とある魔術の絶対重力‐ブラックホール-   作:プロジェクトE

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第05話 え~~~私そんなに子供じゃないよぉ♡

 

『ピピピピピ』

「37度3分か、ま、微熱だけど今日は大事を取って一日寝てた方がいいっしょ」

「すみません、わざわざ」

七月十九日(日)、風邪で寝込んでしまった初春飾利(ういはるかざり)の看病に佐天涙子(さてんるいこ)は初春の部屋を訪ねていた。どうやら、最近の虚空爆破(グラビトン)事件の疲れが一気に出たようで初春は体調を崩したのだった。とりあえず、犯人の確保という形で虚空爆破(グラビトン)事件は終息したため、気が抜けたのか初春は風邪をひいてしまったのだった。初春は二段ベッドの上の方で横になっていて、佐天がベッドについている梯子(はしご)をつかんで初春を覗き込む(のぞきこむ)形で顔を出す。

「いいって、友達でしょ。 こんな時くらい頼りなって。 昨日もあたしは何もできなかったんだしさ」

「そんな、それを言うならわたしこそ変な事件に巻き込んじゃって・・・」

「あほ、初春だって巻き込まれただけでしょ。 初春が悪いわけじゃない」

そういうと佐天は二段ベッドの梯子から飛び降りて、いたずらっぽい笑みを浮かべて言う。

「よっと、そろそろあたしは行くけど、通知表初春の分も預かってきてあげよっか」

「後日自分で取りに行きますよ~~~」

「まあ、明日から夏休みなんだし風邪は今日中に治しちゃいなさいよ」

部屋の外ではこれぞ夏と言わんばかりに蝉が『ミンミン』鳴き、アスファルトの上では陽炎(かげろう)()らいでいる。そんな一日の始まりだった。

 

 

夏特有のカッと照らす太陽の日差しの下を大勢の学生たちが歩いている。今日は夏休みに入る一日前ということもあり、たいていの学校では授業という授業はない。学生たちは成績表を渡されその結果に一喜一憂(いっきいちゆう)し、終業式を熱の閉じこもったサウナのごとき体育館や講堂で行い、無駄に長い校長の話に辟易(へきえき)するのである。学校によっては教室の掃除を行ったりもするが、よほどの金がない学校でもない限りは掃除ロボットがいるため特にそういったこともない。しかし、それを含めても学校で行うことは午前中で終了。そのため、学生たちは夏の昼間の太陽の下を下校することになるのである。下校途中での話はやはり自分の成績に関する話題が多い。自分の成績の悪さに悩みながら歩く学生もちらほらいる。そんな自分の成績について悩む学生たちと同じように、

「う~~~~~む、う~~~~~む・・・」

白井黒子(しらいくろこ)も悩みながら下校していた。しかし、悩む内容は全く異なる。そして、その隣にはそんなずっと悩み続けている白井の姿を見ながら御坂美琴(みさかみこと)も下校していた。白井は悩みの考え事についての答えが(まと)まらず、夏の暑さも(あい)まって白井の頭からは『プシューーー』とオーバーヒートの煙が上がりそうだった。さすがに見ていられなくなった美琴は白井に悩んでいるわけを尋ねる。

「さっきからどうしたのよ、そんな難しい顔して。 もしかして成績落ちた?」

「そんなことではありませんの・・・というか成績は下がっていませんわ」

いくら考えても全く答えが導けそうにないため、白井は美琴の方を向いて逆に尋ねる。

「お姉さま、昨日の虚空爆破(グラビトン)事件の犯人、本当にお姉さまが捕まえた男で正しいんですの?」

「そうだけど?」

「『書庫(バンク)』の登録データでは容疑者の能力は異能力(レベル2)判定となってますの」

「うそっ!? 明らかに大能力(レベル4)クラスの破壊力だったわよ」

この事実には美琴も驚きを隠せなかった。虚空爆破(グラビトン)事件の犯人の攻撃は高性能爆薬に匹敵するほどの破壊力を有していた。異能力者(レベル2)の力の大きさは、低能力者(レベル1)と同程度、つまりスプーンを曲げる程度の日常では役に立たない力なのだ。したがって高性能爆薬に匹敵する破壊力を有する時点でどう見積もっても異能力者(レベル2)で収まるような能力ではなかった。

「ええ、ですから・・・これは、つまり・・・・・・」

・・

・・・

『ミーーン、ミーーーン』

『ジーーー、ジーーー』

『みーーん、みん、みん』

・・・

・・

炎天下(えんてんか)の中、(せみ)の鳴き声だけが通り過ぎていく。

「どういうことなのでしょう?」

「・・・・・・」

美琴も何と言っていいのか分からない。

「ま、まあ、煮詰(につ)まってるんなら一度休んで頭を切り替えましょ」

そう言って、美琴は移動かき氷屋を指さした。かき氷屋は、この炎天下の中では重宝されるため何人か学生たちが並んでいた。その最後尾に美琴と白井は並んだ。美琴たちの列の最前部では今小学生くらいの男の子三人がかき氷のできるのを待っている。その後ろでは、女子高生二人が談笑しながら並んでいる。そしてその二人後ろ、つまり美琴と白井のすぐ前にはオレンジみがかった茶髪を少し伸ばした感じの男子高校生が・・・

(あれ、何か見覚えがあるような・・・)

美琴がじっと前を見ると視線を感じたのか、前にいた高校生が振り向く。

「あれ、美琴と黒子? そっちもここのかき氷食べに来たのか?」

「うん、そうだけど。 アンタがここに来てるってことは、もしかしてここの店有名だったりするの?」

「ん? 知ってて来たんじゃないのか? ここは学園都市の移動かき氷屋の中でも五本の指に入るといわれている店だぞ。 しかも、この店移動経路とか決まってないから偶然会うことは結構珍しいんだ。 たいてい俺みたいにこの店が現れた情報を聞きつけて急いでやってくる奴がほとんどだと思うぞ」

「・・・そ、そうなんだ」

美琴は、神無月の執念(しゅうねん)にも似た甘いものへの執着(しゅうちゃく)に顔を引きつらせる。

「にしても、今日は暑いな。 明日から夏休みだから暑いのは当然ってのは分かるけど、それにしたって暑い」

「そうですわね。 これも地球温暖化の影響でしょうか」

「ん、まあ違うだろうけど。 そうだったなら、勘弁(かんべん)してほしいな」

そんな風に神無月たちが談笑している間に、前に並んでいた人たちはいなくなり、順番が回ってきた。

「どうぞ、次のお客様。 ご注文は何になさりますか」

「二人は何にする?」

「そうね、私はイチゴで」

「わたくしはお姉さまと同じものを」

「じゃあ、イチゴ2つに、ミックスベリー1つでお願いします」

「はい、イチゴ2つに、ミックスベリー1つですね、承りました。 少々お待ちください」

そういうと店員はかき氷を削り始めた。

『チリン、チリーン』

店が作る影の中に入ると直射日光を浴びていた時よりはだいぶ涼しくなる。そして、移動型店舗の軒先(のきさき)についている風鈴(ふうりん)の音色がより涼しく感じさせる。

「不思議なものですわね。 気温は変わりませんのに風鈴の音色を聴いていると少し涼しく感じますの」

「そうだよな、俺も丁度そんな風に感じたとこだった。 なんて言ったっけなこういう事。 ええと・・・」

「共感覚性でしょ?」

答えを告げたのは美琴だった。

「共感覚性・・・ですの?」

「一つの刺激(しげき)で複数の感覚を得ることよ。 例えば、普通なら色を見たら働くのは人間の視覚だけじゃない? でも、赤い色を見たら暖かく感じたり、青色を見たら冷たく感じたり、視覚以外にも影響が出るでしょ」

『そのことよ』と美琴はいう。

「『暖色(だんしょく)』『寒色(かんしょく)』というものですわね」

そんな話をしているとその間にかき氷は完成した。

「はい、どうぞ」

全員分のかき氷を受け取ると、会計を済ませてしまう。そして、神無月は美琴と白井にかき氷を渡す。

「お、あっちに丁度木陰になってるベンチがあるなあっちで食おうぜ」

「あ、うん。 有真、いくらだった?」

「ん? ああ、別にいいよ。 俺のおごりで」

神無月にいろいろと世話になっている美琴は、今回もまた奢ってもらうのはさすがに良心の呵責を感じた。

「でも、この間も昼食食べさせてもらったし悪いわよ」

「じゃあ、今日の分は美琴の料理で奮発してもらうということで」

「ぐっ・・・あの話やっぱり、冗談で言ったわけじゃなかったんだ・・・」

「もちろん、本気だけど?」

美琴はさらに自分へのハードルを上げてしまった己の迂闊(うかつ)さを(のろ)い、心の中で一つの結論(けつろん)(いた)る。

(有真って良いやつだけど、絶対根はSだ、しかも素で)

そんな風に美琴が考えているとき、神無月はかき氷を見ていて気が付く。

「そういえば、このかき氷も共感覚性に(うった)えかけているものひとつだよな。 トッピングとして乗っている果物はさておき、シロップの色はイチゴだから赤くしか作れないわけじゃないし、ミックスベリーだからって紫っぽい色にしなくてもいいわけだしな」

「そうですわね。 シロップの味に色のイメージをプラスしてますのね」

「う~ん。 そう考えると人間の脳って単純なのかもしれないわね」

美琴も料理のことからのダメージから復帰したため、神無月と白井の会話に参加する。

「単純って・・・お姉さま、ユーモアが分かるといってほしいんですの・・・」

そんなとき、三人に向かって歩いてくる人がいた。

「あれ、佐天さんじゃない」

「美坂さん、白井さん、神無月さん、昨日はお世話になりました。 ん、それおいしそうですね」

そういうと佐天もかき氷を買う。

そして、四人は木陰(こかげ)のベンチに座った。

向かっていちばん右が白井、その左隣が美琴、その左隣が佐天で一番左端が神無月だった。

「佐天さん、初春さんの容態はどう?」

「熱自体は大したことないです。 あたしが買ってきたのも風邪薬じゃなくて熱さましでして。 むしろ一番欲しがってたのは暇つぶしの道具かも」

「ならよかった。 体調を崩した責任の一端は俺が振り回しちゃったのもあると思うし」

「そんなことないですよ。 初春が今まで頑張りすぎてて、気が抜けたからどっと体に来ちゃっただけなんで神無月さんのせいじゃありませんって」

「そうですわ。 初春はここのところずっと虚空爆破(グラビトン)事件に掛かりきりでろくに寝てもいなかったみたいですし」

「ま、なんにしても捕まえられてよかったよ。 それはそうと―――」

そういうと神無月は思い出したように、目を光らせた。

「そっちのレモン味とイチゴ味のかき氷味見させてくんない?」

「ん、まあいいわよ」

美琴がそう言った瞬間、美琴がスプーンで(すく)っていたかき氷が神無月に()われていた。

「え・・・え、ええ――――!?」

驚くのは無理もない。美琴が味見をしていいといったのは、あくまで神無月の持つスプーンで美琴のイチゴ味のかき氷を(すく)って食べることが前提になっていたので、美琴が今まさに自分で食べようと掬っていたかき氷が食べられるとは思っていなかったのだ。

(これって間接・・・駄目だ、考えるな! 有真も気にしてなしのに・・・ないのに・・・っていくらなんでも気にしなさすぎじゃないの!?)

そんなことを考えている美琴に神無月からの追い討ちがかかる。

「どうした? そんなに睨んで、ああ、そっか美琴も違う種類の食べたいのか。 なんだ、そう言ってくれればいいのに」

そういうと神無月は美琴のほうに神無月(・・・)のスプーンで掬った神無月(・・・)のミックスベリー味かき氷を『にょっ』と差し出した。差し出した神無月は何も考えてはいないのだが、美琴のほうはそうはいかない。

(これを食べたらほんとに間接・・・、でも食べないのは失礼・・・よね。 でも、やっぱり・・・ああ、もうどうにでもなっちゃえ!)

美琴は思い切って神無月の差し出していたかき氷をパクリと食べた。

「イチゴも美味いな。 でも、ミックスベリーもなかなかいい味してると思わないか?」

「そ、そうね。 おいしいと思うわ」

実際のところ、美琴はかき氷の味を気にしていられるほどの余裕がなかったため、味なんかまったくわかっていなかった。しかし、美琴の心の平穏(ターン)は回ってこない。

「ん、美琴顔真っ赤だぞ。 熱中症じゃないよな?」

そういって、神無月の手が美琴の(ひたい)に触れる。あまりの不意打ちで美琴は避けることもできなかったため神無月の手が美琴のおでこを完全にとらえている。

(これって、遠目からみたらキ、キスしようとしてる恋人同士に見えるんじゃない!?)

遠くから見ても、近くから見ても完全に熱を測っているようにしか見えないが、神無月からの不意打ちの連続で精神的に追い詰められた美琴にはどんな行いにも過剰に反応してしまう。そのため、美琴の心の暴走は加速する一方だった。

「ん? だんだん熱くなって・・・って、熱っ! 大丈夫かほんとに!?」

「だ、大丈夫だから。 大丈夫だから、手をどけて―――っ!」

美琴が落ち着きを取り戻してから、白井を悩ませる『能力者の登録レベルと実際のレベルの不一致』の話に戻ってきた。美琴が落ち着きを取り戻すまでにかなり時間がかかったのだが、神無月はちゃっかり佐天とも食べ比べ(・・・・)を行うという神をも恐れぬ所業を行っていた。神無月はそういう部分で激しく鈍く、美琴が暴走していた理由もわかっていなかった。

「ねえ、佐天さん。 昨日行ってた『幻想御手(レベルアッパー)』ってのもう一度黒子に詳しく聞かせてやってくれないかしら」

「はい、いいですよ」

そういって佐天は幻想御手(レベルアッパー)の噂を話し始めた。

幻想御手(レベルアッパー)っていうのは・・・」

「能力の強さ(レベル)を格段に上げる? 使うだけで簡単に?」

佐天からの幻想御手(レベルアッパー)についての話を聞くと、白井は『いかにも胡散臭い話ですわ』という顔をした。それもそのはず、学園都市において能力と言うのはそれだけで大きなパラメータとなる。だから、学生たちは自分の能力を出来る限り強くしようとするし、それができない者はやさぐれて不良になってしまったりするのだ。だから、使うだけで能力が格段に、しかも簡単に上がるものが存在するとは思えないのだ。

「いや、だから噂ですって! あたしが言ってるわけじゃないですよ? 実態も良く分からない物ですし」

慌てて否定する佐天を見ながら、神無月は考える。

(確かにレベルを簡単に引き上げられる道具があるとは考えにくい。だが、能力にしたって科学的に開発が行われている以上出来ないとも断言できない・・・)

神無月が考えている間も佐天は話を続けていた。

「どこかの学者が残した論文だとか料理のレシピだとか、噂の中身もバラバラで…」

「まあ、普通能力の開発って学校で何年もかけてするもんだし、そんな都合がいいものがあるかって思うけど?」

「ああ、普通はそう考えるよな・・・ でも、俺も学校の奴らが異能力者(レベル2)とか強能力者(レベル3)武装無能力集団(スキルアウト)や不良の集団に絡まれたっていう話を近頃よく聞くんだ。 基本的にスキルアウトや不良って無能力者(レベル0)が基本の集団だろ? だから、レベルの高いスキルアウトなら特定できると思って、被害を受けたって奴の話を何件か聞きに行ったんだが、どうにも絡んできたらしい奴らの外見的特徴が一致しない。 俺が聞いただけでも4種類くらいの集団があるっぽい。 今まではそんなこともほとんどなかったんだが近頃になって急に増えてきた。 もし、幻想御手(レベルアッパー)が実在して、スキルアウトの間で出回っているとするなら、今まで力のなかったスキルアウトや不良たちが幻想御手(レベルアッパー)で上がった力で調子づいてきたっていう風に話が繋がるんだ」

神無月の話を聞いた白井は思案顔で言葉を紡ぐ。

「・・・実は風紀委員(ジャッジメント)でも、拘留した犯人の登録された能力の強さ(レベル)被害状況に食い違いがあるケース・・・今回が初めてではありませんの。 神無月さんの調べと同様に数件ではありますが、すべてここ最近立て続けに起こっています。 書庫(バンク)のデータミスか確認を急いでたのですが・・・佐天さん!」

「はっはい!?」

「何か他に知ってることない?」

「えっ、え~~~~~とぉ・・・」

いきなり、真剣な顔で美琴と白井に迫られて、佐天は驚き少し考え込むと思い出したように、

「あ、そういえば、自称ですけど幻想御手(レベルアッパー)を使ってた奴らがネットに書き込みしているみたいですけど。 ただし、不良っぽいのばっかでどこまで信用できるか・・・」

「どう思う、黒子?」

「信じられませんが、そういったものが実在するなら一連の事柄に説明がつきます。 一応当たってみる価値はあるかもしれませんわね」

「ありがとね、佐天さん」

「じゃあ、またな~」

そう言うと、白井、美琴、神無月の三人は幻想御手(レベルアッパー)について調べるためにあっという間にいなくなってしまった。ベンチに一人残された佐天はその速さにあっけにとられながらひとりごちる。

「・・・・・・え? 幻想御手(レベルアッパー)ってマジもんなの?」

 

 

太陽は完全に落ち、既に空は真っ暗になっている。それでも、学園都市(がくえんとし)は街の街灯や店から零れる明かりでまだ明るい。そんな学園都市(がくえんとし)の明かりに貢献している店の一つである『Bennys』というレストランで美琴は不良っぽい三人に話しかけていた。かなりガラの悪い部類に入る三人だったが美琴は話しかけるのに躊躇がなかった。

「あん? 幻想御手(レベルアッパー)について知りたいだあ?」

不良っぽい三人は、特徴的で、一人はスキンヘッドのマッチョ(細マッチョではない)、一人は革ジャンにツンツンした金髪、最後の一人はバンダナを頭に付けた口髭の男だった。そして、美琴の問いに答えたのは、バンダナをつけた男だった。

「うん!」

美琴はとびっきりの媚び媚びの笑顔を振りまきながら答える。しかし、三人のうちスキンヘッドは酒がまわっていて気にしていないようだが、革ジャンの男とバンダナの男は明らかに警戒している目つきだった。まあ、確かにいきなり知らない人間に「幻想御手(レベルアッパー)について教えて!」と言われれば誰だって警戒もする。明らかな警戒の視線を感じたためか美琴は言葉をつなぐ。

「ネットで偶然お兄さんたちの書き込みを見てできたら教えて欲しいなーって」

という様子を神無月と白井は不良たち三人のテーブル席から少し離れた位置にある席から気づかれないように見ていた。ちなみに美琴には盗聴器を持たせていて、向こうの席での会話は白井の持つ受信機からはっきりと聞こえるようになっている。今のところ美琴の演技に問題はない。しかし、それでも白井は美琴のほうを心配そうに見ていた。何故、いきなり美琴による囮捜査(こんなこと)になっているかというと、佐天の話を聞き終わり、例によって風紀委員(ジャッジメント)第177支部で調べ始めて数時間たった、今からそう2時間前に(さかのぼ)る。

 

 

「お―――あったあった」

佐天からの話を聞いた俺たち三人は、風紀委員(ジャッジメント)第177支部に来ていた。そして、ちょうど例の書き込みとやらを美琴が発見したのだった。

「予想以上に時間が掛かってしまいましたわね。 普段でしたら、初春がぱぱっと見つけてくれるんですけど」

佐天と別れたのはちょうど昼ごろ。しかし、外を見るとかなり暗くなってきていた。明日から夏休みという、日もだいぶ落ちにくくなってくるこの季節にも関わらずこの暗さ、どれだけネットの書き込みを探すのに時間を要したのかが分かってしまう。

「飾利ってすごかったんだな・・・」

「当然ですの、何せわたくしとコンビを組んでいるんですのよ。 情報関係なら初春の右にでるものは居ないとすら思っていますもの」

「へえ、かなり信頼してるんだな」

チラッと白井の方を向きながら聞くと、

「あっあたりまえですの」

白井は、自分の言っていることに少し恥ずかしくなったのか顔を赤くしながら答えた。そして全員画面に顔を戻した。

「いや、それにしても本当に実名で書き込んでいる奴がいるとはな」

「そうね、まさにネット初心者」

俺と美琴が画面を見ながら呟いていると、白井はもう一台のパソコンを操作して書き込みをした奴の実名を打ち込んでいく。

「一応、照会しました。 確かに素行のよろしくないグループのメンバーばかりですわね」

さて、どうやってここから調べていくか。他の風紀委員(ジャッジメント)にも協力してもらって監視を付けるか、それとも、彼らのグループにスパイを入れるか、と作戦を考えていると美琴が、

「よし、直接いって情報を聞き出そう。 覆面調査ってヤツね」

「はっ!?」「はい!?」

俺と白井が同時に間の抜けた返答をした。確かに、覆面調査は悪くない、俺も確かに考えはした。しかし、美琴のあのやる気に満ちた顔。言葉にこそしていないが、『私が直接聞き出すわ』といっている。すかさず、白井がやんわりと止めに入る。

「えっと、お姉さま。 ちなみに、誰が情報を聞き出すんですの」

「そりゃ、もちろん。 私よ」

『もちろん』じゃねえー。はっきりいって美琴にそんな調査が出来るとは思えなかった。今までの経験から言っても美琴の気は長くないと思う。予想としては、『幻想御手(レベルアッパー)について教えて~(美琴)』→『何言ってんだ嬢ちゃん(不良)』→『私が聞いてんだからとっとと教えろやコラー(美琴)』→電撃炸裂(ビリビリバリバリ)→『ギャー(不良)』→あたりは大混乱→作戦失敗 という流れが起こりそうでしょうがない。

「有真、あんたなんか、今失礼なことを考えてなかった」

「いえ、滅相もありません」

というか、この時点で既に先行きが不安だ。白井も俺と似たような不安を抱えているのだろう。頑張って止めようと言葉を重ねる。

「民間人であるお姉さまにそんなことをさせる訳には・・・」

「アンタは風紀委員(ジャッジメント)だから面が割れてるかもしれないでしょ。 それに今回の相手グループは全員男だから、男の有真が行くより、女の私が言った方が口を滑らせてくれるかもしれないでしょ」

言っていることだけ見れば間違っていない、確かに間違っていないが。この言いしれぬ不安感はどうしても消えない。

「で・・・でも、途中で相手に腹を立てて能力を使ったり、なぎ倒してはいけませんのよ」

言ったー、黒子がついに確信を突いたー。それに対して美琴は、

「わかってるわよ~それじゃまるで、私が暴れん坊みたいじゃない」

このとき、たしかに俺と黒子の『違うのかっ!?』という心の声がお互いに分かったような気がした。

「まあ、私に任せておきなさいって」

そういって、胸をドンと自信満々に叩く美琴の言葉で作戦は決行されることになり、現在に至る。以上、回想終わり。

 

 

隠れつつ、美琴の様子をちらちらと心配そうに白井は見ている。

(黒子はとってもとっても不安ですの。 二重の意味で)

そんな、心配など気が付かずに美琴は三人の不良に幻想御手(レベルアッパー)について聞いていた。

「ねっ、いいでしょ」

お願いと言う風に手を合わせて頼み込んでいる。しかし、相手もすぐに良いとは言わない。

「こっちも情報を手に入れるのに苦労したんでね、帰んな」

「そこをなんとか」

美琴が言うもバンダナの男はokをださない。スキンヘッドの男だけだったならば酔いも回っていて何とかなったかもしれないが、バンダナの男と革ジャンの男は甘くはなさそうだった。

(ネットに実名で書き込んでいるくらいだから、ちょろいかもとしれない思ったが実際はなかなか頭を使ってるっぽいな。 頭の使いどころが悪事ではあるだろうが)

美琴がお願いするもバンダナの男はだめの一点張りだった。

「ダメだ、ダメだ。 子供(ガキ)はもうねんねの時間だぜ」

その言葉に美琴がピクッと反応した。そして、美琴の拳が静かにギュッと握られた。それを見た白井の顔がひきつる。

(まっ、まずいですの。 早くも頓挫の予感が・・・)

白井の頭の中には、『人が頭下げてんのになんだその態度―――ッ』と電撃をぶちまける美琴の姿が思い浮かんでいた。

しかし実際は、

「え~~~~~~~私そんなに子供じゃないよぉ♡」

キャラ崩壊もいいところだった。両手は首の近くで笑顔を強調するかのように軽く握られ、声もかなり甘えたような声を出している。『きゃはっ♡』と言う擬音が聞こえてくるかのようだった。美琴の背景には、点描の泡がふわふわ浮いているようにすら見えるほどだ。ここまで猫をかぶれるとは、女ってホントに怖えと思わずにはいられない。白井もまさか美琴があんな甘えた声を出して、かわいらしさアピールをするとは思っていなかったのだろう。手慰みならぬ口慰みに飲んでいたコーヒーをブ―――っと盛大に噴き出した。その結果として、白井の前に座っていた神無月がその被害を一身に受けることになるわけで。

「熱いっ! というか痛いっ! よくそんなに熱いの飲めるな!? というか、それが眼球に直撃した俺は大ダメージだぞっ!?」

これだけの暴挙を繰り出したにも関わらず、白井からは反応が返ってこない。もっていたハンカチで顔を拭い確認をすると白井が苗字同様に真っ白になってぴくぴくしている。それほどまでに美琴の演技に度肝を抜かれたということだろう。どうやらここからの監視は一人で行わなければならないようだ。その様子を見た神無月は天井を仰ぐと呟く。

「不幸だ」

本当に上条の口癖が本当に感染(うつ)りそうだなと思いながら、使い物にならなくなった白井をよそに不良たちの監視に戻った。

 

そんなこんなのやり取りの間にも、美琴と不良たちの会話は進んでいた。白井を機能停止に追い込んだ『え~~~~~~~私そんなに子供じゃないよぉ♡』発言にスキンヘッドの酔っ払いがなかなかに好感触の反応を返していた。

「だよなあ、オレはアンタ好みだぜ」

「ホントにー♡」

きゃはっというぶりっ子声を続ける美琴に言葉もないが、電撃を飛ばさないでいてくれて本当に良かったとも思う。予想以上の順調な聞き込み調査だった。このままいけば、案外今日中に幻想御手(レベルアッパー)の正体に迫れるかもしれない。美琴はスキンヘッドの男に目標を変え、聞き出しにかかる。

「じゃあ教えてくれる?」

「ん―――――やっぱ、ただってわけにはいかねえなあ」

そういいながら、スキンヘッドの男は鼻の下を伸ばした、いやらしい目つきで美琴のスカートの方へ視線を向けている。

「・・・・・・」

明らかな視線に美琴も顔に笑顔を張り付けてはいるが、内心では電撃をぶつけてやりたくなっているように見える。

「えっとぉお金なら少しは出せます~」

美琴は男の意図に気が付かないふりをして、何とかごまかす。

「金もいいけどこういう時はやっぱり・・・こっちの方かねえ」

しかし、煙に巻ききれなかった。男は、美琴の肩を抱くように手を伸ばす。だが、男の手は美琴に触れることはなかった。美琴は、するりと男の腕に捕まる前に抜け出し、男の手は空を切る。

「え―――でもそういうのはやっぱり恐いっていうかぁ・・・お金じゃダメ?」

かわいらしく手を合わせて小首をかしげて見せるが、男の方もごまかされない。首を振ると、

「ダメダメ。 それじゃあ教えられないなあ、子供じゃないんだろ?」

そういって美琴の方をちらっと見る。

「う・・・」

美琴が涙を流して目を擦っていた。

いきなり泣かれるとは思っていなかったスキンヘッドの男は突然のことに驚く。

「私・・・実は無理言って学園都市に来させてもらったの」

「は? 何を言って・・・」

いきなり泣きながら話し始めた美琴にスキンヘッドの男は狼狽えることしかできない。

「でも、やっぱり私才能なくて、能力も全然伸びなくて、お父さんはさりげなく電話で身体検査(システムスキャン)の結果を聞いてくるし、お母さんは、『あなたはできる子なんだから』って」

流石のスキンヘッドの男でもこの空気の中、体で払えとは言えない。

「期待に応えなくちゃって思うけど、どうしようもなくて思わず嘘ついちゃって、そんなときお兄さんたちのこと知って、もう『幻想御手(レベルアッパー)』しか頼れるものがなくって・・・」

「い、いや、そんなことを言われても・・・」

スキンヘッドもオロオロするばかりで明確に拒絶もできないし、強引に迫ることもできない。そこに追い打ちで美琴が、

「ダメ・・・かな?」

と涙目の上目づかいで男に尋ねる。すると、男は雷に打たれたように硬直。誰からみてもスキンヘッドは純情ハートをぶち抜かれたなと分かるほどだった。白井は白井でさらに精神的ダメージ?を受け、さっきよりもさらに真っ白になりテーブルの上で潰れていた。神無月は演技がうまくいっていることに喜びつつも笑いをこらえるのに必死だった。なぜなら、美琴の前に立っているスキンヘッドの男からは見えないが、美琴の後ろ側にいる神無月と白井からは美琴が後ろ手に持っていた目薬(・・)が丸見えだった。それに加え、能力が伸びないときたもんだ。そりゃあ、超能力者(レベル5)からは上がらねえだろうよと思い、その演技に騙されているスキンヘッドを憐れに思いつつ笑いを堪えるしかなかったというわけだった。まあ、その演技にはめられたのはスキンヘッドの男だけで、残りの二人の革ジャンとバンダナは『何やってるんだアイツ』とスキンヘッドを見ていた。二人の位置から目薬は見えていないが、スキンヘッドのようにチョロくはなかったようだ。だが、革ジャンのほうが美琴の制服に気が付きバンダナに小声でつぶやく。

「(オイ、よく見りゃアレ常盤台の制服じゃねえか)」

「!」

「(意外とイイ金ズルになるかもしんねーぜ)」

「ほう」

そういって、バンダナの男は口元をゆがめて静かに笑う。常盤台中学は、おのずと知れた有名なお嬢様学校だ。それゆえに、そこの生徒ということは金持ちの娘だといえる。実際は、金持ちでなくとも入学基準を満たす能力があれば入学は可能なのだが、イメージは先行しやすいため、そこに通っているならばお嬢様だと思ってしまうのも無理からぬことだった。しかし、常盤台中学の入学条件は強能力者(レベル3)だ。それに満たないものはいくら金があっても入学などできない。能力(レベル)の低い人間が常盤台にいるはずがないのだ。少なくともこんなところで群れているしかない不良が三人でどうにかなるものではなかった。それを知らない男は、自ら死地に踏み込んでいく。

「こんなところで泣かれてもメンドクセー金額次第で教えてやるよ」

「オ、オウ」

めんどくさいと言いながらもバンダナの男の顔は、これからせしめる金でどうするかという妄想で顔がにやけている。スキンヘッドはハートを打ち抜かれ、とりあえず頷いたといったようだった。今までの演技が実を結び美琴も心の中で『やった!』と叫んだ。そういって、財布から金を出そうとしたとき、

「これこれ童子(わらし)ども・・・」

聞き覚えのある、いやほとんど毎日聞いている声が聞こえてきた。その声に美琴も内心で焦りを感じる。

((この声は・・・!))

いきなり割り込んできた男に不良三人が不快そうな顔を向ける。

「あ――――? なんだ、テメェは?」

聞き覚えのある声は言葉を続ける。

寄って集って(よってたかって)女の子の財布を狙うんじゃありません」

俺と美琴は心の中で叫ぶ。

(また、アンタかっ!!)(当麻かよっ!!)

計画が崩れていくような音が頭の中に聞こえてきた。

 

 

「イキナリ出てきて何言ってんだテメー」

いきなり現れて説教チックなことを始めた上条に神無月は頭を抱える。

(確かに女の子が財布を狙われたなら止めるのは正しいと思うよ! けど、何もこのタイミンゲで出てくることはないだろう! あと、ちょっとで幻想御手(レベルアッパー)までたどり着けそうだっていうこのタイミングで!)

神無月の心も知らずに上条は続ける。

「おまえらこそここがどういう場所か分かってんのか? レストランだぜ、食事する所だろーが」

美琴も上条の隣で固まっていた。

(ちょっと待て―――ッ!! あとちょっとだってのになんでアンタが出てくんのよ!! ヤバいこのままじゃ情報が・・・このチャンスを逃がしてたまるか)

「えーこんな人、私知らない」

しかし、ヒートアップした上条とスキンヘッドは聞いちゃいない。

「サカるなら一人でビデオ相手に頑張ってろ」

「何だとぉッ」

「スル――!?」

上条とスキンヘッドは美琴の事を完全にスルー状態になった。『スル――!?』と言ったことすらスルーするぐらいにNO眼中だった。しかも、最悪なことに計画を知らない上条は、

「だいたいな、アイツはあんなキャラじゃないぞ。 お前らの手に負える相手じゃねえ。 止めとけ」

と、計画を崩すような発言を繰り返す。しかし、それを伝える手段が無いため神無月は頭を抱えるしかなく、美琴も無関係を装うしかないのだった。そこで、スキンヘッドの男は何かに気が付いたと言う顔をする。

「はっはーん。 さてはテメーらグルだな? そうやってタダで情報を手に入れようってハラか」

「はあ?」

もちろん、上条は幻想御手(レベルアッパー)の事など知らないし、スキンヘッドは間違えた結論に至ったわけだが、そんなことどっちでも同じだった。相手に不信感を持たれた。それが示すところは一つ。つまり、計画が破綻したと言う事だった。そして、間違った結論のまま自体は進んでいく。

「きたねえ手を使いやがってボコボコにしちまおうぜ」

「クソッ、人がせっかく助けてやろうとしてんのに。 ビリビリ中学生だぞ」

スキンヘッドの男の言葉に後ろで見ていた革ジャンとバンダナも立ちあがって上条を威嚇する。

「何かよくわからんがしょうがねえ。 まとめて相手してやる三人ぐらい」

そう上条が言った時、店の男子トイレのドアが開いた。すると、中からゾロゾロ三人の不良の仲間と思われる奴らがあふれ出てきた。上条は、不良たちの座っていたテーブル席の上を見る。1、2、3、・・・、9。九人分の食事や食べた後の食器などが並んでいた。

「ええ―――ッ!? トイレに集団でゾロゾロ入るのは女の子の特権だと思いましたが―――ッ!」

九人の不良が一堂に会し、その中でスキンヘッドが上条に向かって言う。

「この人数を一人で相手にしようっていう度胸はほめてやる。 今なら有り金全部出して謝るなら許して・・・」

ダッ、不良が言い終わる前に上条がダッシュで逃げだした。不良たちは全員、驚いて動きを止める。

「逃げた!? 自分から出てきたのに!?」

「ヤロウ、追え! ふん掴まえてギタギタにしてやる!」

そう言うと、逃げ出した上条を追って不良たちも全員店を出て行ってしまった。あとに残されたのは、ひたすらにスルーされ続けた美琴一人だけだった。不良たちがいなくなると、ポツンと残された美琴に店員が声をかける。

「お客様、大丈夫でしたか?」

「あ、お気遣いなく」

あれだけの数の不良に囲まれた女子中学生を見たら、どう考えても囲まれて逃げ出せなくなっているナンパの被害者だと思うだろう。この店員もそう思ったに違いなかった。そして、不良たちがいなくなったのを見計らって美琴に声をかけたのだ。しかも、不良たちは食べた料金も払わずに出て行ってしまっていた。そのことも懸念事項ではあったようではある。

「あ、お会計は全部この子が」

ポンと白井の肩に手を置くと、美琴もすぐに不良たちを追いかけて店から走り出していった。さりげなく白井に全部の代金を押し付けていくあたりの手際が手馴れすぎていて神無月はいつもこんなことをやってるんだろうかと思わずにはいられなかった。当の白井はと言うと美琴がポンと手を置いた瞬間にガバッと目を覚ましていた。

「何か見てはいけないものを見てしまった気が・・・ って、何のんきに特大パフェ(全長50cm)を新しく注文して既に食べ始めてますの!?」

「HAHAHA、ナニイッテルンダイクロコ? コノパフェーハサイショカラココニアッタジャナイカ」

「アメリカのジョークっぽく言われると余計に腹が立ちますわね。 ってそんなので誤魔化されませんわ!」

「作戦が失敗してやる気が無くなったとか、コーヒーをぶちまけられたからその仕返しだとか、そう言えば昼間のかき氷から甘いもの何にも食べてないじゃないか!?とかそんなのじゃないんだからね!」

「ツンデレっぽく本音がダダ漏れですのよ。 それにしてもホントにいつ注文していつ届いたんですの? お姉さまが『あ、お会計は全部この子が』って言ってから30秒も立っていませんのに。 はっ、まさかアナタ能力でわたくしの時間だけ遅くしたんですの!?」

「ナンノコトヤラー」

「目を不自然に逸らしてはいけませんの! さあ、白状しなさいですの!」

と神無月と白井が遊んでいる間に美琴は逃げて行った不良を追いかけていた。不良達を追いかけている間も、

「アンニャロ、もうちょっとだったのに!」

と上条に悪態をつく。確かに上条の介入が無ければ美琴の演技で不良達を騙せていた可能性は大いにありうる。それがもう少しで成就と言うところで失敗に追い込まれたのだ。文句の一つも言いたくなるというものだ。そうして走っていると

「いたっ!」

ついに美琴は上条を追う不良達を見つけた。そして最後尾を走っていたバンダナの男に並走して話しかける。

「ねえ、あんなのほっといて話の続きを・・・」

「ああ? まだいたのかアンタ」

バンダナの男は美琴に気付いたがそれだけで、近くにいたスキンヘッドの男を怒った。

「元はと言えばテメーがこんなのに引っ掛かるからだぞ」

「んな事言ってもよー」

その間も美琴は『幻想御手(レベルアッパー)の入手方法とか・・・』と話しかけているがバンダナ男もスキンヘッドも相手にせず、バンダナ男がスキンヘッドを怒り続けている。

「エロカッコいいセレブなねーちゃんとかならともかくこんな頭悪そうなクソガキに騙されやがって」

頭悪そうなクソガキ呼ばわりにも美琴は耐えて、頭に怒りマークを付けながらも懸命に『せめてどんな物かだけでも・・・』と聞く。そこでいい加減に鬱陶しく(うっとうしく)感じたバンダナ男は、

「うるせえ! ガキはクソして寝ろ!」

ついに美琴はキレた。

「人が優しく言ってんのに――――!!!」

「ギャ―――!」

美琴の怒りを買ったバンダナ男は美琴の体から発せられた電撃を浴びて黒焦げになって地面を転がった。バンダナ男の体はボロボロ、服も焦げ、目は白目を剥いて、バンダナも焼けているが、命に別条はなく気絶しているだけだった。いくらキレてはいてもきちんと手加減している美琴だった。

「ジュンタ――!」

「な! テメェ能力者だったのか」

驚いたのは周りの不良たちだ。いきなり仲間が電撃で丸焦げにされたのだ、驚かない方がおかしい。しかも丸焦げにした能力者は今までレベルが上がらず、幻想御手(レベルアッパー)が欲しいと言っていた少女なのだ。驚きも大きい。そして、仲間一人が黒焦げにされたため上条を追いかけることよりも美琴をどうにかする方が優先順位は高いため不良達は全員足を止め美琴を囲むように陣取る。

「女だから見逃してやるつもりだったが能力者だってんなら容赦しねえぞ」

「!」

流石の美琴も警戒をする。

(そうか、こいつら幻想御手(レベルアッパー)使ってるんだった。 爆破魔レベルが8人も(これだけ)いるとちょっと面倒ね・・・)

しかし、美琴の予想を他所に不良達の口から出たのは、

「パワーアップして異能力者(レベル2)になったオレタチの力、見せてやるぜ!」

次の瞬間、美琴を囲んでいた不良たちは全員丸焦げになって地面に転がっていた。いくら同じ幻想御手(レベルアッパー)を使っている人間といえども日々練習やら訓練で能力に磨きをかけていた爆破魔のレベルは確かにうまく上がっていたようだ。そういう意味では、爆破魔は勤勉だったともいえる。ただ、勤勉になるところを間違えただけで。

 

 

上条は不良達を()くために街中を散々走り回った挙句、川にかかる鉄橋まで来ていた。そこでようやく上条は不良達が1人もついて来ていないことに気付いた。

「追手がいなくなった? やっと撒いたか」

『ようやく一息つける』と上条が思い息を吸った瞬間、

「ったく、何やってんのよアンタ。 不良を守って善人気取りか、熱血教師ですかぁ?」

電撃のヴェールを纏い(まとい)ながら、美琴がゆっくりと上条のほうへ歩いてくる。追って来なくなった不良、追いついてきた美琴、そこから導かれる答えは一つ。

「・・・・・・つー事はアレだろ? 後ろの連中が追ってこなくなったのも」

「うん。めんどいからから私が焼い(ヤッ)といた」

さもなげに美琴は言う。

「お前なあ・・・」

「『お前なあ』はこっちの台詞よ。 アンタのせいで情報取り逃がしちゃったじゃない」

「情報?」

「才能不足をズルして補う事件の情報。 せっかく、あともう少しで情報が手に入るってとこで邪魔してくれちゃって、どう責任とってくれるのよ!」

美琴の周りでバチバチと電撃がはじける。

「待て待て、話し合おう無能力者(レベル0)の俺に向かって電撃を飛ばしても情報は入ってこないと上条さんは思うんですけど!?」

「そうね・・・」

そう言う美琴の顔は笑っていない。

「でも、今日の調査を台無しにしてくれた分とストレス解消のサンドバック位にはなれるわよ!」

そう言うが早いか、美琴の手から数万ボルトの雷撃の槍が放たれ上条を襲う。美琴と上条の距離は数メートル。こんな近距離で超能力者(レベル5)電撃使い(エレクトロマスター)である美琴の攻撃は外れない。しかし、

「で、自称無能力者(レベル0)のアンタは傷一ないのかしら?」

「・・・・・・」

美琴の前には、上条が右手を突き出した状態で無傷で立っていた。確かに、美琴の雷撃の槍(らいげきのやり)は上条に直撃した。しかし、直撃箇所は上条の前に突き出した右手だったのだ。上条の能力である幻想殺し(イマジンブレイカー)は、右手首から先にしか力はない。そのかわりどんな能力でも打ち消せるという代物だ。ただし、能力は打ち消せてもそれ以外の用途が無いため無能力者(レベル0)という肩書なのだった。しかし、美琴は上条の能力を知らない。自分の能力を防げると言う事は知っていてもなぜ防げるのかは分かっていないのだった。しかし、上条も気が気ではない。相手の能力を打ち消せるのは右手首より先だけ。それ以外のところに電撃が当たれば即座に丸焦げだ。それゆえに上条はガッチガチに固まっていた。そんな上条の心境には気付かず美琴は、

「私の電撃を無効化するような力を持っていながら、不良相手に逃げたりして…強者の余裕ってやつかしら」

「だから、俺は無能力者(レベル0)で・・・」

「何が無能力者(レベル0)よ!」

美琴の手や頭、体中から雷撃の槍が飛び出し上条を襲う。

「電撃の槍を、(ズドン)、水風船みたいに、(ドゴン)、簡単に、(バリバリ)、消し飛ばしておいて、(バゴン)、そんな二三〇万分の一の天災が何を言っているのよ!(バリバリズゴヮーン)」

美琴の連続した雷撃の槍(らいげきのやり)の影響で当たりは派手に水蒸気やら砂ボコリが舞い上がった。流石の美琴でも連発で雷撃の槍(らいげきのやり)を打つと息が上がっていた。

「はあ、はあ、はあ」

しかし、あれだけの数の雷撃の槍(らいげきのやり)を受けても上条には傷一つない。すべて右手で防ぎきっていたためだ。そして、上条は顔をひきつらせながらも笑みを浮かべて言う。

「・・・何て言うか不幸つーか、ついてないよな。 オマエ本当についてねーよ」

「何ですって」

「いくらやってもオマエの攻撃は俺には効かないんだ。 これ以上続けても不毛なだけじゃねーか。 だから、こんな無意味なことはやめてもっと若者らしく青春を謳歌しないか?」

「らしく・・・」

美琴が自分自身を確かめるようにつぶやく。

「・・・・・・・・・そうね。 私が間違っていたのかもしれないわね」

「わかってくれたか」

「ええ、ずっと心のどこかでブレーキをかけてたのかもね」

そう言うと、美琴の周りで先ほどまでの攻撃とは異なる音を電撃がかなえ始め、それに伴い空がゴロゴロと音を鳴らし始めた。

「私の全てを出し切った全身全霊の攻撃・・・」

「・・・雷雲!?」

「人間相手に流石にこれは・・・とか躊躇するなんて本っ当、()()()()()()()()()

「・・・・・・」

言葉もない上条。 美琴の雰囲気にただただ足が後ろに下がる。と、そこで上条は美琴の後ろに居る二人の姿に気がつく。

 

 

神無月と白井は店でパフェを食べ終わってから上条と美琴を探しに出ていた。

「どれだけパフェを食べれば気が済むんですの! おかげですっかりお姉さまを見失ってしまったじゃありませんの」

「でも、一分で食べ終わったろ?」

「それは最初の一個で、その後六個もパフェを注文していたなんて知りませんもの!」

「いや、一日かき氷一個とパフェ一個では燃費の悪い俺には足りなくてな」

「悪すぎですの! あれだけ食べればわたくし4日は持ちますわよ!」

「俺の半日分で4日も動けるのか、凄いな」

「あれで半日分なんですの!?」

「まあな。 んっ、あれって美琴の追ってた不良じゃないか?」

話しながら美琴を探していると、神無月が美琴の追っていた不良(レア:焼き加減)を発見した。

「ええ、確かに先ほどの方たちで間違いないようですけど。 お姉さまはどこに?」

「まあ、ここにいないって事は情報収集を台無しにした当麻のところに電撃を・・・」

と、神無月が言っている最中にドゴンという雷の落ちたような音が少し離れた鉄橋の方から聞こえてきた。

「いやー、分かり易くて助かるな」

「・・・そうですわね。 お姉さまの相手をするなんて、あの方生きていらっしゃれば良いのですけど」

「不幸だ不幸だと言いつつ、なんだかんだで当麻は死なないと言う事に関しては運が強いから大丈夫だと思うぞ。 まあ、そんな死ぬようなところに巻き込まれるのは不幸かもしれないがな」

と言いつつ神無月は、

(今回に限ってはわざわざ自分から巻き込まれに来たのか・・・あれ、今回だけか? 割と自分から首を突っ込んでいることも・・・)

と考えていると、

「何をボケっとしてますの? 行きますわよ」

「ん、ああ」

そう言って、白井の空間移動(テレポート)で二人はその場を後にし(不良放置)、鉄橋近くで美琴の『電撃の槍を、(ズドン)、水風船みたいに、(ドゴン)、簡単に、(バリバリ)、消し飛ばしておいて、(バゴン)、そんな二三〇万分の一の天災が何を言っているのよ!(バリバリズゴヮーン)』という場面に出くわした。そして、二人はわざわざ死地に飛び込んでいくほど自殺願望はないため美琴の少し後ろで見守ることにしたのだった。

 

 

上条の視界が神無月を捉え、すぐさまアイコンタクトでSOSを発信する。

タ・ス・ケ・テ・ク・レ(有真頼むから助けてくれ)

[|ム・リ・ト・イ・ウ・カ・チ・ョ・ウ・ハ・ツ・ス・ン・ナ《無理、美琴を無駄に挑発するから悪い》]

神無月の諦めてくれサインが上条に返ったところで美琴の体から電撃が雷雲に向かってのび、その直後上条を含めたこの付近に雷が落ちることとなった。そして上条の、

「不幸だぁー」

と言う声が辺りに響き渡った。

 

 

その頃の初春の部屋では、トントンという野菜を切る音で初春が目を覚ましたところだった。ベッドから起き上がり初春が台所をのぞくと、

「佐天さん! また、来てくれたんですか」

「あ、ごめん。 起こしちゃった? 夕飯作りに来たよん。 つってもお粥だけど」

「わぁ、わざわざありがとうございます」

「汗かいたなら先に着替えちゃいなよ。 ついでに体も拭いてあげる」

佐天のお粥は出来上がったが、流石にすぐに食べられるほどの温度ではないため、少しさめる時間を利用して佐天は初春の体を拭く。そして、拭きながら初春に話しかける。状況としては少し違うが風呂に入りながらだと腹を割って話せるといった状況に近いのだろうか。

「ねえ、初春はさ。 高レベル能力者になりたいって思わない?」

「へ? そうですねー、そりゃ能力は高いに越したことないし進学とかもその方が断然有利ですけど」

「んー、そう言うんじゃなくて、ほら普通の学生生活送るなら外の世界でもできるし超能力にあこがれて学園都市(ここ)に来た人って結構いるでしょ」

佐天は初春の体を拭いたタオルを水を張った洗面器で洗い水を絞りながら続ける。

「あたしもさ、自分の能力ってなんだろう、あたしにはどんな力が秘められているんだろうって、ここに来る前はドキドキして寝れなかったよ。 それが最初の身体検査(システムスキャン)で『あなたには全く才能ありません』だもん。 正直ヘコンだぜ」

そんな佐天に初春は、

「・・・わたしも能力の強さ(レベル)は大したことありませんけど、白井さんと仕事したり、佐天さんと遊んだり毎日楽しいですよ。 ここに来なければ皆さんと合う事もなかったわけですから。 それだけで学園都市に来た意味はあると思うんです」

と楽しげな笑顔で言った。

初春(ういはる)・・・」

「佐天さん?」

「あーっもう!! 可愛いこと言ってくれちゃって!」

と言うと佐天は初春に抱きつく。ついでに濡らしたタオルで初春の体の特に旨の当たりを重点的に(まさぐ)るように()く。初春は驚き、

「ひゃわっ」

「おおー良い声で鳴くねー。 ご褒美に全身くまなく拭いてあげよう」

「キャ―――ッ、キャ―――ッ」

佐天に体中を弄られながらも初春は、

「佐天さん、手の届く場所は自分で吹けますからっ!」

「ダーメー」

その時遠くで、ゴロゴロゴロドォーンと言う雷鳴が響き、部屋の明かりがふっと消えた。

「あら? 停電? 良いところだったのに」

「助かりました・・・」

美琴の起こした雷は間接的に初春を少し助けたのだった。

 

 

美琴の発生させた落雷は上条に向かって落ちた。しかし、近くにいた神無月や白井の方にも雷は落ちてきた。まあ、全員防ぐなり避けるなりして無傷だったのはよかったことだといえる。そして、雷を防いだ上条はダッシュで逃げる。その結果として、逃げた上条を美琴が、

「待てやコラー」

と追いかける。今度は遠くへの移動ではなく見えている相手を追うため、神無月と白井は美琴を走って追いかける。そのため、全員が走り回ることとなった。そして走り回っている最中、ふと神無月が携帯の時計を見ると夏休みに突入していた。つまり、翌日の午前0時を回っていたのだった。その時点で神無月と白井は諦めて帰寮、上条と美琴は追いかけっこを続けることとなった。こうして、馬鹿みたいに走り続けることから4人の夏休みは始まるのだった。

 

 




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