そういったものが苦手な方はスルー推奨です。
ある日、パンドラズ・アクターの細かすぎて伝わらない物まねシリーズを見るために円形劇場に来ていたモモンガとアヴェ。
そこへご機嫌伺にやってきたアウラとマーレが見たものは、懐かしきピンクの肉棒。
正確に言えばぶくぶく茶釜に化けて黙れ弟のツッコミを入れる真似をしているパンドラズ・アクターだった。
「ぶくぶく茶釜様!?」
「……違うよお姉ちゃん。あれはぶくぶく茶釜様じゃない」
「え、えぇ?……ホントだ」
「なんだろうね、アレ」
喜びに一瞬顔を輝かせたアウラを能面の様な無表情に瞳の輝きを消したマーレが引き留める。
そして引き留められれば即座に違和感を感じてアウラも表情を消す。
「……攻撃していいのかな?」
「でもお姉ちゃん。モモンガ様とアヴェ様は笑ってみてるよ」
「そうだね。じゃあ縊り殺すのはちょっと待ってあげようか」
「う、うん。それよりモモンガ様とアヴェ様にご挨拶しようよお姉ちゃん」
「あー、それもそっかー。じゃあさっさと行くよ、マーレ」
「ひゃ、ひゃわ!そんなに引っ張らないでぇお姉ちゃん!」
非常に不快だが至高なる創造主に擬態した何者かを観て至高の御方々が楽しんでいる。
その事実が殺意に歯止めを掛け、いつもの調子を取り戻す二人。
そのままマーレがアウラに引きずられるように二人はモモンガとアヴェの前に辿り着いた。
「こんにちはモモンガ様!アヴェ様!第六階層にようこそ!」
「こ、こんにちは。お二人ともご機嫌いかがですか?」
普段と違いアウラに小走りに引っ張られていたにも関わらずマーレは大地に足が接着しているかのようなしっかりとした急停止を見せた。
「ああ、アウラ、マーレ。そういえば全階層守護者との顔合わせはまだしていなかったね。今ぶくぶく茶釜さんの姿を取っているのは私の創造したした下僕、第十階層の領域守護者であるパンドラズ・アクターだよ」
「第十階層になんて領域守護者なんて居たんですか!?」
「あら……ああ、そういえばアルベドも「職務上の都合で知ってはいたけれど顔は見たことがない」と言っていたわね。普通の守護者はパンドラズ・アクターの事はしらないのかしら」
「も、申し訳ありませんアヴェ様。そのパンドラズ・アクターさんですか?その人の事は知りません」
「そうだったかー、これは失敗だな。これは後でちゃんと顔合わせの場を設けないと」
呑気なモモンガの言葉に一応は納得した物の、アウラは本来の怒りを思い出すと聞かずには居られなかったのか、不敬と感じながらも問いを発する。
「あの、これは不敬になるのかもしれませんけどパンドラズ・アクターは何をしていたんですかモモンガ様。事と次第によっては実力でパンドラズ・アクターとお話したいなって」
活発なアウラが普段見せない無邪気な残酷さとは違うドスの効いた顔を見せることでモモンガは慌てる。
当然だ、なんだか解らないがこんなところで階層守護者同士の関係に罅をいれるわけにはいかない。
よく見ればマーレもぐっとシャドウ・オブ・ユグドラシルを握る手に力を入れている。
ここは失敗するわけにはいかない、と汗などでないはずの背骨を汗が伝うのを感じる。
「うん。実はパンドラズ・アクターは今は居ない三十九人の外装を使って完璧な物まねをできるんだ。アヴェさんと俺はそんなパンドラにギルドメンバーの皆の真似をしてもらって昔を偲んでいた、というわけなんだ」
「そうです。特にぶくぶく茶釜さんのアバターには茶釜さんがわざわざ残してくれた音声データのお陰で声まで真似できる……いいえ、それは正確ではないわね。ぶくぶく茶釜さんの声を限定的に発することができるのよ」
「え、えええ!本当ですかモモンガ様!アヴェ様!ぶくぶく茶釜様のお声が、聴けるんでずが……!?」
「う、ふわあああ……ぶくぶく茶釜様ぁ……」
ここに至ってなぜアウラ達が怒っていたかモモンガとアヴェは理解した。
何者かも解らない存在が自らの親(創造主)の姿を真似ていたら、それは怒りもするだろう、と。
そこでぶくぶく茶釜の声を聞きたがっている二人の為にパンドラズ・アクターに命じる。
「パンドラズ・アクター、何か適当にぶくぶく茶釜さんの声を再生できる物まねをせよ」
ピンクの肉棒が頷くように頭頂部(?)を下げると、見事な伸縮運動で中に舞い、思い切り触腕の一部を横に突き出す。
『黙れ愚弟!やっぱり可愛くない弟よりアウラとマーレがナンバーワン!』
「ぶくぶく茶釜様の御声だぁ!」
「凄い!すごーい!」
さらにパンドラズ・アクターはうにょうにょと悶えるような様相を呈しながら触腕をこすり合わせる。
『ももんがお兄ちゃん、愚弟のちょうきょ……教育をお願いしても、いいかな?』
このネタには若干モモンガが内心でなんでそれを選んだ!?と後悔の色を滲ませたが、アウラとマーレは大喜びだ。
「ぶくぶく茶釜様の声!」
「わぁ……やっぱりぶくぶく茶釜様の声は天上の調べのようです……」
「そっかぁ、ぶくぶく茶釜様がペロロンチーノ様にお仕置きをする時はこんな動きをしてたんだぁ」
「そ、そうだねお姉ちゃん。僕達の所にいらっしゃるときは大抵やまいこ様と餡ころもっちもっち様と一緒でこんな激しい動きは……僕らの着替えの時以外はしてなかったよね」
「そうだねぇ……あ、あれおかしいな……懐かしいぶくぶく茶釜様の御姿をみているはずなのに……」
「うん。御姿と声が同じでもやっぱり別の人っていう感じがして……寂しいね」
「ふむ。俺とアヴェさんは似姿だけでも満足できるけど、二人には違和感があるか?」
「あ、その、えっと、はい……やっぱり、似てるけどぶくぶく茶釜様では、ないです……」
「そうかぁ……アヴェさん」
「はい」
「アレ、あげましょうよ」
「ああ、アレですね」
モモンガの言葉とインベントリを探るのに従ってアヴェもインベントリを探る。
そうこうしているうちにパンドラズ・アクターが擬態を解いてアウラとマーレに話しかける。
「ふんむ!さすがに至高の御方に直接創造なされたお二人には私の三文芝居はお気に召さなかったようですな!」
「あ、それがパンドラズ・アクターの本当の姿なの?卵みたいだね」
「お、お姉ちゃん失礼だよ……」
「はっはっは、この卵の様な顔はモモンガ様自ら格好いいと思って創造してくださった顔なのですよ!」
「えええ、そうなんだ!凄いね!」
「モモンガ様はそういうお顔が格好いいとお思いなんだ……僕の顔ももっと丸かったらかっこよかったのかな?」
ここでインベントリから目的の物を探し出したモモンガとアヴェが会話に加わる。
「楽しそうに話している所に悪いが、俺からマーレにこれを送ろう」
「私からはこれをアウラに……とはいっても、これは同じものなんですけれどね」
「え!?そ、そんな悪いですよ!」
「そ、そうですよモモンガ様!僕達至高の御方々に何も貢献してないのに……」
「いや、これはぶくぶく茶釜さんの姿と声で子供に寂しい想いをさせた詫びの様なものだ。受け取ってくれ」
「ほら、遠慮は無用よ二人とも。この時計はぶくぶく茶釜さんが声を吹き込んだタイマー付きでね、時報代わりにぶくぶく茶釜さんの声が聞けるの」
「ええええ!?そ、そんな貴重な品を戴いてもよろしいんですか!?」
「ほ、欲しいけど……欲しいけど……欲しいって言ったらわがままな気がします……」
「ははは、いいんだよ。これなら違和感なく茶釜さんの声を聞けるだろう?詫びだと言っているだから子供らしく遠慮なく受け取るんだ」
「は、はい!えへへ……ぶくぶく茶釜様の御声を聞ける時計……」
「た、大切にします!命よりも!」
「さすがに命と比べたら命の方を大事にしてほしいわね」
「そうですねアヴェさん。この世界での死者蘇生実験はまだしてませんから。皆には命を大事にして欲しいな」
和やかに言葉を交わすモモンガとアヴェに、アウラとマーレが跪くとその言葉を受け入れる。
「解りました!時計も、命も必ず守ります!」
「お、お姉ちゃんと同じく守ります!」
「良かったですねお二人とも。モモンガ様とアヴェ様のご慈悲に感謝なさいませ」
「あ、パンドラズ・アクター!ありがとうね!君のお陰で大事な宝物を戴けたよ!」
「あ、ありがとうございましたパンドラズ・アクターさん。実は最初ぶくぶく茶釜様の真似をしてるのを見た時は殺した方が良いか迷ったんですけど、こんな結果になるなんて。ありがとうございました」
「ふぅーははは!マーレ殿は怖いですな!如何ですモモンガ様、アヴェ様。他の御方々の姿を偲ぶのは自室にお招きいただいた時だけにするというのは」
「う、うん、そうだね。俺達は気軽に物まね大会を観覧する気持ちでパンドラズ・アクターにお願いしちゃったけど。他の皆にとっては自分の創造者を真似られるのは不快みたいだから」
「そうですね。私達の配慮が足りませんでした。ごめんなさいね、アウラ、マーレ」
「そんな!アヴェ様が頭をおさげになる事なんてありませんよ!結果的には私達、こんな幸運いいのかな、っていう逸品を戴いてしまったわけですし」
「そ、そうです。本当なら不敬として怒られるのは僕達の方です」
「いや、アヴェさんの言う通りだよ。どんなに偉くても無暗に、理由なく他人に嫌な思いをさせるのは避けるべきだからね」
モモンガの言葉に、アウラとマーレは感動した様子だ。
両者の顔はこれでもかといわんばかりに輝いている。
そこでモモンガははっとして急いで付け加える。
「そ、そうだマーレ!タイマーの七時二十一分と十九時十九分は絶対にセットしたらダメだよ?約束だ」
「ふえ?モ、モモンガ様がそう仰るならお言いつけの通りに致します」
それを見てアヴェは苦笑いしている。
アウラも不思議そうな顔をしているが、その理由はモモンガとアヴェの永遠の秘密となる。
そして、モモンガとアヴェは自室に戻って、パンドラズ・アクターは宝物殿に籠ってから。
「いやー、予想外だった」
「そうですね、真似事は許せない……それだけNPCの皆には創造主であるギルドメンバーの皆さんの姿は神聖なものなんでしょうね」
「ですね。じゃあこれ以降パンドラズ・アクターの物まね大会で昔を思い出すのは」
「私達だけの秘密、ですね」
「ですね」
という事になるのだった。