モモンガさんと異形の母   作:belgdol

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蒼の薔薇と

「ねぇ、イビルアイ。貴女が言うから受けるけどこの依頼怪しすぎない?」

「だなぁ。屋敷に来るだけで金貨十枚ってのはいかにも怪しいぜ」

 

 金髪の美女と野獣が異口同音に今回受けた依頼への不信を見せる。

 それに追従して双子の露出過多な忍者の姉妹も口を出す。

 

「もしかして快楽調教されたとか」

「信じて送り出したイビルアイがアヘ顔PTメンバーを道連れ快楽堕ちするなんて」

 

 謂れのない酷い言い草に仮面の少女が反論する。

 

「ティア!ティナ!ふざけすぎだ!私にそういった行為は意味がないのを解っているだろう!」

「それもそう」

「でもそういう心配が出るくらいに今回の依頼は不審」

「なぁちびっ子。そろそろこの依頼が白だっていう根拠を教えてくれねえか?」

「そうね……イビルアイを信頼しているから何も言わなかったけど、目的地を目前にしたらもう秘密主義も必要ないと思うんだけど」

「……はぁ。では予習と行こうか。お前たちは神人と呼ばれる人類を知っているか?」

「あんまり俺達に縁起のいい言葉とはいえねえなぁ」

「確かスレイン法国の言葉よね」

「超人」

「法国曰く無敵の超神兵」

「その神人のルーツと思われる存在がいる」

「え!?」

 

 金髪の美女、リーダーラキュースが驚きの声を上げる。

 野獣の方、ガガーランは面白げに眉を上げるのみだ。

 

「やばい匂いがしてきた」

「リーダー、引き返そう」

「やばくはないから落ち着け変態双子。実際私に接触してきたNPCは人格者だった。あのような存在を生み出せる者ならそう酷い人格はしていないだろう」

「接触って……八本指の擬態という可能性はないの?」

「無い。たとえ八本指だろうと作ることはかなわないだろう芸術性を持った未知の貨幣を所持して、それをユグドラシル金貨と呼んでいた。これは接触してきたNPCの背後にぷれいやーが存在することを示す」

「さっきからえぬぴーしーだのぷれいやーだの。それが神人の源流だってのか?」

「そうだ。神人とスレイン法国が呼ぶのはプレイヤーやNPCが普通の人間と血を交わらせた結果、その血筋に生まれる異能の存在だ。タレントとは別の意味で貴重な存在だな」

「んでー、その、えぬぴーしーと会うのが今回の依頼か?」

「いいや、その背後にいる真の強者。プレイヤーと会うのが今回の依頼の本当の趣旨だ。単独行動を許してもらえんかったからお前らも巻き込んだが、まぁお前らはおまけだ。基本的な話は私がすることになる」

「そう……ならいいのだけれど」

 

 ラキュースが気品に溢れる整った眉をわずかにしかめて吐息をつく。

 そこにイビルアイが一言入れる。

 

「ああ、ひとつ言っておく。私に接触してきたNPCの話では今回招待されたプレイヤーの拠点、ナザリック地下大墳墓は異形種の巣窟らしいぞ。下手なことはしてくれるなよ」

「やっぱりヤバイ話じゃないか!」

「私は遠慮しておく」

「はっ、おまけで異形種の群れに突っ込まされるのかよ。毎度タフな仕事を持ってきてくれるぜ」

「まあまあ、三人とも行った先で戦闘になるわけじゃないんだから……。ならないわよね?イビルアイ」

「それは私たちの態度次第だろう。悔しいがぷれいやーとなると完全に強さが未知の領域だ。逃げ出すのも最善とは言えん。だからこういう形になった……すまんな」

「はあ。貴女がそういうんならそれが正解なんでしょう。付き合うわよ。地獄への道筋かもしれなくても……ラナーには悪いけど、ね」

「すまん」

「へ、いざとなったら暴れる……わけにもいかねえよなあ。こんな成りじゃ」

 

 その言葉通り、今の蒼の薔薇の面々はそれぞれ着飾ることを優先した格好をしていてとても戦いに行く、という装備ではない。

 最低限の自衛程度はできる装備はしているがそれは暗器のようなもので、最大の戦力が魔法詠唱者であるイビルアイと暗器に長けるティアとティナ、という状況だ。

 あれは胸じゃなくて胸板と呼ばれるガガーランですら盛装しているのだから、今回の依頼に不安を感じるのも無理からぬことだったのだ。

 

「まぁ、なにはともあれ行ってみて……だ。強大な力を持つというぷれいやーがどんな歓待をしてくれるか、楽しもうじゃないか」

 

 イビルアイは不敵に言い切り屋敷の敷地内に足を踏み入れる。

 あるいはその不敵さこそ不安の裏返しだったのかもしれないが。

 屋敷の敷地内に入り、屋敷の中に踏み入れるとセバスとシャルティアが彼女たちを待っていた。

 

「いらっしゃいませ皆様方。こちらシャルティア・ブラッドフォールン様。皆様をプレイヤーであるモモンガ様とアヴェ様の元へと送り届ける役目を担って頂く方です」

「そちらの方々がモモンガ様とアヴェ様がお誘いなんした方々でありんすか。では早速ゲートを開かせていただきんす」

「イビルアイと蒼の薔薇だ。よろしく頼む……おい、お前ら」

「なんだ?ちびっ子」

「この女、この成りで私以上の吸血鬼だ……同じ種族として本能で感じる。絶対に逆らうな」

「な!?」

「本当……なのね」

「マジか」

「洒落になってない」

「なんなんでありんすか。至高の御方々が特別にナザリックの階層間の転移を解放してくだすっていんすから早うしなんし」

 

 シャルティアが蒼の薔薇の面々を急かすが、その瞳の中には若干のいらだちが見える。

 彼女にとっては目の前の面々は不敬にも至高の御方々を待たせている「たかが」人間なのだからそれも当然だろう。

 

「すまない。限定的に転移を制限しているのを解除しているというのは結構なリスクだろうな。皆、行くぞ」

「……おう。行くぜリーダー」

「覚悟決めた」

「行こう、鬼リーダー」

「……ふふ、そうね。行きましょうか」

「ではご案内します。皆様なにやら不安を感じておられるようですが、モモンガ様とアヴェ様はその御名に誓って今回の会談では皆様を決して傷つけないと仰っています。それはナザリックの者にとっては絶対の誓言。違えることはないとお約束します」

「ふ、心強い誓いだな」

「それだけの忠誠心を捧げられている御方々、という事ですね」

「その通りでございます」

「やべえな」

「やばい」

「絶対怒らせない、約束」

「そんなに硬くなられずとも。モモンガ様もアヴェ様もお優しい御方々ですよ。さぁ、これがナザリック地下大墳墓でございます」

 

 セバスに誘われてゲートを超えた先で蒼の薔薇の面々を待っていたのは、白亜の大宮殿だった。

 まるでこの世の場所とは思えぬ美しさ、威厳そしてそこに待っていたのは。

 漆黒のローブに身を包んだエルダーリッチ?と種族不明の女型モンスターだった。

 思わず怯む蒼の薔薇の面々に、なるべく明るい調子でモモンガが声をかける。

 

「ようこそ蒼の薔薇の皆さん。ここがナザリック大墳墓。私とアヴェさんというプレイヤーの本拠地です」

 

 モモンガの声は明るいがその顔は骨の無表情。

 特に神官戦士系の職業を取っているラキュースの顔色が悪くなる。

 

「ようこそいらっしゃいました。皆さん、今日は有意義なお話ができればと思います。そうそう、この人……モモンガさんや私達ナザリックのアンデッドに死の螺旋は関係ありませんよ。そうでなければ強大なアンデッドが自動沸きしない理由が見つからないほどの不死者がこの墳墓内に存在しますので」

 

 蒼の薔薇の面々がそれのどこに安心しろというんだ!と心中でつっこんだのに気づきもせず、モモンガとアヴェは先導して客室に向かって歩き出す。

 彼女たちはしばらくその後を追えなかったという……。


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