◆
『ピピピピピ』
「37度3分か、ま、微熱だけど今日は大事を取って一日寝てた方がいいっしょ」
「すみません、わざわざ」
七月十九日(日)、風邪で寝込んでしまった
「いいって、友達でしょ。 こんな時くらい頼りなって。 昨日もあたしは何もできなかったんだしさ」
「そんな、それを言うならわたしこそ変な事件に巻き込んじゃって・・・」
「あほ、初春だって巻き込まれただけでしょ。 初春が悪いわけじゃない」
そういうと佐天は二段ベッドの梯子から飛び降りて、いたずらっぽい笑みを浮かべて言う。
「よっと、そろそろあたしは行くけど、通知表初春の分も預かってきてあげよっか」
「後日自分で取りに行きますよ~~~」
「まあ、明日から夏休みなんだし風邪は今日中に治しちゃいなさいよ」
部屋の外ではこれぞ夏と言わんばかりに蝉が『ミンミン』鳴き、アスファルトの上では
◆
夏特有のカッと照らす太陽の日差しの下を大勢の学生たちが歩いている。今日は夏休みに入る一日前ということもあり、たいていの学校では授業という授業はない。学生たちは成績表を渡されその結果に
「う~~~~~む、う~~~~~む・・・」
「さっきからどうしたのよ、そんな難しい顔して。 もしかして成績落ちた?」
「そんなことではありませんの・・・というか成績は下がっていませんわ」
いくら考えても全く答えが導けそうにないため、白井は美琴の方を向いて逆に尋ねる。
「お姉さま、昨日の
「そうだけど?」
「『
「うそっ!? 明らかに
この事実には美琴も驚きを隠せなかった。
「ええ、ですから・・・これは、つまり・・・・・・」
・
・・
・・・
『ミーーン、ミーーーン』
『ジーーー、ジーーー』
『みーーん、みん、みん』
・・・
・・
・
「どういうことなのでしょう?」
「・・・・・・」
美琴も何と言っていいのか分からない。
「ま、まあ、
そう言って、美琴は移動かき氷屋を指さした。かき氷屋は、この炎天下の中では重宝されるため何人か学生たちが並んでいた。その最後尾に美琴と白井は並んだ。美琴たちの列の最前部では今小学生くらいの男の子三人がかき氷のできるのを待っている。その後ろでは、女子高生二人が談笑しながら並んでいる。そしてその二人後ろ、つまり美琴と白井のすぐ前にはオレンジみがかった茶髪を少し伸ばした感じの男子高校生が・・・
(あれ、何か見覚えがあるような・・・)
美琴がじっと前を見ると視線を感じたのか、前にいた高校生が振り向く。
「あれ、美琴と黒子? そっちもここのかき氷食べに来たのか?」
「うん、そうだけど。 アンタがここに来てるってことは、もしかしてここの店有名だったりするの?」
「ん? 知ってて来たんじゃないのか? ここは学園都市の移動かき氷屋の中でも五本の指に入るといわれている店だぞ。 しかも、この店移動経路とか決まってないから偶然会うことは結構珍しいんだ。 たいてい俺みたいにこの店が現れた情報を聞きつけて急いでやってくる奴がほとんどだと思うぞ」
「・・・そ、そうなんだ」
美琴は、神無月の
「にしても、今日は暑いな。 明日から夏休みだから暑いのは当然ってのは分かるけど、それにしたって暑い」
「そうですわね。 これも地球温暖化の影響でしょうか」
「ん、まあ違うだろうけど。 そうだったなら、
そんな風に神無月たちが談笑している間に、前に並んでいた人たちはいなくなり、順番が回ってきた。
「どうぞ、次のお客様。 ご注文は何になさりますか」
「二人は何にする?」
「そうね、私はイチゴで」
「わたくしはお姉さまと同じものを」
「じゃあ、イチゴ2つに、ミックスベリー1つでお願いします」
「はい、イチゴ2つに、ミックスベリー1つですね、承りました。 少々お待ちください」
そういうと店員はかき氷を削り始めた。
『チリン、チリーン』
店が作る影の中に入ると直射日光を浴びていた時よりはだいぶ涼しくなる。そして、移動型店舗の
「不思議なものですわね。 気温は変わりませんのに風鈴の音色を聴いていると少し涼しく感じますの」
「そうだよな、俺も丁度そんな風に感じたとこだった。 なんて言ったっけなこういう事。 ええと・・・」
「共感覚性でしょ?」
答えを告げたのは美琴だった。
「共感覚性・・・ですの?」
「一つの
『そのことよ』と美琴はいう。
「『
そんな話をしているとその間にかき氷は完成した。
「はい、どうぞ」
全員分のかき氷を受け取ると、会計を済ませてしまう。そして、神無月は美琴と白井にかき氷を渡す。
「お、あっちに丁度木陰になってるベンチがあるなあっちで食おうぜ」
「あ、うん。 有真、いくらだった?」
「ん? ああ、別にいいよ。 俺のおごりで」
神無月にいろいろと世話になっている美琴は、今回もまた奢ってもらうのはさすがに良心の呵責を感じた。
「でも、この間も昼食食べさせてもらったし悪いわよ」
「じゃあ、今日の分は美琴の料理で奮発してもらうということで」
「ぐっ・・・あの話やっぱり、冗談で言ったわけじゃなかったんだ・・・」
「もちろん、本気だけど?」
美琴はさらに自分へのハードルを上げてしまった己の
(有真って良いやつだけど、絶対根はSだ、しかも素で)
そんな風に美琴が考えているとき、神無月はかき氷を見ていて気が付く。
「そういえば、このかき氷も共感覚性に
「そうですわね。 シロップの味に色のイメージをプラスしてますのね」
「う~ん。 そう考えると人間の脳って単純なのかもしれないわね」
美琴も料理のことからのダメージから復帰したため、神無月と白井の会話に参加する。
「単純って・・・お姉さま、ユーモアが分かるといってほしいんですの・・・」
そんなとき、三人に向かって歩いてくる人がいた。
「あれ、佐天さんじゃない」
「美坂さん、白井さん、神無月さん、昨日はお世話になりました。 ん、それおいしそうですね」
そういうと佐天もかき氷を買う。
そして、四人は
向かっていちばん右が白井、その左隣が美琴、その左隣が佐天で一番左端が神無月だった。
「佐天さん、初春さんの容態はどう?」
「熱自体は大したことないです。 あたしが買ってきたのも風邪薬じゃなくて熱さましでして。 むしろ一番欲しがってたのは暇つぶしの道具かも」
「ならよかった。 体調を崩した責任の一端は俺が振り回しちゃったのもあると思うし」
「そんなことないですよ。 初春が今まで頑張りすぎてて、気が抜けたからどっと体に来ちゃっただけなんで神無月さんのせいじゃありませんって」
「そうですわ。 初春はここのところずっと
「ま、なんにしても捕まえられてよかったよ。 それはそうと―――」
そういうと神無月は思い出したように、目を光らせた。
「そっちのレモン味とイチゴ味のかき氷味見させてくんない?」
「ん、まあいいわよ」
美琴がそう言った瞬間、美琴がスプーンで
「え・・・え、ええ――――!?」
驚くのは無理もない。美琴が味見をしていいといったのは、あくまで神無月の持つスプーンで美琴のイチゴ味のかき氷を
(これって間接・・・駄目だ、考えるな! 有真も気にしてなしのに・・・ないのに・・・っていくらなんでも気にしなさすぎじゃないの!?)
そんなことを考えている美琴に神無月からの追い討ちがかかる。
「どうした? そんなに睨んで、ああ、そっか美琴も違う種類の食べたいのか。 なんだ、そう言ってくれればいいのに」
そういうと神無月は美琴のほうに
(これを食べたらほんとに間接・・・、でも食べないのは失礼・・・よね。 でも、やっぱり・・・ああ、もうどうにでもなっちゃえ!)
美琴は思い切って神無月の差し出していたかき氷をパクリと食べた。
「イチゴも美味いな。 でも、ミックスベリーもなかなかいい味してると思わないか?」
「そ、そうね。 おいしいと思うわ」
実際のところ、美琴はかき氷の味を気にしていられるほどの余裕がなかったため、味なんかまったくわかっていなかった。しかし、美琴の
「ん、美琴顔真っ赤だぞ。 熱中症じゃないよな?」
そういって、神無月の手が美琴の
(これって、遠目からみたらキ、キスしようとしてる恋人同士に見えるんじゃない!?)
遠くから見ても、近くから見ても完全に熱を測っているようにしか見えないが、神無月からの不意打ちの連続で精神的に追い詰められた美琴にはどんな行いにも過剰に反応してしまう。そのため、美琴の心の暴走は加速する一方だった。
「ん? だんだん熱くなって・・・って、熱っ! 大丈夫かほんとに!?」
「だ、大丈夫だから。 大丈夫だから、手をどけて―――っ!」
・
・
・
美琴が落ち着きを取り戻してから、白井を悩ませる『能力者の登録レベルと実際のレベルの不一致』の話に戻ってきた。美琴が落ち着きを取り戻すまでにかなり時間がかかったのだが、神無月はちゃっかり佐天とも
「ねえ、佐天さん。 昨日行ってた『
「はい、いいですよ」
そういって佐天は
「
・
・
・
「能力の
佐天からの
「いや、だから噂ですって! あたしが言ってるわけじゃないですよ? 実態も良く分からない物ですし」
慌てて否定する佐天を見ながら、神無月は考える。
(確かにレベルを簡単に引き上げられる道具があるとは考えにくい。だが、能力にしたって科学的に開発が行われている以上出来ないとも断言できない・・・)
神無月が考えている間も佐天は話を続けていた。
「どこかの学者が残した論文だとか料理のレシピだとか、噂の中身もバラバラで…」
「まあ、普通能力の開発って学校で何年もかけてするもんだし、そんな都合がいいものがあるかって思うけど?」
「ああ、普通はそう考えるよな・・・ でも、俺も学校の奴らが
神無月の話を聞いた白井は思案顔で言葉を紡ぐ。
「・・・実は
「はっはい!?」
「何か他に知ってることない?」
「えっ、え~~~~~とぉ・・・」
いきなり、真剣な顔で美琴と白井に迫られて、佐天は驚き少し考え込むと思い出したように、
「あ、そういえば、自称ですけど
「どう思う、黒子?」
「信じられませんが、そういったものが実在するなら一連の事柄に説明がつきます。 一応当たってみる価値はあるかもしれませんわね」
「ありがとね、佐天さん」
「じゃあ、またな~」
そう言うと、白井、美琴、神無月の三人は
「・・・・・・え?
◆
太陽は完全に落ち、既に空は真っ暗になっている。それでも、
「あん?
不良っぽい三人は、特徴的で、一人はスキンヘッドのマッチョ(細マッチョではない)、一人は革ジャンにツンツンした金髪、最後の一人はバンダナを頭に付けた口髭の男だった。そして、美琴の問いに答えたのは、バンダナをつけた男だった。
「うん!」
美琴はとびっきりの媚び媚びの笑顔を振りまきながら答える。しかし、三人のうちスキンヘッドは酒がまわっていて気にしていないようだが、革ジャンの男とバンダナの男は明らかに警戒している目つきだった。まあ、確かにいきなり知らない人間に「
「ネットで偶然お兄さんたちの書き込みを見てできたら教えて欲しいなーって」
という様子を神無月と白井は不良たち三人のテーブル席から少し離れた位置にある席から気づかれないように見ていた。ちなみに美琴には盗聴器を持たせていて、向こうの席での会話は白井の持つ受信機からはっきりと聞こえるようになっている。今のところ美琴の演技に問題はない。しかし、それでも白井は美琴のほうを心配そうに見ていた。何故、いきなり
◆
「お―――あったあった」
佐天からの話を聞いた俺たち三人は、
「予想以上に時間が掛かってしまいましたわね。 普段でしたら、初春がぱぱっと見つけてくれるんですけど」
佐天と別れたのはちょうど昼ごろ。しかし、外を見るとかなり暗くなってきていた。明日から夏休みという、日もだいぶ落ちにくくなってくるこの季節にも関わらずこの暗さ、どれだけネットの書き込みを探すのに時間を要したのかが分かってしまう。
「飾利ってすごかったんだな・・・」
「当然ですの、何せわたくしとコンビを組んでいるんですのよ。 情報関係なら初春の右にでるものは居ないとすら思っていますもの」
「へえ、かなり信頼してるんだな」
チラッと白井の方を向きながら聞くと、
「あっあたりまえですの」
白井は、自分の言っていることに少し恥ずかしくなったのか顔を赤くしながら答えた。そして全員画面に顔を戻した。
「いや、それにしても本当に実名で書き込んでいる奴がいるとはな」
「そうね、まさにネット初心者」
俺と美琴が画面を見ながら呟いていると、白井はもう一台のパソコンを操作して書き込みをした奴の実名を打ち込んでいく。
「一応、照会しました。 確かに素行のよろしくないグループのメンバーばかりですわね」
さて、どうやってここから調べていくか。他の
「よし、直接いって情報を聞き出そう。 覆面調査ってヤツね」
「はっ!?」「はい!?」
俺と白井が同時に間の抜けた返答をした。確かに、覆面調査は悪くない、俺も確かに考えはした。しかし、美琴のあのやる気に満ちた顔。言葉にこそしていないが、『私が直接聞き出すわ』といっている。すかさず、白井がやんわりと止めに入る。
「えっと、お姉さま。 ちなみに、誰が情報を聞き出すんですの」
「そりゃ、もちろん。 私よ」
『もちろん』じゃねえー。はっきりいって美琴にそんな調査が出来るとは思えなかった。今までの経験から言っても美琴の気は長くないと思う。予想としては、『
「有真、あんたなんか、今失礼なことを考えてなかった」
「いえ、滅相もありません」
というか、この時点で既に先行きが不安だ。白井も俺と似たような不安を抱えているのだろう。頑張って止めようと言葉を重ねる。
「民間人であるお姉さまにそんなことをさせる訳には・・・」
「アンタは
言っていることだけ見れば間違っていない、確かに間違っていないが。この言いしれぬ不安感はどうしても消えない。
「で・・・でも、途中で相手に腹を立てて能力を使ったり、なぎ倒してはいけませんのよ」
言ったー、黒子がついに確信を突いたー。それに対して美琴は、
「わかってるわよ~それじゃまるで、私が暴れん坊みたいじゃない」
このとき、たしかに俺と黒子の『違うのかっ!?』という心の声がお互いに分かったような気がした。
「まあ、私に任せておきなさいって」
そういって、胸をドンと自信満々に叩く美琴の言葉で作戦は決行されることになり、現在に至る。以上、回想終わり。
◆
隠れつつ、美琴の様子をちらちらと心配そうに白井は見ている。
(黒子はとってもとっても不安ですの。 二重の意味で)
そんな、心配など気が付かずに美琴は三人の不良に
「ねっ、いいでしょ」
お願いと言う風に手を合わせて頼み込んでいる。しかし、相手もすぐに良いとは言わない。
「こっちも情報を手に入れるのに苦労したんでね、帰んな」
「そこをなんとか」
美琴が言うもバンダナの男はokをださない。スキンヘッドの男だけだったならば酔いも回っていて何とかなったかもしれないが、バンダナの男と革ジャンの男は甘くはなさそうだった。
(ネットに実名で書き込んでいるくらいだから、ちょろいかもとしれない思ったが実際はなかなか頭を使ってるっぽいな。 頭の使いどころが悪事ではあるだろうが)
美琴がお願いするもバンダナの男はだめの一点張りだった。
「ダメだ、ダメだ。
その言葉に美琴がピクッと反応した。そして、美琴の拳が静かにギュッと握られた。それを見た白井の顔がひきつる。
(まっ、まずいですの。 早くも頓挫の予感が・・・)
白井の頭の中には、『人が頭下げてんのになんだその態度―――ッ』と電撃をぶちまける美琴の姿が思い浮かんでいた。
しかし実際は、
「え~~~~~~~私そんなに子供じゃないよぉ♡」
キャラ崩壊もいいところだった。両手は首の近くで笑顔を強調するかのように軽く握られ、声もかなり甘えたような声を出している。『きゃはっ♡』と言う擬音が聞こえてくるかのようだった。美琴の背景には、点描の泡がふわふわ浮いているようにすら見えるほどだ。ここまで猫をかぶれるとは、女ってホントに怖えと思わずにはいられない。白井もまさか美琴があんな甘えた声を出して、かわいらしさアピールをするとは思っていなかったのだろう。手慰みならぬ口慰みに飲んでいたコーヒーをブ―――っと盛大に噴き出した。その結果として、白井の前に座っていた神無月がその被害を一身に受けることになるわけで。
「熱いっ! というか痛いっ! よくそんなに熱いの飲めるな!? というか、それが眼球に直撃した俺は大ダメージだぞっ!?」
これだけの暴挙を繰り出したにも関わらず、白井からは反応が返ってこない。もっていたハンカチで顔を拭い確認をすると白井が苗字同様に真っ白になってぴくぴくしている。それほどまでに美琴の演技に度肝を抜かれたということだろう。どうやらここからの監視は一人で行わなければならないようだ。その様子を見た神無月は天井を仰ぐと呟く。
「不幸だ」
本当に上条の口癖が本当に
そんなこんなのやり取りの間にも、美琴と不良たちの会話は進んでいた。白井を機能停止に追い込んだ『え~~~~~~~私そんなに子供じゃないよぉ♡』発言にスキンヘッドの酔っ払いがなかなかに好感触の反応を返していた。
「だよなあ、オレはアンタ好みだぜ」
「ホントにー♡」
きゃはっというぶりっ子声を続ける美琴に言葉もないが、電撃を飛ばさないでいてくれて本当に良かったとも思う。予想以上の順調な聞き込み調査だった。このままいけば、案外今日中に
「じゃあ教えてくれる?」
「ん―――――やっぱ、ただってわけにはいかねえなあ」
そういいながら、スキンヘッドの男は鼻の下を伸ばした、いやらしい目つきで美琴のスカートの方へ視線を向けている。
「・・・・・・」
明らかな視線に美琴も顔に笑顔を張り付けてはいるが、内心では電撃をぶつけてやりたくなっているように見える。
「えっとぉお金なら少しは出せます~」
美琴は男の意図に気が付かないふりをして、何とかごまかす。
「金もいいけどこういう時はやっぱり・・・こっちの方かねえ」
しかし、煙に巻ききれなかった。男は、美琴の肩を抱くように手を伸ばす。だが、男の手は美琴に触れることはなかった。美琴は、するりと男の腕に捕まる前に抜け出し、男の手は空を切る。
「え―――でもそういうのはやっぱり恐いっていうかぁ・・・お金じゃダメ?」
かわいらしく手を合わせて小首をかしげて見せるが、男の方もごまかされない。首を振ると、
「ダメダメ。 それじゃあ教えられないなあ、子供じゃないんだろ?」
そういって美琴の方をちらっと見る。
「う・・・」
美琴が涙を流して目を擦っていた。
いきなり泣かれるとは思っていなかったスキンヘッドの男は突然のことに驚く。
「私・・・実は無理言って学園都市に来させてもらったの」
「は? 何を言って・・・」
いきなり泣きながら話し始めた美琴にスキンヘッドの男は狼狽えることしかできない。
「でも、やっぱり私才能なくて、能力も全然伸びなくて、お父さんはさりげなく電話で
流石のスキンヘッドの男でもこの空気の中、体で払えとは言えない。
「期待に応えなくちゃって思うけど、どうしようもなくて思わず嘘ついちゃって、そんなときお兄さんたちのこと知って、もう『
「い、いや、そんなことを言われても・・・」
スキンヘッドもオロオロするばかりで明確に拒絶もできないし、強引に迫ることもできない。そこに追い打ちで美琴が、
「ダメ・・・かな?」
と涙目の上目づかいで男に尋ねる。すると、男は雷に打たれたように硬直。誰からみてもスキンヘッドは純情ハートをぶち抜かれたなと分かるほどだった。白井は白井でさらに精神的ダメージ?を受け、さっきよりもさらに真っ白になりテーブルの上で潰れていた。神無月は演技がうまくいっていることに喜びつつも笑いをこらえるのに必死だった。なぜなら、美琴の前に立っているスキンヘッドの男からは見えないが、美琴の後ろ側にいる神無月と白井からは美琴が後ろ手に持っていた
「(オイ、よく見りゃアレ常盤台の制服じゃねえか)」
「!」
「(意外とイイ金ズルになるかもしんねーぜ)」
「ほう」
そういって、バンダナの男は口元をゆがめて静かに笑う。常盤台中学は、おのずと知れた有名なお嬢様学校だ。それゆえに、そこの生徒ということは金持ちの娘だといえる。実際は、金持ちでなくとも入学基準を満たす能力があれば入学は可能なのだが、イメージは先行しやすいため、そこに通っているならばお嬢様だと思ってしまうのも無理からぬことだった。しかし、常盤台中学の入学条件は
「こんなところで泣かれてもメンドクセー金額次第で教えてやるよ」
「オ、オウ」
めんどくさいと言いながらもバンダナの男の顔は、これからせしめる金でどうするかという妄想で顔がにやけている。スキンヘッドはハートを打ち抜かれ、とりあえず頷いたといったようだった。今までの演技が実を結び美琴も心の中で『やった!』と叫んだ。そういって、財布から金を出そうとしたとき、
「これこれ
聞き覚えのある、いやほとんど毎日聞いている声が聞こえてきた。その声に美琴も内心で焦りを感じる。
((この声は・・・!))
いきなり割り込んできた男に不良三人が不快そうな顔を向ける。
「あ――――? なんだ、テメェは?」
聞き覚えのある声は言葉を続ける。
「
俺と美琴は心の中で叫ぶ。
(また、アンタかっ!!)(当麻かよっ!!)
計画が崩れていくような音が頭の中に聞こえてきた。
◆
「イキナリ出てきて何言ってんだテメー」
いきなり現れて説教チックなことを始めた上条に神無月は頭を抱える。
(確かに女の子が財布を狙われたなら止めるのは正しいと思うよ! けど、何もこのタイミンゲで出てくることはないだろう! あと、ちょっとで
神無月の心も知らずに上条は続ける。
「おまえらこそここがどういう場所か分かってんのか? レストランだぜ、食事する所だろーが」
美琴も上条の隣で固まっていた。
(ちょっと待て―――ッ!! あとちょっとだってのになんでアンタが出てくんのよ!! ヤバいこのままじゃ情報が・・・このチャンスを逃がしてたまるか)
「えーこんな人、私知らない」
しかし、ヒートアップした上条とスキンヘッドは聞いちゃいない。
「サカるなら一人でビデオ相手に頑張ってろ」
「何だとぉッ」
「スル――!?」
上条とスキンヘッドは美琴の事を完全にスルー状態になった。『スル――!?』と言ったことすらスルーするぐらいにNO眼中だった。しかも、最悪なことに計画を知らない上条は、
「だいたいな、アイツはあんなキャラじゃないぞ。 お前らの手に負える相手じゃねえ。 止めとけ」
と、計画を崩すような発言を繰り返す。しかし、それを伝える手段が無いため神無月は頭を抱えるしかなく、美琴も無関係を装うしかないのだった。そこで、スキンヘッドの男は何かに気が付いたと言う顔をする。
「はっはーん。 さてはテメーらグルだな? そうやってタダで情報を手に入れようってハラか」
「はあ?」
もちろん、上条は
「きたねえ手を使いやがってボコボコにしちまおうぜ」
「クソッ、人がせっかく助けてやろうとしてんのに。 ビリビリ中学生だぞ」
スキンヘッドの男の言葉に後ろで見ていた革ジャンとバンダナも立ちあがって上条を威嚇する。
「何かよくわからんがしょうがねえ。 まとめて相手してやる三人ぐらい」
そう上条が言った時、店の男子トイレのドアが開いた。すると、中からゾロゾロ三人の不良の仲間と思われる奴らがあふれ出てきた。上条は、不良たちの座っていたテーブル席の上を見る。1、2、3、・・・、9。九人分の食事や食べた後の食器などが並んでいた。
「ええ―――ッ!? トイレに集団でゾロゾロ入るのは女の子の特権だと思いましたが―――ッ!」
九人の不良が一堂に会し、その中でスキンヘッドが上条に向かって言う。
「この人数を一人で相手にしようっていう度胸はほめてやる。 今なら有り金全部出して謝るなら許して・・・」
ダッ、不良が言い終わる前に上条がダッシュで逃げだした。不良たちは全員、驚いて動きを止める。
「逃げた!? 自分から出てきたのに!?」
「ヤロウ、追え! ふん掴まえてギタギタにしてやる!」
そう言うと、逃げ出した上条を追って不良たちも全員店を出て行ってしまった。あとに残されたのは、ひたすらにスルーされ続けた美琴一人だけだった。不良たちがいなくなると、ポツンと残された美琴に店員が声をかける。
「お客様、大丈夫でしたか?」
「あ、お気遣いなく」
あれだけの数の不良に囲まれた女子中学生を見たら、どう考えても囲まれて逃げ出せなくなっているナンパの被害者だと思うだろう。この店員もそう思ったに違いなかった。そして、不良たちがいなくなったのを見計らって美琴に声をかけたのだ。しかも、不良たちは食べた料金も払わずに出て行ってしまっていた。そのことも懸念事項ではあったようではある。
「あ、お会計は全部この子が」
ポンと白井の肩に手を置くと、美琴もすぐに不良たちを追いかけて店から走り出していった。さりげなく白井に全部の代金を押し付けていくあたりの手際が手馴れすぎていて神無月はいつもこんなことをやってるんだろうかと思わずにはいられなかった。当の白井はと言うと美琴がポンと手を置いた瞬間にガバッと目を覚ましていた。
「何か見てはいけないものを見てしまった気が・・・ って、何のんきに特大パフェ(全長50cm)を新しく注文して既に食べ始めてますの!?」
「HAHAHA、ナニイッテルンダイクロコ? コノパフェーハサイショカラココニアッタジャナイカ」
「アメリカのジョークっぽく言われると余計に腹が立ちますわね。 ってそんなので誤魔化されませんわ!」
「作戦が失敗してやる気が無くなったとか、コーヒーをぶちまけられたからその仕返しだとか、そう言えば昼間のかき氷から甘いもの何にも食べてないじゃないか!?とかそんなのじゃないんだからね!」
「ツンデレっぽく本音がダダ漏れですのよ。 それにしてもホントにいつ注文していつ届いたんですの? お姉さまが『あ、お会計は全部この子が』って言ってから30秒も立っていませんのに。 はっ、まさかアナタ能力でわたくしの時間だけ遅くしたんですの!?」
「ナンノコトヤラー」
「目を不自然に逸らしてはいけませんの! さあ、白状しなさいですの!」
と神無月と白井が遊んでいる間に美琴は逃げて行った不良を追いかけていた。不良達を追いかけている間も、
「アンニャロ、もうちょっとだったのに!」
と上条に悪態をつく。確かに上条の介入が無ければ美琴の演技で不良達を騙せていた可能性は大いにありうる。それがもう少しで成就と言うところで失敗に追い込まれたのだ。文句の一つも言いたくなるというものだ。そうして走っていると
「いたっ!」
ついに美琴は上条を追う不良達を見つけた。そして最後尾を走っていたバンダナの男に並走して話しかける。
「ねえ、あんなのほっといて話の続きを・・・」
「ああ? まだいたのかアンタ」
バンダナの男は美琴に気付いたがそれだけで、近くにいたスキンヘッドの男を怒った。
「元はと言えばテメーがこんなのに引っ掛かるからだぞ」
「んな事言ってもよー」
その間も美琴は『
「エロカッコいいセレブなねーちゃんとかならともかくこんな頭悪そうなクソガキに騙されやがって」
頭悪そうなクソガキ呼ばわりにも美琴は耐えて、頭に怒りマークを付けながらも懸命に『せめてどんな物かだけでも・・・』と聞く。そこでいい加減に
「うるせえ! ガキはクソして寝ろ!」
ついに美琴はキレた。
「人が優しく言ってんのに――――!!!」
「ギャ―――!」
美琴の怒りを買ったバンダナ男は美琴の体から発せられた電撃を浴びて黒焦げになって地面を転がった。バンダナ男の体はボロボロ、服も焦げ、目は白目を剥いて、バンダナも焼けているが、命に別条はなく気絶しているだけだった。いくらキレてはいてもきちんと手加減している美琴だった。
「ジュンタ――!」
「な! テメェ能力者だったのか」
驚いたのは周りの不良たちだ。いきなり仲間が電撃で丸焦げにされたのだ、驚かない方がおかしい。しかも丸焦げにした能力者は今までレベルが上がらず、
「女だから見逃してやるつもりだったが能力者だってんなら容赦しねえぞ」
「!」
流石の美琴も警戒をする。
(そうか、こいつら
しかし、美琴の予想を他所に不良達の口から出たのは、
「パワーアップして
次の瞬間、美琴を囲んでいた不良たちは全員丸焦げになって地面に転がっていた。いくら同じ
◆
上条は不良達を
「追手がいなくなった? やっと撒いたか」
『ようやく一息つける』と上条が思い息を吸った瞬間、
「ったく、何やってんのよアンタ。 不良を守って善人気取りか、熱血教師ですかぁ?」
電撃のヴェールを
「・・・・・・つー事はアレだろ? 後ろの連中が追ってこなくなったのも」
「うん。めんどいからから私が
さもなげに美琴は言う。
「お前なあ・・・」
「『お前なあ』はこっちの台詞よ。 アンタのせいで情報取り逃がしちゃったじゃない」
「情報?」
「才能不足をズルして補う事件の情報。 せっかく、あともう少しで情報が手に入るってとこで邪魔してくれちゃって、どう責任とってくれるのよ!」
美琴の周りでバチバチと電撃がはじける。
「待て待て、話し合おう
「そうね・・・」
そう言う美琴の顔は笑っていない。
「でも、今日の調査を台無しにしてくれた分とストレス解消のサンドバック位にはなれるわよ!」
そう言うが早いか、美琴の手から数万ボルトの雷撃の槍が放たれ上条を襲う。美琴と上条の距離は数メートル。こんな近距離で
「で、自称
「・・・・・・」
美琴の前には、上条が右手を突き出した状態で無傷で立っていた。確かに、美琴の
「私の電撃を無効化するような力を持っていながら、不良相手に逃げたりして…強者の余裕ってやつかしら」
「だから、俺は
「何が
美琴の手や頭、体中から雷撃の槍が飛び出し上条を襲う。
「電撃の槍を、(ズドン)、水風船みたいに、(ドゴン)、簡単に、(バリバリ)、消し飛ばしておいて、(バゴン)、そんな二三〇万分の一の天災が何を言っているのよ!(バリバリズゴヮーン)」
美琴の連続した
「はあ、はあ、はあ」
しかし、あれだけの数の
「・・・何て言うか不幸つーか、ついてないよな。 オマエ本当についてねーよ」
「何ですって」
「いくらやってもオマエの攻撃は俺には効かないんだ。 これ以上続けても不毛なだけじゃねーか。 だから、こんな無意味なことはやめてもっと若者らしく青春を謳歌しないか?」
「らしく・・・」
美琴が自分自身を確かめるようにつぶやく。
「・・・・・・・・・そうね。 私が間違っていたのかもしれないわね」
「わかってくれたか」
「ええ、ずっと心のどこかでブレーキをかけてたのかもね」
そう言うと、美琴の周りで先ほどまでの攻撃とは異なる音を電撃がかなえ始め、それに伴い空がゴロゴロと音を鳴らし始めた。
「私の全てを出し切った全身全霊の攻撃・・・」
「・・・雷雲!?」
「人間相手に流石にこれは・・・とか躊躇するなんて本っ当、
「・・・・・・」
言葉もない上条。 美琴の雰囲気にただただ足が後ろに下がる。と、そこで上条は美琴の後ろに居る二人の姿に気がつく。
◆
神無月と白井は店でパフェを食べ終わってから上条と美琴を探しに出ていた。
「どれだけパフェを食べれば気が済むんですの! おかげですっかりお姉さまを見失ってしまったじゃありませんの」
「でも、一分で食べ終わったろ?」
「それは最初の一個で、その後六個もパフェを注文していたなんて知りませんもの!」
「いや、一日かき氷一個とパフェ一個では燃費の悪い俺には足りなくてな」
「悪すぎですの! あれだけ食べればわたくし4日は持ちますわよ!」
「俺の半日分で4日も動けるのか、凄いな」
「あれで半日分なんですの!?」
「まあな。 んっ、あれって美琴の追ってた不良じゃないか?」
話しながら美琴を探していると、神無月が美琴の追っていた不良(レア:焼き加減)を発見した。
「ええ、確かに先ほどの方たちで間違いないようですけど。 お姉さまはどこに?」
「まあ、ここにいないって事は情報収集を台無しにした当麻のところに電撃を・・・」
と、神無月が言っている最中にドゴンという雷の落ちたような音が少し離れた鉄橋の方から聞こえてきた。
「いやー、分かり易くて助かるな」
「・・・そうですわね。 お姉さまの相手をするなんて、あの方生きていらっしゃれば良いのですけど」
「不幸だ不幸だと言いつつ、なんだかんだで当麻は死なないと言う事に関しては運が強いから大丈夫だと思うぞ。 まあ、そんな死ぬようなところに巻き込まれるのは不幸かもしれないがな」
と言いつつ神無月は、
(今回に限ってはわざわざ自分から巻き込まれに来たのか・・・あれ、今回だけか? 割と自分から首を突っ込んでいることも・・・)
と考えていると、
「何をボケっとしてますの? 行きますわよ」
「ん、ああ」
そう言って、白井の
◆
上条の視界が神無月を捉え、すぐさまアイコンタクトでSOSを発信する。
[
[|ム・リ・ト・イ・ウ・カ・チ・ョ・ウ・ハ・ツ・ス・ン・ナ《無理、美琴を無駄に挑発するから悪い》]
神無月の諦めてくれサインが上条に返ったところで美琴の体から電撃が雷雲に向かってのび、その直後上条を含めたこの付近に雷が落ちることとなった。そして上条の、
「不幸だぁー」
と言う声が辺りに響き渡った。
◆
その頃の初春の部屋では、トントンという野菜を切る音で初春が目を覚ましたところだった。ベッドから起き上がり初春が台所をのぞくと、
「佐天さん! また、来てくれたんですか」
「あ、ごめん。 起こしちゃった? 夕飯作りに来たよん。 つってもお粥だけど」
「わぁ、わざわざありがとうございます」
「汗かいたなら先に着替えちゃいなよ。 ついでに体も拭いてあげる」
佐天のお粥は出来上がったが、流石にすぐに食べられるほどの温度ではないため、少しさめる時間を利用して佐天は初春の体を拭く。そして、拭きながら初春に話しかける。状況としては少し違うが風呂に入りながらだと腹を割って話せるといった状況に近いのだろうか。
「ねえ、初春はさ。 高レベル能力者になりたいって思わない?」
「へ? そうですねー、そりゃ能力は高いに越したことないし進学とかもその方が断然有利ですけど」
「んー、そう言うんじゃなくて、ほら普通の学生生活送るなら外の世界でもできるし超能力にあこがれて
佐天は初春の体を拭いたタオルを水を張った洗面器で洗い水を絞りながら続ける。
「あたしもさ、自分の能力ってなんだろう、あたしにはどんな力が秘められているんだろうって、ここに来る前はドキドキして寝れなかったよ。 それが最初の
そんな佐天に初春は、
「・・・わたしも能力の
と楽しげな笑顔で言った。
「
「佐天さん?」
「あーっもう!! 可愛いこと言ってくれちゃって!」
と言うと佐天は初春に抱きつく。ついでに濡らしたタオルで初春の体の特に旨の当たりを重点的に
「ひゃわっ」
「おおー良い声で鳴くねー。 ご褒美に全身くまなく拭いてあげよう」
「キャ―――ッ、キャ―――ッ」
佐天に体中を弄られながらも初春は、
「佐天さん、手の届く場所は自分で吹けますからっ!」
「ダーメー」
その時遠くで、ゴロゴロゴロドォーンと言う雷鳴が響き、部屋の明かりがふっと消えた。
「あら? 停電? 良いところだったのに」
「助かりました・・・」
美琴の起こした雷は間接的に初春を少し助けたのだった。
◆
美琴の発生させた落雷は上条に向かって落ちた。しかし、近くにいた神無月や白井の方にも雷は落ちてきた。まあ、全員防ぐなり避けるなりして無傷だったのはよかったことだといえる。そして、雷を防いだ上条はダッシュで逃げる。その結果として、逃げた上条を美琴が、
「待てやコラー」
と追いかける。今度は遠くへの移動ではなく見えている相手を追うため、神無月と白井は美琴を走って追いかける。そのため、全員が走り回ることとなった。そして走り回っている最中、ふと神無月が携帯の時計を見ると夏休みに突入していた。つまり、翌日の午前0時を回っていたのだった。その時点で神無月と白井は諦めて帰寮、上条と美琴は追いかけっこを続けることとなった。こうして、馬鹿みたいに走り続けることから4人の夏休みは始まるのだった。
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