とある魔術の絶対重力‐ブラックホール-   作:プロジェクトE

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第08話 夕暮れを揺蕩う夜想曲 ~nocturn~

◆

 

(はあ、まさか昨日の落雷で有真の家の電化製品全部を壊しちゃってたとは思わなかったなぁ・・・)

神無月との会話を終えて寮に向かってとぼとぼ歩きながら美琴は昨日のことを反省していた。

ついさっきまでは神無月とアドレスの交換ができたことにより、家族以外の初めての男の子のアドレスだと感慨深い(かんがいぶかい)ものを感じていた美琴だったが、一人になると少しネガティブが入ってしまっていた。

夏の夕焼けが美琴の顔をギラギラ照らす。

夕焼けと言っても夏というこの時期では、ポカポカとかほんわかとかいった生易しい暖かさではない、というか暖かさというよりむしろ暑さだ。

夕暮れになっても美琴の体をジリジリと焼く太陽光線のせいで汗が垂れてくる。

その汗が下着やブラウスを肌に張り付けるため不快指数が上がって、さらに美琴のテンションを下げるという気分一直線下降(ネガティブロード)。

なんだか、制服のサマーセーターもスカートの下の短パンも鬱陶(うっとう)しくなってしまう。

いまなら、木山さんが脱いでしまう気持ちも分かる気がするなと思いつつ、それをやったら乙女として終わってしまう気がするのでもちろん実行はしない。

(はあ、早く帰ってシャワーでも浴びよう)

そんなことを考えながら、美琴は寮に向かってある程度歩くと道の反対側に少し大きな電気屋があったので美琴は少し外から覗いてみることにした。

学園都市の電気屋は学園都市の外と比べて売っている物の毛色が大きく違う。

まず、学園都市の住人のほとんどが学生であり、寮生活をしているものがほとんどであるため、冷蔵庫や洗濯機といった家電は備え付けの物がある場合も多く、冷蔵庫や洗濯機などの大型家電の店頭に並ぶ数は多くはない。

そもそも学園都市に住居を構えられる大人は限られているため家が新しく建つと言う事が少ないため家電の数自体がどうしても少なくなる。

また、学園都市の技術レベルが外と比べ三〇年の開きがあるとされていることもあり、外の電気屋よりも数段性能の高い物が売っている。

そこを除いても技術の実験場も兼ねているので学園都市の電気屋にはおかしなものが置いてある。

例えば美琴の目にたまたま入った3Dホログラムホームシアターセット。

球体状の映写機を床に設置することでその上部に3Dホログラムで映画を映し出す装置だ。

学園都市の外の映画館で上映されている3D映画とは異なり、3D眼鏡を付ける必要はなく、3次元的に映像を空間に投影(とうえい)する事が出来る。

確かに画期的なホームシアターセットではある。

しかし、問題があった。

(いくら、実験的に作られて完成していても量産せずに売りだして一台二〇〇〇万円じゃ誰も買わないってわからないのかしら)

と美琴はホームシアターセットを眺めながら溜息(ためいき)をついた。

(でも、こういうので映画を見ながら二人っきりになれたらロマンチックなのかしらね)

とそこまで考えて美琴は顔を赤くして驚く。

(ハッ、何考えてんの私!? 二人っきりって何!? 誰と二人っきりになるつもり!?)

美琴は頭にさっき浮かんだ想像を振り払うため頭をぶんぶん振った。

だが、意識すると余計に頭から離れなくなり、電気屋の前で頭を振り回す常盤台のお嬢様が街ゆく人間に目撃された。

そして、注目されている事に気が付いた美琴はその場をさっさと離れるのだった。

ちなみにこのホームシアターセット、対応する映画が学園都市でも数本しか上映されておらず、家庭用に発売する際は、膨大なデータ量となるためBD(ブルーレイ)やDVDでも映画が入りきらないため、500GBのHD(ハードディスク)に映画を詰め込んでシアターセットに接続すると言うふざけた方法を取っている。

そのうえ、上映した映画も大ヒットした物は無い。

ランクで言えばB級止まりの物しかないのだった。

そんな理由もあってこのホームシアターセットは売れ行きが良くないのであった。

寮が目の前に迫ったとき美琴の脳裏(のうり)に閃(ひらめ)きがあった。

(電化製品を壊しちゃったのが私なんだから、買いに行くのについてった方がいいんじゃないかしら。 壊しちゃったものを一緒に買いに行くのは普通、当然のことよね。 そのこともメールで聞いてみようかな・・・)

美琴の帰寮はそんな事を考えながらの帰寮となった。

 

◆

 

「大盛りも頼めないとやっぱり腹いっぱいにはならないんだよな」

「まあ、確かに月末で財布の中身が厳しいのは分かるが、三二〇円はちょっと厳しすぎないか?」

そんな事をいいながら歩いているのは美琴と別れた後に牛丼屋でそれぞれ並盛の牛丼を食べてきた神無月と上条だった。

「しょうがないんです。 月初めに財布を落としたり、キャッシュカードを踏み砕いたりしてる人間の気持なんかわからないんです!」

「だから、大盛りに足りない分の数百円くらいなら貸すっていっただろ」

「有真、分かってないな。 その借りた数百円を次の月頭の金がある時に返すと最終的に月末になってお金がなくなって何も買えない冷蔵庫もカラなんてことになることを」

「なんで、数百円で餓死(がし)しかけるんだよ・・・」

「超能力者(レベル5)の補助金貰(もら)ってる有真には分からない問題なんです」

「いや、まだこの間書庫(バンク)のデータが更新されたばかりだから俺のところの補助金は低能力者(レベル1)のままだぞ。 つか、本来なら当麻のところに入ってくる補助金と親から送られてくる金で十分やっていけると思うぞ。 財布を落として金を無くしたりしない限りは」

「・・・・・・うう、不幸だ」

「まあまあ、そう嘆くなって、今度日本がTPP加盟すれば多少は物価も安くなると思うぞ。 やりようにやっては牛丼も200円切るって言ってたし、牛丼自販機が設置される日も近いかもしれないぜ」

「それはありがたいけど、TPPって他国に介入されやすくなるだろ。 そのまま押し進められても良いのかどうなのかわかんないんだけど・・・」

「まあ、加盟するのはあくまで日本だからな、学園都市はたぶん日本が参加しても今とたいして変わらないと思う。 日本に入ってくる輸入品は日本国内に入った時点で日本の物だからな。 それを安く学園都市が買うとしても他国からの輸入にはならないし、外国側から情報公開とか介入を受けた場合学園都市は日本とは独立していますっていってそれらをやり過ごせる。 安く買って、他国の介入は認めない、まあ、甘い汁だけ吸えるっていう立場だな」

「そう考えると俺たちって凄いとこにいるんだなって思うんだが」

「ま、加盟するにしないにしろ当麻は財布さえ落とさなければ普通にやってけるって」

そんな話をしながら二人は自分たちの学生寮に帰ってきた。

夏休み初日と言う事もあってか寮に人の気配はない。

みんな遊びに出掛けているのだろう。

夏休み初日から二人のように学校に一日中縛りつけられている人間は少ないのだ。

同じクラスの補習組(クラス全員)であっても、補習の補習まで受けていた神無月や上条のように完全下校時刻まで学校に束縛(そくばく)されていた人間はほとんどいない。

「なんていうか、こうも人がいない寮に帰ってくるとリア充爆発しろっていうか、物悲しくなるな」

「・・・うん」

そんな寮のオンボロエレベーターに乗って二人は七階まで上がる。

このエレベーターに乗ると、毎回紐が切れて落ちないか心配になる神無月だったが、その心配が現実になった事は一度もない。

まあ、あってもらっても困るのだが。

そして、チーンなんて昭和臭い音を立ててエレベーターは目的の階に到着する。

建てつけが悪そうにガコガコ音を立てながら開く扉を無理やりあけるように二人は七階の通路に出た。

すると、二人の視界にある光景が飛び込んでくる。

今朝の清掃ロボットが三台集まって掃除をしていた。

しかも、それは上条家の目の前。

あのロボットのスペックは、一台で床にこびりついたガムを通り過ぎるだけで消滅させられる程度の掃除力だ。

それが三台も集まって床をゴシゴシやっていると言えば、誰でもどれだけの汚れがぶちまけられたんだと思う。

しかも上条にしてみれば、それが自分の家の間の前でやられているのだから、戦慄(せんりつ)ものである。

「「・・・・・・」」

神無月としてもこれ以上、上条が不幸な目に逢うのは友として忍びない。

恐る恐る何が上条家の前で起きたのかを二人はそろりそろりと近づいて確かめる。

ミニドラム缶のような清掃ロボットの陰から見えたのは、

 

自称魔法少女はらぺこインデックスだった。

 

・・・・・・

「・・・・・・・・・あー」

上条が呆(あき)れと安堵(あんど)と理解したという感情を混ぜたような言葉を発した。

彼女が上条家を訪れた時は、ベランダの手すりに引っ掛かって行き倒れていたと神無月は上条に教えられていた。

手すりで行き倒れるという光景よりは今の状態の方がずっと行き倒れているように見える。

「つまり、また行き倒れているのか・・・」

「・・・・・・。 なんというか、不幸だ」

そう言う上条の顔を神無月が見ると言葉に反してとてもうれしそうに笑っていた。

しかし、上条が笑っている事に気が付いた神無月も自分が笑っている事に気がついてはいなかった。

魔術師がどうのと言っていた割に何とかなってそうで安心した二人だった。

「おい、そんなところで何やってんだ・・・よ・・・・・・あ・・・?」

しかし、インデックスの方へ上条が近づいて行き、驚きという表情で固定された。

「どうし・・・な、なんだよ、これ!」

神無月も上条の様子の変化にインデックスに近づいて、言葉を無くした。

清掃ロボットの陰で行き倒れていると思っていた少女は、地の海に沈んでいたのだ。

そのあまりの赤さに二人の脳が停止する。

それほどに日常からあまりにかけ離れた光景。

ケンカで鼻血が出るとかそんなレベルじゃない。

交通事故でもここまで血が出ているところなど二人は見た事がなかった。

そこには学園都市の技術力も関係はしているが、それでも明らかに救急車を呼ばなければならない程の傷であることは確かだった。

何しろインデックスの背中が真横に割かれていたのだから。

明らかに偶然出来た傷ではない。

真っ直ぐに血の線を作るその傷は刃物による刀傷だった。

しかも、ナイフなどの小型の刃物ではない。

小型の刃物ならばこんなにまっすぐに切れたりしない。

必ず切る際のブレで傷口がこんなに綺麗になるわけがない。

そもそも、ナイフは切る事よりさす事をメインに作られている武器なのだからそれも当たり前だった。

神無月はこの傷を見てすぐに、大型の重みのある刃物を振り抜いた事による傷である事が分かった。

だが救いもあった。

何といっても息をして生きている事。

そして、出血量は多い物の切られた箇所から察するに臓器や危険な部位を切られていない事だった。

しかし、この出血量はヤバかった。

清掃ロボットはインデックスの血を掃除していたようなので、これだけの量の血が零れていても彼女の失った血の量はそれ以上だろう。

「どけよ、くそっ!」

上条はインデックスに群がる清掃ロボットをどけようとする。

しかし、清掃ロボットもかなりの重量の物で一つどけるのが精一杯だった。

そして、一つどけてもその間に残りの二つのロボットがインデックスに向かっていくのだ。

「落ち付け当麻!」

神無月が叫んだ。

そのあまりの剣幕に上条は驚き神無月を振り返る。

「焦るのは分かるが清掃ロボット自体はその子に危害を加えていない。 無駄に焦ってもその子を助けられないんだぞ」

清掃ロボットは確かにインデックスに向かってはいるが、インデックスの傷口から血を吸っているわけでもインデックスにタックルを仕掛けているわけでもない。

単純にインデックスの傷口からこぼれ広がっていく血を掃除しているだけなのだ。

「悪い・・・」

しかし、三台もの清掃ロボットに囲まれていては手当てするだけの広さが得られない。

「ちょっと当麻退(ど)いてくれ。 そいつらがいたんじゃ確かに手当てもできない。 空間移動用のワームホールでそいつらを一階まで飛ばす。 当麻は幻想殺し(イマジンブレイカー)を作用させないように離れてくれ」

「分かった」

当麻がインデックスから少し距離を取ってところで神無月が地面に手を当てる。

すると、インデックスを中心に円状に黒い穴が出現した。

もちろんただの穴ではない。

神無月が重力によって空間を歪(ゆが)めた事による空間の歪(ひずみ)なのだが、言葉で表すにはそれと類似するものが普通の生活の中にはない。

最も近い物がダムの水を外に放出する際に水をダムの底から引くのだが、その際に発生する水が穴に落ちる光景。

▼(こんな感じ)

http://farm1.static.flickr.com/1/3002669_9314cb8eb9_o.jpg

▲

それが現在の状況に最も近い光景だった。

見た目だけならまさにブラックホールと言ったところだ。

そして、その黒い穴に三台の清掃ロボットは吸い込まれて消えた。

インデックスは穴の中心にいたが、もちろんインデックスは吸い込まれていない。

神無月の重力操作は対象を限定できるため今回は清掃ロボットにしか効果を出さないようにしたのだった。

「当麻、簡単な止血をする、包帯とガーゼを持ってくるからちょっとインデックスを見ててくれ」

「分かった」

言うが早いか神無月は自分の部屋に応急処置道具を取りに入った。

上条は再びインデックスに近づいていき声をかける。

「お前、ホントにどこのどいつにやられたんだよ」

独り言ともとれる小さな声だった。

しかし、その小声に返答があった。

 

「うん? 僕たち魔術師だけど?」

 

明らかにインデックスの声ではない、男の声。

それが上条の後ろから響いた。

即座に臨戦態勢で振り替える上条。

その上条の視界に映ったのは、2m近い長身の白人の男だった。

背は日本人離れして非常に高い、しかしその顔つきは上条よりも少し年下といった感じだった。

真っ白い服装のインデックスに対して、長身の男は真逆の黒。

カラスの羽のような真っ黒い修道服だった。

服装だけ見れば、いかにも神父然としているが、咥えたタバコ、目の下のバーコードのような入れ墨、指全部についた銀の指輪、真っ赤に染められた肩まである髪、そのすべてが神父らしさから彼を遠ざけている。

服装が修道服でなかったら不良やヤンキーにしか見えない。

それはこの通路では明らかに浮いている。

いや、通路だけではない。

この町、学園都市という一つの世界から孤立している。

明らかな場違い、違和感、不協和音。

普段、異能の力に触れる機会が多い学園都市の人間だからこそ感じる、超能力とは異なる異能、これが魔術師。

魔術なんてものがある事を、魔術師を目の前にした今でさえ信じられない上条でも分かる違い。

目の前にいるのは人間のはずなのに自分とは違う生き物のように感じる。

「うん? これはまた随分派手にやっちゃって」

赤毛の魔術師はインデックスを見下ろすと独り言のように呟く。

「神裂が切ったって聞いてはいたけど、血の跡が付いてないから安心だとは思ったんだけどね」

つまり、インデックスは別の場所で切られて逃げてきた。

しかし、途中の血の跡は清掃ロボットに消されてしまったと言う事か。

「けど、何で・・・」

『何でここに戻ってきたんだ』そう上条は言おうとするが、目の前の光景で喉がからからになって言葉が続かない。

「うん? ここまで戻ってきた理由かな? さあ、僕には分からないけど忘れものじゃないかい? 昨日撃った時は被っていたフードが見当たらないしね」

目の前の魔術師は言った、戻ってきたと。

インデックスの行動は監視されていたのだろう。

しかし、上条には分からない。

何で彼女がここに戻ってきたのかが。

今まで彼女は服の防御性能でここまで逃げてきた。

しかし、それはもう上条の右手で失われている。

そして、インデックスはこうも言った。

服の魔力をもとに探索(サーチ)されているのだと。

それが分かっているならば、ここに戻ってくる必要はない。

わざわざ、ここに戻ってくる理由は、

 

『じゃあ、私と一緒に地獄の底まで付いて来てくれる?』

 

・・・分かってしまった。

彼女は俺たちを巻き込まないために長居はできないと言って家を出た。

追われているのは自分なのに。

一番危険なのは自分なのに。

それでも、他人を危険に巻き込みたくないからと。

そして、上条の家には幻想殺し(イマジンブレイカー)で壊れていない彼女の服の一部、フードがあった。

分かってしまった。

インデックスは上条を危険に巻き込みたくないがゆえに、わざわざ危険を冒してまでフードを取りに『戻ってきた』のだ。

「ばっかやろう・・・ばっかやろうが!!」

彼女の服を壊したのは上条なのに。

出合って一時間もたっていないのに。

フードを返そうと思えば、返せたのに。

「うん? そんな目で見られても困るんだけどね。 ソレを切ったのは僕じゃないし、神裂だって血まみれにするつもりはなかったと思うよ? そもそも歩く教会の絶対防御ならあれくらいなんでもないはずだったんだけどね。 なんの因果で結界が壊されているのやら」

赤髪の神父はやれやれと言った感じに首を振る。

神無月はそんな二人のやり取りを応急処置のための救急セットを抱えたまま部屋の玄関から聞いていた。

急いでいたため扉は開けっ放しになっていたので二人の会話は全部聞こえていた。

当然、インデックスが自分たちを巻き込まない為に戻ってきたということにも気が付いた。

完全に神無月と上条の失態だった。

自分のせいで彼女が切られたのだとすれば、彼女の命を救ったうえで、もう魔術師に追われたりしないような安全な世界まで彼女を送りださなくては償えない。

それは神無月がインデックスを守る明確な理由となった。

しかし、神無月は廊下に姿を現さない。

いや、迂闊に出られない。

少なくとも廊下にいる魔術師はインデックスを追ってきた。

つまり、インデックスの持っていると言っていた魔導書とやらを赤髪の神父は手に入れていないことになる。

また、インデックスを切ったのは自分ではないと魔術師は言ったことから、上条と相対(あいたい)している魔術師には少なくとももう一人仲間がいる。

可能性の問題だが、この場をどこかから見ている確率はそんなに低くはないはずだ。

少なくとも目の前の魔術師はインデックスを捕まえに来た、そしてインデックスが大怪我を負っていてもほとんど気にしていない。

これは口で言ってどうにかなる問題じゃなかった。

インデックスを連れていかせない事を助けることとするなら、それの実現にはほぼ100%戦闘を行わなくてはならない。

そして、戦闘でもっとも効果的なのは、相手の意表を突くこと。

つまり、奇襲をすることはかなりの効果を発揮する。

戦闘になるならここで迂闊に姿を現さないことがインデックスを救うことにつながる。

これが神無月が廊下に出られない理由の一つ目。

もう一つの理由は逆の場合、今ここにいないもう一人に奇襲を受ける場合だ。

自分が考えているかとは相手も考えていると考えた方がいい。

奇襲を受ける場合、狙いは当麻となる。

奇襲者の狙いが当麻だけに向けられたのであれば、俺が割り込むことで防ぎやすくなる。少なくとも予定が崩れるのだから。

奇襲者は俺のことは気が付いてないはずなので、当麻への奇襲を行おうとしたその時に飛び出した方が相手の奇襲を防げる確率が上がる。

当麻は囮のような役回りになってしまうが、今さら呼び戻す事も出来ない。

インデックスと当麻の事を考えればこそ出ていけない。

これが二つ目の理由だ。

攻撃と防御の二面から迂闊に出られない。

出るタイミングとしては、今廊下にいる魔術師が当麻に攻撃を仕掛けようとした瞬間、もしくは襲撃者がいた場合その襲撃者が当麻に襲いかかる直前だ。

それを見計らいつつ神無月はそっと息をひそめる。

神無月の意図も知らずに上条は怒りを吐き出すように呟く。

「なんで、だよ? こんな女の子を寄(よ)って集(たか)って血まみれにして、魔術師(テメエら)にだって正義くらいあるんだろ? これが正しい事だと胸張れんのかよ」

「だからさっきも言った通り、それを切ったのは僕じゃないんだけどね」

しかし、上条の感情の塊も魔術師には嘆息でかえそれる程度のものだった。

「まあ、もっとも、血まみれどろうと、そうでなかろうと、回収することに変わりはないんだけどね」

「かい、しゅう?」

「うん? ソレから聞いてないのかい? 魔術師なんて言うもんだから知っているのかと思っていたよ。 回収するんだよソレを。 正確にはソレの持ってる一〇万三〇〇〇冊の魔導書だけどね。 魔術の原典とも言われる魔導書、一冊読んだだけで普通の人間なら廃人になるとさえ言われている危険な魔導書だ」

「ふざけんなよ! インデックスはそんなもん一冊だって持ってねえじゃねえか!」

「持ってるさ、ソレの記憶の中に。 ソレは完全記憶能力っていう一度見たものを一瞬で覚えて、永久に覚えて続ける特殊な体質でね。 彼女は封印されて持ち出すことのできない魔導書をその目で盗み出して保管している魔導書図書館というわけさ。 彼女自身は魔力を練ることができないから力を使うことはできないが、その記憶を読み取って使うことの連中の手に渡ると厄介でね。 こうして僕たちが保護しに来たってわけさ」

「ほ・・・ご・・・」

上条は理解できないと言う愕然(がくせん)とした面持ちで虚(うつ)ろに繰り返す。

神無月も上条の意見に同意見。

自分たちから襲ってくる保護がどこにあるんだと。

しかし、感情に身を任せる事は危険だ。

そのため、神無月はさっきから重力探知で魔術師の仲間が近く潜んでこちらを窺(うかが)っていないか探しているのだが、一向に見つからない。

サーチに引っ掛からないと言う事は、ここにいる魔術師と他の仲間は単独で行動していて互いの仕事にほとんど干渉しないのだろうかと神無月は考える。

いや、インデックスの怪我を知っていたことからも連絡は密に取っているのかもしれない。

単純に今回の“インデックスの保護”という事に関しては赤髪の魔術師に任せてあると言う事なのか。

分からないが増援は居ないと考えていいのか。

神無月は夕焼けに染まった空を見ながら思う。

俺の力の範囲外からいきなりワープしてくるような魔術はねえんだろうなと。

そうやって神無月が心を静かに保ち冷静に状況分析しているとついに上条がキレた。

「テ―――――メェ何様だ!」

ついに上条が怒りにまかせて魔術師に向かって走り出す。

「ステイル=マグヌスと名乗りたい所だけど、ここはFortis931と言っておこうかな」

上条が走って向かってくると言うのにステイルと名乗った魔術師は余裕の表情を浮かべている。

「魔法名だよ、聞きなれないかな? 魔術師が魔法を使う時に名乗るためのもう一つの名のことなんだけれど、魔術師同士の間じゃこれは別に意味を持つんだよ。 これは、魔法名と言うよりむしろ―――」

上条がまた距離をまた2歩分の距離を詰める。

「―――殺し名、かな?」

呟く魔術師は、手に持っていた煙草を横合いへと投げ捨てる。

落ちていく煙草の火が軌跡を描く中で、

「炎よ―――」

魔術師がそう声に出した瞬間、軌跡が爆発的な速度で広がり一直線に炎の剣が生み出された。

そのあまりの熱量に上条の足が止まる。

近づくことはおろか、その場に留まっていることすらつらい。

両手で顔を守るように覆わなければ皮膚がやかれるような熱さ。

「―――巨人に苦痛の贈り物を」

顔をかばっている上条に向けて、笑いながら魔術師はその膨大な熱量を放出する灼熱の炎剣を振り上げ、横殴りにたたきつけた。

はずだった。

「ったく、索敵し終わってないっつうのに、早々に始めてんじゃねえよ」

突如上条の前に神無月がワームホールで割り込んで、魔術師の炎剣と神無月の重力剣が激突する。

横から撃ち込まれた炎剣に対し、神無月はブラックホールからなる重力剣を直角に交わるように縦に振ったのだ。

「なっ!?」

はじめて魔術師の顔に驚きが現れた。

だが直後、双方の思惑が大きく外れた。

魔術師ステイル=マグヌスにとっては突如出現した神無月がイレギュラー。

剣を止められるとも思っていなかった。

だが、割り込んできた神無月にとっては何がイレギュラーだったのか。

そう、炎剣と重力剣がぶつかった瞬間に『ガシャン』というガラスが圧力で押しつぶされたかのような音とともに両方の剣が砕け散ったのだ。

そう本来、どんなものでも吸い込めるはずのブラックホールがその炎を吸い込めなかった。

炎も気体がイオン化してプラズマ状態にあるものだから、もちろん重力の影響を受ける。

つまり、ブラックホールで吸い込めると思って剣をぶつけたのだが、神無月の予想に反して炎の剣を吸い込むことができなかった。

それどころか、神無月の重力剣が壊れた。

「・・・これが魔術ってわけか。 吸い込めないかもとは思ってたが、こっちの剣まで壊れるとはね。 まあ、炎の剣も壊れたし、イーブンってところか。 これで、こっちの剣だけけど壊れて炎の剣が壊れなかったらかなりピンチだったが、お互いの得物が壊れたのはこっちに有利かな? なにせ、こっちは二人だからな」

そう、神無月が魔術師に問いかけると、ステイル=マグヌスは一歩後ろに下がって距離をとりつつ、答える。

「そう思うかい? 僕の炎剣が相殺されるなんて考えたこともなかったけれど、僕の剣は――― 」

魔術師が再び手を横につきだすと炎剣が手のひらから湧きだすように現れる。

「―――何度でも作れる」

「だろうね。 だって、俺も作れるし」

そういうと、神無月の手にも巨大な重力剣が現れた。

通常サイズで4m近い長さの重力剣はこんな狭い廊下では使い勝手が悪い。

もちろん、神無月の剣には基本的に切れないものはない為、戦うだけなら問題はないのだが、ここは寮の7階の狭い廊下だ。

通常サイズの馬鹿でかい剣では、人の部屋の扉や廊下そのものを切断してしまう可能性が高い。

それでなくとも、上条が近くにいる。

右手以外であれば、上条だって切断してしまう可能性があるのだ。

そもそも、重力剣にしたって、これで魔術師を切り殺す気はない。

あくまで、相手の炎剣を抑えるためだけに使用している。

だから、神無月も剣を1m程度まで縮める。

魔術師も神無月も相手のことを警戒しているため数歩ずつ下がり間合いを取る。

そして、神無月は上条とともに後ろに下がりながら、振り向かずに小声で上条に問いかける。

「当麻、俺はあいつの剣を止める。 その隙に、殴り飛ばせそうか?」

「タイミングがあれば、いけるかもしれない。 だけど、この狭い通路じゃ、剣を打ち合って、壊しあっている、有真の横を通り抜けてアイツを殴るのは厳しいと思う」

「だよな、こっちが有利だなんて言ってはみたものの、なにか決定的なものがないと膠着状態(こうちゃくじょうたい)から進まないんだよな」

「なあ、有真。 俺の右手は魔術を壊せると思うか?」

「どうだろうな。 ・・・・・・いや、待てよ。 インデックスの服って魔術で作られているって言ってなかったか?」

「たしか、そんなことを言っていたような・・・そうか、俺は一度魔術をぶち抜いてる」

「まだ、ちゃんと打ち消せるかはわからないけど、いざとなったら当麻の右手も使ってもらう。 でも、まだ待ってくれ今はその時じゃない。 隠し玉は一つでも多い方がいいしな。 とりあえず、今は俺が行く。 当麻は魔術師の視線の死角になる俺の後ろにいてくれ、距離はあまり俺に近づきすぎない方がいい。うっかり攻撃に巻き込んじまうかもしれないから。 ただ、それだけでもアイツに当麻がいつ攻撃に出るかわからないっていうプレッシャーを与えられる。 でも、いけると思ったら攻撃してくれていいから。 フォローはこっちですぐにする」

「分かった」

小声での話し合いを終えると、神無月が魔術師と上条双方に向けて、

「じゃあ、いくぜ」

と声を上げる。

そういうが早いか、神無月は一度とった距離を一気に走り抜け、ステイル=マグヌスの剣をつぶしにかかる。

右手に作った重力剣が空気を切断しながら、魔術師の剣に上段から切りかかり、それに対応するように魔術師は下段から逆袈裟切りの要領で剣を振り上げる。

黒い軌跡と赤い軌跡がぶつかり合い、互いの剣が壊れる。

しかし、今回はそれだけでは終わらない。

ほぼノータイムで砕けた剣と同じ大きさの剣がたがいの手に現れ、ぶつかり合う。

『ガシャン』『ガシャン』とガラスの割れるような音が連続する。

学校の横一値列に並んでいるガラスを一枚一枚砕いて言ったらこんな音になるのではないかというほど連続する。

お互いに相手から目を離す余裕がない為、通路の鉄柵は炎剣の通過で真っ赤に加熱され融け出し、廊下の壁は重力剣の通過で切断跡が無数に入っている。

「いい加減、力尽きろよ! 炎剣だって、無限に出せるわけじゃないんだろっ!」

そういいながら、神無月は炎剣を壊すのではなく炎剣の通過経路の下をくぐりぬけるように避け、その直後切りかかる。

神無月の攻撃で、髪の毛の一部が切られぱらぱらと風に舞わせながら、魔術師は、

「君こそ、いい加減にあきらめろ! ここは君の寮、だろう! これ以上壊さないためにも、さっさとやめるべきだなっ!」

と大声で言いながら、神無月の避けられた剣を今度は逆方向に振りぬく。

「うるせえ、今まさに廊下を熔(と)かしている奴が、んなこと言ってんじゃねえ」

言い返す神無月は逆に向けて振りぬかれる剣に対して直角に交わるように剣をぶつけガードする。

そして、神無月の剣とステイル=マグヌスの剣がまた砕け散った。

そして、またすぐにお互いの剣が再生する。

既に、お互いに壊れた剣の本数が50本を超えている。

神無月もステイル=マグヌスもかなりきつくなっていた。

剣を作るのに力を使うのに、さらに打ち合っているため体力も使うのだ。

いくら振っている剣に重みがなくともつかれるものは疲れる。

肉体に直接的なダメージがなくても、人間は運動を無限に続けられるわけではない。

戦闘を続ける二人の体力もかなり限界に近い。

「俺のこと忘れてるわけじゃねえよな」

そう、神無月の後ろに立ち、常に魔術師の死角にいた上条が、神無月と魔術師の戦闘の隙間をついてついに攻撃に出る。

「行け―――っ! 当麻ぶん殴れっ!」

魔術師は神無月との戦闘に必死で完全に上条のことを考慮していなかった。

そんなところにいきなり現れる上条の不意打ちに、魔術師は一瞬大きな焦りを感じたが、自分の手に持つ炎剣の存在に気が付き内心で自分の安全を確信する。

自らの炎剣を相殺する神無月の重力剣と違い、上条は丸腰だったからだ。

「見縊(みくび)らないでもらいたいね、いくら体力が底を突きかかっているとはいえ、丸腰の人間が僕の剣を防げるはずがないだろう!」

そう言って、魔術師は上条に向かって炎剣を上段から真下に振り下ろす。

摂氏三〇〇〇度の炎の剣だ、普通の人間が耐えられる温度ではない。

普通の人間なら一瞬で焼けるか、融けるか、蒸発してしまう温度だ。

それが上条に向かって振り下ろされる。

しかし、上条はそれでも魔術師に突っ込んでいく。

そして、魔術師はあり得ないものを見る

黒髪のツンツンした少年の握りしめた右手があろうことか、三〇〇〇度の炎の剣を砕いたのだ。

そして、炎剣を砕いた拳は勢いを殺さず、魔術師の顔面に炸裂する。

魔術師は自分の縁剣が砕かれた驚きで避けることもなく上条の拳をもろに喰らう。

そして、狭い廊下を数m吹き飛ばされた。

殴った方の上条も呆然として呟いた。

「終わった? 終わったのか?」

「ああ、多分な。 ナイスパンチだったぜ、当麻。 まあ、本来なら健闘をたたえてやりたい気持ちは山々なんだが、インデックスの傷の応急処置が先だ。 いくら、傷口が床に接してないとはいえ、傷口をあんな風にさらしておくのはまずい。 手伝ってくれ」

「ああ、分かった」

そして、神無月と上条はインデックスの応急処置を行うために彼女に近づく。

そんな二人の後ろで残り火がまだ燃えていることにその時の二人は気が付いていなかった。

 

◆

 




にじファンで公開されていた小説はここまでですね。
ここからが新しく公開する話数になります。
一話一話が長いので、更新に時間がかかることだけはお許しください。

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