PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

緊急事態宣言による自宅謹慎中に久しぶりにP4Gをプレイしたのですが、終盤の稲羽市の様子を見て、今の状況と同じだなと思ってしまいました。まあ流石にガスマスクをつけたまま温泉に入らせろという人がいるわけないだろうと思いましたけど……。

改めて、誤字脱字報告をしてくれた方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

この章も残りあと2話です。それではどうぞ!


#95「Reach out to the truth 1/2.」

「もう一度言うぞ、お前は誰だ?」

 

 

 未だに不気味に黙るかなみシャドウ?に悠は再度問いかけた。これに今までの流れを知らない真田は疑問符を浮かべる。

 

「鳴上、どういうことだ? こいつは真下かなみのシャドウじゃないのか?」

 

「いえ、こいつは違います。根本的に……」

 

「真田さんっ! 鳴上様の仰る通りであります! この人は、シャドウではありません!!」

 

「ムムム……センセイの言う通りクマ! お前さんからシャドウの匂いがせんクマよ! あんた、何者ね……!」

 

 悠の言葉にアイギスとクマが何か異様な反応を感じとったのか、いつになく険しい表情でかなみシャドウ?を問い詰める。すると、ずっと黙り込んでいたかなみシャドウ?がようやっと口を開いた。

 

『フフフ……私? 私は求める者。人々の望む、永遠の絆の形……』

 

「絆の……形……?」

 

『あなたたちこそ何でそんなに抗うの……? 痛みも苦しみもない私との繋がりこそ、本当に求められているというのに……そんなあなた達は要らない。私が望まないあなたたちなど必要ないの……』

 

 そう語り始めたかなみシャドウ?の雰囲気が急に変わり始めた。この雰囲気にGWでのP-1Grand Prixの戦闘を経験したメンバーの緊張が一気に高まった。

 

「やっぱり、こいつ……急に雰囲気が……」

 

「この感じ……どこかで……」

 

『皆、あなたたちのせいで、本当の自分なんて言うものに毒されてしまった。そんなものは不要……だから、あなた達は好きにすればいい。私を求める子たちの、他に幾らでもいるもの……』

 

 かなみシャドウ?はそう言うと、ふらふらと辺りの様子を伺い始める。その様子を見た悠たちは厳戒態勢を強めた。

 

「ここから逃げるつもりなら、そうは行かねえぞ。もうお前は逃げ場がないんだよ、観念しろ!」

 

「待て、何か様子がおかしくないか? 特に会場の方が……」

 

 そう言えば、かなみシャドウ?の雰囲気が変わり始めてから会場のざわめきが聞こえていない気がする。気になって恐る恐る見てみた光景に息を呑んだ。

 

「なっ!?」

 

「お客さんたちが……消えてるっ!?」

 

 なんとこの大きな国立競技場が埋まるほどの観客たちが全員一気にいなくなっていたのだ。この事態に悠たちは狼狽する。だが、かなみシャドウ?はその様子を見てクスクスと笑っていた。

 

『フフフ……ざ~んねん。もうここに居る子たちは全員、私の絆に繋いであげたよ』

 

「なにっ!?」

 

「そんな、いつの間にっ!?」

 

「この期に及んで……絆フェスのお客さんたちをどうするつもりですかっ!?」

 

『フフフフフフ……! どうもしないよ? この子たちは私とひとつになって、ずっと一緒にいるだけ……私と一緒に、私の絆の世界でずっとずっと暮らし続けるのよ……フフフフフフ……! あはははははははっ!』

 

 突然だった。ステージの巨大なスクリーンから伸びたいくつものリボンが会場全体を包んで行き、それらをスクリーンの中へ次々と引き込んでいく。突然の大掛かりな出来事に悠たちは動けず、ただ巻き込まれないように姿勢を低くしてやり過ごすことしかできなかった。

 そして、嵐が過ぎ去ったように何も音もしなくなったので見てみると、会場内が異様な静けさに包まれいた。更に、ついさっきまで包囲していたはずのかなみシャドウ?も消えていた。

 

「テメェ、待ちやがれコラァ!!」

 

「え、えと……逃げちゃった、ですか……?」

 

 いなくなったかなみシャドウ?はどこに行ったのかと周りを見渡してもそれらしき姿は見当たらない。

 

「あれは……!」

 

 いち早く何か発見した花陽が恐る恐る絆フェス会場の大きなスクリーンを指さした。皆もスクリーンの方に視線を移すと、そこにはとんでもないものが映っていた。

 

 

 

 

『愚かな者どもよ……傷つき、苦しむがいい。お前たちは選んだのだ……私との決別を』

 

 

 

 

「「「な、なんじゃありゃあっ!?」」」

 

 

 絆フェスのスクリーンに明らかに悠たちが見上げるほどであろう巨体が映し出されていた。まるで顔がいくつものある醜悪な姿をした巨人が両手を上げたオブジェの上に誰かが宙に浮いている。あれがこの事件の真犯人だろう。

 

「決別って……あなたは誰ですかっ!?」

 

 

 

『我が名はミクラタナノカミ……絆を求める者どもの総意……』

 

 

 

「絆を求める者の……総意……? まさか、あのヒノカグツチと同じやつかっ!?」

 

 あのP-1Grand Prixの黒幕であるヒノカグツチと同じと聞いて特捜隊&μ‘sのメンバーに緊張が走った。

 

「確か、ヒノカグツチも日本神話にでてきた神様の名前だったから……あのミクなんたらってやつもそうなの?」

 

「ええ、ミクラタナノカミは日本神話では黄泉の国から帰ってきた伊邪那岐が天照大御神に与えた首飾りの玉の名前だったはずです。それを考えたら、アレも同様のものと考えていいでしょう」

 

 ある程度予想していたこととはいえ、まさかこの事件も霧の住人が関わっていたと事実。このような存在に初めてではないのか真田とアイギスは驚きはしていないものの固唾を飲み、こんな体験自体に縁のないかなみたちは現実離れした存在に絶句していた。

 

『フフフ……もはや、我はお前たちと交わす言葉は持たぬ。ここは人の心の内に元よりある、無意識の海の一部……。故に……この場所を捨てたとしても、私はまた別の場所に新たな舞台を創ればいいだけの話なのだからな』

 

「無意識の一部……!? じゃあ、やっぱりここもテレビの中と同じ“人の心の世界”ってことかよっ!!」

 

「んムム……やっぱりそうだったクマね! クマの世界と似てると思ったら、ご近所に勝手に作られた場所だったクマか! イホーケンチクも甚だしいクマ! 苦情殺到ものよ~!!」

 

 ギャーギャーと騒ぐクマ。少し怒る意味が分からないが、ミクラタナノカミが今言ったことが事実であるならば……

 

「絆フェスのサイトに、この世界への入り口を作ったのもお前なのか……!」

 

『フフフ……そうだ。私は絆を望む者たちに呼ばれてこの世界を創り、私を望む者たちをこの宴へと呼び寄せた……その女はただの依り代よ。利用させてもらったぞ。お前は求める者たちの心を集めるのに都合が良かったのでな、フフフフ……』

 

「それって……! 別にかなみさんじゃなくても良かったって事じゃない!? かなみさんがアナタを求めたんじゃない、ただアナタがかなみさんを選んだだけのことよ」

 

 ミクラタナノカミの言葉に絵里は強く反論する。だが、ミクラタナノカミは動じることなく静かに告げた。

 

『……その女が私の絆を求めたのは事実だ。それに、我がその女を選んだのは、私の絆を望む者どもの心が、その女を選んだからに過ぎぬ。その女の代わりなど幾らでもいるという事よ』

 

 ミクラタナノカミの無慈悲な言葉に選ばれたかなみはショックを受ける。“自分の代わりなど幾らでもいる”。今までの孤独を乗り越えられたというのに、今でもその言葉を聞くとショックだった。

 

「そんな……酷いですっ! わたっ……私が求めちゃったのも悪いですけど、そんな事の為に、有羽子さんの歌まで……」

 

『歌か……確かにあれは役に立った。本来は“伝え、受け取る”為の物の様だが、我の絆にそんな物は必要ない。故に我は、私の絆の為に、“求め、受け入れる”物として使っただけの話よ……』

 

「……どういうこと?」

 

「本来“伝える”側の想いを込めるべき歌を逆に流すことで、“求める”側の都合を押し付ける為の道具として使ったということです」

 

 穂乃果の疑問に答えた直斗の声には怒りが混じっている。それは悠たちも直斗と同じだった。

 

 

「やっぱり、お前もヒノカグツチと同じだ。最もらしいことを言ってるが、結局は自分勝手な目的のために人間を利用して使い捨てにしているだけだ。つくづくお前たちのような奴らは度し難い」

 

 

 これまで霧の住人が関わった事件を思い出した悠だからこそ吐き出た言葉。神だが何だが知らないが、要は大層なことは建前で自分が理想とする環境を築くために人間を利用したり犠牲したりしているだけ。私利私欲のために他者を犠牲にすることを厭わない悪人たちと変わりないのだ。

 

「ってか、早くアイツを取っ捕まえないと絆フェスのお客さんたちが連れて行かれちゃうよっ!!」

 

「うん……! あんなヤツ絶対に逃がしちゃダメ! 絶対にみんなを取り返さなくちゃ!!」

 

「ですが、相手は画面の向こうにいるんですよ。どうすればいいんですか」

 

 敵は今スクリーンの向こう側。もしやテレビの世界のようにペルソナ能力を所有しているのであれば行けるのではないかと試しにやってみたが、無駄に終わった。

 

 

『フフフ……それでいい。私の絆に“争い”という文字はないのだから。お前たちは己の領分で足掻くといい。我は我の絆を欲する者に、安寧を与え続けよう』

 

 

 ミクラタナノカミは勝ち誇るようにそう告げる。最初からそのつもりでスクリーンの中へ逃げたことに気づいた。

 

「アイツ……自分の都合が悪くなったからって相手しないつもり……? 降りて来なさいよっ!!」

 

「へいへーいっ! さてはビビっとるクマねぇ~!」

 

 にことクマがこちらに戻ってくるように煽りまくるが、当然ミクラタナノカミがそれに応じる様子はない。しかし、このまま野放しにするつもりはないが、現時点で悠たちがミクラタナノカミに対する対抗策をない。一体どうしたものかと悩ませていたその時……

 

 

 

「大丈夫、まだ手はあるよ」

 

 

 

「マリーっ!?」

 

 どこから湧いて出たのか分からないが、絆フェスの会場に入る前に別行動をとっていたマリーがステージに現れた。

 

「みんな、この子たちに向かって手をかざして。伝えたいって気持ちを乗せて」

 

「えっ?」

 

 いきなり何を言いだすかと思いきや、りせと希を指さしてとんでもないことを宣ってきたマリーに皆は混乱する。

 

「このままアイツを逃げしてしまうのは嫌でしょ? だから……やって」

 

 そう告げるマリーからふざけている様子はない。本当に今の状況を打開するための方法を伝えているようだ。そう思った悠たちはナビペルソナ持ちのりせと希に抜けて手をかざし、2人はミクラタナノカミが映るスクリーンに手を向けた。

 

(スクリーンに手をかざして……伝えたいって思いを乗せて………)

 

 言われた通りにスクリーンのミクラタナノカミに向かって想いを繋げる。その時、りせと希の身体が段々とポカポカしていくことに気づいた。まるで、皆から伝えたいというエネルギーが充電されていくように。

 

(そうか……私のペルソナは元からみんなに声を届けることが出来る……もしかしたら)

 

(あのミクラタナノカミっちゅうやつに想いを伝えられるのかもしれへん……!)

 

 察したりせと希は顔を合わせて笑みを交わすと、互いの手を握って更に想いを集中させた。そして、

 

 

 

ーカッ!ー

「「ペルソナっ!!」」

 

 

 

 2人の叫びと共に、スクリーンから眩い光が発せられて辺りを白く包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<???>

 

 

「こ、ここは……?」

 

「一体…何が起きたの?」

 

 

 自分たちはいつの間にか、どこかの見慣れない空間にただずんでいた。星空の中心のような、それでいて息苦しいわけでもなく、瞬く星々も空の藍色も、いつもみるよりも遥かな透明感を持ってそこにあった。

 足元を見れば、これまた得体の知れない物体に乗っていた。さっきまで居た絆フェスの会場がすっぽり入るほどの巨大なステージの形をしており、どこか自分たちを支援するように暖かく包み込むような感覚がする。

 

「まさか、これは……りせと希のペルソナかっ!?」

 

「えっ!?」

 

「ごめいとー、流石悠だね。そう、これはそこの2人のペルソナだよ」

 

「へっ?」

 

「と言っても、2人が悠たちの伝えたいって気持ちを乗せて影響を受けただけ。それだけ大きな想いだったから、これだけの広さになったんじゃない?」

 

「いや、疑問形で言われても……」

 

 だが、裏を返せば、それだけ悠たちの伝えたいと思う気持ちが大きいということだ。そして、それをぶつけるべき相手は……

 

 

『愚かな……人の身でありながら、私の領域に足を踏み入れてまで、争いを望むか……まあ、そう来るとは思っていたがな……鳴上悠……その仲間たちよ』

 

 

 自分たちを見下ろすミクラタナノカミは悠たちの視界をいっぱい、否それでも収まらないほどの巨大なスケールだった。正直今回ばかりはいつものような力のぶつかり合いではないことに感謝しよう。これほど大きな腕で振り下ろされたら、今頃星の海の藻屑になっていただろう。

 

 

『フフフ……私は人の求める絆の姿。お前たちが何をしようとも私には届かぬ。私の絆に繋がれて、永劫に踊り続けるがいいっ!!』

 

 

 ミクラタナノカミは高らかにそう告げると、全身からあのカリステギアを逆再生した呪いの歌を流し始めた。だが、今更そんなものに惑わされる訳なく、悠たちは毅然とした目つきでミクラタナノカミを見上げていた。

 

「へっ……そうはいけねえぜ!」

 

「私たちはあなたを音で倒すためにここまで来たんですからっ!」

 

「そうですっ! おっきくったって、つま先から頭の上まで必ず伝えるですっ!」

 

「私たちもやるわっ! かなみと一緒に……!」

 

「私たちA-RISEもやるわよっ! ライバルたちに遅れを取らせないために!」

 

「大丈夫、私たちなら出来るよ! 気持ちを込めて大事に踊ろう!」

 

「みんなで笑いあうために、絶対負けないっ!!」

 

「さあ行くのよ、あなた達っ! どんな場所だろうと関係ない。全てを出し切ってアイツを楽しませなさいっ!!」

 

 呪いの歌を受けてもなお、各々が確固たる意志を示すこの状況に悠は思わずニヤリと笑ってしまった。随分と大所帯になってしまったと思ってしまうが、これほど人数がいると頼もしくも感じる。これなら何だってできそうだ。

 

「おにいちゃん、菜々子もかなみんと一緒におどりたいっ!」

 

「菜々子ッ!? 雪穂と亜里沙まで! 君たちは下がった方が……」

 

「イヤですっ! 私たちだって、お姉ちゃんやかなみさんたちと踊りたいんですっ!」

 

「せっかく練習したのに、踊れないなんて嫌だよっ!!せっかく鳴上さんともダンス出来るのに……

 

「亜里沙?」

 

 どうやらかなみの影響はこの小さな少女たちにも及んだらしい。こんな状況だというのに、菜々子たちと踊れることやかなみの成長に思わず嬉しく感じた。

 

 

「悠さん、絶対アイツに伝えてこの事件を終わらせようっ!」

 

「ああ、始めよう。これが俺たちの絆フェスだっ!」

 

 

 ここから始まるは誰も見ることも知ることもない、一人のために想いを伝えるために…絆とは何たるかを伝えるために命を懸けた少年少女たちによる饗宴である。

 

To be continuded Next Scene.


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