現れる鬼神(休載)   作:響鳴響鬼

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一応ここまでが前まで投稿した話です。
次回から新しく書き出す話です。




第三十九ノ巻《狼の鬼》

「はぁ……はぁ……」

 

関西呪術協会から離れた位置にあるとある滝壺。ロウキとドウメキとの戦闘を回避するために発動した神威により移動していたヒビキ。鬼力を急激に消費する鬼導眼の連続使用の影響なのか、肩を上下に上げ、まるで体全体で息をしているかのような疲労だった。

 

「あの黒煙。関西呪術協会の方角か。それに……」

 

東の空を見るなり、夜でもわかるほどの黒煙が立ち上っている。その方角が関西呪術協会の場所だと理解したヒビキだが、同時に反対方向からも黒煙が立ち上っているのが見える。ネギや明日菜たちのいる寺院で何かあったのは間違いない。しかし、力を使いすぎて消耗しているため、身体が思うように動かないでいた。

 

「力を分けてくれ……」

 

そう言うと、ヒビキは地面に片手を置く。数秒も経たぬうちに、ヒビキの身体から淡い光が地面から吸い取られるように流れていく。すると先程までの疲労困憊だったヒビキの表情が徐々に優れていく。

 

「やはり、お前は鬼の枠を超えているんだな。ヒビキ」

「こんな無防備な状態の俺を攻撃しないなんて、やっぱり何かあるんですね…ロウキさん」

 

近くにある茂みから現れてくる人物。つい数分前まで対峙していたロウキだった。すでに気配を感じていたのか。別段驚く様子を見せないが、念のために音叉剣を解放させて構える。

 

「今のは、自然界…いやこの星そのものからエネルギーを取り込んで回復していたな?それは人の身で行える所業ではないぞ。ましてや、人を超えた鬼ともいえど」

「……今は俺の話なんかいいでしょ。そこを退いてください」

 

ロウキに言われ、話題を無理やり変えようとするヒビキ。眉を少しばかり引きつかせていることから、あまり触れられたくないことだったのかもしれない。だが、ロウキは臆せずに話を続ける。

 

「ふん、相変わらず自分の話になると避けたがるなお前は。自分の身に起きている事態を把握しておくのも鬼の努めたぞヒビキ。いや鬼神。その名を先代たちから引き継いだからにはそれ相応の責任が伴うぞ」

「ドウメキとかいうイカれた連中と付き合ってるあなたが言っても説得力ないですよ。あなたがあんな連中と付き合ってるのに正直驚いてるんですから」

「俺が誰と付き合おうが勝手だろう。俺だって名前通りに一匹狼ってわけにはいかなんでな。がっちりとした足場がほしくなっただけさ」

 

両手を上げて、寂しさを現すポーズをとるロウキ。しかしそんな姿を見ても、ヒビキは信用しようとせず。

 

「その足場を支えてる支柱があの連中なんて笑える冗談じゃないですよ。もっと他に理由があるでしょう。俺の知ってるあなたはもっと孤高の鬼だったはず」

 

かつて一時的に師事した鬼・狼鬼(ロウキ)。元々は100年以上も昔に関東支部に所属していた鬼だったが先天的に持っていた能力を危険視され、当時の猛士上層部に追放された過去を持つ。それ以来は何らかの方法で現代まで生き、魔化魍を討伐する日々を送っている。猛士の記録ではすでに抹消されている人物ではあるが、一部の鬼はロウキの存在を知っている者もおり、接触を図り教えなど乞おうとする者も少なからずいた。最も、先程のヒビキの言うとおり、他人との接触を嫌う彼にとってあまり相手にしてもらうのはほぼない。一匹狼とはまさに彼のためにあるようなものと、どこかの甘味処の主が言ったこともあるほど。群れるのを嫌う彼が、あろうことか残忍さを持つドウメキ率いる集団といるのが信じられないのが率直な考えだった。

 

「理由が言えないなら別にそれでも構いませんよ。俺には行かないといけない場所があります。どかないならなぎ倒してでも行きますから」

「わかってるさ。だが、今から向かっても近衛木乃香はすでにあいつらが奪取してるはずだ」

「…何でわかるんですか。あそこにはニシキやチシキだって……」

 

すでに木乃香は連れされていると言うロウキ。その言葉に疑問を抱くしかできないヒビキは反論の言葉を述べるも、ロウキも目を細めて説明する。

 

「あの天ヶ崎千草という女。一体どこからあんなやつを連れてきたのか」

「あんなやつ?」

「お前も対峙したはずだ。銀髪の少年。《フェイト・アーウェルンクス》だ」

「フェイト……アーウェルンクス。あの時の魔法使いが?」

 

ロウキに言われ、京都に入った際に対峙した銀髪をした少年のことを思い出す。ネギと然程変わらない風貌をしているが、底知れない力を持っていることを感じていた。

 

「お前だって薄々気づいてるだろ?あの小僧が、ただの小僧じゃないのを」

「………」

「沈黙は肯定ってやつでいいか?奴は間違いなく西洋魔術師。恐らく最高位に立つほどのな。そしてあの寺院がある方向で起きた爆発。あれもあの小僧がやったんだろ」

「なぜです。今回の件、協会の封眼寺派の連中が噛んでいるのなら西洋魔術師がいるなんて可笑しいでしょ。アイツラは西洋魔術師を嫌悪する一派のはずだ」

「さぁな。理由まで知らん。俺はただお前を足止めしろと言われただけだからな」

「……なら俺はあなたをなぎ倒して進むだけです」

 

その言葉と共に、音叉を共鳴させ額にかざす。音叉による共鳴波はヒビキに響き渡るように流れる。それの呼応するかのように全身から炎が勢い良く燃え上がる。

 

「お前にも引けない理由があるか。だが、それは俺も同じだ。あいつを一人にさせないためにもな」

 

ヒビキの変身に答えるように、ロウキは懐から三日月形をした変身鬼笛・魔笛を取り出す。口元に持っていき、不思議な音色を放つと、ヒビキと同様に額へとかざす。まるで漆黒の霧のようなものがロウキを包み込んでいく。

 

「ああああああああああああ!!はっ!!」

 

紫色の炎を振り払う"響鬼"。

 

「ふっ!!」

 

漆黒の霧を手刀で切り払う"狼鬼"。

 

鋭い一本角、口元に無数の牙、そして銀色に輝く鬣を有す。その姿はまるで鬼というよりも狼男を連想させるかのような容姿。全身には呪文処理での施されたような入れ墨が、そこから放たれるオーラは数百年を行きた者にしか放てないものだった。

 

「……」

「……」

 

響鬼と狼鬼。

 

たった睨み合うだけで、周辺の木々が揺れ、空気がピリピリと張り詰めている。二人が同時に自身の武器、鳴刀・音叉剣と魔笛を変異させ合体させた三日月型をした鳴刀『月血』を構える。

次の瞬間、衝撃で地面が陥没するほどの突進を始めた響鬼。ピキピキと口元が開放されていき、まるで獲物を噛み砕く歯が顕になる。

 

「!?」

 

突っ込んできたことにとっさに防御の体勢をとる狼鬼。しかし響鬼の変化に気づいた瞬間、目の前を覆い尽くすほどの炎の壁が迫っていた。鬼法術・鬼火。響鬼が会得している専用の基本技であるが、特殊な動作もなしに出せる技だけに反応が一瞬遅れる。

 

「はあっ!!」

 

狼鬼が横一文字に月血を振るい、鬼火を文字通り切り裂く。

 

「おおおおおおおおお!」

 

しかし響鬼は構わずに切り裂かれた鬼火から現れるように迫ってくる。ガキン!!ッと、刃と刃が交差する音が森の響き渡る。火花が飛び散る中、お互い一歩も引かない鍔迫り合い。狼鬼の武器に対し、響鬼の音叉剣はあまりにサイズ違いな武器だが、その細身の刀身は決して折れることもなく、必死に月血に食らいつこうとしていた。

 

「っ!!」

「どうした、乗り越えられない壁は乗り越えるんじゃなかったのか?」

「その…つもりだ!!」

「何!?」

 

再度響鬼は口元を開き、鬼火を狼鬼に浴びせる。

 

「ぐっ!?」

 

さすがの狼鬼ももろに食らっては耐えきれず、一旦響鬼と距離をとるために後退する。追撃と言わんばかりに、音撃棒・烈火を一本握りしめ、炎の刀身を発現させる。そのまま後退する狼鬼に向かおうとする。

 

「!?」

 

そう思った矢先に突然の何かが爆発するような揺れに思わず足を止める響鬼。ネギたちのいる寺院の方に顔を向けると、巨大な煙が再度上がっている。

 

「この揺れ方……さっきとは違う」

「どうやら、あの小僧の魔法でも炸裂したようだな…」

「いや違いますよ。チシキのとっておきでも"爆発"したんでしょう」

 

確証はない。だが、響鬼の直感がそう言っていた。おそらくチシキが何かしたのだと。

 

「あの年中探究小僧のことか」

 

響鬼の炎を月血で振り払った狼鬼がゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「狼鬼さん。あなたもかつては人々のために戦っていたのなら、あいつらの暴挙をほっとけはおけないはずだ」

「人助けはっとくの昔にやめた。今の俺はお前の敵・狼鬼だ!」

「ぐぅっ!」

「どうした響鬼。一分一秒も惜しいんだろ。だったら、そんな馬鹿げたことをいっている暇があったら俺を倒す算段でも考えたらどうだ」

「なっ!話しを振ってきたのはアンタのほうだろうが!!」

 

印を結び、息を大きく吸い込むと開いた口から火薬を帯びた高熱の灰を吐き出す。

 

「この術は…目眩ましのつもりか?」

 

視界を覆うほどの灰が広範囲に広がり、周りが全く見えなくなる。

 

「影引……」

 

月明かりで映る狼鬼の影が微かに揺れ始めると、まるでブラックホールのように広範囲に広がっていた灰の煙が吸い込まれていく。狼鬼が使用する鬼法術の一つである『影引』は、自身の影を異空間へとつなげて引き釣りこませたり、身を隠したりするなどの幅広い応用の効く鬼法術でもある。長年の使用して来た狼鬼にとっては、対象を選んで影に吸い込ませたりできるほど。神威を使って行方をくらました響鬼をすぐに追いかけることができたのはこの術のお陰でもあったのだ。

 

「また行ったか…」

 

煙を吸い込み終わるころには、すでに響鬼の姿がなくなっているのを確認する。どうやら初めから術を炸裂させる気などなく、あくまで目くらましのためだけに放ったようだった。

 

『狼鬼さん。あなたもかつては人々のために戦っていたのなら、あいつらの暴挙をほっとけはおけないはずだ』

 

「そんなことわかっているさ。だが……」

 

さきほど響鬼から言われた言葉を思い出していた狼鬼。無論、狼鬼とて鬼の端くれ。猛士から追い出され、人間に家族を奪われた狼鬼だが、百目鬼のような連中を黙って見過ごせるなどできるはずもなかった。そして何より

 

「響鬼。お前も"妹"を人質に取られれば、俺の気持ちが理解できるか?」

 

 

 

「こ、これは……どういうことなんだぁ!?」

「ん~もう!そんなデカい声出さないでくれる?耳に来たじゃない~」

 

関西呪術協会総本山より少し離れたとある臨時支所には、襲撃により身の危険を感じた協会幹部たちが避難している。だが、逃げるように避難して来た幹部に待ち受けていたのは、地獄への片道切符だった。

臨時支所で待機していた陰陽術師たちがすでに全員事切れており、その中央には血で汚れている顔をまるで化粧直しでもしているかのように、コンパクトミラーで入念にチェックしているカマキの姿。

 

「こ、ここにいた陰陽師たちはどうしたのだ!!貴様らは近衛の娘を拐いに行ったのではなかったのか!?」

 

周囲に横たわる無残な死体の数々。関西呪術協会副長を努めている菅原忠昭はただただ目の前で起きている事態を飲み込めないでいた。天ヶ崎千草の話では、近衛木乃香のいる寺院には全員で向かうと話を聞いていたはず。そして時を合わせるように、関西呪術協会総本山に魔化魍を数体侵入させ、猛士からの抜鬼(ばっき)である百目鬼とその仲間たちが総本山に攻め入り、長である近衛詠春を混乱に乗じて殺害する計画だったはず。

だが今目の前にいるカマキはこともあろうに臨時支所を襲撃し、詠春を蹴落とすための同志を皆殺しにしているではないか。計画していた内容と全く違うことに、忠昭は混乱するほかなかった。

 

「アタシたちはそんな話知らないわよ。指示されたのはここにいる陰陽師を始末してってだけ。まっ、こんな不細工しかいない連中殺しても、つまらないの一言だったわ。やっぱり時代はイケメンね♡」

 

懐から誰かの写真を取り出し、唇を突き出してキスをするカマキ。そんな馬鹿馬鹿しいことをしていることに憤慨した忠昭は声を荒げる。

 

「ふざけるな!!天ヶ崎め、自分の駒すら満足に扱えぬのか!これまで練りに練った作戦がぶち壊しではないか!!所詮金で雇われた連中、私の偉大なる革命を理解できんとは!」

「はぁ、アンタ哀れね。革命の前に関西呪術協会は明日にも猛士の下部組織になってるわよ。急激な組織の弱体化でね」

「ど、どういう意味だ!なぜ数百年に渡る歴史を誇る関西呪術協会が猛士などに!!」

「そんなの知らないわ。雇い主から聞いた話だから、細かいことには興味な・い・の」

 

それを言うなり、まるで地べたに横たわっている死体を避けるからのように身体をくねらせながらゆっくりと歩いてくる。

 

「貴様ら!この鬼を排除しろ!!」

 

何かを察した忠昭は、近くにいる部下に命令を出す。すぐさま部下たちはここが持つ陰陽道を使用し、目の前にいるカマキを滅する……

 

「何をやっている!早くせぬか!!」

 

ことはせず。何も行おうとせず、なぜか沈黙するようにただ突っ立ているのみ。いくら忠昭が話しかけても、陰陽術師たちは反応はなかった。

 

「あらぁ?もう術にかかってるのかしらぁ?アンタはブサイクな小娘にしか興味なかったんじゃないの?」

「俺だってこんな男連中弄んでも嬉しくねえよ。だがらさっさと片付けて、あの寺にいる可愛こちゃんたちのところに行くんだよイヒヒヒ」

 

まるで話かけるように上を見上げるカマキ。それに答えるように、広がる森の茂みからキミの悪い笑い声と共に現れる一人のやせ細った男の姿。

 

「全くアンタの性癖は理解に苦しむわインキ?」

「それはこっちの台詞だ!何が好きで男を好きになるんだ。理解できねえよ」

「ちょっとぉアンタァ!!アタシのどこが変ですってぇぇ!!」

「そこまで言ってねえだろうがよ!」

 

いきなり始まった下らない言い争い。どうやら忠昭の部下が突然案山子のようになったのはインキの呪術によるものらしい。最もかけた本人はとても不満げな表情をしており、男などより女の方がよかったという始末。

 

「どういうことだ!こいつらに何をした!!」

「何をしたぁ?そんなの今からお前に降りかかることを身にしみて理解するんだな」

「何。一体それ……ゴハッ…ガハッ!?」

 

インキに食って掛かろとした瞬間、身体から鮮血が走る。忠昭の護衛についていた神鳴流剣士が切りつけたのだ。

全身から血が吹き出し、吐血をしながら倒れる忠昭。

 

「き、きさまらぁ……」

 

飛び散った血飛沫がカマキのいるところまで飛んでくる。靴に少しついたカマキはすぐさまハンカチで綺麗に拭き取り始める。

 

「やだぁ、血がかかっちゃったじゃないのぉ!せっかくネギきゅんに会うのに!!あらっ?」

「この揺れは、それにあの煙は俺の可愛こちゃんがいる寺院のほうか?」

 

突然起きる地震に反応するカマキとインキ。同時に千草たちが先行して行っている寺院の方から再び煙が上がっているのが見えていた。

 

「きっとフェイトきゅんよ!やだぁ、私の獲物をとるきかしらぁ!はやく行かないとぉ!」

 

なぜフェイトがやったとわかったのかは謎であるが、カマキ自身の理解できない思考がそういった結果に持っていったのかもしれない。すでに依頼にあった関西呪術協会の臨時支部を壊滅させる作戦は完遂しているため、これ以上の長居は無用だと判断したのか。さっさとこの場をあとにしていくカマキ。

 

「ケッ!あの小僧に俺の獲物をとられてたまるか!」

 

インキもカマイに送れまいと暗闇の中へと姿を消していく。

 

「グァッ…ブホッ……ぐううううううう…」

 

残された忠昭はインキに呪術を掛けられた部下たちに次々と斬りつけられていく。立てる力もなくなり四つん這いに倒れる。純白を基調とした礼服は赤い血の色に染まりきっていた。息も絶え絶えになり、彼の命はまさに風前の灯火。だが、決して消えること無く低い唸り声を上げ、執念に満ちた表情を上げる忠昭。

 

(あのような輩に、この関西呪術協会を…この関西呪術協会を…………この関西呪術協会をおおお)

 

ここまで練り上げてきた関西呪術協会を掌握し、日本に巣食う西洋魔術師をこの日本から追い出し、本来あるべき姿をとりもどすためにここまでの地位に上がった。そのために忌み嫌う鬼たちと手を組んでまで。だが、もうすぐ手に入れられる関西呪術協会の長の座が、このような形で終わらせるわけにはいかなかった。

 

「許さんぞ。許さんぞおおおおおおおおおおおお!」

 

絶叫にも近い声を張り上げる。どこから出したのか、五芒星の呪符を取り出し空へと投げつける。

 

「蒼撃符・青龍!!」

 

呪符が青く輝いた瞬間、忠昭の周りにいた部下たちがまるで衝撃波でも受けたかのように吹き飛ばされていく。

 

「こ…こで終わる……私ではない!!かならず……」

 

血塗れのまま、己の本能で気力を保つ忠昭。ゆっくりと足取りで森の中へと消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 


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