「よ……お、おお!アヴェさん!解ってきましたよ鏡の使い方!」
「おめでとうございます。一緒に頑張った甲斐がありましたね」
「おめでとうございますモモンガ様。さすがは至高の御方」
「ありがとうナーベラル。とはいえこんな簡単な事で至高といわれるのはなんだかこそばゆいね」
「どのような事であろうと至高の御方々がなさることに些末なことなどございません」
「ははは……さーて、それじゃアヴェさん。シャルティアとアウラの報告では知的生命体はいなかった範囲外を見てみようか」
「はい。お供します」
それからしばしモモンガとアヴェは手分けして視界を飛ばす。
二人分で行う作業は一人であるなら手間が掛かったであろうことは想像に難くない。
「モモンガさん」
「はい?なんですか?」
「これを見てください。怪しい騎士風の男たちが歩いています」
「ん?なんだろう。このあたりの巡察かなにかかな?」
「察知系に対する防壁もないようですし、しばらく観察しますか?」
「うん。それが良いと思います遠隔視の鏡の視点を人里に連れて行ってくれるかもしれませんしね」
「では……」
「あ、その前に。アヴェさん寝たりご飯食べたりしてませんよね。大丈夫なんですか?」
「何言ってるんですかモモンガさん。私だって飲食不要や睡眠不要の指輪をつけていますよ」
「あ、そうでしたね。なら大丈夫……なのかな?」
「ええ。私はへっちゃらです」
「それじゃあ、もうちょっと二人で……」
金属鎧を身に着けた騎士風の集団を仲睦まじく観察し続ける二人を前に、ナーベラル・ガンマは努めて空気になろうとしていた。
まあ、元からメイドというのは空気のようにそこに居て当然を心がけるものだが。
改めて、と言ったところだ。
「あ。村っぽい所が見えてきましたねー」
「……?この騎士たち変ですモモンガさん。剣を抜いてますよ」
「揃いの鎧だけど盗賊か何か……いや村の方が違法な何かをしていて手入れの可能性も……」
「どうするべきかしら……あら」
遠隔視の鏡に小さく、だがアヴェの眼には十分なサイズで子供が写り込む。
「……モモンガさん」
「はい?どうしましたアヴェさん」
「子供がいるみたいですね」
「んー。あー、いるみたいですねー」
「モモンガさん。ここは一つ騎士たちを村を襲おうとしている悪役だと仮定して」
「はいはい」
「ナザリック・オールドガーダーを十体ほど送り込んで騎士たちで実験してみませんか?」
「ふむ……指揮官は?」
「万が一騎士の中に精神操作系の魔術を使う敵がいた場合に備えてユリ・アルファを」
「なかなかいい案ですが、こういう場合ってトップが陣頭指揮をとるものじゃないですか?」
「他のプレイヤーがいた場合でもユリ・アルファならアインズ・ウール・ゴウンのメンバー以外顔をしりませんしごまかしが効きます。いきなり私達が出るよりは良いんじゃないでしょうか」
「それもそう、ですね……えーと、魔法って使えるのかな……よくよく考えたら守護者との連絡方法考えてなかったぞ。伝言」
モモンガはダメ元で伝言の魔法をセバスに向けて飛ばしてみる。
するとほどなくして回線がセバスとつながる。
『ん?あ。セバス?』
『は。何かご用ですかモモンガ様』
『あ……うむ。ユリ・アルファにナザリック・オールドガーダーを付けて威力偵察に出すことにした。防衛責任者のデミウルゴスと転移門の使えるシャルティアにはこちらから伝達しておくので準備をさせてナザリック地表に行かせるように』
『は。かしこまりましたモモンガ様』
モモンガの様子を横から見ていたアヴェがどうでした?という顔をすると、モモンガは頷いた。
「伝言……魔法使えるみたいです」
「ああ、それならナザリック内の連絡網はある程度大丈夫ですね……。私はビルドの都合で使えませんが」
「あ、そっかぁ。アヴェさんは種族レベルでビルド埋まってるから魔法取ってないんですよねー」
「まあ、モモンガさんがお話したいときにはいつでも繋いでくださればいいんですけれど」
「そうですね……と、デミウルゴスとシャルティアにも連絡付けなきゃいけないのでちょっと失礼します」
「はい。お仕事頑張ってくださいね」
モモンガは早速デミウルゴスとシャルティアにも伝言を繋ぎ指示を出す。
するとしばらくするとデモウルゴスとシャルティアが控えていたナーベラル・ガンマを通して入室を許可されモモンガとアヴェの私室に現れる。
「お呼びに応えて参上いたしました」
「モモンガ様、アヴェ様。おまたせしんせんした」
「うん。よくきてくれた。メッセージでも言ったと思うが……」
「は、既にアルベドとは相談の上ナザリック・オールドガーダーは地表に向かわせております」
「そうか、ではシャルティア」
「はい、モモンガ様のご意向は理解しておりんす。わたしが先鋒を務められないのはちと残念でありんすが、しかとユリ・アルファとナザリック・オールドガーダーをあちらに送って、返しんす」
「ん。解ってくれているようならいい。早速行動に移ってくれ」
「はっ。時にモモンガ様」
「なんだ、デミウルゴス」
「ナザリック防衛の一環としてこれを申し上げるかどうかアルベドと協議したのですが」
「うん?なんだい」
「マーレからナザリック地上部を隠蔽するために周囲に丘陵を築く案がでております。どうなさいますか?」
「ふむ。他の強者を警戒するというならばそういった点が抜けていたね。ではその案の実行を認める。アルベドを通してマーレに実行の許可を」
「ありがとうございます。献策を受け入れられてマーレも喜ぶでしょう」
「ふふ、後で褒めてあげなければいけないわね」
「そうですねアヴェさん。ああ、それと。これから俺とアヴェさんの案を実行してくれるデミウルゴスとシャルティアもありがとうね。ユリ・アルファにも伝えておいて」
「はっ!では失礼いたします」
「同じく、承りましてございんす」
デミウルゴスとシャルティアが一礼して下がるとモモンガはアヴェに声をかける。
「はー。どうなりますかね。アヴェさん」
「ユリ・アルファにとって大変なことにならないとよいのですけれど」
「まあそれを言ったら何もできなくなってしまいますから……精々敵が大したことが無いのを祈りましょう。それと」
「なんでしょう」
「ユリ・アルファがやられたらここでも金貨でのNPC復活ができるか試す機会にも……ああ、でもそれはなんかやまいこさんに悪いかなぁ」
「そうなった時には威力偵察の案を出した私が悪い、ということで。モモンガさんはなにも気になさらなくて良いですよ」
「いやー、結局許可を出したのは俺ですから。責任は取らないと」
「では二人で半分ずつ悪いという事ではダメですか?モモンガさん」
そっと、アヴェがモモンガのローブ越しに腕に手を添える。
そうするとモモンガの力みも消えて、骨だけの顔で呵々と笑う。
「そうですね、二人で、半分こしましょう。もしやまいこさんが来ていたら二人で謝りましょう」
そうこうしているうちに遠隔視の鏡の視界にユリ・アルファ率いるナザリック・オールドガーダーの一団が騎士たちの前に現れる。
こうして一方的な殺戮が始まった。