジュースが出てきたのは万札をこの自販機に飲まれた腹いせに本気で蹴りを入れた時だった。今の行いはそのことに起因している。しかし、この二人は常盤台中学と呼ばれる名門女子中学校の生徒である。こんな光景を他の学校の学生が見たら驚くこと間違いなしだった。

「聞いてます? お姉さま」

自販機に蹴りを入れながら自分の話を聞いているのか怪しく思った白井は、美琴に問いかける。

「聞いてるわよ。 連続爆破事件とかいうやつでしょ」

美琴は自販機から蹴り出したジュースの缶を見て、う・・・ハズレだ、と言いながら白井の問いに答える。

「ええ、正確には連続虚空爆破(グラビトン)事件ですの」

白井は美琴の手にあるジュースのアルミ缶をコンと人差し指でつつきながら話を続ける。

「アルミを起点として重力子(グラビトン)の数ではなく速度を急激に増加させてそれを一気に周囲に撒き散らす。 ようは『アルミを爆弾に変える』能力ですの」

そう言われて美琴はアルミの缶をムムッと言った表情で見る。

「ぬいぐるみの中にスプーンを隠して破裂させたり、ゴミ箱のアルミ缶を爆破するといった手を使ってきますの。 爆発の前に前兆があるので死亡者こそ出ていませんがまだ犯人の特定ができていませんの」

美琴は白井の話を聞くと、さっき買ったばかりのジュースを開けなようとする。ジュースはパキュっといった音を立ててプルタブが開いた。

「能力者の犯行なんでしょ?(ゴクッ)だったら学園都市(がくえんとし)の『書庫(バンク)』にある全ての学生の能力データをあたって該当する能力を検索すれば(ゴクッ)容疑者を割り出せるんじゃないの?」

美琴はジュースを飲みながら白井に問いかける。『書庫(バンク)』とは、学園都市における全学生の能力の種類からレベル、能力による事件、一部ではDNA情報までもが保管されているサーバーだ。そこには全学生の『能力測定(システムスキャン)』の結果が載っているのだからそこを探せば能力者の割り出しは基本的に難しい作業ではないのだ。

「ええ、その結果学園都市には今回の事件を起こせるほどの能力者は二人しかいないことが分かりましたわ」

「じゃあ、その二人のアリバイを調べるなりすれば分かるんじゃないの?」

白井は難しい顔で一度黙った後に言葉を続ける。

「・・・今回の事件の容疑者候補の一人目は、能力『量子変速(シンクロトロン)』を持つ大能力者(レベル4)釧路帷子(くしろかたびら)という学生ですの。 しかし、今回の一連の事件の始まりは一週間前なのですけれど、彼女は八日前から謎の昏睡状態に陥っていますの。 病院からの外出はおろか一度も意識を取り戻しておりませんし、医療機器にも記録が残ってますので彼女に犯行は不可能ですの」

「容疑者候補って二人いるんだったわよね? だったら、もう一人が犯人ってことじゃないの?」

白井は美琴の言葉にさらに難しい顔をして話を続けた。

「二人めの容疑者候補の名前は、・・・神無月有真(かんなづきゆうま)、昨日お姉さまと一緒にいらした殿方ですの・・・」

 

 

「う~いはる~ん♪ おっはよ―――――――ん!!」

その言葉と同時に、バサッ、という音が発生し登校中の初春飾利(ういはるかざり)のスカートは重力に逆行する動きを見せた。初春の通う柵川中学女子の制服は一般的にセーラー服と呼ばれるものである。ブレザーやワイシャツ、サマーセーターなどの制服が増えてきた近頃では徐々にその数を減らしているこの服をそのまま残している柵川中学は、なかなか伝統ある中学といえるのかもしれない。そして柵川中学では規則によりスカートの長さも決められており少なくとも膝が隠れるくらいの長さがなければいけない。そんな、一般的にみると長めに設定されている初春のスカートが空中に跳ね上がった。普段はスカートの中に隠れているへそが見える程度には。そして、へそが見えるということは、へそより下方向に存在しているものはすべて見えると言うことだ。

 

パンティー【panties】

女性用の下半身用の短い下着。ショーツ。

縞模様の付いたものを縞パン、サイドを紐で留めるものを紐パン、はいていないものをノーパンと言う。

―――若者のための学園都市特殊国語辞典参照

 

「!? ?・・・ッ!! ぎゃわ―――――――――――ッ!!」

初春は、スカートを同じ学校の同じ教室に通う佐天涙子(さてんるいこ)の手によって後ろからまくられ、悲鳴を上げた。佐天と言えば、朝の挨拶とばかりに初春のスカートをめくることにためらいが無かった。

「おっ 今日は淡いピンクの水玉かー」

「だっ・・・男子もいる往来でこの暴挙ッ!? 何すんですか佐天さんっ!!」

実際、今の佐天によるスカートめくりで初春の今日の下着の色・柄は登校中の男子数名の知ることとなっていた。後方を歩いていた男子も、

「みた?」

「一瞬だけ・・・」

などと言う会話を小声でしているのだった。そんなことに初春も佐天も気が付かない。初春は自分のスカートの中身が公衆の面前で公開されたことでパニックに陥っており、佐天は佐天で、初春をいじることの方が優先されているからだ。

「クラスメートなのに敬語とは他人行儀だねぇ。 どれ、距離を縮めるためにも親睦を深めてみようかね」

「わ゛――――――――~~~ッ!!」

再び、佐天の手により初春のスカートが浮遊させる。今度は、前からだったため初春も対応することができ、スカートの前を押さえることに成功はした。しかし、現実は初春に厳しく、登校中の男子に優しかった。実際、スカートの全面を押さえはしたものの初春の下着は衆目に晒されることになっていた。

「めくらないでくださいっ!! 連続でめくらないで〰〰〰〰っ!!」

登校中の男子には、わざわざ後ろを振り返って二人の様子(初春のスカートの中身)を見る者も多くいた。初春のスカートがまくりあがるたびに周りからおお~と言う声も聞こえた。

「ごめん、ごめん。 ちょっと調子にのっちゃった」

再び学校に向かって歩きながら佐天は軽い調子で初春に謝った。初春は赤い顔をぷぅと膨らませている。

「ヒドイですよ・・・」

「お詫びにあたしのパンツ見せよっか?」

「結構です」

佐天の『あたしのパンツ見せよっか』発現を初春は軽く流す。その一言で、あの後もこの二人なら何か良いものを見せてくれるのでは?と二人の行動を気にしながら登校中の男子生徒たちの希望が奪われたは言うまでもなかった。そんなことには気が付かず二人は歩いて行く。

「あ、そーだ。 初春が聞きたがってた新曲ゲットしたからこれで機嫌直して」

そういって佐天は音楽プレイヤーにつながっているイヤホンの片側を渡す。

「あ、これ今流行(はやり)のプレイヤーですよね。 ダウンロード中心の」

「まーねー、今も新曲引っ張ってきてんだけどPVついて一曲百円よ。CD買ってた頃なら信じられない値段よね――」

そう言って歩く初春と佐天の横をメガネの男が逆方向へ歩いて行った。

 

 

「初春ってこういうの疎いよね 遊びが足りないって言うか~」

「うう・・・余計なお世話です」

メガネをかけた男の横を二人の女子中学生が楽しそうに歩いて行った。そんな様子を気に留めもせず、メガネの男は歩いて行く。メガネの男は中学生、いや高校生ぐらいの年齢で、学校の制服を着てカバンを持って歩いているところから登校している最中なのだろう。音楽プレイヤーから延びるイヤホンを耳につけ暗い雰囲気で歩いて行く。そんな彼の前から二人のいかにも不良といった風情の男たちが歩いてきた。すれ違う時にメガネの男は不良の一人と偶然肩がぶつかってしまった。もちろん、メガネの男は偶然だからと気にも留めなかったが、不良の方はそうはいかなかった。歩いていこうとするメガネの男の髪の毛を後ろから掴み引っ張る。気弱そうなメガネの男は『ひッ?』と声を上げて驚いた。肩がぶつかった方の不良はメガネの男の髪を引っ張りながらにらみを利かせる。

「人にブツかっといて謝罪もなしかよ?」

「え? だってそっちがぶつかって・・・」

メガネの男が反論しようとすると顔面を殴られた。殴られた部分を抑えながらメガネの男は地面に四つん這いで這いつくばった。その様子を不良は立ったまま上から見下ろす。その顔は不愉快そうな表情を浮かべていて、こいつを蹴飛ばしてやろうかとも考えているかのような顔だった。それを見た風紀委員(ジャッジメント)が急いで駆け付ける。駆けつけてきた風紀委員(ジャッジメント)は大柄で体格の良い高校生くらいの男だった。

「こらそこっ何してる!」

さすがに不良たちも風紀委員(ジャッジメント)と揉めるのは嫌だったらしく、

「っせーな。 何でもねぇよ」

といって歩いて行ってしまった。その不良たちの様子を風紀委員(ジャッジメント)は仕方なさそうに見送る。

「まったく・・・君は大丈夫か?」

メガネの男は風紀委員(ジャッジメント)に聞こえない程度の小声でつぶやく。

「もっと早く来いよ」

なにかを小声で言ったような雰囲気があったため風紀委員(ジャッジメント)の男は聞き返す。

「? 何か言ったかい?」

「別に・・・」

そう言ってメガネの男はその場を後にした。

 

 

「なん…だと!?」

美琴と白井が神無月の容疑について深刻に話し合っていた頃より少し後、当の張本人は寮にある自分の部屋でノートパソコンの画面を凝視して戦慄(わなな)いていた。そう、神無月は自分で自分に|虚空爆破事件の容疑が掛かっていることに気がついた…なんて事はなかった。神無月が戦慄(わなな)いた理由、それはネットサーフィンしていて偶然ある情報を見つけてしまったことにあった。

「・・・まさか、二日連続で新スイーツが発売するなんて!」

そう、神無月有真(かんなづきゆうま)は大の甘党だ。甘味の新しい情報があると自分の琴線に触れるかどうかを確かめに九割近い確率で販売開始する当日中に現れる。特に今はコンビニデザートにハマっていて新スイーツが店頭に並ぶという情報を聞きつけると朝から買い求めに来るほどだった。昨日も新しいコンビニスイーツの情報を聞きつけ買いに行ったのだった。しかし、昨日販売されたということが、神無月の『今日は新しく出ないだろう』という油断を招いた。そのため、土曜日だったということもあり爆睡、そして朝飯をすっ飛ばして太陽が真上に上がるくらいの時間までこの情報に気が付かなかったのだった。

Goddamn(ガッデム)(こんちくしょう)! 何やってんの俺!? クッソー油断していた―――!!! いや、今からでもまだ間に合う!まってろよ、ムーンノエル(コンビニスイーツの名前)―――!!!」

甘いもののことになると我を忘れる神無月(しゅじんこう)だった。

 

 

「黒子、アイツが容疑者候補ってホント!?」

「ええ・・・、お姉さまも彼の力はご覧になりましたわよね。 彼は重力を操る能力者で、その力の根源は重力子を操作する能力によるものですのですの。 つい先日の能力測定(システムスキャン)超能力者(レベル5)認定をされ、その際に分かったことらしいですけど。 その力は、重力子(グラビトン)の数を増やすことも、速度を急激に増加させることも可能ですの・・・」

「・・・」

微妙な沈黙が二人の間に降りる。美琴も白井も神無月には少なからず恩があり、それなりに信用はしているのだった。そんな暗い雰囲気を吹き飛ばすように白井は言う。

「しかしですの、彼が犯人だと決めつけるにはいくつかおかしな点がありますの」

「どういうこと?」

「彼が犯人なら被害が小さすぎると思いません? それにアルミ製の物だけが爆弾として使われていることもおかしいですし、何より昨日の事件当時お姉さまと彼は一緒にいたはずですの」

「ちょっと待って、きちんと説明して」

「はいですの。 まず一つ目ですけど、彼が本気を出せば建物くらい簡単に無くなるレベルの爆発が起こせますの。 にもかかわらず今回の一連の事件、怪我人こそいますが死者は出ていませんの。 『加減したのでは?』と言われればそれまでですが、一連の事件の爆発力は徐々に大きくなっていますの。 威力が大きくなればそれだけのレベルが要求される、それでは犯人候補が少なくなってしまいますからわざわざ自分の身を危険にさらすようなことはしないと思うんですの。」

能力者は無能力者(レベル0)超能力者(レベル5)の6段階に分けられる。学園都市には230万人もの学生がいるが、その全員がこの6段階に振り分けられる。単純計算で1つのレベルに数十万人がいると言うことだ。もちろんレベルが高くなるほど人数は少なくなり超能力者(レベル5)においては学園都市の中でも8人しかいない。つまり、レベルを1段階上げるだけでもかなり難しいということだ。能力の向上は、一朝一夕の努力で出来るものではなく、長い時間をかけて少しずつ上げることができるかもしれないといった具合だ。もちろん努力だけでなく、先天的な資質によっても能力は異なる。つまり、使う力が大きければ大きいほど能力の特定が簡単になってしまうのだ。そのため、今回の事件が高レベル能力者の仕業(しわざ)ならばわざわざ大きい力を使い自ら捕まるような危険は冒さないと白井は考えた。能力の威力を小さくしても建物の構造上どうしても弱くなってしまう部分を狙えば、甚大な被害が出せるからだ。それを応用したのが、建物の爆破解体だ。爆破解体は、建造物を支えている柱の一部を破壊することによって建物全体を壊す。わざわざ、建物全体にダイナマイトを仕掛け爆破することで吹き飛ばす必要はないのだ。

「二つ目ですが、彼の能力ならアルミ以外でも爆弾に変えられますの。 例えば、店を支える鉄骨、金属の棚、硬貨など、もっと被害を大きくできますし偽装することもできますの。 しかし、毎回アルミ製品を人形に隠して爆発させる。 これは本当の犯人はアルミしか爆発させることができず、大きなものになると爆弾として使うことができないからではないでしょうか?」

そう、二つ目の疑問。なぜ、毎回アルミ製品が爆弾として使われるか。アルミだけを爆破することは犯人にとってあまり大きなメリットにはならない。なぜならアルミも含めて色々な金属を爆発させられる能力者とアルミしか爆発させられない能力者、この二人が同時に犯人候補に挙がったとするならアルミだけが爆発している今回の事件においてはアルミしか爆発させられない能力者の方が怪しまれはするが、決定的な証拠が出ない限りは両方とも犯人候補として怪しまれるからだ。仮にアルミを含めて色々な金属を爆発させられる能力者がアルミしか爆発させられない能力者に罪をかぶせようとしても自分自身が犯人候補から外されるわけではないので大きなメリットにはならないのだ。ならば、今回の事件もアルミしか爆発させられない能力者の犯行とみるべきだろう。また、アルミ缶やアルミのスプーンなどが爆発していることから見ても大きな物体は爆発させられないようだ。被害を大きくするならアルミの合金であるジュラルミンを主な材料とする旅客機などを爆発させた方がよっぽど被害が大きい。にもかかわらず、小型の持ち運べる程度のアルミ製品に限られているためこの犯人は超能力者(レベル5)には達していないと白井は考えた。

「そして、最後に昨日の事件です。 昨夜(ゆうべ)、お姉さまに昨日のことを聞きましたよね。 お姉さまの話が本当なら事件当時、お姉さまは彼と一緒にいたことになる。 つまり、アリバイがあるんですの。」

そう、昨夜名前を呼び捨てにされた二人は悶々とした夜を過ごしたが、白井が美琴と神無月の関係を訝しみ美琴に午後の出来事を聞いていたのだ。

「穴だらけの推理で、絶対の保証はありませんがわたくしは彼が犯人だとは思っていませんわ」

ニコッと白井は美琴に笑いかけるが、美琴はう~んという難しい顔をしている。

「お姉さま? どうしたんですの?」

「・・・有真は昨日の午後ほとんど私と一緒にいたけど、実は一瞬だけ消えたのよ。 まあ、それは私の超電磁砲(レールガン)を避けるためだったんだけど。 それを考えると完全なアリバイにはならないなと思って」

「・・・そういう大事なことは早めに言って欲しかったですわ」

「ごめんなさい・・・」

「では、彼のアリバイはないってことになりますわね。 彼の嫌疑を晴らす一番の決め手になりそうでしたのに」

どうしたら彼の無実が晴らせるのかと二人は考え込む。彼女たちの中で神無月が犯人であると言う考えはなかったのだった。少しの間、考え込むと美琴がハッとした顔をする。

「あ・・・」

「どうしたんですの?」

「そうよ、アリバイが無いんなら私たちがアリバイになればいいのよ」

「?」

美琴はニヤリと笑いその内容を白井に耳打ちする。

 

 

『キーンコーンカーンコーン』と学校の授業を終了する鐘の音が校舎に響き終わった。

「ん――――――――っ、終わったぁ」

柵川中学では、半日授業の終了と共に多くの学生が校門から溢れてきた。その中には初春と佐天の姿もあった。佐天は授業で凝りきった体をほぐすように、う~んと伸びをする。そして、二人は話しながら自分たちの寮への帰路に就いた。

「これで明日の終業式が終われば、ついに夏休みだねっ!」

「そうですねぇ・・・・・・え?」

佐天の喜びに初春が共感しようとしたが、視界に入った人達のせいきちんと答えられなかった。

「ん、どしたの初春?」

「佐天さん、あれって・・・」

初春の視線の先にいたのは、コンビニの入り口近くにある電柱の陰からそっとコンビニの中をこっそり覗いている美琴と白井だった。コンビニを見張っているのか、コンビニの中にいる人を見張っているのかは知らないが、あからさまに目立っている。道を通り過ぎる人達も『この子たちは何をしているんだろう?』という奇異の目で二人を見ながら避けていく。しかも、二人とも電柱の陰に隠れているつもりなのかもしれないが全く隠れることができていないのだ。きっと、コンビニの入り口の方から見ても二人の服や頭が見えているであろうことが容易に分かる。そして、二人は常盤台中学(ときわだいちゅうがく)の制服を着ていることも目立つ要因の一つだった。常盤台中学は学園都市(がくえんとし)でも名門のお嬢様学校で、その行いは淑女として正しいものではなくてはならないとされている。そのため、土曜日などの休日でも基本的な服装は制服と言うことになっているのだ。名門と言うだけあって当然通っている生徒も頭がいい。にもかかわらず、漫画に出てくるいわゆるアホ探偵のごとき隠れ方を行っているのだ。常盤台中学の名門という名が泣きそうな光景だった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

初春と佐天はと言うと、二人のアホっぽい行動にたっぷり60秒も固まってしまった。二人とも言葉が出ない。美琴と白井の珍妙な行動はそれほど驚きに値するものだった。

「・・・佐天さん、話しかけた方がいいですかね?」

初春が苦笑い気味に佐天に尋ねる。

「う、ん、まあ、初春の好きにしていいと思うよ」

「じゃあ、いきましょうか」

「うん・・・」

初春と佐天は、電柱の陰からコンビニを覗いている美琴と白井に近づき、肩に触れる。

「あの・・・」

その瞬間、美琴と白井はビクッと体を震わせ飛び上がり、二人はすかさず後ろを振り返る。二人の驚き方にびっくりした初春は『あの、何してるんですか?』と続けるタイミングをずらされた。

「なんだ、初春さんと佐天さんじゃない、驚かせないでよ」

美琴は振り返って後ろにいたのが、初春と佐天だったことにとても安堵しているようだった。そんな態度をされるといったい誰に見つからないように行動しているのか少し気になってしまった佐天は二人に問いかける。

「えっと、御坂さんも白井さんもこんなところで、何してるんですか?」

一瞬、『うっ』と言葉を詰まらせたが、美琴は答える。

「んーー、簡単に言えば尾行・・・かな」

答える際に美琴は目配らせのように白井の目を見た。尾行とは、相手の行動を探ったり監視したりするため、気付かれないように後をついて行くことである。と言うことは、やはり追いかける相手がいると言う事だ。美琴と白井が追いかける必要がある相手とは誰なのか、二人で追いかけているのだから気になっている彼を追いかけているなどと言うおとめチックな展開ではないだろう、と佐天は考えをめぐらす。

「もしかして、事件ですか?」

「ん、まあ、そんなところですわ」

白井が答えると初春が少し驚いたように携帯端末を確認する。

「そうなんですか? 風紀委員(ジャッジメント)のへ要請は来てないと思うんですけど」

「まあ、事件の予防と言いますか、アリバイ調査と言いますか、例の虚空爆破(グラビトン)事件の容疑者候補を見張っているんですのよ」

「というと神無月さんですか?」

「そういうことですわ」

とりあえず、大まかに説明はしたものの容疑を晴らすためにわざわざ尾行しているとは恥ずかしくて言えない美琴と白井だった。二人の恩人でもある神無月の容疑を晴らそうとすることは一般的に見れば変なことではないが、少し気になってしまうと何をしても変に勘ぐられそうな気がしてしょうがない多感なお年頃の二人だった。

「な~んだ、御坂さんと白井さんが気になる男の人の私生活が気になってスト―キングしてたらおもしろいな~って思ったんですけど、やっぱり違いましたか」

「「ブッ、ゴホゴホ―――」」

同時にむせる二人、そんなつもりはなくても、やっぱり気にしていることを突かれると激しく反応してしまう。

「だ、大丈夫ですか、御坂さん、白井さん」

「大丈夫、ありがと初春さん、さ、佐天さんもい、いきなり変なこと言わないでよ」

「あはは、ごめんなさい、で、今あのコンビニの中に神無月さんがいるんですか?」

「うん、さっき入ったばかりよ」

じっと、コンビニを見張る四人、神無月を追跡する人数はさらに倍に増え、もうどうやっても電柱の陰に隠れることなどできない。美琴と白井を見つけた時に驚いて固まっていた初春と佐天も話しかけたときは『注目されていますよ』と注意を促すつもりだったのだが今では注目される側の人間になってしまっている。ミイラ取りがなんとやらのよい見本になってしまった。こういう場合、客観的に見ているときは見られていることに気がついても、実際に自分も見られる側の人間になるとあまり見られているということに気がつかないものだ。そして、新しい尾行仲間をパーティーに加えた美琴たち一行は神無月の監視を続ける。そこで佐天が美琴に問いかける。

「ところで、なんでいきなり尾行を始めようと思ったんですか」

 

 

美琴が神無月の尾行を行おうと考えついたときに戻る。

「ねえ黒子、有真のアリバイが無いんなら、私たちがアリバイを作ればいいのよ」

「・・・えっと、それはつまり彼を尾行すると言う事ですの?」

「そのつもりだけど?」

あまりにも美琴が当たり前のように言うので白井はつっこむ。

「お姉さま、それはいわゆるスト―キングというものでは?」

「ち、違うわよ、ただ私たちはアイツの後を付けて歩くだけよ」

「・・・・・・お姉さま、それを一般的にスト―キングと言うのだと思いますわよ」

「なっ、・・・・・・そ、そうよ、私たちには虚空爆破(グラビトン)事件の容疑者候補を調べるという目的があるからこれはスト―キングじゃなくて、探偵とかが行う監視よ」

「ところでお姉さま、彼の家を知っていますの?」

「あ・・・・・・」

神無月の家も知らずに尾行を行おうとしていたことが発覚した瞬間だった。しかし、白井はこの問いにもう一つの意味を持たせての質問だった。

(良かったですわ。 これでもしお姉さまが彼の家を知っていたら逆に問題でしたの。 出会って二日で家まで知っていたら、お姉さまが彼の家に連れ込まれて、あんなことやこんなことを行ったのではと疑わなければいけないところでしたの)

白井は大好きなお姉さま(みこと)の事となると色々と考えが暴走するのが玉に傷だった。そして、美琴が神無月の家を知らないことに安堵(あんど)するのだった。

「それで、お姉さまどうやって彼を尾行するんですの? 先に言っておきますが、彼はあくまで容疑者候補で容疑者というわけではないので風紀委員(ジャッジメント)としては動けませんわよ」

「じゃあ、私が―――」「駄目ですの」

美琴が携帯端末を取り出すと、白井は即座にそれを止める。美琴は電撃使い(エレクトロマスター)超能力者(レベル5)だ。その能力は攻撃だけに特化した物だけでなく、電気を操ることでネットワークを介したハッキングを行うことも可能なのだ。学園都市では情報(データ)にランク付けがなされていて、機密性の高い情報(データ)ほど高ランクとされる。低ランクに格付けされる情報(データ)は低ランク閲覧用の端末と高ランク閲覧用の端末の両方から見ることができるが、高ランクのデータは高ランク閲覧用の端末からでしかアクセスできない。学生は学生用の情報(データ)しか見ることができないが、教師なら学生用の情報(データ)と教師用の情報(データ)の両方を見ることができるということだ。しかし、美琴がハッキングをすれば通常学生が閲覧することのできない高ランクの情報(データ)を低ランク端末からでも閲覧することすら可能になる。もちろん、違法な行いで風紀委員(ジャッジメント)の取り締まり対象になる。風紀委員(ジャッジメント)である白井が止めるのも当然だ。しかし、今度は美琴に手立てが無くなってしまう。何かいい案はないかと美琴は頭を振り絞る。

(あれ、そう言えば昨日有真は、すっごい甘そうなお菓子を大量に買い込んでいたっけ。 ん、そう言えば学園都市の都市伝説に甘いものを発売当日に必ず買い占める男、通称甘男(あまおとこ)の都市伝説があった気がするわね。 あれって確か、昨日言ったコンビニが舞台だったような。 まさか、あの都市伝説って有真? 決めつけられないけど、ネットを探せば何か手掛かりがあるかも)

急いで、美琴は携帯端末を操作する。

「だから、お姉さまハッキングは違法行為ですってば」

「違うわよ、ちょっと都市伝説をネットで調べるのよ」

「?」

白井からすれば、神無月の尾行の話から都市伝説についての話への飛躍の意味が分からない。疑問符を頭の上に抱えるのは当然だった。そんな白井の疑問には気付かず美琴は高速で端末を操作する。

「あった!」

「? 何がありましたのお姉さま?」

「これを見て」

美琴が白井に見せたネットのページは、都市伝説の特集ページ、ちょうど甘男(あまおとこ)についての関連記事と写真が掲載されており、写真には『この人物が甘男なのか?』という文字がデカデカと斜めに書かれている。そして、その姿はまぎれもなく美琴が昨日戦った人物、そして一昨日(おととい)白井を凶弾から救った人物のものだった。

「これは彼ですわね。 でも、ここから何が分かるんですの?」

「そして、これがもう一つのページ」

今度は昨日美琴の行ったコンビニの新作スイーツ販売日予告なるページが開かれていた。そこには、7月17日(金)『はちみつレモンヨーグルトのホイップカスタードシューロール』、7月18日(土)『ムーンノエル』、7月19日(日)『ボルドーの雫』と書かれている。

「つまり、甘男(あまおとこ)である有真は今日このコンビニに高い確率で来るってこと、もし今日すでに有真がコンビニに来た後だったら、明日張り込んでいれば見つけられる」

「そして、彼の後ろをついて行けば住んでいる場所も分かりアリバイを作り易くなる、わたくしたちが見張っている間に虚空爆破(グラビトン)事件が発生すればその場でアリバイが作れるという事ですのね」

「今日コンビニに有真が来たかどうかは今日発売のムーンノエルってお菓子を大量買いした男子学生がいたかを店員に聞けばわかると思うし、さっそく行くわよ黒子」

「ハイですの」

そして、二人はコンビニの店員にまだ神無月らしき人物が来ていないことを確認すると電柱の陰からコンビニを監視し始めたのである。そして、初春と佐天が美琴と白井を見つける前に神無月はコンビニ入って行ったのだった。

 

 

「じゃあ、甘男(あまおとこ)の都市伝説ってホントだったんですね!」

これまでの経緯を美琴が初春と佐天に話すと佐天がものすごい食いつきを見せた。

「しかも、その正体は学園都市第三位の能力者絶対重力(ブラックホール)こと神無月さんだったなんて!」

佐天はかなり驚いているが、白井は少し冷静に言う。

「しかし、甘男(あまおとこ)といっても発売日当日に一つのコンビニの新商品を買い占めるだけの男がよく都市伝説になりましたわね」

「違いますよ白井さん! 甘男(あまおとこ)の伝説はそんなものじゃないんです!」

すごく興奮した様子で佐天は白井の方にズイと顔を近づける。そのあまりの興奮具合に白井は少し後ろに下がった。初春はその様子をアハハハハと生温かい視線で見守っている。そして、佐天は甘男の伝説について語る。

「白井さん、甘男(あまおとこ)はただ甘いものを買い占めるだけじゃありません! 伝説の一つにこんなのがあります。 甘男は買ったデザートを持っていつものようにコンビニから帰っていたそうです。 ですが、その道中(どうちゅう)数十台の改造バイクが甘男(あまおとこ)の横を通り過ぎ、せっかく買ったデザートの全てを地面に落としたそうです。 そのバイクの集団はスキルアウトでバイクで移動していたのは一部だったそうなんですが、その集団は総勢一万人近くいたそうです。でも、その日そのスキルアウトは解散したそうです。 なんでも、怒り狂った甘男(あまおとこ)がスキルアウトの根城に突撃して全員を病院送りにしたそうです。 それ以来、そのスキルアウトのメンバーはバイクに乗ることはなくなり、学校でまじめに勉強するようになったそうです」

「・・・彼は何をしているんですの・・・、それにそこまで人物を特定できそうなことが分かっていたら都市伝説じゃないじゃありませんの、まあ行動が伝説なのはわかりますけど」

「まだ、ありますよ! 例えば会社ひとつを倒産に―――」

「もう十分に凄さは分かったので、結構ですわ」

「そうですか? じゃあ、甘男(あまおとこ)と並び立つ都市伝説脱ぎ女(ぬぎおんな)について―――」

「黒子、佐天さん、有真が出て来たわよ!」

佐天が甘男(あまおとこ)だけでなく別の都市伝説について話を始めようとした時、美琴が白井と佐天に有真がコンビニから出てきたことを知らせた。美琴と初春は都市伝説の話にはほとんど入らずにコンビニを見張っていたのだった。見張られていることなど気が付かずに神無月は同じスイーツで満たされたコンビニ袋を両手に提げて自分の寮への帰路に就くのだった。

 

 

(何か視線を感じる気がする・・・)

神無月はコンビニで買った『ムーンノエル(コンビニデザートの名前)』の大量に詰まったビニール袋を両手に提げながら寮に帰ろうとしているところだった。あたりは既に学生寮に囲まれた住宅地である。そのため、物陰も多く存在していて死角も多い。住宅地ゆえに別段危険度の高い場所ではないが、背後に気配を感じるとさすがに色々な場所が危なく見えてくる神無月だった。

(コンビニ帰りに後を付けられる覚えはないんだけどな。 俺が超能力者(レベル5)になったことを嗅ぎつけた連中が学園都市第三位の座を狙って襲いに来たか?)

とりあえず、尾行されていることを気付いていないと思わせる方が危険度は少ない。もし、襲われたとしても尾行者にとっての不意打ちにもなるからだ。そういうわけで、歩く速度を不自然に変えず、カーブミラーなどを使って後ろをさりげなく確認するが誰もいない。

(さすがに手慣れているな、こんな程度じゃ尻尾をつかませないか。 じゃあしょうがない、少し探りを入れるか)

神無月は重力を操る超能力者(レベル5)だ。その力は、美琴同様に攻撃にのみに特化したものではない。この世のあらゆる物体は、それがどれほど小さい物体であっても、どれほど小さな質量であったとしても、質量を持つ限り重力を発生させる。そして、重力が発生しているなら神無月はそれを完全に感知できる。普段はほとんど感じないようにしているが、その気になれば半径5km程度の円内に存在する物体の重力を感知することが可能なのだ。そして、重力を解析すると発生させている物体の質量や大きさまで分かるため、神無月は後ろを向くことなく尾行している人数、身長、体重、持ち物などを把握することができるのだ。なぜ神無月が常に重力感知を行わないかと言えば、ありとあらゆる物体が重力を発生させているため、脳に入ってくる情報量が多すぎて能力を含めてあらゆる行動に制限が付くのだ。例えば、能力ならば重力感知中はすでに存在している重力を大きくすることが限界で絶対重力(ブラックホール)を作り出すことができず、日常生活では考え事を行うことに使う余裕がないほど頭が働かない。だから神無月は常に重力感知を使わない、使うときも範囲を極力絞り込んで使うようにしている。そして、普段使わない重力感知を使うと神無月の頭の中に重力値のデータが流れ込んでくる。

(ええと、俺の後ろについてきているのは四人か、背は四人とも俺より低いな、ん? この身長、体重、体つきから察するに女か? そうだ、四人とも女だ。 しかも、一人は体の周りから電子による重力が感知されるな、これは―――)

 

 

「黒子どう? ばれてなさそう?」

「そうですわね、尾行に気が付いたような素振(そぶ)りはありませんし、見つかってもいないと思いますわ」

「流石風紀委員(ジャッジメント)ですね、白井さん。 初春にも見習ってほしいな~」

「わ、私は後方支援が担当だからいいんです!」

四人は、常に神無月の死角になる位置を移動していた。時には、白井の空間移動(テレポート)を駆使し、時には美琴が壁の中の鉄骨に磁力を通して張り付き、残り全員を引っ張り上げるなどということもあった。そうして移動を繰り返すうちに神無月が一つの寮に入った。

「神無月さんあの寮に入りましたよ」

「ええ、ですが今度はこちらの死角に入られてしまいましたわね。 これ以上近づくのはさすがに尾行がばれる恐れが出てきますがどうしますの?」

初春の言葉に続いて白井は三人に尋ねる。

「ここまで来たらアイツがどこの部屋に住んでいるかは確かめないと」

「そうですよ、仮にばれても部屋さえ分かっちゃえばいいわけですし」

どうするか決まると四人は学生寮の一階に足を踏み入れた。しかし、すでに一階には人の姿はなかった。そして、美琴たちの前には誰もいない廊下とエレベーター、上に続いていく階段があるのだった。ここで考えられる神無月の行動パターンは三つ、一階に神無月の部屋がありすでにその部屋に入ってしまったパターン、一階より上に神無月の部屋がありエレベーターで昇ったパターン、最後に上の階に部屋があり階段で上に登ったパターンだ。そして、運のいいことにエレベーターは一階で止まっていた。つまり、階段で昇ったか一階に住んでいるのかどちらかとなった。どちらがそうか決めかねて少し話していると、

「・・・ん、ちょっと静かに」

美琴が全員に声をかける。するとコツコツとコンクリートでできた階段を上がっていく音が聞こえた。神無月は階段を使っていたのだ。幸いなことに土曜日の昼ごろということもあり、学生寮は静かだった。今日出かける予定だった者は大体が午前中に出払い、いまだに眠っている学生もいるので物音がほとんどせず、足音も聞こえてきたのだ。そして、四人は階段を上がっていった。

「今何階ですか?」

「・・・たぶん、六階ですわ」

「なんで神無月さんこんな上の階なのにエレベーター使わないんですか~」

佐天の嘆きももっともだ。いかに元気な中学生であっても六階まで階段を上がり続けたら疲れる。しかも、尾行の最中ということで普段以上に精神的にも肉体的にも疲れやすくなっているのだ。しかも、神無月はまだ上がっているのだ。四人は神無月の死角にはいるもののかなり近くまで接近していた。階段は蛇腹状に上に伸びている。そのため、上にいる人間は蛇腹の折り返し地点である踊り場を過ぎると下をのぞきこまない限りは踊り場より下にいる人間を確認することはできない。それを利用して四人は隠れているので実質的な距離は5mと離れていない。そして、階段を上る音が七階でやっと途切れた。続いて七階の部屋の扉を開閉する音が聞こえて四人は七階へ足を踏み入れた。

「この階のどれかが彼の部屋ですわね」

「私こんなにドキドキしたのは久しぶりですよ」

初春も少しテンションが高い。そして、これからどうするかが問題だ。七階に住んでいるということは突き止めた。しかし、そこから先がつながらない。七階の部屋の扉には部屋番こそついているが、防犯のためか名字すら書かれていない。かなり行き当たりばったりの尾行だったため、色々なことに気が回っていなかったのだ。通常、探偵が捜査するなら、かなりの長期間をかけて調べるため潜伏場所を近くに用意したりすることもできるがそんな用意はしていないし、時間もそこまで多いわけではないのだ。次の一手を四人は考える。

「で、お前ら何してんの?」

いきなり後ろから声をかけられ、美琴、白井、初春、佐天は飛び上がった。とっさに後ろを振り返るとジト目で四人を見る神無月の姿がそこにはあった。

「な、ア、アンタ、どこからいきなりあらわれたのよ!?」

「いや、美琴は俺の能力知ってるだろ。 昨日部屋まで運んだばかりでもう忘れたのか?」

神無月は強力な重力によってワームホールを作り空間を移動できる。その力で昨日力の使い過ぎで動けなくなった美琴を寮の部屋まで運んだのだった。

「じゃ、じゃあいつからわたしたちが尾行してるのに気付いてたの!?」

「コンビニ出て少ししたときくらい?」

「ほとんど一番はじめからじゃない!」

「って言っても、誰かが付いて来てるなってくらいで、美琴達四人だって気が付いたのはこの近くになってからだけどな」

「じゃあなんで―――」

「まあ待とうぜ。 立ち話もなんだし、俺の部屋で話さないか?」

 

 




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