リヒテンラーデの孫   作:kuraisu

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絞刑吏の慟哭

 地球教とは、シリウス戦役後に群雄割拠の戦国乱世状態にあった地球の反戦運動の流れから発展・整理される形で、およそ六〇〇年前に偉大なる聖人にして開祖であるジャムシードが地球上から戦争という社会的病毒を永久に除去する為に、当時の地球各地の信仰を習合した上で編み出した宗教である。

 

 それから約二〇〇年後、卑しくも聖職者であるならば全人類にこの教えを広め、地球のみならず全人類社会的規模で恒久平和を実現するべく活動すべきであると主張するエルデナ派が地球教団の主導権を握って隠然と帝国へと勢力を拡大させていくようになり、帝国が同盟と接触するとその謀略の糸を同盟にも伸ばすようになっていった。

 

 人類恒久平和の為に日夜闘争している献身的な聖職者は、それゆえに専制主義者や民主主義者などといった異教徒に対する地球教徒の倫理的道徳的優位を確信しているし、最終的には紆余曲折あれども全人類は久遠の平和を選択するに違いないと考えている。人間が人間である限り、だれだって平穏だった昨日と同じ今日を、今日と同じ明日をと願うはずである以上、母なる地球に背を向けて愚劣な殺戮の歴史を重ねてきた異教徒どもの理屈に対し、母なる地球の上で奇跡を実現した聖ジャムシードの(すえ)たる自分達の平和主義的世界観の究極的優越を確信しているのだ。

 

 しかしながら、いかに理念的な絶対的優位を得ている明白なる事実があれども、それだけで上手くいくほど現実は単純ではないことも彼らは知悉している。この宇宙に散らばる全人類の大半が地球教徒だというならともかく、現時点では全人類社会という規模で見た場合、残念ながら悲しいまでの圧倒的少数派であるからだ。そして自分達の開祖が地上に奇跡を示す前の地球人達が、如何に貪欲で利己的であったかを歴史として知っており、異教徒たちはその頃の地球人と同じ野蛮さを持っていると認識していた。

 

 だから全人類がやがては自分達と同じ結論に達し、唯一の正しい教えに帰依することになると疑いもしないが、異教徒どもの邪悪なる野蛮性と無定見さはしばしば自分達の理性的計画を狂わせてくることを、地球教の四〇〇年に渡る活動の中で経験則として誰もが理解している。理解してはいるのだが、ここ数年はその強固な信念がともすればグラつきそうになるほどに逆風が吹きっぱなしであった。昨年に皇帝ラインハルト暗殺に失敗し、地球教の表立った活動拠点をほぼすべて破壊されたのは、その中でも最大の凶事であったことは言うまでもない。

 

 故に今回、黄昏の衝撃(アインシュラグ・デメルング)事件での暗躍の成功は、地球教にとっては久方ぶりの吉報であった。特に事件において地球教は徹頭徹尾貴族連合残党の陰に隠れ、貴族連合残党と過激な反貴族主義者達の野合による事件であると誤認させることに成功していることを踏まえれば、ヤン・ウェンリー暗殺以上の快挙であるともいえた。まだ経過を見守る必要があるとはいえ、帝国体制内に潜ませている信者たちからの報告によれば地球教にとり望ましい動きが起きている兆候も既にでている。それを思えば、ようやく事態が好転しだしたといえるわけで、枢機局が喜色を隠しきれていない労いのメッセージを現場に送ってくるのもわからないわけではない。

 

 だが、ラヴァル大主教は心から沸き起こる苛立ちに折り合いをつけるのに苦労していた。地球教の崇高なる目的の為に献身することを厭うなどありえないが、今回の成功をもって生意気な若造が教団内でのさらなる地位と権限の強化をはかることが容易に想像がつくので憂鬱になるのである。現地でルビンスキーやゲオルグやジーベックといった腹にどす黒いものを抱えている連中と折衝して場を整えたのは自分であるというのに。

 

 そんな蟠りを内心に抱えながらラヴァルは数名の部下と共にとある川沿いにある倉庫街へとやってきていた。この中の倉庫のひとつが、より正確にいえばその地下部分が、ルビンスキーが確保しているセーフハウスのひとつであり、現在は地球教に提供されて、ある目的のためにサダトたちが利用しているのであった。

 

 この倉庫は表向きにはとある豪商の主人の娘が所有していることになっている。彼女は自治領主時代のルビンスキーがダース単位で持っていた当時の情人(ミストレス)の一人で、その経歴ゆえに帝国軍のフェザーン進駐時に倉庫も調べられたのだが、軍当局は地上部分ばかり気にして地下の存在に気づかず、また所有主もルビンスキーが教えてないのでただの倉庫としか思っておらず、その親たる豪商の主人は時流を読んでフェザーンが占領される前からルビンスキーを見捨てて立派な親帝国派として活動し始めており、他ならぬ帝国が危険性なしと判断していることを掴んでいるので、この倉庫の地下は安全であった。

 

 秘密の入口から倉庫の地下に入ると番兵が即座にビーム・ライフルをつきつけてきたが、入ってきたのが自分達の上司である地球教大主教の一行とすると、慌てて拝跪して謝罪の言葉を述べだした。番兵として警戒を緩めずに反射で対応できたのは正しいとラヴァルは感じたので適当に宥め、問いを投げた。

 

「ラーセン保安少佐は?」

「保安少佐殿でしたら……」

 

 番兵が答えるより先に、通路の奥より足音が響いた。灰色に近い色彩の銀髪をたなびかせた冷たい瞳の男だった。よく見ると、頬に新鮮な赤い返り血がついていることに気づき、ラヴァルは内心の嫌悪感を抑えて微笑みかけた。

 

「任務ご苦労であった。仕事は順調かな?」

「ああ、()()は順調だ。あと半年ほど時間を貰えれば、何の心配もなく使えるようになるだろう」

「左様か。それを聞いて安心した。其方の功績はエルウィン・ヨーゼフ二世陛下に後ほどしっかりとお伝えしておこう」

「ありがとうございます」

 

 ラーセンは厳粛な面持ちで礼を述べたが、冷たい瞳に微かな感激の色が漂っているのをラヴァルは確認した。ルビンスキーとの伝手を介して地下でランズベルク伯やシューマッハ大佐と行動を共にしているエルウィン・ヨーゼフ二世と面通しさせると、ラーセンは皇帝への忠誠を誓約し、これまで行動を共にしていたジーベックらの貴族連合残党をあっさり見捨てたのである。

 

 第三七代皇帝の権威は、今もってラーセンの精神世界においては絶対的なものであり、地球教は窮地の皇帝陛下をお助けした忠良なる臣民集団組織と認識されているらしかった。いささか以上に業腹な認識ではあったが、共に行動をするには都合の良い認識であったし、個人的にはとうに滅びている王朝に服従し崇拝するラーセンが不気味であり、またそのように躾けられたことに若干の哀れみを覚えるラヴァルであった。

 

「それでサダト准尉はどこかね?」

 

 話題を転じる必要性を感じての特に意図のない問いかけであったが、不気味な沈黙が流れた。やがておそるおそる番兵が口を開いた。

 

「……猊下、われわれは止めたのです。保安少佐だって止めました。ですが、その、異様な殺意を撒き散らすので引き止めきれず、准尉がまたいつもの……」

「また帝国軍人狩りをしたというのか!!?」

 

 大主教の怒声に番兵は体を縮こまらせながらも震えて肯首した。フェザーンに来てからというもの、サダトは訓練と称して末端の帝国軍兵士を暗殺して楽しんでいるのは前からだが、黄昏の衝撃事件直後で帝国軍の神経が過敏になってる時にやらかしたというのは、危機感の欠如も甚だしい。

 

「所詮は野蛮な成り上がり者です。本能で血を好むのでしょうが……」

「わかっておるわ!」

 

 ラヴァルはラーセンの言葉を遮った。ここで大きくサダトに釘を刺さねばならんと決心した。もし奴が起こす余計な騒ぎのせいで今回の成果が水泡に帰そうものならたまったものではない。

 

 それは恒久平和実現の日が遠のくこともさることながら、現在地球教団内でフェザーン管区責任者の地位にあるのだ。そんなことになれば、あのド・ヴィリエめとそれにへつらう連中が何を言うてくるかしれたものではないだけに、ラヴァルの怒りは強かった。

 

 しかしながら、サダトがいる部屋の中の光景を確認してラヴァルはあっけにとられた。ラヴァルにとって、サダトに対する認識といえば、サディスティックで不快な快楽殺人趣味者であり、叱責しても不適でふてぶてしい態度でもっともらしいことを宣い、今回もうやむやにしようとしてくるだろうと思っていた。

 

 だが、その快楽殺人趣味者の様子がいつもと違った。彼は床に座り込んで一升瓶をその腕に抱え込んで体を丸めていた。既に酒精で酔っているらしく、胡乱気な視線を扉を開けてその場で固まっている地球教大主教へと向けた。

 

「おお、大主教猊下じゃねぇか」

 

 あんたも少し飲むかと一升瓶を持ち上げるサダトの声はかすれていた。この時初めてラヴァルは気づいたのだが、彼の瞳は潤んでおり、頬には水滴が流れた跡を確認することができた。信じがたいことであるが、どうやら泣いていたようだ。

 

 普段とあまりにも違うサダトの様子にラヴァルは戸惑いながらも、声をかけた。

 

「其方、いったいどうしたというのだ」

「どうしたもこうしたも……あんたも聞いただろう? 皇帝(カイザー)ラインハルトは今もピンピンしてるっていうじゃねぇか……」

 

 そう言ってサダトは怒りを込めて鼻を鳴らすと、古代日本語で“雄叫”と大きく印字されているラベルが張られている一升瓶をラッパ飲みし、空っぽになると一升瓶を勢いよく床に叩きつけた。瓶は割れはしなかったが、そのままの勢いで床を転がっていった。よく見れば他にも何本か空の酒瓶が転がっていた。

 

 既に酒であれている喉が更に焼けるような感覚を味わいながら、短いながらも同僚だった男の姿を脳裏に思い浮かべ、アルコール臭の強い毒息を肺から深く吐き出して、悲嘆を堪えかねるように呟いた。

 

「憎々しげに言ってたじゃねぇか……我が身を引き換えにしてでもあの金髪の孺子に目に物を見せてやるって……なのに、そいつは傷ひとつ負わずにピンピンしてるっていうじゃねぇか……」

 

 呟いている内に、サダトの胸の内でふつふつと溶岩のような粘着質で激しい世の中への怒りが湧き溜まり、決壊して噴火するように叫んだ。

 

「ああ、哀れなオットー! あいつの人生の価値はその程度ってわけか!? ふざけんなクソがッ!!」

 

 怒りのままに見境なく世を呪う脈略がない罵詈雑言を咆哮し続けてていたサダトだったが、それがおさまるとその場にうずくまり、体を震わせて、大声で泣き始めた。

 

 それは異様としか言えない光景であった。この悪意に満ちた不敵な男がまわりをはばからずに泣き崩れているのは、黄昏の衝撃事件でクリス・オットー少佐が皇帝ラインハルトに一矢報いることすら叶わずにその生命を散らしたことを嘆いていることは察せられた。

 

 それだけに周囲には理解に苦しむ光景であった。だれから見ても生前のオットーに対してサダトがそれほどの思い入れを持っているとは認識していなかったのだ。だいたい生前の二人の関係は、良く言っても“武装中立”という表現が妥当なほど良好ならざるものであったはずだ。

 

 しかしながら、まるで無二の親友を失ったかの如くにサダトは嘆き悲しみ、酒に溺れているのである。あまりにも理解不能なことであるように地球教徒たちには思えた。普段のサダトの悪辣なる態度との落差もあって、次の瞬間になにか突拍子もない行動をするのではないかという得体の知れなさを感じていたのである。

 

 だが、ラヴァルは違った。様子のおかしいサダトに得体の知れない恐怖を感じないわけではなかったが、それ以上に彼の嘆きが本心からきているものであることを、聖職者としての経験から自然と悟ることができたのである。そのような存在に寄り添い、正しき道理によって導かんとするは聖職者の使命である。

 

 他の教徒たちが引き止めたが、初老の聖職者は気にもせずに蹲り嘆くサダトに近づき、片膝をついて目線をあわせ、彼の肩にその手をおいた。

 

「繰り返し問うが、いったいどうしたというのだ。其方、なぜそれほどまでにオットーの死を嘆く? 思うところ述べてみよ。さすれば少しは整理がつこう」

 

 アルコール臭のする息を大きく吐き出しながら頭をあげて、焼けた肌の男は常になく茫然とした様子で今現在における自分の形式上の上司の姿を眺めていたが、やがて意図せず口からこぼしたように小さな声で一言述べた。

 

「お前は幸せなやつだな」

「なぬ?」

 

 まるで心当たりのなかったのでラヴァルは首を傾げた。

 

「だってそうだろうが。自分の信じている価値観の否定された経験がないことほど、幸運で幸福なことはねぇ。世界すべてが砕け壊れていく感覚を、足下が崩れ落ちてどうにもならねぇ無力さを味わったことがねぇってことだからな」

「……それは信心を持たぬ故の苦悩というものだ。母なる星の教えを信仰するどころか、ろくに知りすらせぬ者は、それ故に戸惑い、道に迷って苦しむのだ」

 

 地球教の聖職者からすると、それはあまりにも自明な事であった。安易に壊されるような世界観の住民であるが故の弊害なのであり、そうした憐れむべき罪深き者どもはこれまでも多く見てきたのだ。

 

 いや、そもそもとして地球教とて最初からあったわけではなく、これまで人類が信仰してきた数多の宗教系譜の最終形態として成立しているのだ。いわば数千年に及ぶ人類の宗教史を締めくくる最後のページにあるのが地球教なのである。少なくとも地球教団の記録上ではそうであり、宗教は人類が平和裏に暮らしていく上で欠かせぬものであるとされている。

 

 しかし多くの人類は、一三日戦争で宗教という観念を半ば捨て、宇宙に飛び出した後に起こったシリウス戦役後は完全に忘れてしまったのだ。一応、帝国の大神オーディン崇拝に代表されるような宗教らしきものは残っているには残っているが、地球教どころか古代のキリスト教の足元にも及ばないほど宗教としての内実、真理が一片たりとも存在しておらず、それ以外の“自称宗教”も大同小異である。民衆を惑わす小道具、姑息な詐欺の手段でしかなくなってるのだ。

 

 宇宙暦だ帝国暦だと嘯いた連中の歴史書のどのページをめくってみても流血惨事の記録だらけなのは、大衆に超越的意思への畏怖はなく、為政者にも畏敬がない。だからこそかくも殺戮を躊躇わず、罪の意識に苛まれて道に迷うのではないか。

 

 そんなふうに語るラヴァルに、サダトは嘲るように哄笑して毒々しい気炎をあげた。

 

「ハハッ! まるで昔の誰かを見るような愚かさで滑稽だ。お前のように自分達は正しいという確信を込めて高尚なことをのたまう輩は星の数ほどいるぞ。同盟にも帝国にも、ついでにこのフェザーンでも数えきれんほどにな! 結局、傍から見りゃあ、お前らの宗教理念への信仰とやらも、皇帝(カイザー)ラインハルトに忠節を尽くす新帝国の連中とさして変わらんというわけだ!!」

 

 自分達の信仰を皇帝への忠節に(なぞら)えて語られて周囲の地球教徒は殺気だったが、ラヴァルが彼らを視線で制してそれをおしとどめた。何故かはわからないが、このように感情的になってる人間というのはやくたいもないことを言いだすものだし、ましてやサダトのことではないか。今更である。

 

「なるほど。此方では其方が苦悩を打ち明ける相手としては不足ということかの」

「ハッ。そもそも俺のことをどれほど知っているというんだ? 何も知らない生草坊主風情が」

 

 ラヴァルを眉を顰めた。サルバドール・サダト元帝国軍准尉について知ってること。かつてゲルトルート・フォン・レーデル少佐に見出されてラナビア矯正区警備部隊の下士官に抜擢され、同矯正区に収容されていた思想犯たちに対する監視役兼処刑人として暴虐を極め、“ラナビアの絞刑吏”という綽名を持つ男であることだ。

 

 ラナビア矯正区は、上官のレーデルが過剰な出世欲を満たすために当時の帝国の法を逸脱した形で運営されており、また旧体制下においてラナビア矯正区が放置されていたのも司令官がリッテンハイム侯爵閥との友誼で強引に隠蔽していたものであったため、酌量の余地なしとしてローエングラム体制下では純然たる犯罪者として扱われ、官憲から追われる身の逃亡者に落ちぶれた。

 

 上官のレーデルと一緒に地下に潜ってジーベックの貴族連合残党組織に合流したものの、あまり先の無い組織であると考え、どのような伝手でかは知らないが地球教書記局に自身を売り込み、ヴァルプルギス事件によって貴族連合残党が大打撃を受けると平然と見捨て、新たな隠れ蓑として自分達と合流した。恥知らずだが計算高くて能力はある危険な男である。

 

 そういえば、ヴァルプルギス事件でオットーが死にかけていたのを、サダトは無理をして拾って逃げてきたのであったと報告も見た覚えがある。あるいはそれが故に、サダトはオットーに対して態度には出さねども、なんらかの強い思い入れを抱いていたのかもしれぬ。そう思いながらラヴァルは口を開いた。

 

「そうさな。其方の経歴ならそれなりに知っておる。だが、内面となると話は別ではないか。なにせ其方はそういうことを他人に語らぬ。自らの殻に閉じこもっている者を理解できる者などおらぬ。至極当然のことではないか」

「は。どの口でそれを言うんだ爺」

 

 そう言って、泥酔状態の男はふらつく足取りで立ち上がり、部屋の隅に並べてある未開封の酒瓶のひとつを手に取り、栓を強引に抜いて、勢いよく中の酒を喉に流し込んだ。

 

「俺に言わせりゃ、テメェらの方こそ、わけわかんねぇ宗教を理由に内面をひた隠しにするたわけどもだ。少しは俺や死んじまったオットー少佐みてぇに自分の感情に素直になってみたらどうだってんだ?」

「いたずらに無辜を殺生することを指して素直さと言うであれば、此方としてはそのような素直さ、見習いたくもない」

「……本気でそう思ってんなら、やはり言ったところで無駄だな」

 

 口角を釣り上げて皮肉気に笑った。こういったおかたい連中の信念を木端微塵に粉砕してやることができれば、さぞ胸がすく光景だろう。だが、残念ながら現状地球教以外の仮宿がない以上、辛抱しなくてはならない。

 

 だが、大した問題ではなかった。この地球教とかいう不愉快な宗教団体についていれば、尽きないどす黒い欲求を一時的に満足させる機会に事欠かない。この世の全て、なにもかもが憎たらしいのだから当然だ。

 

 そこまで思考が進んで、サダトはどうして自分がオットーの死にこれほどショックを受けているのかを悟った。羨ましかったのだ。強烈な憎悪の矛先が明瞭であることが。だから、内心で応援してたのだ。なのに、何も成し遂げれずに死んでしまったのだ。あいつは。

 

「今の俺は機嫌が悪い。酒瓶で頭叩き割られたくなければ失せろ」

「……そうか」

 

 ラヴァルは大人しく去った。今軍人狩りをやめろと話してもサダトに通じるとは思えなかった。さしあたり部下達にサダトが酔いから覚めるまで部屋から出さぬように命じておけば、それですむと判断したのである。

 

 退室後、ラヴァルは先ほどまで自分がいた部屋から、獣が泣き叫んでいるが如き慟哭が響くのを耳にした。




次話で久しぶりに主人公出せるかなぁ……
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