とある魔術の絶対重力‐ブラックホール-   作:プロジェクトE

4 / 14
第04話 あ―――『幻想御手』があったらなー

 

「・・・・・・」

「ふぇ~~ここが神無月さんのお部屋ですか~」

「意外と綺麗に片付いているんですのね」

神無月は四人を自分の部屋に招き入れていた。神無月の部屋の中は、確かに一般的な男子高校生の一人部屋にしてはかなり片付いているほうだ。洗濯物が山積みになっていたり、脱いだ靴下が床に転がっていたり、ほこりが溜まっていたりもしない。しかし、確かに人を呼ぶことができる部屋だといってもつい数日前に出会ったばかりに女子中学生を四人も自分の部屋に招き入れるのは男子高校生としてどうなのだろうか。

超能力者(レベル5)の人のお部屋ってもっとこう訳のわからないものでいっぱいって感じがしてたんですけど、あたしたちの部屋とそんなに変わらないんですね」

「まあ、それなりに人を呼べる程度には掃除してるしな、それに超能力者(レベル5)っていっても能力以外は普通の人間だからな、部屋だってたいして変わらないさ、な、美琴?」

「・・・・・・」

「ん、どうした美琴? そんな借りてきた猫みたいに静かになっちゃって」

神無月が話しかけると美琴はビクリと体を跳ねさせた。

「ベッ(声が裏返った)、別に男の人の部屋に入るのは初めてだなとか、すごく緊張するなとか思ってないんだから!!」

「・・・そうか、ま、まあ、とりあえず立ってんのも疲れるだろうし、その辺で好きに(くつろ)いでいてくれ」

神無月は部屋の中央にあるテーブルの周り、主にソファや座布団を指さしながら四人を座るように促す。招かれた四人はお互い顔を見合わせると皆揃って座布団の上に座る。誰もソファの上には座らないあたり、なんだかんだ言っても皆それなりに緊張しているようだった。

「そういえば、今さらだが二人は何て名前なんだ? 美琴と黒子は知っているんだけど。

一昨日の身代金要求事件の時は美琴に追いかけられて聞きそびれちゃったからな」

そういって神無月が美琴の顔を見ると美琴は顔を赤くしていう。

「それはアンタが私のことビリビリいうから悪いんでしょうが!」

「いや、名前教えられてないのに名前をきちんと呼べと言われても無理だろ。 教えてくれたんならともかく教えられてないのに怒られるのは理不尽だろー」

「う、そ、そりゃそうだけど・・・」

言葉に詰まってしまう美琴。 いじめすぎるのは趣味ではないので神無月は話題を戻す。

「まあ、いいや。 二人の名前は?」

「あ、はい。 柵川中学一年の初春飾利(ういはるかざり)です」

「あたしは初春と同じクラスの佐天涙子(さてんるいこ)です」

「飾利と涙子な。 分かった、神無月有真(かんなづきゆうま)だ。 よろしく」

「「よ、よろしくお願いします」」

やはり、いきなり名前を呼ばれることに驚いた二人だったが、いきなり名前を呼び捨てにしてはならないなどと決まりがあるわけではないので何も言わなかった。しかし、心中ではかなり動揺していた。二人の神無月に対する評価は、人間関係における距離を詰めるのが凄まじく早い人だな~というものだった。とりあえず、全員の名前がわかったところで神無月はお茶を出すことに決め、台所の方へ赴く。そして、キッチンの方から神無月が顔を出して、

「みんな、麦茶でいいか?」

「お願いします」「お願いしますわ」「大丈夫で~す」「・・・お願い」

四人とも少しずつ違った反応に神無月は微笑ましく感じる。

「あいよ」

コトッと言う音を立てて氷と麦茶の入ったグラスを神無月は四人の前に置く。

「さてと、でだ、今日俺の後をこっそりついて来てたのは遊びってわけじゃないんだろ?」

と本題にいきなり突入する。すると、それに答えたのは白井だった。

「回りくどいことは好きではありませんので、率直に聞きますわ。 有真さん、あなた虚空爆破(グラビトン)事件の犯人ですの?」

率直すぎる。例え犯人でなかったとしても思わず聞き返してしまいそうになるほどの率直な問いかけ。これにはいと答える人間は存在()るのだろうか、疑問である。問いかけに神無月は少しの間目をパチクリさせていたが、唐突に笑う。

「ぷっははは、いやまさか率直に聞くとは言っても、まさか本当にそこまで率直に聞かれるとは思わなかった。」

そこで神無月の表情が真剣なものになる。

「で、虚空爆破(グラビトン)事件と言うと重力子の加速による爆弾事件だろ? まあ、当然ながら俺は犯人じゃないぞ。 まあ、犯人に聞いても『自分は犯人じゃない』って言うだろうけどな。 俺もこのごろちょくちょく感じてたんだ、俺と近い能力が街中でやたらと振るわれてるのをさ。 それで、容疑者を絞っていくうえで俺に行きついたと、そんなところか?」

「ご推察の通りですわ。 容疑者候補はあなたともうひとりの女生徒、しかしその女生徒は一週間ほど前から意識不明。 現状で一番疑われているのはあなたですわ」

「まあ、確かにその状況なら俺が疑われて当然か」

神無月はまいったなぁと頭をかく。

「違う」

と不意に美琴がつぶやいた。

「確かに今ある証拠から推測したらアンタが一番犯人だと疑われる。 でも、私たちはアンタを疑ってない、アンタが犯人じゃないって信じてる!」

「そうですの、わたくしもあなたがそんなことをする人じゃないと思っていますわ」

「あたしもです。 まだ、最初にあったときから本の数日しか経ってないですけど、人質になってた子供たちを助けた神無月さんが犯人だとは思いません」

「わ、わたしもです。 わたしたち神無月さんが犯人じゃないって証明するために尾行してたんです」

出合って数日でも自分のために行動してくれる人たちがいる。それは神無月の心を揺さぶる。

「俺なんかを信じてくれてありがとう。 っと、もう昼か、じゃあ昼食作んなくちゃな」

そう言って神無月はキッチンに逃げ込む。照れて赤くなった顔を誤魔化すために。

(『信じてる』か、ホントに嬉しいこと言ってくれるな。 面と向かって信じるなんて言ったの上条以来じゃないか?)

入学して間もないころ神無月はある事件に巻き込まれたのだが、そのときは上条が信じると言ってくれたことを思い出したのだった。思い返せば、上条と仲良くなったきっかけもそこから始まった気がする神無月だった。しかし、それはまた別のお話。

料理を始める前に手と一緒に赤くなった顔を冷やす意味も兼ねて神無月は顔を洗う。

「四人とも昼飯まだだよな? うちで食べてくか?」

時刻は正午を過ぎたあたり、昼食には丁度いいぐらいの時間だ。

「別に私たちはお腹すいてないからいいわよ」

美琴がそう答えると、

『くぅ~~~きゅるるるる~~~~ぐぅ~~~』と盛大にお腹が鳴った、本人以外の全員が音源の方を向く。音源は期待を裏切らず美琴だった。とっさに美琴がおなかを押さえて顔を赤くする。

「ぷっ、くくく」

「佐天さん笑っちゃ可哀想、ぷ、ですよ」

「ぷっ、ははは。 ごめ、あまりにも、ぷっ、丁度いいタイミングだったから」

皆笑いを抑えようとするがどうしても出てしまう。美琴は佐天、初春、神無月に笑われて顔が火をつけたように真っ赤になった。そんな美琴の肩にポンと白井の手が乗った。白井は『分かっていますわ』と言わんばかりの顔で慰めに入っているが、逆に美琴は()(たま)れない気持ちになるのだった。そんな時だった。

『『『『くぅ~~~きゅるるるる~~~~ぐぅ~~~』』』』

また、お腹の鳴る音が響いた。

「「「「!!!!」」」」

しかも、その音源は全てリビングの方からだった。

「ぷ、あははははははは、みんな昼食はうちで食べてくって事でいいみたいだな」

リビングにいる女子中学生四人は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして、(うつむ)きつつ首をコクンと(うなず)くしかなかった。神無月は冷蔵庫の中、棚の中などを確認し何が作れるかを考える。

「まあ、無難にたらこスパゲッティにするか」

まあ、食べられない人がいてもまた困る話なのでとりあえず確認を取る。

「なあ、昼飯たらこスパゲッティでいいか?」

リビングにいる四人に確認を取ると、皆まだ俯いたままで、しかしコクコクと頭を縦に振るのが見えた。若干、とりあえず首を振っているだけなんではないかと思ってしまうほど反応が薄い。どうやら先ほど腹が鳴ったことを相当気にしているようだった。

(本当に聞いてんのかな俺の話。 腹が鳴るくらい人間なら当たり前だし、別にそんなに恥ずかしがる必要もねぇと思うんだけどな)

彼女たちが恥ずかしがっているのは、明らかに神無月に笑われたことが原因であるのに当の神無月はそのあたりを全く理解していない。『類は友を呼ぶ』というが神無月も上条に負けず劣らず鈍感なのだった。その頃、首をコクコク振っていた美琴たち四人は、心の中で悶えていた。

(美坂さん、お腹が鳴ったの笑ってすみませんでした。 あたしも人のこと言えませんでした。 うう~恥ずかしすぎる)

(恥ずかしいです。 佐天さんと一緒に美坂さんのお腹の音を笑ってしまった罰が当たったんですね。 うう、ごめんなさい美坂さん、そして忘れてください神無月さん)

(お姉さまを辱めるだけでなく、このわたくしも辱めるとは中々やりますわね。 ああ、でも本当にお腹が鳴るのを殿方に聞かれるなんて黒子一生の不覚ですわ~!)

(ああ~、なんでこんな時ばっかりおなかが鳴るのよ。 今まで鳴ったことなんて殆どなかったのに。 しかも二回って、私だけ二回って、恥ずか死ぬ~~)

それぞれ四人は思い思いに心の中で苦しんでいた。そんな四人の心の中の葛藤を露ほども知らず神無月はたらこスパゲッティ作りに勤しんでいた。

(生たらこ(125g)と牛乳(100g)とだししょうゆ(小さじ2杯半)を混ぜてっと)

たらこスパゲッティのソースを作る神無月の横では鍋で五人分のスパゲッティが茹でられている。神無月も『学園都市』に入ってから長くたつ。今の学生寮に入ったのは今年だが、親元を離れて『学園都市』に来たのは中学生になった時だ。つまり、一人暮らし歴も四年目に突入したのだ。学園都市に来たばかりのときは料理もまともに出来なかった為かなり外食やコンビニ弁当に頼っていた。しかし四年も一人暮らしを続けていると料理の腕も上がり、並列作業も今では楽々行えるようになっていた。

(っとそろそろ茹で上がり時間か)

鍋の火を消して麺の水切りを行う。そんな神無月の様子をリビングにいた四人は見ていた。そんな時、初春はあることに気が付く。

(あれ、わたしたちいきなり神無月さんの家に押しかけてきて、昼食(ちゅうしょく)を作ってもらって、しかも見ているだけで何もしていない! これってすごく失礼なことをしてるんじゃ!? 少なくとも昼食作りのお手伝いくらいはしないといけないんでは!? しかも男の神無月さんに作らせて、女の私たちは見ているだけ、これは良くない、なんて言うか女の子としての立場的に!)

焦りを感じる初春は、美琴、佐天、白井に自分の考えたことを急いで伝える。

「あ、あの美坂さん、白井さん、佐天さんも、わたしたちいきなりここに押し掛けてきて、昼食まで作ってもらっちゃって、それを待ってるだけって女の子として不味くないですか!?」

「「「!!!!」」」

バッと四人はキッチンの神無月の方へ顔を向ける。なんだか、割と楽しそうに料理をしているが、それを待っているだけと言うのはやはりどうなのだろう。むしろ、『いきなり押し掛けてきたのだから、私(わたし・わたくし・あたし)が作る(ります〔わ〕)』、くらいの事は言うべきだったんじゃないかという考えが四人の頭の中を駆け巡る。

「・・・料理を作って美味しければ、お腹の音の件少しは頭から薄れるかな」

美琴がポツリと呟いたその一言は初春の一言同様に三人に衝撃を与える。漫画だったらズガーンという効果音と共に背景に雷が落ちるくらいの衝撃だった。そして、四人の腹が据わる。

「有真、料理手伝おうか?」

「神無月さん、わたしもお手伝いしますよ」

「あたしも手伝いますよ」

「わたくしも手伝わせていただきますわ」

と四人が神無月に申し出る。神無月は四人を上から下まで眺めると、

「・・・・・・ああ、大丈夫。 もうすぐ出来上がるから」

「ちょっと、今の沈黙は何!? 私たちに料理ができないとでもいいたいわけ」

神無月は少し目を背けて言う。

「いやー、なんかべッタベタな爆発落ちが見えた気がしたから」

「アンタ、ちょっと失礼じゃない!?」

美琴が食いつくと他の三人も不満気にブーブーいう。

「そうですよ、いくらなんでもひどいですよ」

「そうです。 あんまりです」

「いくらなんでも、失礼ですわ」

それを見て、神無月はプッと笑う。

「嘘、冗談だよ。 手伝うって言っても残ってる仕事なんて海苔を細く刻むくらいしかないからもう少しだけ待っててくれよ。 四人の料理はまた今度ご相伴に預からせてもらうから。 期待してるんでよろしく」

神無月はニヤッとちょっと意地悪げに微笑む。『期待している』なんてプレッシャー以外の何でもない。しかも、『失礼だ』と文句を言った手前四人は断れない、自らハードルをかなり高くしてしまったことに今更ながら後悔し始める美琴・白井・初春・佐天だった。神無月は四人が神無月を手伝おうかと話しているときにはすでに、水を切ったパスタをフライパンでソースとオリーブオイルを絡めて火を通して皿に盛り付けまでし終わっていて、あとは本当に海苔を刻んで上に乗せるだけという状態まで作り上げていた。神無月は味見に一本麺を引っ張り食べる。

(うん、大丈夫だな。 とりあえず、人に出せるレベルにはなっているはず・・・)

神無月は四人を困らせはしたものの、なんだかんだで不味いと言われないか心配だったのだった。

(海苔を刻んで、よし完成っと)

お盆に五人分のたらこスパゲッティを乗せるとテーブルまで運んで置く。

「うわ、お、おいしそうね」

「本当にそうですわね」

「お店に出ていても可笑しくないレベルですよ」

「ホントにあたしたち手伝う必要ありませんでしたね」

四人は出てきたスパゲッティに驚く。しかし、そのスパゲッティの素晴らしさは同時に今度、神無月にご飯を作ると言う条件のハードルを上げる。

(これに勝つ料理を作るってかなりハードルが高くない?)

そんな美琴の心境など知らずに神無月は料理を勧める。

「冷めないうちに食べちゃってくれ」

「うん、じゃあ「「「いただきます」」」」

口に入れた瞬間に四人の口から言葉が漏れる。

「「「「おいしい」」」」

「気に入っていただけて何よりだよ」

その後は談笑を交えつつ昼食は進んだ。スパゲッティもおよそ半分くらいになったころ佐天が周りを見回す。

「今さらですけど、この部屋って学園都市に八人しかいない超能力者(レベル5)が二人もいるんですよね。 あ~あ、あたしも超能力者(レベル5)とはいかないまでも少しは能力が使えたらよかったんだけどな~」

「佐天さん・・・」

初春は何か言おうとしたが、言葉が続かず、この件に関しては超能力者(レベル5)である神無月も美琴もどうしようもないため、お互いあいまいな表情を作ることしかできない。

「あ、ごめんなさい。 あたし空気悪くしちゃいましたよね。 でも、あ――――『幻想御手(レベルアッパー)』があったらなー」

「え? なんですかそれ?」

幻想御手(レベルアッパー)という聞きなれない単語に初春が反応する。

「いやー、あくまでも噂であたしも詳しいことは知らないんだけど、あたしたちの能力の強さ(レベル)を簡単に引き上げてくれる道具があるんだって。 それが幻想御手(レベルアッパー)・・・ま、ネット上の都市伝説みたいなものなんだけどさ」

学園都市には学園都市内だけの都市伝説が掃いて捨てるほどゴロゴロ転がっている。信憑性の全くないものから本当にあるんじゃないかと思ってしまうような物まであり、そのカテゴリーも様々だ。お化けやら妖怪やらのオカルトチックな話から今回の幻想御手(レベルアッパー)のような実際にあるんじゃないかと思われるようなアイテムの噂まである。

「実際にあったらすごいですけど、そんな便利なものがあるならわたしたちがこんなに苦労してるわけないじゃないですか」

「うん、そうだね。 でもさ本当にあるならあたしでも・・・」

「? 佐天さん?」

「アハハ、なんでもないよ―――」

二人の会話を聞いていた美琴と白井の頭の中では同じことが考えられていた。

大能力者(レベル4)量子変速(シンクロトロン)釧路帷子(くしろかたびら)でも超能力者(レベル5)絶対重力(ブラックホール)神無月有真(かんなづきゆうま)でもなかったら書庫(バンク)に乗っていない能力者の犯行。 そして今の噂、幻想御手(レベルアッパー)・・・関係がある? そんなものが実際にある? まさか・・・ね)

 

 

朝、初春たちとすれ違ったメガネの少年も下校時刻となり教室を出るためにカバンを持ち上げ肩にかけた時だった。

「よう」

後ろから聞きたくない声が投げかけられる。振り返るとそこにはクラスメイトの男三人がいた。そのうちの細身の男が見下したような不快な笑みを浮かべている。

「また、ちっと金貸してくんね?」

この『金を貸してくれないか?』と言う言葉を聞き始めてもうどのくらいになるだろう。 『金を貸してくれないか?』何度、その言葉を聞いただろうか。 そして貸した金が返ってきたことなど一度もなかった。 最初の一回はただ金を貸してほしいだけだと思い彼らの言う額を貸し出した。 しかし、そこから毎日金を貸してくれと言うようになった。

「え・・・でも、こ、こないだ貸した分も・・・返してもらってない、よね」

そういうと三人のクラスメイトは無表情になり互いに顔を見合わせる。

ゴッ、ガスっという音で体育館裏に響き渡る。

「やっ、やめ、うぐ」

メガネの男は体育館裏に連れてこられ暴力を受ける。殴られ、蹴られ、足で顔を踏みつけられる。

「ちゃんと返すって言ってんだろ? 出世払いでさ―――だいたい無期限無利息無制限がお前の売りだろ~?」

そんなこと言った覚えもそうであるつもりもなかった。暴力で地面に転がされその挙句財布も盗られ中身を奴らが数える。

「ちっ、これっぽっちか」

「小銭は残しといてやんよ」

そう言ってほぼから同然になった財布を投げ返される。

「よ―――す」

そう言ってもう一人の奴が返ってきた。

「そっちはどうだった?」

「楽勝楽勝、廊下水浸しにしただけで風紀委員(ジャッジメント)の奴ら総出で片づけだしてさ―――」

「「アーハッハハ」」

暴力をふるうのが細身の男、体育館裏に誰も来ないか見張っているのがデブの奴、そしてもう一人はこれだ。

「見回り後回しにしてお掃除か。 あいつらホント頭カテーよなあ」

「頭カテーから風紀委員(ジャッジメント)なんてやってんだろ」

「あ、そっか」

笑いながら三人は遠ざかっていく。こちらの事を振り返ったりなどしない。金さえ手に入ればこっちのことなんか全く興味がない。

(クソがっ!! 風紀委員(ジャッジメント)も何やってんだよ!! 掃除するところが違うだろうが!! 無能力者(レベル0)がこの僕に暴力を振ってるんだぞ! 何が風紀委員(ジャッジメント)だ。 お前らが無能だから僕がこんな目に遭うんだ。 気付けよッ・・・!!!)

こうしてメガネの男の怒りの矛先はあらぬ方へと向いて行く。

 

 

「やっぱり俺が犯人じゃないって言ったところで証拠にはならないよな」

全員が昼食のたらこスパゲッティを食べ終わったころに神無月が再び話題を戻した。美琴、白井、初春、佐天は別に昼食を食べるために神無月を尾行していたわけではない。あくまで、神無月の虚空爆破(グラビトン)事件における無実を証明するためにここまで来たのだ。しかし、四人が神無月の部屋を訪れてした事といえば神無月に『あなたは犯人じゃないよね』と聞いたということだけだった。つまり何の解決もできていない。

「そうですわね。 本人の証言で無実の証明ができるなら犯罪者なんて現行犯以外は全員いなくなってしまいますものね」

「じゃあどうするのよ、黒子」

そう美琴が白井に尋ねたところで神無月はおもむろに立ち上がりキッチンの方へ向かうと冷蔵庫から人数分の食後のデザート(今日コンビニで買ったムーンノエルという洋菓子)とスプーンを持ってきて全員に配る。

「そのことなんだけどさ、休日にアリバイを保証するために一緒に行動してもらえるか? ここのところ虚空爆破(グラビトン)事件の頻度も上がってきているから一・二週間の休みだけでアリバイは作れると思うんだ。 あ、けど迷惑だったら断ってくれてもいい。 皆だってやることくらいあるだろうし」

四人は顔を見合わせると溜息を吐く。

「何言ってるんですか~あたしたちが何のためにここまで来たのか忘れちゃったんですか?」

「神無月さんのアリバイを確かなものにする為に来たんですからいいに決まってるじゃないですか」

「そうですのよ。 それに風紀委員(ジャッジメント)としても早めに解決したい事件ですから気にしないでくださいですの」

「と言うわけで全員一致で休日は有真の疑いを晴らすってことに決まったんだから、有真こそ、このことを忘れて一人で出かけたりしないでよ」

「じゃあ、あらためてよろしく」

こうして神無月の潔白を示すための行動が開始されたのだった。

 

 

そのころの風紀委員(ジャッジメント)活動第177支部では、白井や初春の風紀委員(ジャッジメント)としての先輩である固法美偉(このりみい)虚空爆破(グラビトン)事件の犯人に繋がるものがないか過去の事件を洗っていた。

「やっぱり時間も場所も関連性なしか―――」

ずっと画面とにらめっこしていたため目が非常に疲れた。眼鏡を外し、目頭を指で押す。目頭には目の疲れに効果のあるツボがあるらしいため少しは効果があるのかもしれない。椅子にもたれ掛り背中を反らして伸びをする。普段、後輩たちの前ではほとんどやらないような格好だが疲れて行き詰った現状を打破するためには少しくらい力を抜いて見直したほうが逆に何かいい考えが浮かんだりするかもしれない。

「現状一番怪しいのはやっぱり神無月有真か~。 でも、白井さんはきっと犯人じゃないと言っていたし。 そうすると完全に手詰まりね。 もう少し何か手がかりがあれば容疑者の絞り込みもできるのに」

もう一度事件のデータに目を通すが、特に犯人に繋がるであろう共通点はない。

「遺留品を読心能力(サイコメトリー)で調べても何も出ていないし、同僚が九人も負傷しているのに何も―――」

そこで固法は何か引っかかりを感じた。

「・・・九人? いくらなんでも多過ぎない!?」

 

 

「ホントにおいしかったですね。 コンビニのデザートと思って甘く見てましたよ」

「だろ、だから近頃のコンビニデザートも馬鹿に出来ないんだよ。 まあ、たまにハズレもあるんだけどな」

「今度、当たりのデザートを教えてくださいよ」

「いいぜ、結構あるから覚悟しなきゃならないけどいいんだな」

「もちろんですよ」

食後のデザートを食べ終わり、佐天と神無月がコンビニデザートの話題で盛り上がりその話が丁度終わった。そこで神無月が、

「じゃあ、さっそく悪いけど買い物行かないか?」

「? まあ、私は別にかまわないけど。 アンタさっきコンビニで買い物してたでしょ?」

「ん、ああ、あれは全部デザート」

「全部!?」

神無月がコンビニから出てきたときに持っていたビニール袋は、通常の学生が一周間は買い物に行かずに生活できる程度の食材が収まるほどの大きさだった。誰だってそれだけの量が全てデザートだとは思わない。

「アンタ、昨日も大量に甘いもの買ってたでしょ? 昨日買ったやつは?」

「ああ、全部食った」

「!?」

「? そんなに驚くことか?」

美琴は驚きで目が点になる。白井、初春、佐天は昨日の神無月の買い物を見ていない。どの程度買ったかを知らないため美琴の驚きが伝わらない。

「神無月さん、昨日どのくらい甘いものを買ったんですか?」

「昨日は『はちみつレモンヨーグルトのホイップカスタードシューロール』を30個くらい買っただけだけど、そんなに多いか?」

「多いですよ! ケーキバイキングの店でだってそんなに食べる人いませんよ」

「そうだったのか・・・」

若干自分の中の常識が否定されて神無月は少ししょんぼりする。

「ところで、アンタは何を買いに行くの?」

「まあ、基本的には食料品かな。 さっき冷蔵庫とか棚を見た時だいぶ食えるものが減ってたから。 そういう美琴たちは(なん)か買うものあるのか?」

今日もあんなに大量の甘味を買い込んで食べるのに、まだ食べるのかと美琴は思いつつ応える。

「そうね。 まあ、少し服とか買いたいかも」

「じゃあ、出かけるって事でいいな、さっそくいくか」

「うん」

 

 

「どうしたんだ? 迷子なのか?」

美琴達四人と買い物に来た神無月だったが、小学校低学年ぐらいの女の子が歩道の真ん中でおろおろしていたので声をかけた(もちろん、変な意味ではない)。こういう場合、風紀委員(ジャッジメント)である白井や初春が対応するのが一般的ではある。しかし、一緒に買い物に出かけたはずなのに神無月の周りには四人が四人とも居ない。なぜなら先ほど、

「うあ~、これ夏の新作ですよ。 可愛い~」

といって洋服屋が見えた時、佐天がショーウインドウめがけて突っ走っていってしまったのだ。そのとき美琴や白井、初春は引きずられるように連れて行かれてしまい。神無月だけ置いてけぼりを食ったのだった。

(おいおい、俺のアリバイを保証するために一緒に行動するんじゃなかったのか?)

と神無月は思ってしまう。しかし、問題は目の前の女の子だ。とりあえず、迷子なのか聞いたのだが、首を『ウンウン』と横に振られてしまった。

「じゃあ、どうしたんだ? 何か探してるものがあるとか?」

その小さな少女は今度は首を縦に振った。

「うん。 お洋服買いに来たんだけどお店が分かんない」

「そうか、じゃあ一緒に行くか」

ちょうど美琴たちが佐天に連れていかれたほうに『Seventh mist(セブンスミスト)』という洋服店がある。もしかしたら、美琴たちもその店の中かもしれないし、合流するためにもちょうどいい。そのため神無月は小さな女の子と一緒に『Seventh mist(セブンスミスト)』に向かう。

 

 

神無月が小学生くらいの女の子と出会う少し前だった。ウィーンという音とともにクレーンが動きぬいぐるみを捕まえた。ゲームセンターの一角であるUFOキャッチャーでメガネの男は慣れた手つきでぬいぐるみを捕まえる。そのUFOキャッチャーの景品はどれを見てもおかしなものだ。中に入っている景品は全て熊やうさぎなどの動物の形のぬいぐるみなのだが全てのぬいぐるみが(ふんどし)をつけているのだ。たった今、メガネの男がクレーンで挟んだカエルのぬいぐるみにしても(ふんどし)をつけているし、両目は焦点が合っていないかのようにあらぬ方向を向いている。これが本当に売れるのかと疑問に思わざるを得ないものだ。メガネの男は捕まえたカエルのぬいぐるみを持ち上げ、商品をきちんと穴に落とす。そして、わざわざ手袋を手にはめて商品を取り出す。

(新しい世界が来る。 僕が僕を救う。 僕を救わなかった風紀委員(ジャッジメント)はいらない)

そんなメガネの男の隣を女子中学生四人の集団が通り過ぎていく。メガネの男の目が細くなり、顔を醜く歪めて笑う。女子中学生の集団には風紀委員(ジャッジメント)の腕章をつけた女子が二人いた。一人はツインテール、ひとりは頭に大量の花飾りを乗せた少女だった。メガネの男はカエルのぬいぐるみを抱えつつ、彼女たちの行先を見届ける。『Seventh mist(セブンスミスト)』という洋服屋に彼女たちが入っていったのを確認するとメガネの男は鞄の中に大量に入っているスプーンを一つ取り出したのだった。そして、そのスプーンはアルミで作られたものだった。

 

 

「初春、こんなヒモパンなんてどう?」

「はい!? 無理無理絶対無理です。 そんなの穿けるわけないじゃないですか!」

Seventh mist(セブンスミスト)』の中では、初春が佐天に勧められたパンツを見て赤面していた。

「え~~、でもこれならあたしにスカートめくられても堂々と周りに見せつけられるんじゃない?」

「見せないしめくらないでくださいッ!!」

そんな二人の様子を美琴は「・・・・・・」という様子で見ていた。

(初春さんて、普段こういう風に佐天さんに弄られてるんだ・・・というか、今の話の流れだと初春さんて他の人のいる前でスカートめくられてるんだ・・・)

美琴は初春の様に公衆の面前でスカートをめくられることはなくても、白井に下着を奪われたり、シャワー中に突撃(テレポート)されたりするため、初春に変な親近感が浮かんでくる。そんな時、

「お姉さまは何をお求めになりますの?」

と言いながら白井がかなりの防御能力の低そうな下着を持ってやってきた。それはRPGを始めたばかりの主人公張りの防御力の低さで下着を通して向こう側の風景が見えるレベルだった。

「私はパジャマとか見に来たけど・・・アンタのその下着もうちょっとどうにかならない?」

「わたくしとしてはお姉さまの下着の子供っぽさの方こそどうにかしてほしいですわ」

ムムムと二人の間で火花が散る。美琴と白井にしては珍しい意見の食い違い箇所だった。どうしても二人は下着においては分かりあえないようだ。ちなみに美琴は白井と逆で防御能力高めのパステル調下着を好む傾向にある。二人の下着の中間くらいを選べば年相応な下着になりそうなものだが、二人ともそれぞれこだわりがありどちらも妥協はできなかった。

「はあ、まあこのお話はまたにしましょう。 お姉さまの探しているのはパジャマでしたわね。 それでしたら確かこっちの方にありましたわ」

白井が「こっちですわ」と言って先導すると、下着を見終わったのか初春と佐天も美琴達と一緒に寝具を見るために近くに来た。

「う~ん。 今までも色々回って探したんだけど、あんまいいのが置いてないのよねー」

きょろきょろと周りを見渡していると美琴の視線がある一カ所で固定される。そう、それはパステル調の色合いで所々にデフォルメされた花柄があしらわれていたパジャマだった。端的に言って美琴の好みど直球のパジャマだったのだ。そのパジャマを見つけた瞬間美琴な顔がほわんと緩む。

「ね ね これカワ―――」

美琴が自分の探し求めていたものを見つけた喜びから隣の佐天や初春に同意を求めようとし、振り返ると二人はパジャマを見て笑っていた。

「アハハ 見てよ初春このパジャマ!! すっごいセンス。 今どきこんな子供っぽいの着る人いないっしょ」

「そうですね。 小学生の時までは、こういうの着てましたけどねー」

美琴はカワイイと言おうとした言葉が途中で途切れ、“これ”と言って示そうとした指が下に下がってしまう。

「そ・・・そうよね! 中学生になってこれはないわよね」

自分の意見に恥ずかしくなった美琴は二人にパジャマを可愛いと言っていたことを気付かれなかったものの顔を赤くして慌てて二人の意見に便乗した。

「あ、御坂さんあたし水着も見ておこうと思うんですけどいいですか?」

「ええと・・・水着コーナーはあっちですね」

そういうと佐天と初春は水着コーナーの方へ向かった。白井は美琴の趣味を知っているため、美琴が二人の前で試着できないことに気が付き空気を読んで初春と佐天の方へ向かった。三人が十分に離れたことを見届けた美琴は、初春と佐天に子供っぽいと評価されたパジャマを手に取る。

(いいんだモン。 どうせパジャマなんだから他人に見せる訳じゃないし! 黒子はいいとして)

若干、理解してもらえないことにいじけてしまいそうになる美琴だったが、それでもやっと好みに合うパジャマを見つけた美琴はそのパジャマをあきらめきれない。手にしたパジャマを抱え、初春や佐天の様子をもう一度見る。

(初春さん達は向こうにいるし、一瞬姿見であわせるだけならばれない)

そろりそろりと気付かれないように鏡の前まで移動してパジャマを急いで体に合わせる。

(それっ)

急いで自分の体に合わせたパジャマの丈の具合とかを見ようとして美琴は気付いた。鏡には自分以外にも人が映っていて自分の姿を見ていることに。

「美琴、何でそんなに挙動不審なんだよ」

神無月だった。

「―――――――――――――ッ?―――――――――――――ッ!?」

美琴は驚きで声も出ない。

まさか、見られた!? なんで、嘘、ここに? え、どういうこと――――?

「な、なんで、アンタがここにいるの!?」

そう言いながら、美琴はパジャマを急いで元の場所に戻す。

「何でって・・・完全に忘れてるよ―――おいおい、俺の監視はどうしたんだよ」

一番最初の理由、美琴達が買い物に来たのは神無月のアリバイの証人になるために神無月の買い物についてきた・・・はずだったのだがいつの間にか四人ともすっかり忘れていたのだった。

「おに―――ちゃ―――ん。 このお洋服どうかな――」

美琴の知らない小さな女の子が神無月に向かってトテトテと走ってきた。

「えっ、お兄ちゃんってアンタ妹がいたの?」

「ちがう。 美琴達に置き去りにされた後、その子は洋服屋がどこにあるか分からないって困ってたからここに連れてきただけだ。 (まあ、実際の妹は・・・)」

美琴は、神無月の言葉の最後の方がボソッとした小声だったため聞き取れなかった。しかし、神無月は困ったような、あきらめたような顔をしていてあきらかに目が泳いでいるため繰り返し聞くことはできなかった。すると小さな女の子が美琴に話しかける。

「あのね。 オシャレな人はここに来るってテレビで言ってたの。 わたしもおしゃれするんだモン」

「そうなんだ。 オシャレな服を買って可愛くしないとね」

「うんっ」

小さな女の子が嬉しそうに頷くと美琴も自然と笑みが浮かんでしまう。

「なあ、流石にここ女性用の服しか置いてないから俺はなんか居心地悪いんだけどその子のこと任せちゃっていいか? 俺は入口の所にいるから」

「え、行っちゃうのおにーちゃん」

「ん? ここは女の子の服しか売ってないからな、俺は入口のところで待ってるよ。 分からないことがあったらお姉ちゃんに聞いてみな教えてくれるから」

「じゃあ、またあとでね」

「おう、またあとでな」

そう言って神無月は美琴と小さな女の子から離れて行った。女の子の事も気になるが美琴はさらに気になることがあった。

(・・・見られたかな? 有真からは私の背中しか見えていなかったはず・・・でも、あいつが鏡に映った私を見てたらパジャマも見られた可能性も・・・)

一人心の中で悩む美琴の後ろから白井達三人が戻ってきた。

「あれ、御坂さんその子どうしたんですか?」

「あ、初春さん。 この子は洋服を探してたんだけど、どこにあるか分からなくて探してたところを有真と合ってここまで連れてきてもらったんだって。 で、有真はここ女性用の洋服店だから居心地悪くて入り口付近にいるって」

「そうだったんですか」

初春は小さな女の子の目線までしゃがむと優しく話しかける。

「探してたお洋服は見つかりましたか?」

「うん! これ、でももっとオシャレなのもあるかもしれないからもうちょっと探すの」

小さな女の子に優しく話しかける初春を見ていたら、パジャマを神無月に見られたかもしれないことを気にしていた自分が情けなくなってしまう美琴だった。

「・・・私 ちょっとはずすわね」

美琴は少し気分を変えるために化粧室へ向かう。そして、洗面台の前で自分の姿を見ながら思う。

(はぁーーー、情けないな。 パジャマを見られたかもしれないくらいで)

そんなことを考えながら美琴は化粧室を出て、廊下を歩いていると横から美琴の大好きなカエルのキャラクター『ゲコ太』の気配を感じ思わず振り返る。

(!! ゲコ太!?)

そう思って良く見ると階段の近くに褌を穿いたカエルのぬいぐるみを抱えた男子学生がいた。しかし、もちろんゲコ太は褌など穿いていない。ゲコ太は上半身にスーツを着こなす紳士的(ジェントル)なカエルだ。褌一丁の露出ガエルなんかではない。

(なんだ、ゲコ太じゃないのか・・・つーか全然似てないわ。 でも、あの人あんなところで何やってるんだろ)

そうここは神無月が出て行ったように女性用の洋服(下着や水着等を含む)を売っている店だ。ほとんど男子学生は来ないし、来るとしても彼女へのプレゼントくらいだろう。しかも、プレゼントにしたって階段付近でぬいぐるみを抱えているのはおかしかった。しかし、美琴は『まあ個人個人趣味嗜好や考え方は違うし、まいっか』と考えるのを止めて、白井やさっきの小さな女の子が待っている場所に向かう。しかし、元の場所に戻ったはいいが小さな女の子がいない。

「あれ? あの子は?」

「あ、御坂さんあの子ならお手洗いに行くって言っていましたけど、すれ違いませんでした?」

「ううん、ぜんぜん」

「あれおっかしいな~、すれ違いにでもなったのかもしれませんね」

『♪♪♪~~♪♪♪~♪♪♪♪~~~♪♪』

そんな時、初春の携帯が鳴った。

「はい、もしもし」

『初春さんッ!! 今どこにいるの!?』

「ふぇ? 固法先輩?」

いきなりの大声に初春は驚く。特にいつもは冷静な固法先輩が大声を上げたのだ驚きも当然だった。

虚空爆破(グラビトン)事件の続報よ!』

「えッ!?」

『衛星が重力子(グラビトン)の爆発的な加速を観測したの』

「か、観測地点は?」

『今、現場に風紀委員(ジャッジメント)達を急行させているから。 あなたもできるだけ速く現場に向かって!』

「で、ですから観測地点はどこですか?」

『第七学区の洋服店『セブンスミスト』よ』

「ラッキーです! わたしと白井さんは今ちょうどそこにいますっ!!」

『ッ!? ホントなの―――』

急いでいた初春は固法の言葉に気が付かずに電話を切ってしまった。

「美坂さん! 白井さん! 固法先輩からの知らせがありました。 今、この店の中で虚空爆破(|重力子《グラビトン)の爆発的な加速が観測されたそうです!」

「「!?」」

「今度はこの店が標的だと言う事ですの?」

「どうも、そうらしいです。 ですから避難誘導を始めましょう。 御坂さんも手伝ってもらって良いですか?」

「もちろんいいわ」

しかし、ここで美琴は心の中で焦りを感じていた。

(また、虚空爆破(グラビトン)事件。 しかも今回、有真はこの店にいる。 罪を晴らすどころか疑いが濃くなる一方。 ここで、真犯人を捕まえないとたとえ無実でも有真は捕まるかも―――)

だが、爆弾は待ってくれない。今は、民間人の非難が最優先だった。初春は佐天も外に避難するように言う。

「佐天さんも早く非難を」

「う、うん。 初春も気をつけてよ」

その間に白井は店の従業員に爆弾のことを告げ、客を避難させるように指示を出させる。美琴も、急いで店内から逃げ出す客を誘導し安全に且つ速やかに被害の届かないところまで送り出す。そして、彼女たちの頑張りのおかげで五分と掛からずに店内に残る人影は一つもなくなった。店内をざっと見まわし美琴は何とかなったと息をつく。

「よしっ、とりあえず、これで全員―――」

「おいっ! 美琴!」

そんな時、神無月が血相を変えて走ってきた。

「アンタ何でまた戻って来てんの! 民間人は外に退避しろって言われたでしょ! それにアンタがこんなところにいたら今度こそ捕まるかもしれない!」

「分かってる。 でも、それどころじゃない! あの小さな女の子この店から出てきてないんだ!」

「!? 見落としたとかじゃないの?」

「見落としはたぶんない、入口のところで全員確認してたがそれらしい子は出てこなかった」」

神無月と美琴が話しているときに初春の近くに白井がやってきた。

「初春、避難状況はどうですの」

「はい、たぶん全員の避難が終わったと思いますけど、今から確認を―――」

そんなとき初春の携帯電話が再び固法からの着信で鳴った。

『初春さん! 初春さん!』

「はい。 今、全員避難したかを確認して―――」

『白井さんと共に今すぐそこを離れて! 過去の事件のすべてで風紀委員(ジャッジメント)が負傷していることが分かったわ! 犯人の真の狙いは観測地点周辺の風紀委員(ジャッジメント)だったの!』

初春は時間が止まったかのように言葉をなくす。初春の脳が停止する、固法のいうことが分かっても理解が追い付かない、呆然としてしまう。そんな初春の状況を察したのか固法は的確に今の状況を叫ぶ。

『今回のターゲットはあなたと白井さんだということなの!!!』

その時、初春の後ろからパタパタという子供独特の軽い足音が響いてきた。

「おねーちゃーん」

まだ、あの女の子は店内に残っていたのだ。初春が女の子を振り返ると褌を付けたカエルのぬいぐるみを差し出すように持ってこちらに走ってきていた。

「メガネをかけたおにーちゃんが風紀委員(ジャッジメント)のおねーちゃんに渡してって」

そのようすに神無月と美琴も女の子に気が付く。とりあえず怪我をしていない様子からとりあえず、ホッとした二人だった。しかし、二人はすぐに表情が変わる。美琴は怪訝な顔になった。なぜなら、そのぬいぐるみに見覚えがあったのだ。そう先ほど階段で見かけたメガネの男が持っていたぬいぐるみと全く同じものだということに。そして神無月は驚愕した顔になる。神無月は重力を操る能力者だ、その根源は重力子を操ることにある。そして、重力子が爆発的な加速を始めたことにも自分で気が付いた。目視すればどこが中心に起こっているかもわかる。そして、小さな女の子の抱えたぬいぐるみがその中心にあることに気が付いたのだった。そして、神無月が叫ぶ。

「そのぬいぐるみから離れろ!! そいつが爆弾だ!!」

神無月が叫んだ直後、ぬいぐるみの胴体の中心あたりからブンという鈍い音が響き、音源と同じところにエネルギー球体のようなものが現れた。それを見ると初春はとっさにぬいぐるみを突き飛ばし、女の子を守ろように抱きかかえて(うずくま)る。

地面を転がったぬいぐるみはメキメキと音を立てそうに潰れながら球体の中心に吸い込まれていく。そして、周りの空気すらも吸い寄せるようにしながら圧縮されていく。神無月はそれを見て即座にどのような原理なのかが見て取れた。虚空爆破(グラビトン)事件の犯行に使われた爆弾はアルミを起点に重力子の速度を加速させ、それを周囲にまき散らすと聞いていたが、細かいことは今見て理解できた。重力子の加速によって強力な重力を生み、その力で周りの空間を歪ませ空気や起点となったアルミを含めた周りのものを吸い込む。そして使用した能力の強さのところまで重力子を加速させるが、それが終わると空間が元に戻ろうとする力で吸い込んだものを一気に吐き出しまき散らす。重力子の加速度が分かる神無月は心の中で舌打ちする。

(クソッ、この重力子の加速の仕方はまずい! 今まで死人が出なかったのが奇跡のレベルだぞ)

神無月にとっては使えるレベルの力だが、どう見積もっても大能力者(レベル4)クラスの出力でようやくなせる技だった。すでに爆弾は急激な重力で空間をゆがませているためぬいぐるみがすでに原型をとどめていない。その収縮の度合いから限界が近いことが誰にも見てとれる。あと数秒もせずに大爆発を引き起こすだろう。白井の能力は空間移動(テレポート)だ。もちろん、人間だって運ぶことができる。しかし、どんなに頑張っても一度に運べる人数は白井を含めて三人。人間をテレポートさせるときには万に一つも変な場所、例えば壁の中などの間違った場所へ空間移動(テレポート)させる訳にはいかないので必ず白井も一緒に飛ぶ。そして、今この場にいる人間は神無月、美琴、初春、女の子、白井の五人どう頑張っても人数オーバーだった。白井は空間移動(テレポート)で自分だけ逃げる訳にはいかないので爆弾が爆発するのを指をくわえて見ていることしかできない。(何か、何でもいいですの! 何を空間移動(テレポート)させれば全員が無事に助かりますの!)

そのとき、美琴はスカートのポケットに手を突っ込むと中を探りコインを探り当てていた。すでに美琴はどうするか決めていた。

超電磁砲(レールガン)で爆弾ごと吹き飛ばす!)

そう思いコインをポケットからだす。『ポロッ』美琴は時間が止まったかと思うほど驚き焦る。コインが超電磁砲(レールガン)のコインが手から滑り落ちたのだ。

(!!! マズッた!! 間に合わな―――)

 

 

ドゴォォォォオオオオンと言う爆発音と共に大量の煙が店内から噴出した。店の外ではすぐにパニックになった。

「キャ――――!!」

「何だ、爆発!?」

逃げ惑う人たちと野次馬のように集まってくる人がさらに騒ぎを大きくしていく。

「例の連続爆破テロだって!」

「逃げ遅れた人がまだ中にいたらしいぞ」

「あたし、風紀委員(ジャッジメント)が中にいたのを見た!」

その様子を佐天は店から少し離れた避難誘導された人たちの集まっている場所から見ていた。

(初春、御坂さん、白井さん、神無月さん、みんな無事で戻ってきて)

そんな爆破事件の起こった未だに騒然となっているこの場所からゆっくりとメガネの男が歩き去っていく。男はすぐに細い裏路地に入って出来るだけ人に姿を見られないようにする。そんなことには誰も気が付かず、事件現場は大騒ぎが続く。風紀委員(ジャッジメント)だけでなく警備員(アンチスキル)さえもこの場の収拾が付けられずに困っていた。

「危険です! 危ないから下がっていて!!」

そんな様子を見て、裏路地に入った男の口からは声が漏れた。

「ククク・・・」

思わず出てしまった声だったが、その声は暗い負の感情そのものから来る笑い声だった。

(いいぞ、今度こそ逝っただろう)

「スゴイッ! スバラシイぞ僕の力!! 徐々に強い力を使いこなせるようになってきたッ!!」

メガネの男は自分の能力に酔って、有頂天になり空を仰ぎ見上げる。そして浮かれてたがために後ろから近づいてきているに人影に全く気が付いていなかった。

「もう少しだ! あと少し数をこなせば無能な風紀委員(ジャッジメント)もアイツラもみんなまとめて吹き飛ばッ…!?」

メガネの男は最後まで言い切ることができなかった。なぜなら、後ろから近づいてきた美琴に背中の中心を、神無月の放った上段回し蹴り(ハイキック)を後頭部に同時にくらい路地裏に溜められたゴミの山にバウンドしながら蹴りこまれたからだった。

「ゲフッ。 ?? な!? いったい何が?」

メガネの男が顔を上げると二人の男女がにこやかにほほえみながら立っていた。

 

ほほえみ【微笑み】

①顔の表情が笑顔を形作っていること。

②怒りを通り越したときに浮かんできてしまう表情のこと。

哀れな人間(ブタ野郎)に向けられる蔑みと怒りが形作る表情のこと。

例、二人のほほえみからは「テメェの幻想をぶち殺す」50%「スクラップの時間だ」25%「ぶち殺し確定ね」25%を感じざるを負えなかった。

―――若者のための学園都市特殊国語辞典参照

 

「は~い♡ 要件は言わなくても分かってるわよね―――爆弾魔さん」

メガネの男が凍りつく。地面に座りながらメガネの男は少しずつ後退していく。

「な、何のことだか僕にはさっぱり・・・」

「まあ、威力は大したもんだよ。 大能力者(レベル4)ってところか? ま、実戦向きじゃないけどな」

「でも、残念。 死傷者どころか誰一人カスリ傷ひとつ負ってないわよ」

「なっ!? そんな馬鹿なっ!! 僕の最大出力だぞ!!」

「ほう」

誰もかすり傷ひとつ追ってないと言われ、プライドに傷を付けられたメガネの男はついうっかり口にしてしまった。それを聞いた美琴の目が細くなる。

「はっ」

たったふた文字の言葉がメガネの男に極限のプレッシャーを与える。

「い・・・いや、外から見てもすごい爆発だったんで中の人はとても助からないんじゃないかと・・・」

そう言いながらメガネの男は後ろのあるバッグの中からアルミ(・・・)製のスプーンを美琴や神無月の目から見えないように取り出した。そして、それを爆弾として使おうと前に出した。しかし、重力子(グラビトン)が加速する気配がない。

「悪いな、お前の重力子(グラビトン)の加速はさっきの爆弾で見させてもらったからな、俺の近くでその能力で重力子(グラビトン)を加速させようとしても即座に加速を止められる」

超能力者(レベル5)絶対重力(ブラックホール)!」

そして次の瞬間、メガネ男の頭の横を音速の三倍の速度で何かが通り抜けスプーンは持ち手を彼の手の中に残して消えさった。美琴の指先からパチパチと超電磁砲(レールガン)の余韻の電気がはじける。

「と、常盤台の『超電磁砲(レールガン)』」

言った瞬間メガネの男は、美琴に腕を取られ地面に組み伏せられた。

「暴れてもいいけど、今の私に手加減できる保証はないわよ」

メガネの男は怒りの表情で叫ぶ。

「ハッ! 今度は常盤台のエース様か! いつもこうだ、何をやっても僕は地面にねじ伏せられる。 殺してやるッ! お前みたいなのが悪いんだよ!風紀委員(ジャッジメント)だってッ! 力のあるヤツなんてのは皆そうなんだろうが!!」

そう叫んだ時、ガッとメガネ男の襟を神無月が掴み上げる。美琴が腕を抑えていたためメガネ男の肩の関節が限界まで後ろに逸らされ軋んだ。

「ふざけんなよ、風紀委員(ジャッジメント)が一体お前に何したっていうんだよ! 風紀委員(ジャッジメント)だけじゃない巻き込まれる人間はお構いなしか? あ゛? お前、小さな女の子にぬいぐるみ渡せっつったんだろ、子供だぞ! 爆発すりゃあの子だって死ぬかもしれないって分からなかったわけじゃねえだろうが! そんなことをしておいて力のある奴が悪いだあ? 甘えてんじゃねえ! それだけの力を持っていて大勢の人を苦しめてきたお前がそんなこと言って通るわけがねえだろうが! 関係ないやつを巻き込んだ時点でお前の行動はただの憂さ晴らし、八つ当たりなんだよ!」

神無月の心からの怒りにメガネの男は竦み上がる。そして、美琴は掴んでいた腕を放すとメガネ男の正面に立ち顔を見据えて話す。

「アンタやっていいことと悪いことがあるのよ。 それに私は最初から超能力者(レベル5)じゃなかった。 最初はただの低能力者(レベル1)だった。 頑張って、頑張って今ここにいるのよ。 でもねっ、たとえ低能力者(レベル1)のままだったとしても私はアンタの前に立ちふさがったわよ。 アンタのやったことは許せないしそれ以上に力に依存するアンタの弱さに腹が立つ」

美琴は一度息を吸い込むとこぶしを固め、

「アンタにはアンタの事情があるんでしょうけど。 相談に乗る前に一発殴らせてもらうわよっ!」

そして、裏路地にゴンという鈍い音が響き渡り、メガネの男の頭にはかなりの大きさのたんこぶができたのであった。

 

 

そのころの事件現場では、白井が事件現場の見直し、初春が事件に巻き込まれた女の子の世話をしていた。白井は事件現場を見て、爆発跡を真剣な顔で眺めていた。そのとき、事件対応の応援に駆け付けてくれていた風紀委員(ジャッジメント)の一人が白井に声をかける。

「あの・・・容疑者の少年を確保した模様です」

「・・・了解ですの」

受け答えはするが、白井は事件の爆発痕を眺めるのをやめない。白井が見ている爆発痕それは普通の爆発痕ではなかった。通常爆弾が爆発せれば、その爆発は爆弾を中心に全ての方向にばらまかれる。つまり、爆発痕も中心からあらゆる方向に放射状に広がり円を描くはずだ。しかし、今回の爆発痕はそうではない。美琴や白井・初春たちがいた方向だけ床がそこに壁があったかのように完全に無傷。もちろん、爆発時には床だけでなく人がいたところの空間も直接的には何も起こらなかった。まあ、爆発後の粉塵やら煙・爆発音は少し白井たちを咽させたりはしたものの、爆発による熱量や瓦礫・衝撃などは一切来なかった。

「これが、今のわたくしとあの方の力の差ですか・・・」

爆弾が爆発する直前に白井は何もできなかったことを後悔していた。もちろん、白井の避難誘導により大勢の人々が助かりはしたが、爆発時には何もできなかったことが悔しくてたまらなかった。爆発痕は自分の無力と見せつけられた力の差を浮き彫りにする。爆発前に何もできなかった自分と爆弾に向かって飛び出した神無月との差を。そんな風に少しの間悩んでいた白井だったが、急に頭を左右にぶんぶんと振り回すと目に力を取り戻して前を向いた。

(反省タイムは終了ですわ! 今はまだ追いつけませんが、それでもこれからも追いつけないと決まったわけではありませんの。 お姉さまやあの殿方の隣に立っていても恥ずかしくないようになりますの。 いつまでも守ってもらってばかりの黒子ではありませんわ!)

新しい目標を定めた白井の目には力強いくそれでいて鋭さすら持った炎が踊っていた。

 

 

店の入り口にあるエレベーターのところで美琴は神無月と白井や初春が戻ってくるのを待っていた。現在、神無月は警備員(アンチスキル)に事情聴取を受けていて、白井と初春は風紀委員(ジャッジメント)の仕事をしているのだ。神無月が事情聴取に行く前までは美琴が事情聴取を受けていたのだが、入れ替わりで神無月の順番になったのだった。美琴はエレベーターの扉に寄りかかりながら白井と同様に爆発時の事を思い出していた。

超電磁砲(レールガン)なんて呼ばれていても、肝心なときに撃てないんじゃ何のための超電磁砲(レールガン)なのか分かんないわね・・・)

自虐的な笑みが美琴の顔に浮かぶ。そして同様に真剣な表情も。

(あの時、超電磁砲(レールガン)のコインを落として撃てなかった私と違って、有真(アイツ)はきちんと爆弾の人的被害を最小限にした。 私がコインを取り落としたことに驚いている最中にアイツは飛び出して行って私たちも目の前に壁を作って全員を守った。 あ~あ、同じ超能力者(レベル5)のはずなのにな―――)

そう、あのとき神無月は爆弾が爆発する直前に全員の前に走っていき、黒い壁を出現させた。神無月の重力操作によって作り出された黒剣と原理は同じで、絶対重力(ブラックホール)による壁だ。黒剣と同じく事象の地平面つまりブラックホールの吸収可能領域で黒壁を形作っているため、壁に向かって飛んでくる爆風も爆発によって飛ばされる瓦礫も全て美琴達には届かなかったのである。ありとあらゆるものを吸収するその性質は絶対的な防御力を誇る。今のところ、この壁をぬけた攻撃はない。上条の右手ならば破壊できるだろうが、上条と神無月は協力して戦ったことはあってもぶつかりあったことはなかったため未だにこの壁を突破した攻撃を出した者はいなかった。そんな力を見せられた美琴は少なからずショックだった。

(能力がチート過ぎじゃない。 なんで私の周りには、絶対重力(ブラックホール)とか幻想殺し(イマジンブレイカー)とか私の攻撃すら軽々防げるような奴ばかり集まってくるのよ。 確かに今日はその絶対重力(ブラックホール)のおかげでみんな無事だったわけだけど・・・よし、決めた。 借りは絶対返す)

いつか、神無月に自分の力を認めさせてやろうそう思いながら美琴は拳を握りしめた。

 

 

自分の力の(いた)らなさを自覚し、それでも前を向いて行ける人間はそんなに多くはいない。高位能力者ならば自分の能力に自信を持ち、それを支えに生きている場合が多いためそれがくじかれた時はもう一度前を向くことすらできない場合が多い。しかし、美琴や白井は高位能力者であってもくじけない。美琴は自分の努力でここまでたどり着き、白井は自分よりも強い美琴の背中を見てここまで来たのだ。力のなかったころの自分や自分の目標を見て成長しようとした人間はまた目標を立てられる。だからくじけない。しかし、目標を追い続けても(むく)われない者は立ち止まってしまう。佐天も自分の無力さを感じて努力をしても報われなかった人の一人だった。佐天は店の外から現場を眺める。風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)が事件現場を封鎖していて中には入れなかった。その境界の向こう側にいる神無月や美琴・白井・初春、境界よりこちら側にいる自分。この境界こそが彼らと自分との違いだと言われているような気さえしてくる。

(はぁ、なんであたしにはなにも出来ないのかな・・・わたしはいつも守られるばかり。 能力さえあればみんなに守られるばかりじゃなくなるのかな・・・)

今回の事件で佐天以外は現場で戦っていたのに、佐天は避難することしかできなかった。その重みはその立場の人間にしか分からない。例え、大多数の人達が避難したのだとしても身近な人間が戦っているときに何も出来ない(つら)さは確かに佐天の心にずしりとのしかかるのだった。

 

 

Seventh mist(セブンスミスト)』の被害のなかった従業員休憩室で事情聴取が終わり神無月が店内を歩く。

「あの警備員(アンチスキル)のおっさん何回『本当に君は事件に関与してなかったんだね』って聞けば気が済むんだよ。 20回以上も聞くか普通? 犯人逮捕に協力したのに何か釈然としないぞ」

神無月の独り言だが、独り言にしなければやっていられないこともある。実際、神無月は暑苦しい筋肉質の40代警備員(アンチスキル)の男に本当に君は事件に関与してなかったんだね』と52回も聞かれている。20回どころの話ではない。美琴の事情聴取にかかった時間が20分だが、神無月の事情聴取時間は2時間である。6倍の時間だ。ふざけている。

そのうえ、その警備員(アンチスキル)のおっさんは通常警備員(アンチスキル)が着ている制服を脱いでおりタンクトップでの事情聴取だった。確かに夏休み前で、熱い。それは分かる。しかし、そんな暑苦しいおっさんと部屋の中で二人きり。筋肉質の腕に汗は浮いているし、蒸気すら立っているように見える。さっきの爆弾で電気系統がやられてしまいエアコンもなし。それが6時間。神無月は新手の拷問かと思った。そんなわけで神無月はかなりげんなりしているのだった。

「はあ、不幸だ」

上条の口癖がうつりそうだった。そんなとき、

「どうしたんですの・・・」

店内にいた白井と初春が神無月を見て、言葉を無くす。事件の被害を無くした時の神無月は元気だったのにかなり憔悴しているのだ。誰だって驚く。

「ん、ああ黒子と飾利か・・・今ようやく事情聴取が終わったよ・・・ハハ・・・」

「まさか、いままでずっと事情聴取でしたの!?」

「そのまさかだよ」

「それはご苦労様でしたの」

白井と初春は心から神無月に同情する。誰が事情聴取をしていたかは知っていたし、どんな事情聴取風景なのか知っているためこの憔悴が意味するところを理解した。

「神無月さん、ホントに大丈夫ですか」

「大丈夫だ、ただ精神的に異常なほど辛かっただけだから」

「・・・・・・」

言葉や表情からどれだけ辛かったかが容易に想像できてしまう。白井や初春でもあの空間は30分と居たくないのだ。そこで神無月が尋ねる。

「ところで、二人の仕事は終わったのか?」

「あ、はい今ちょうど私たちの仕事は終わったところです」

「そっか、でさ、これからどうする? 爆弾魔はなんだかんだで捕まったけど買い物とかしてくのか?」

「そうでしたわね、お付き合いいたしますわ。 助けていただきましたし、なによりそんなに疲れ切ってしまっている人を放り出していくなんてこと出来ませんわ」

「こんなわたしでも荷物運びくらいはできるんで、手伝いますよ」

「ありがとう、助かる」

それは神無月の心からの声に聞こえた。そして、店の入り口のところでは美琴が待っていた。

「おかえ・・・り、大丈夫アンタ」

神無月を見たとたん白井達と同じように言葉を詰まらせた。美琴は神無月が帰ってきたら『借りができたからいつか返す』的なことを言おうとしていたのだが出鼻をくじかれた。美琴の時事情聴取時間は20分。その程度があの警備員(アンチスキル)の事情聴取を普通に受けられるギリギリの時間だ。そのあたりを超えると不快指数Yが時間Xの3乗のグラフのごとく跳ね上がる。何とか平常心で受けられるギリギリのラインだったため美琴はそれほど精神を削られなかったのだった。それほどまでに精神を削られると思っていなかった美琴の問いに神無月は答える。

「なんとか・・・」

「・・・・・・」

とても何とかなっているようには見えないが、とりあえず美琴は納得することにした。そこで、白井と初春が神無月の買い物に付き合う旨を美琴に伝えると美琴も同じように一緒に行くことに賛同した。そして、四人が店を出ると佐天が待っていた。

「四人とも無事で何よりで・・・す?」

やはり、佐天も神無月を見て言葉が止まる。体の方に怪我はなさそうだが、かなりやつれていたので無事なのか分からなくなってしまう。

「えっと無事・・・ですよね?」

そう聞かれ神無月は白井や美琴の時と同じように答える。そして、佐天にも買い物の続きの件を話すと佐天も二つ返事でOKだった。そして五人が店を離れようとすると、『Seventh mist(セブンスミスト)』の店長らしき人が走ってきた。

「ちょっと、ちょっと待ってください」

「はい? なんですか?」

神無月が聞き返すと、店長は走ってきて途切れがちになっている息を整えると頭を下げた。

「お客様達のおかげで当店では一人の怪我人も出さずにすみました。 それに当たってお客様達に当店の品物で気に入った物がありましたら、どうぞ持って行ってください」

「いや、それは悪いですよ。 誰も怪我もなかった、それでいいんじゃないですか」

「いえいえ、それではこちらの気が済みません。 私の為だと思ってどうぞお持ち帰りください」

そこまで言われてはもらて行かなければ失礼だと思い、

「じゃあ、お言葉に甘えていただきます」

そう言って、再び店内へ五人は入る。そこで佐天は神無月に問いかける。

「あたし、今回何もしてないんですけどわたしまでもらっちゃっていいんですかね」

「いいんじゃないか。 というか女性用の洋服店じゃ、俺が使える物はないし。 俺の分ってことで、なんだったら俺からのプレゼントでもいいわけだし。 好きなの選んできてくれ」

「ありがとうございます」

そう言って佐天は水着コーナーの方へと走っていった。

「わたくしも見せてもらいにいってきますわ」

「じゃあ、わたしも」

そう言って、白井と初春も自分の気になっている服を見に行くのだった。そして、その場に残ったのは神無月と美琴だった。

「美琴は見に行かないのか?」

「わ、私!? 私はいいわよ、特に気に入ったのなんてなかったし!」

完全に強がりだった。美琴は気になって気になってしょうがないパジャマがあるが、恥ずかしくて買えないのだった。今まで色々な店を回っても自分の好みに合うパジャマが無く半ば諦めていたのだが、この店でついに発見したのだ。しかし、佐天たちにそのパジャマは子供っぽいと言われていたため買えないのだった。美琴の心中では、そのパジャマが売り切れないか心配ですぐにでも買いたいのだが、行動には移せないのだった。

「本当にいいのか?」

「い、良いに決まってるじゃない!」

しかし、美琴を見ているとはっきりとわかってしまう。さっきから美琴の目はパジャマの方をむいては戻り、向いては戻りを繰り返している。さきほど、神無月は美琴が皆から隠れてパジャマを体に当てていたのを目撃している。パジャマは良く言って可愛らしい、悪く言うと子供っぽいようなものだった。そこから考えられる結論は一つしかなかった。美琴の視線があからさま過ぎて、つっこむ気も起きない。美琴は自分では買えないようなので神無月は苦笑いでパジャマの方に歩く。そして、美琴の買おうとしていたパジャマを手に取ると店員に向かって、

「これ下さい。 あと、包んでもらえますか?」

「はい、承りました」

そう言って、美琴が躊躇いに躊躇いまくっていたパジャマを何事もなく買った。しかも、買ったことを美琴以外の三人に気付かれていないという驚異のさりげなさだった。呆気に取られている美琴のところに神無月は戻ってくると、ほいと美琴にパジャマの入った包みを差し出す。

「え、ええっ!? く、くれるの?」

「そのつもりだけど、いらないんなら返してくるが?」

「いる!」

美琴はとっさに叫んでしまってことに赤面し、取り繕う。

「しょ、しょうがないわね。 どうしてももらって欲しいっていうならもらってあげるけど」

「そうか、なら返してくるか」

「すいません。 とっても欲しいです」

そう言って、美琴は神無月からパジャマの包みを受け取ると大事そうに抱えるのだった。

そして結局、美琴は念願のパジャマ、白井はスケスケ下着、初春はふわふわした感じの水着、佐天は白いビキニのセットとパレオを買ったのだった。皆、それぞれ自分の欲しい物を手に入れ満足そうだった。また、満足そうな皆を見ているので神無月も満足だった。少し残念だったのは今回の事件に巻き込まれた小さな女の子は、警備員(アンチスキル)に連れられて自分の家まで送ってもらった後だった為、今回の『もらいもの』をすることはできなかった。可愛いのを選んで送ろうかとも神無月は考えたが住所が分からなかったため諦めたのだった。まあ、無事で帰ったならよしとしようとひとりごちた。

 

 

Seventh mist(セブンスミスト)』での買い物を終えると今度こそ店を離れ、五人は神無月の買い物に向かうのだった。今回の事件は五人の心の中にそれぞれの思いを残した。多少の差異こそあれど、その思いはもっと強くなりたいというものだった。そんな誰の心にでもある、力・能力への渇望。それを根源とした今回の事件は大きな事件の序章に過ぎなかったのだった。

 

 

神無月との買い物を終え、寮に帰った美琴はもらった包みを開けてみた。美琴の目に狂いはなく、美琴の好みでないところが無いと言うほどだった。これから、これを着て寝ようと思っていると美琴は気が付いた。

(あれ、結局これをもらったって事は、あの時私見られてたって事!?)

神無月からこのパジャマをもらっておいて、今頃気が付く美琴だった。子供っぽいと思われたらどうしようと今さらながらに思う美琴の眠れない夜はまだ始まったばかり。しかし、明日寝不足で眠い一日を過ごすことになるということだけは決定していたのだった。

 

 




感想と評価をお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。