モモンガさんと異形の母   作:belgdol

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ありんすちゃんとの出会い

 精神は落ち着きを取り戻すものの、気がつけば玉座の間で並んで座るより近くに寄り添い。

 柔らかな腕をそれとなく前腕(骨だが)に添えてくるアヴェの手の柔らかさに、ついつい甘やかな気分になってぽえ、っとしているモモンガだが。

 そんな雰囲気を崩すものが霊廟の中から現れた。

 

「失礼いたしんす。モモンガ様、アヴェ様。転移の反応をかんじんしたので第一階層が守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。拝謁の誉れを頂きとうございます」

「……!シャルティアか」

 

 一瞬、流暢に話し、動いている、本来そのような存在ではないNPCであるはずのシャルティアをモモンガは強く動揺する。

 しかし彼のPK及びPKKの経験として動揺は敵の利になるだけだという経験が冷静さを取り戻させる。

 まだNPCが現れたが、彼らが動き出すなどというのは想定外で、敵なのか味方なのかの判断を要する、と思考する。

 もしシャルティアが敵対行動を取るようならば、かなり不味い。

 モモンガとシャルティアのキャラ構成は完全にシャルティア側がモモンガのメタであり、まともにやり合えばその勝率は二割行くかどうか。

 アヴェの特殊技能はそれを僅かに上げてくれるかもしれないが、それも技能が働いていればの話だ。

 シャルティアの能力がゲーム時代のままならば、アヴェの能力もゲーム時代のままだと思うが。

 あちらにはあってこちらにはない可能性だってある事をモモンガは充分に解っている。

 それはアヴェも同じなのか、彼女はモモンガの腕に縋りつくようにさらに身を寄せている。

 

(あ、柔らかい……)

 

 そして腕に触れるアヴェの胸がこんな状況だというのにモモンガに女体の柔らかさを伝える。

 彼がそんな事を考えているとはつゆ知らず、シャルティアは恭しくモモンガとアヴェに淑女らしい礼を取る。

 

「至高の御方、ナザリックの支配者たるモモンガ様とアヴェ様が供も連れずに出歩くのは、僭越ながら危険かと思いんす。よろしければわたしと部下を供回りにつかってくだしゃんせ」

「うーん、その、なんだ」

「どういたしんしたモモンガ様」

 

 お前は敵か?と聞いて素直に答える敵などいないだろう。

 どうやってシャルティアにこちらへの害意がないか試すかモモンガが考えあぐねていた所で、アヴェが動いた。

 

「ねえシャルティア」

「はい、なんでありんしょうか、アヴェ様」

「ペロロンチーノさんの設定とは言え少し盛りすぎじゃないかしら?」

 

 空白が訪れる。

 男のモモンガには一瞬本気で「は?」というリアクションしか取れなかったが。

 シャルティアは違った。

 月光の下で輝く銀髪と白皙の美貌を朱に染めながらゴスロリ服のフリルを弄り回しながらアヴェに哀しげな顔を向ける。

 

「し、しかし私は創造主たるペロロンチーノ様にそうあれと作られんしたから、盛る以外の選択肢は無いんでありんすの」

「そう、大変ね……たとえそれを指摘されてもそうあれといわれた姿を保つのは辛くないかしら」

「そんなことありんせん!たとえアウラのチビスケに偽乳といわれようが、あると思ったらナインペタンというギャップをペロロンチーノ様が好まれるなら私は望んで無乳地獄に堕ちるでありんす!」

「そ、そう。ごめんなさいね。余計に傷つけてしまったみたいで」

「いえ、モモンガ様と共に最期にナザリックに残ってくださったアヴェ様の気遣いでありんすから、ちょっと、ちょっと痛いくらい逆に嬉しいでありんすよ……」

 

 顔を真っ赤に染めてプルプル震えるシャルティアだが、かなり失礼な事を言ったのに攻撃に移るなどの敵対行動を取る様子は見受けられない。

 そこでモモンガはこそっとアヴェの耳元に顔を寄せて小声で話し始めた。

 

「あー……アヴェさん試しました?」

「はい、シャルティア相手に危険かと思いましたが……逆に言えば彼女が敵対しないなら大きな安心を得られますので」

「階層守護者最強、ですからね……領域守護者のルベドは除くとしても」

「ごめんなさい。ぶっつけ本番で危険な事をしてしまって」

「いえ、いいんですよ。正直……自分もゲームと同じ能力を発揮できるかわからない状態で友好的か試すのは誰が相手でも危険ですからね。緊張感のあるうちに最強を相手に試金石を撃てたのは悪くありません。それに……」

 

 話し終わってモモンガは言葉を止める。

 気のせいだろうか。

 なんだかシャルティアは恥らいながらも息を弾ませて、なんだか嬉しそうな……。

 だがそこでモモンガは考えを切り替えた。

 彼女がちょっとアレな趣味をしていても頼りになる味方かもしれないという状況を活かさない手は無い。

 

「どうなさりんした?お二方で内緒話とはつれのうございんす」

「いや、これからどうしようかなと。見ての通りナザリックの周辺地理が異常だ。この調査をどうしようかなと」

「それでしたらわたしの吸血鬼の花嫁は斥候系の能力はありんせんですので……悔しいですが数の多く野生に紛れられるアウラの手勢か、隠密に長けたコキュートスのエイトエッジアサシン、デミウルゴス配下の悪魔も知恵が廻るという点ではよろしいのではありんしょうか?」

 

 僅かな悔しさを覗かせながらシャルティアが他の階層守護者の名前を挙げる。

 それを見た上でモモンガは再び考える。

 ここは一つ念を押しておくべきか、先ほどはアヴェさんが行動したわけだから今度は自分が、と。

 

「シャルティア。他の階層守護者が俺達に敵対する可能性は?」

 

 何気なく放ったその一言にシャルティアのただでさえ白い面貌が一気に蒼白になり震えだし、モモンガ達に土下座する。

 

「お許しを!わたしども階層守護者がモモンガ様をご不快にさせることをしたでありんすか!?なにとぞ、なにとぞそのようなことを仰る原因を教えてくださるようお願いしんす!わ、我々ナザリックが至高のお二人を失ったら、明日からどう生きていけばいいか……わかりんせんでありんす……!」

「え、あ、いや」

 

 震えて深く深く頭を下げて這い蹲るシャルティアの姿に、小さくない罪悪感を感じてモモンガは思う。

 え?俺たちがいないと生きられないとか超好感度高くない?と。

 思わずアヴェに助けを求めるように視線を動かすと、心得たというように彼女は頷く。

 

「落ち着いてシャルティア。私達は何も不快に思ってはいないわ。でもね、少し不安なのよ。見なさい、このユグドラシルにありえざる景色を。この環境の変化が守護者達になにか変化を与えていないか、それをモモンガさんは心配しているのよ」

 

 宥め、言い聞かせる優しい声色で体を低くして三本の腕をシャルティアの体に添えて、優しく一本の手でシャルティアの頭を撫でるアヴェ。

 本当に怒ってはいない、ただ不安なのだと言い聞かせる。

 

「そんな、至高の御方々がわたしたち如き下僕を……あ!そう、そういうことでありんすか。モモンガ様」

 

 じっと、シャルティアがアヴェを見る。

 そう、彼女もまたレベル百プレイヤーだが、その直接戦闘能力はプレアデスにすら劣るかもしれない。

 なぜなら彼女は完全にGvG支援能力に特化しており、そもそもが直接戦闘をするようなキャラ構成をしていないためだ。

 スキュラやキマイラなどのエキドナの娘である異形種の種族レベルを最大限にまで延ばし、六種の種族レベルを合計で七十五以上取得した上ではじめて得られる種族異形の母<<エキドナ>>。

 さらにそれをカンストさせているので職業スキルは0という異様なビルド。

 そこから生み出される能力はパーティーメンバーの能力値をレベル五分だけ上昇させるという、十レベル差があれば互角の装備では勝敗がほぼ決定するユグドラシルでは垂涎の能力。

 それも本来の上限レベルである百レベルを突破して百五レベルで戦えることの有益さは凄まじいの一言に尽きる。

 しかしその代償に種族的なスキルしか使えず、異形種の装備制限をもろに受け、五レベル分の上昇スキル異形の母神の効果は自身は得られない。

 完全な特殊支援型なのだ。

 もし仮にシャルティアが本気で挑めば彼女は容易く討ち取られるだろう。

 

「了解しんした。ではこのシャルティア・ブラッドフォールン。他の階層守護者及びプレアデス、執事長などのナザリック所属者の安全が確認できるまで、僭越ながらお二人の直援の壁として勤めんしょう」

「うん、頼んだよシャルティア」

「頼りにしています」

「はっ、もったいないお言葉でありんす」

 

 即座に全力の戦闘態勢……ゴシック服から真紅のフルアーマーを着用して、神話級アイテムスポイトランスを携えたシャルティアがモモンガとアヴェの前に立ち、吸血鬼の花嫁達が後方を固める。

 こうして一先ずはナザリックの観察の準備は整ったのである。


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